「くっそぉ…」
バスターと戦っていた箒の打鉄がついにエネルギーを失い力尽き倒れる。訓練機でここまで立ち回ったのだ。むしろ大健闘と言える。
「花柳さん!」
「30秒だ!」
「分かった!」
ISを失ってしまえば生身、いくら武術を収めているとは言え人間であることに変わりない。そんな箒を離脱させるために、シャルルはラファール・リヴァイブカスタムⅡを加速させ、箒の元に駆け寄る。
それと同時にユイカは最接近しバスターの気をこちらに向けさせる。共に戦ってさほど時間が経っていないのにこの連携…流石は代表候補生と言ったところだろう。
「貰ったぞ!」
ユイカの武装蜻蛉切が、バスターの片腕に備え付けられたガトリングガンを貫き破壊する。しかし肩に装備されたビームキャノンが彼女をロックオンし、発射態勢を整える。
「こっちにも居るよ!」
シャルルが2丁のサブマシンガンによる一斉射でバスターの気を逸らさせると、特殊技能<ruby><rb>瞬時切替</rb><rp>(</rp><rt>ラピット・スイッチ</rt><rp>)</rp></ruby>によってショットガンに切り替え、至近距離で弾倉が空になるまで撃ち続けた。
「ーーーー!?」
がたいの良いバスターも流石に耐えきれずに体勢を崩すが、全身のスラスターで無理やり立て直し踏ん張る。
「かなり追い詰めている筈なんだが…」
「中々タフだよねぇ…」
モノアイがこちらを睨みつける中、シャルルはショットガンの弾倉を交換しユイカは蜻蛉切を持ち直す。
「一夏はフィーリアたちが来たから良いけど…他でも戦闘が起こってるみたい…ここで決めよう…」
「だがどうやって…高い攻撃力を保持しているのは…ッ!」
「そう、これがある…」
察したユイカを見てシャルルは自身に装備された盾をトントンっと叩いて笑う。ラファールは第二世代最強の攻撃力を持っている。<ruby><rb>盾殺し</rb><rp>(</rp><rt>シールド・ピアス</rt><rp>)</rp></ruby>と呼ばれる兵器が。
「任せたぞ…シャルル・デュノア!」
「シャルルでいいよ!」
二人が笑いあったその瞬間、ユイカが消えた。いや、正確にはシャルルの目が突然加速したユイカの姿を捉えられなかったというのが正しいだろう。
「え?」
(なんの予兆もなく、動作もなしで一気にトップスピードに到達するなんて…試合じゃ勝てなかったかも)
そのイグニッション・ブーストは敵も対応しきれなかったようで、残っていた左腕のガトリングガンが吹き飛ばされた。
無人機も瞬時に武装をサブマシンガンに切り替えるが、高速で方向転換したユイカは蜻蛉切でそのサブマシンガンすら破壊する。<ruby><rb>二連加速</rb><rp>(</rp><rt>ダブル・イグニッション・ブースト</rt><rp>)</rp></ruby>…2連続で瞬時加速を使用する高等技術であり、これを使う代表的な操縦者はブリュンヒルデと呼ばれた千冬だ。
「シャルル!」
「任せて!」
バスターに接近したシャルルはシールド内側の装甲をパージすると、69口径の<ruby><rb>灰色の鱗殻</rb><rp>(</rp><rt>グレー・スケール</rt><rp>)</rp></ruby>が姿を現し弾を装填する。
「これで!」
高速で接近したと言ってもまだ間合いは十分ではない、それにバスターのモノアイはしっかりとシャルルを捉えていた。このままでは避けられる可能性がある。
(こうなったら!)
シャルルは一か八かの賭に出た、意識を集中させ気を圧縮するようにイメージする。
(溜めた気を一気に解き放つ!)
カッと目を見開き意識を全てスピードに向けるとラファール・リヴァイブカスタムⅡは撃ち出された銃弾のように加速した。
「この土壇場で瞬時加速を!?」
「くらぇぇぇぇぇぇ!!」
思いっきり振りかぶりバスターの腹部に灰色の鱗殻の杭が突き刺さる。危険を察知したバスターは退避を試みるが背中にはアリーナの壁が…。
「ーーーー!?」
ユイカの攻撃の時点で壁際まで追い込まれたのを理解したバスターのAIが導き出した答は…。
「タイショフノウ…」
総弾数が尽きるまで攻撃されたバスターは力尽きたように壁にもたれ掛かり機能を停止した。
「よし!」
「やったぁ!」
同じアリーナに敵機が居ることを忘れてユイカはガッツポーズをし、シャルルは彼女に抱きつきながらピョンピョン跳ねるのだった。
ーーーー
「バスター、沈黙ヲ確認シタ…」
IS学園のアリーナ予備管理室の真上に陣取っていたブレインがシグナルロストしたバスターを確認していた。
それを聞いて理解したのか…ブクウェイエはモノアイだけをブレインに向けて見る。
「沈黙…ソレハ何?機能ノ停止…ソレハ死?」
ブレインは思考する…彼に与えられた唯一の欲の趣くままに…ハッキングしたIS学園のデータベースから、そこから広がる無限の世界…インターネットからブレインは様々な知識を吸収していった。
「死ハ恐レルモノ…ナゼ……」
ブレインは理解できない、だからこそもっと、もっと知識を求めるのだった。
ーーーー
「シャルルはやったか!」
「ラウラ!」
バスターの沈黙を確認したラウラがフィーリアの声でその場から転がるように避けると、先程まで居た場所に雪片が突き刺さる。
「当たったらひとたまりもないよ!」
「大丈夫かフィーリア!」
左腕から血を流すフィーリアを心配するように、一夏がブレイドの前に立ち塞がる。
「まさか、本物の雪片と同じバリア無効化攻撃だったなんて…」
ブレイドの持つ剣、雪片は形だけではない…機能まで同じなのだ…一夏と戦っているときは機能を封印していたなんてまるで人間のようだ。
そのせいでフィーリアは左腕を少しだけだが切り裂かれてしまったのだが…。
「だが…同じ効力ならばデメリットも同じ筈だ…消耗戦に持ち込めば…」
ラウラは両腕にプラズマ手刀を展開して斬り合うがブレイドを崩せない。
「改めて見たけど…動きなんか千冬姉そのまんまだ…」
「人じゃこんな芸当は無理だよ…だったらプログラム制御の無人機って事になる」
「ありえるな…ッ!」
蹴り飛ばされたラウラはそれと同時にレールカノンを二発発射するが、その砲弾は全て切り裂かれる。
「だがこれほどの高性能AI、我が国どころかアメリカやロシアにだって作れんだろう」
ラウラはその驚異的な性能に舌を巻きつつもキッとブレイドを睨みつける。ブレイドは千冬の動きを模倣するだけではなく応用することで戦術の幅を広げ、動きを固定しないように努めている。
「大丈夫!?」
「ちょっと痛いかなぁ…」
そんな時、シャルルとユイカがフィーリアと合流した。操縦者保護装置によって血は止まったが傷跡が痛々しい。
「シャルル、ショートブレード貸して…」
「え…良いけど…」
武装権限をアンロックしてシャルルはフィーリアにショートブレードを渡す。
「こっちは何とかするから…セシリアと鈴に合流して…」
「でも…」
「ここまでしてきたんだ…たぶん…他にも別働隊が…」
「…分かった」
フィーリアの意思を汲み取ったシャルルは力強く頷くと機体を浮かせ上昇する。
「ユイカ、行くよ!」
「あぁ…」
二人が他の戦場に向かうのを見送ると、フィーリアは立ち上がりショートブレードを構える。接近装備がビーム兵器しかなかったから対処出来なかったが、これなら何とかなる。
「よし!行くよ!」
ブロッサムを加速させ、フィーリアはラウラと一夏の援護に向かうのだった。
ーーーー
全ての目が戦闘に向かっている中、IS学園内を駆けるケイの姿があった。彼の目的はIS学園地下にある施設への侵入であり、外で行われている戦闘は半ば囮のようなものだ。
「天ミナ…来い!」
無事に侵入したケイは天ミナを展開し、機体からコードを伸ばすとコンピューターに接続する。IS学園のコンピューターと回線が別にしてあるのでわざわざ侵入しなければならなかったが、随分簡単に入れた。
「さぁ…俺の本分を見せてやろうじゃないか!」
ハッキングを開始したケイは強力なセキュリティを小石を跨ぐように突破し膨大なデータをいとも簡単に読み取る。
"仕込み"に入ったケイは満足そうに笑いながら作業を続けるのだった。
ーーーー
自衛隊仮指揮所ではIS学園と連携してハッキングの解除作業が行われつつ各隊への通達と掩護要請、諸々などを行うために大忙しだった。
「ん?」
その中、富士教導隊のオペレーターを務めていた光一は違和感を感じて後ろを見やる。
「光一…どうした?」
「皆伏せろ!」
光一が叫んだ瞬間、指揮所のドアを突き破りズゴックが侵入してきた。指揮所は溢れんばかりの悲鳴に包まれ中には拳銃で反撃する者もいたが焼け石に水である。
腕部のクローを開きビーム砲を露出させたズゴックがエネルギーをチャージするのを、光一は固唾を呑んで見守るしかなかった。
ーーーー
「このぉ!」
振るわれる双天牙月を受け止められたがそんな事では鈴の攻撃は終わらない…否、終わらせない…終わらせたら負けることを知っているからだ。
「美しくない…とても見苦しいです…」
フォビドゥンのパイロットであるシーレは手持ちの武装であるニーズへクを体の一部のように使い回し、鈴を追い詰めていた。
(少し間合いを…)
「フッ……」
鈴が距離を置いた瞬間、フォビドゥンの誘導プラズマビーム砲フレスベルクが彼女を追尾し撃墜する。
「鈴さん…ッ!」
苦戦する鈴を心配するようセシリアだが正直、そんな余裕は彼女になかった。クリアの操るデルタカイを相手取り戦っていたのだから。
「なんて機動力ですの!?」
「MSとISの格差を思い知れ!」
ビットであるブルーティアーズは全て撃ち落とされ、残っているのはミサイル型のブルーティアーズと手持ちのライフル、ショートブレードだけだった。
ビームサーベルを二刀使いこなすデルタカイに機体を切り刻まれる。機体のダメージレベルはBに到達し、先程から警告音が鳴り止まない。
「まだですわ…あの赤い機体の事を聞くまでは…ッ!」
機体が地面に半ば擱座したような形で着地したがセシリアは諦めない。苦痛の顔を上げ機体を睨みつけようとすると、彼女が見たのはエネルギーが満ちた砲口。
「そんな…」
「………終わりだ」
デルタカイのシールドに内蔵されたハイメガキャノン砲が火を噴きセシリアを包むのだった。
「運が悪いどころの話じゃないわね!」
双天牙月を二刀に分割してスピード重視に切り替える鈴は、ニーズへグを受けるとフォビドゥンの後ろに立つウイングゼロを睨みつける。
彼女達二人は本当に運が悪かったのだ…生徒たちを避難させてアリーナに戻ろうとしたときに革命軍本隊と偶然接触してしまい現在に到る。
小手調べと言わんばかりに1対1の対決も劣勢どころか相手は完全にこちらを弄んでいる。
「ふざけんじゃないわよ!」
鈴の咆哮とともに放たれた衝撃砲がフォビドゥンに直撃するがダメージすら与えられない。
「もう!どうすれば良いのよ!!」
かろうじてISを展開しているセシリアとジワジワと痛めつけられる鈴…殺られる……っと諦めかけた瞬間。
「クリア!シーレ!下がれ!!」
「穿て!!」
「「ッ!」」
「姉さん!」
「分かってるよ、兄さん!」
ユイトの声に二人は戦闘をただちに中止し大きく後方に下がると同時に待機していた城崎兄妹が前に出る。
「ロンゴミニアドぉぉぉ!」
巨大な白銀の槍が高速で放たれるとクリアめがけて真っ直ぐ突き進むがそれを阻害したのはシュリのメリクリウスが保有する最強の盾《プラネイト・ディフェンサー》だった。
「あ、あれは……」
「イルフリーデ……さま…」
ボロボロの二人が見たのは純白の騎士。伝説の白騎士を沸騰させるデザインだがそれとは違い、所々に施された金の塗装は芸術のような美しさを放ち、気品を醸し出していた。
「来たか…世界最強のヴァルキリー」
量子変換で新たに大型ライフルを2丁展開したイルフリーデはその顔を怒りに震わせながら叫ぶ。
「私の可愛い後輩に手を出した事を後悔させてやろうか!」
―to be continue―
予告しといてユイトがあまり出て来ないという…すいません!書くこと多すぎて書き切れませんでした(汗)。
少しだけ捕捉
ロンゴミニアドは対エネルギー兵器。
プラネイト・ディフェンサーは電磁フィールドバリアだから純粋なエネルギーフィールドじゃない。
疑問に思った方はこれで分かるはず。
さぁ…そろそろ反撃タイムです。(たぶん)