革命軍本部、研究開発施設最重要ブロックでは無人型ISの開発が進められていた。
「しかし開発長の考えることは分からんなぁ」
「だよな、俺らの想像を遥かに超える代物だよな、これは」
休憩を取っていた開発スタッフの言葉にその場にいた者達は同意する。現在開発中のこの機体は恐らく全てのロボット分野においてオーバーテクノロジーと呼べる性能を誇っていた。
「どうすっか?」
「開発長!!」
「順調です!後は零落白夜の起動試験と最終調整を残すのみとなりました!」
「そうっすか…」
黒塗りの4機はそれぞれ異なる姿をしていた。《B4シリーズ》と呼称された各機にはそれぞれ特筆すべき能力が与えられている。
4機の名前はビットモビルスーツになぞってビットインフィニット・ストラトスと種別化され開発長であるカゲトを中心に仕上げられた。
Bit1《Blade》ブレイド
Bit2《Buster》バスター
Bit3《Brain》ブレイン
Bit4《Bouclier》ブウクリイェ
剣、砲撃、脳、楯とそれぞれの名を与えられた機体たちはその名の通りの能力を有していた。
「アンネイムドと例の無人機から奪取したコアも機体と馴染ませました…拒絶反応は出ていません」
「情報長から頂いた無人稼働OSも問題ありません」
「おおむね、順調っすね…」
「しかしブレイドにVTシステムを搭載してよろしいのですか?」
VTシステム…正式名称はヴァルキリー・トレース・システム。過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステムで、アラスカ条約で現在どの国家・組織・企業においても研究、開発、使用全てが禁止されている。
そんな出来損ないをこの機体に登載させるのを技術班は納得し切れていなかった。
「ヤツらをおちょくるには最高っすよ…」
そう言ってカゲトはブレイドを横目で見やる。そのブレイドの姿はモンド・グロッソで二度の栄光を手にした機体、暮桜に酷似していた。
「最高の姉を、最高の恩師を侮辱されたら…あの二人は絶対黙ってないっすからね…」
「IS学園の…代表候補生たちを攻撃するんですよね…」
「ん?」
技術班の一人がカゲトに聞くと彼は不思議そうな顔をする。
「いえ、多少の被害は覚悟はしています…しかし虐殺なんて事は…」
「我々の目的はISに関する施設の殲滅とMSの性能を誇示することっす…そこに無力な人間は入ってないっすよ…」
「そうですよね…」
カゲトの言葉にその人物は安堵の表情をするとかけは話を続ける。
「ISの訓練を受けてると言ってもただの一般人と言う事には変わりないっす…できるだけ最小限に抑えるっすよ」
「はい…」
そう言ったカゲトは静かにB4シリーズを見つめるのだった。
ーーーー
「運搬作業は慎重にな!時間はまだあるんだから!」
革命軍、旗艦空母レウルーラと準旗艦空母サダラーンは本部の地下ドックで物資の積み込み作業が行われていた。
革命軍の保有する空母は3隻でそれぞれにネオジオンの旗艦の名が付いている。(3隻目はグワダン)その3隻とも旧式の空母を改造した代物で性能だけで言えば各国の現役空母より良い。
「順調のようだな」
「これは総帥!!」
「作業を続けてくれ」
積み込み作業を行っていた者達はユイトの姿を見ると敬礼をする。軍人育ちのしっかりとしたものから見よう見まねのものまで多種多様だ。
ユイトは手を振って続けるようにいうとそれぞれ作業を再会する。
作業用の有人型ガザCが巨大なコンテナを運んだりと中々忙しいようだ。
「しかし貰い物の空母がこんなに役に立つとは思いませんでした」
「そうだな…」
この3隻の内、2隻は巨大な武器商組織から"援助"として貰ったものだ。
ISが登場してから収入が激減し潰れた武器商人も決して少なくない。大きな組織も経営破綻しかけている。
そんな時に現れた革命軍は彼らにとって希望の光だった。
元々売れなかった空母を譲渡し少しでも援助する、そんな動きが裏世界では行われ始めていた。
「MS様々ですね」
「それがなければ我々もここまでの組織にならんよ」
「ですね…」
捕捉で説明すると3隻の空母はそれぞれ違う改造が施されている。レウルーラはMS運搬特化、サダラーンはMS補給と修理特化、グワダンは人員輸送特化だ。
「レウルーラはラサ基地に向かって貰う、サラダーンには俺が乗る…目標は日本だ」
「了解しました!」
敬礼する作業員を尻目にユイトはその場を去るのだった。
ーーーー
情報長、坂下ケイの私室…そこには大きなテーブルが並べられ多くの人物が来客していた。
「悪いなぁ、俺たちまでよばれてよ」
「別にいいよ、対して変わらないしね」
設置された台所に立つケイはテーブルで待つリョウの言葉に笑いながら答える。その横にはこの前精神安定室から出てきたカリナの姿もあった。
「チキンライスはできました」
「ありがとう、卵もできたよ」
二人が作っていたのはオムライス、たまに暇なときに子供たちに作るのだが今回はリョウとマドカも一緒だ。
「驚いたよ、オムライスが食べたいだなんて」
「マドカが食べたいって言ったからな」
「随分仲良くなったもんだ」
「…うらやましい」
「そんなんじゃねえよ」
リョウは隣に座っていた子供の世話を焼きながらケイと話していた。それは近くに居たマドカも同様だったが彼女は子供の扱いに慣れていないようで困り顔だ。
「そんな能面でどうするんだよ、笑って頭を撫でたら子供は喜ぶ」
「そうなのか?」
リョウの言葉にマドカはぎこちなく笑いながら頭を撫でる。それに対して子供は少し嬉しそうに撫でられる。
「お姉さん、ありがとう」
「あぁ…」
それが嬉しかったのかマドカももっと笑って頭を撫でるのだった。
「連れてきて正解だったね」
「あぁ…子供と接してると色んなしがらみを忘れちまう…アイツにはそれが必要なんだよ」
「リョウ、お父さんみたいだね」
「そ、そうか?」
オムライスを持ってきたケイはリョウに小声でした話し掛けると彼もそれに応じる。試しに軽く言ってみると少し驚いたような顔を見せたリョウ…。
なんだかんだ言って1番仲間思いなのは彼なのかもしれない。
「マドカちゃん、オムライス出来たよ」
「ありがとう…しかしちゃん呼びは…」
「ごめん…ごめん…」
オムライスを並べ終えたケイとカリナは席に着き手を合わせる。
「いただきます」
「「「「「いただきます!」」」」」
号令と共に一斉に食べ出す子供たち、賑やかな食事にスプーンが進む。
「おいしい…」
「当たり前…」
オムライスを食べて喜ぶマドカを見て前に座っていたカリナは簡潔に答える。しかしその顔は柔らかい表情だった。
ーー
「邪魔したな」
「また来なよ、歓迎する」
「ごちそうさまでした」
食事を終えて子どもたちを返した後、リョウはマドカを連れてケイの部屋を去って行った。
「食事とは…これほど良いものなのだな…」
「一人で食うよりいいだろ?」
「そうだな…」
リョウの言葉にマドカは同意する。思い返してみればこうやって大勢で食べたのは初めてかもしれなかったからだ。ファントム・タスクに居たときも簡素なものを一人食べていた気がする。
(こういうのも悪くないかもしれないな…)
マドカの表情にリョウも静かに笑う。ケイにも言われたが手の掛かる娘を持ったようで悪くはなかった。
ーーーー
「イルフリーデ様、こちらでございます」
「あぁ」
イギリス首都、ロンドンの地下に設置された保管庫の巨大な隔壁がゆっくりと開く。
厳重な警戒の中、姿を現したのは巨大なランス…対IS用兵器であるロンゴミニアドだった。
「まさかこれを使う日が来るとはな…」
イルフリーデがロンゴミニアドに手をかざすとそのランスは光る粒子となって彼女のISの待機形態である腕輪に収納される。
「願わくば、これで人を殺める事のなきことを…」
鋭い眼光をした彼女は静かに呟くのだった。