「ええとね、一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは単純に射撃武器の特性を理解していないからだよ」
「そうなのか?一応は分かっているつもりなんだが…」
一夏とラウラの壮絶な過去を話した日からもう五日が経っていた。土曜日の休日だがシャルルたちはアリーナで練習を行っていた。
フィーリアの言っていた一撃必殺と言う訓練もそろそろマンネリ化しつつあったのでそろそろ一夏を強化していこうと言う話になった。
「確かにな、射撃武器への警戒が浅すぎる…それではすぐにやられるな」
「まだ私に勝てないのはどうかと思うよねぇ」
「すいません…」
シャルルに続いてラウラ、フィーリアもその話題に乗る。確かに一夏は何とかなるっと言う安易な考えで突っ込みすぎなところがある。
「それ!」
「甘いですわよ!箒さん!!」
その頃、箒、セシリア、鈴は少し離れた所で一撃必殺の訓練中だ。正確には箒の訓練だと言っても差し支えない。後でキチンと交代するため三人は訓練に夢中だ。
「知識だけじゃダメだからね、一回、撃ってみたら?」
「それが一番だろう…だが私のレールカノンは固定兵器だ」
「同じくぅ…」
まさに百聞は一見にしかず、シャルルはラウラとフィーリアを見やるが二人とも主兵装のライフルは機体に固定してあるために渡せない。一応フィーリアはブルパップマシンガンを持っているがあれはライフルじゃない。
「じゃあ、僕のを渡すね…」
「え?」
「武器の所有者が武装の
「すいません…」
シャルルの言葉に疑問の声を上げた一夏だがラウラはそれを察しすぐに答える。その姿はどことなく千冬を連想させる…教育を受けていた分似てくるのだろうか…。
「まぁ、取りあえず…やってみようよ!ね!」
しょんぼりする一夏を見てフィーリアは慌ててフォローを入れる。ラウラ自身には悪意はないのだが言い方の端々にキツイものを感じるのは軍人上がりのせいなのだろうか。
「体勢はこう…そうそう…」
シャルルから手取り足取り教えて貰いつつライフルを構える。つたない構え方だがまぁまぁサマになってきただろう。ラウラも黙って見守っている。
バン!バン!
表示された的に撃ち込んでいく一夏だがその弾道はお世辞にも良いものとは言えなかった。初心者なのだから仕方のない事なのだが。
「どう?」
「お、おう…なんか、アレだな…取りあえず…速いって言う感想だな」
一夏の簡潔すぎる回答、しかしその感想こそが一番大切なものなのだ。速く、鋭い一撃を誰でも使えるようになる代物…この存在の出現により世界の戦いは大きく変動した。
「競技用兵器か…」
ISだってそうだ、現存する全ての兵器を凌駕する性能を示してしまった機体は今こうして銃を握っている。
そんな矛盾をラウラはシャルルと一夏の訓練風景を見つつ考えていた。
その横でフィーリアを似たような表情を浮かべていたのは誰にも気づかれなかったのだった。
ーーーー
「し、死ぬ」
シャルルたちの基礎的な訓練の後、セシリアたちの実践的な訓練を終えた一夏は思わず倒れ込む。そうとうキツかったようだ。
「よし、次が最後だな」
そんな一夏に声をかけたのはラウラだった。彼女は自身のISを展開せずに近寄る。
「なにをボサッとしている!速くISを解除しろ!」
「はい!」
ラウラの言葉に一夏は素早く白式を解除し立つ。
「今回も軽めにしてやる…アリーナ十周だ!走れ!」
「はいぃ!」
中学3年間、運動をしてこなかった一夏は基本的に体力がない。それを見かねたラウラが訓練後にランニングを追加したのだ。だがその訓練に例外はない、一夏以外の全員も走らなければならないのだ。
「流石に疲れますわね!」
「あれぇ、セシリア遅いぃ?」
「な!バカ言わないでくださいまし!」
セシリアと鈴が罵り会いながら戦闘を走るすぐ後ろをラウラが綺麗なフォームで走って来る。
「そんなに余裕だったら…余分に走って貰っても構わんのだが」
「「精一杯走るわ!(走りますわ!)」」
絶対零度のラウラの言葉に二人は更に加速して逃げようとするがラウラはピッタリとくっついてくる。
「どこのホラー映画よ!」
「いろんな意味で怖いですわ!」
延々に後ろをピッタリと追い掛けてくる眼帯少女、これが暗がりの洋館だったら確かにホラー映画にして出せそうだ。
ラウラに追いかけられる二人を見やりながら後ろに続くのはシャルルと箒だ。
「あはは、相変わらずだね…二人は」
「あぁ…だがああやって言い合っているのは良いことなのだろうな」
箒はあまり社交的とは言えない正確なのだがシャルルはとても話しやすく割と良く話す相手になっていた。その点で言えばフィーリアもそうなのだが彼女は明るすぎる。だからこそ少し落ち着いているシャルルは彼女にとって良かったのだろう。
「そう言えば、一夏をフィーリアに任せて良いの?」
「あぁ…最下位の追加トレーニングはしたくないしな……それに確かめたいこともあるのだ…」
「ん?」
箒の言葉の語尾が分からなかったシャルルは思わず聞き返すが残念ながら箒は黙ったままだった。
「走らんかい!一夏!!」
「痛い!痛いって!」
ハリセン片手に一夏の頭を叩きながら止まらないようにする。先程悲鳴を上げていた二人が自分たちを追い抜いたがそんな事気にしない。
「この愛の鞭…笑わずに居られるか!」
「愛がこもってねぇ!」
大爆笑のフィーリアに弄られる一夏だが正直えらくてそれどころではない。それに対しフィーリアは体力が有り余ってるようだ。練習の質から言えばフィーリアの方が上だったのにだ。
「まだまだ精進が足りないなぁ…」
《とりあえず俺は千冬姉の名前を守るぜ…》
「へぇ…」
そんな一夏の耳に入ってきたのはセシリア戦に呟いた自分自身の言葉だった。その後惨めに負けたのだから黒歴史以外の何物でもない。
「なんでそれを!」
《名前を守るぜ…》
「かっこいい…」
「やめてくれ…」
《守るぜ…》
「分かった!走るからやめてくれぇ!!」
恥ずかしかったのか一夏は走る速度を加速する。フィーリアの持つボイスレコーダーから逃げるように…そんな一夏を見て悪い顔をしながら付いてくる彼女。
先頭と最後尾、このグループで同じ現象が起きた瞬間だった。
ーーーー
「二重の意味で死ぬ…」
「アハハ、フィーリアって以外とスパルタだよねぇ」
「ほんとだよ…」
精神的に体力的に追い込まれた一夏は更衣室でシャルルに扇いで貰いながらぶっ倒れていた。
そんな様子を見ながらシャルルはフィーリアを高く評価していた。邪念を捨てさせ、走る事だけに集中させる事で走る速度を上げつつ体力をつけさせる。一見ふざけているように見えてしっかりと考える彼女の行動は抜け目がなかった。
「フィーリアって代表候補生の中でも実力が抜けてると思うんだけど…ラウラより強かったし…」
「最初っから強かったなぁ…代表候補生にはなったばかりらしいけど…」
実際にフィーリアの実際は他の代表候補生たちに比べると抜き出ていた。戦闘の際の細かい動きを見ればそれは明らかである。
彼女の機体であるブロッサムは未完成機だと言われていたが…正直、完成していれば彼女はもっと強いだろう。
「アイツが言うには師匠みたいな奴が居るみたいだけどな」
「へぇ…」
更衣室の男子二人は談笑をしつつ一夏の回復を待つのだった。
ーー
IS学園生徒会室
そこには生徒会長である更識楯無と生徒会会計布仏虚がいた。
「ロシア政府の報告だと相手はエネルギー兵器を携行していたらしいわ」
「エネルギー兵器…イギリスのですか?」
虚の言葉に楯無はほんの少しの間の後、横に首を振る。
「エネルギー粒子反応があったから違うわね…言うならビーム兵器ね」
「ビーム兵器…っ!オーストラリアの」
察しの良い虚に対して楯無は大正解と書かれた扇子を広げる。
オーストラリアの試験機体はよく見ればオーバーテクノロジーの一端が垣間見られる。だがその機体は未完成ゆえに誰にも相手にされない。だからこそ気づかれなかった。
「フィーリアちゃんも気になるけど怪しい行動はしてないわ、オーストラリア政府の方を調べた方が良さそうね」
もしそれがオーストラリアの企業の設計ではなかったのだとしたら、"どこかから提供されたものだもしたら"
「早速、向かわせます…」
「流石は虚ちゃん、頼りになる」
ようやく影が見えた敵に楯無は笑みを浮かべる。だが彼女はまだ知らなかった。今回の敵はこれまでの敵とは違うものでとても危険な存在だと言うことを…。
遅くなってすいませんでした。
色々と忙しく遅くなってしまいました…ご了承ください。
それと機体アンケートに期限などつけておりませんのでどんどんお申し付けください!