3年ほど前…。
その年は表の世界も裏の世界も緊張が走る1年となっていた。
表の世界では第二回モンドグロッソの開催による緊張が…モンドグロッソは各国の威信をかけた戦いだ。その勝敗自体では交渉に有利に進める国も少なからずあるからだ。
裏の世界では均衡を保っていたミリタリーバランスが大きく傾き、表社会に多大な影響を与えることとなる戦争が勃発していたからだ。
第二次世界大戦から裏の世界を牛耳ってきたと言っても過言ではない組織《亡国機業》に戦争を仕掛けた組織…革命軍との戦争だった。
現存する兵器の中で最強と呼ばれる高性能ISを3機も保有している亡国機業と新進気鋭の革命軍、当初の予想は亡国機業の圧勝だった。
だが奴らの…革命軍の保有するMSはISを凌駕する性能と生産性を保有していた。そのために亡国機業のスコール率いる実働部隊はジリジリと追い詰められていた。
そんな中、戦況立て直しのための任務として亡国機業は織斑一夏の誘拐を行ったのだ。
「チッ…こんなガキ一人でどうにかるのかよ…」
亡国機業実働部隊のオータムは自身のISであるアラクネを展開して愚痴をこぼす。スコールの言葉を信じない訳ではないがたかが誘拐で敵の戦力を削げるとは思えなかったからだ。
「織斑千冬をおびき寄せたら革命軍にこの場所をトレースさせて鉢合わせにさせるのよ」
「スコール!」
オータムは突然の通信に驚くもすぐに耳を傾ける。
「織斑千冬と革命軍を鉢合わせたら彼女は必ず勘違いをする…可愛い弟を攫った不届き者はコイツらだとね」
「なるほど、世界最強とやらがこっちの戦力として動いてくれるって寸法か…」
「なるほど、よく考えますね」
流石はスコールっと思っていたオータムはフッと違和感を覚えた。この倉庫には亡国機業実働部隊員がいるが二人の会話に口を挟むほどバカではない。
「なっ!!」
振るわれる光る斬撃、オータムは恐るべき反応速度でその斬撃を受けた。
「こいつ、どこから」
気配どころか姿すら見えなかった…それはそうだろう現在対峙しているのは革命軍情報長、坂下ケイの親衛隊副隊長が駆る機体《ブリッツ》はレーダー的にも物理的にも消えれる機能、ミラージュコロイドを持っているのだから。
「情報長!敵を発見しました…捜索対象B地点です」
「了解した…すぐに向かう」
元ドイツの強化実験体、ニコラはケイに素早く場所を報告すると戦闘に戻る。
ブリッツはどちらかというと戦闘向きではない、隠密中心の暗殺を意識した機体だ。右腕に武装が集中しているの見れば明らかだろう。
「てめぇ!どこから出てきやがった!」
「幽霊のような言い方は止めてください、僕は生きていますから」
複合シールド《トリケロス》に搭載されたランサーダートを全弾発射しつつ左腕部に搭載されたグレイプニールを発射後、天井の柱を掴ませて退避する。
「くそったれ!」
ランサーダートの1本はアラクネの腕を1本破壊し残りは突然のことで驚いている生身の実働部隊員を粉々に吹き飛ばす。
「逃げんじゃねぇ!」
「だってそこに居たら僕が味方に殺されちゃいますからね」
「なんだと!?」
「抹殺…完全消滅……」
「っ!!」
背筋が凍りつくような殺気にオータムは身を震わせる。暗闇に光り輝く緑色のビーム光、その光景はさながら魂を吸い取る死神の大鎌。
「蹂躙!!」
同じく元ドイツの強化実験体、カリナは呪詛のように呟きながら自身の機体、デスサイズを駆る。目にも止まらぬ速さの鎌が襲ってくるが自身の両腕合わせてまだ9本腕でなんとか防ぐ。
「てめぇ…舐めてんじゃねえぞ!」
「殺戮上等!」
カリナの叫びと共にデスサイズの小型バルカンが火を噴き実働部隊員を次々と蜂の巣にする。そんな様子を見て頭にきたオータムは全ての腕にマシンガンを持たせ一斉射をお見舞いした。
銃弾が雨あられと降りしきるこの状況で身動きの取れない一夏はニコラに助けられていた。
「大丈夫?」
「んん!?」
「あぁ、生きてたらいいから」
流れ弾が大量にブリッツに当たるが実際ノーダメ、実弾だけに関したらフェイズシフトはどれだけチート兵器だろうか。口を塞がれた状態でなにかを言おうとしている一夏だがニコラはそんな事はどうでもよかったのでスルー。
「そろそろケイさんが来ると思うんだけど…」
「カリナ、ニコラ!大丈夫!?」
「来た!」
ケイの駆る機体、アストレイゴールドフレーム天がミラージュコロイドを解除しアラクネの後ろから姿を現すと複合シールド《トリケロス改》からビームサーベルを形成し腕を2、3本斬り飛ばした。
「ケイさん!」
「ケイ様!!」
カリナの嬉しそうな声を聞いてニコラは少しだけ安心する。彼女は戦闘になると目に止まるもの全てを破壊し尽くしてしまうような癖が付いていた。それを止めれるのは現在の所、ケイだけだ。
「くそったれ!次から次へと!ふざけるなぁ」
「グッ!!」
オータムは後ろにいたケイにアッパーとボディーブローを喰らわして怯ませると蹴り飛ばす。吹き飛ばされたケイは倉庫の壁を突き破って倒れ込んでしまった。
「オレをなめんじゃねぇ!」
気絶したケイを見てやっと一矢を報いたオータムは叫んだ瞬間、斬り飛ばされた自身の右腕が飛んでいくのを見た。
「へ!?」
斬られた痛みすら知覚できない高速の斬撃、思わず間抜けな声が出てしまった。
「ケイ様をよくも…」
完全にキレたカリナはものすごい形相でオータムを見る。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す…」
「ひぃ!!」
押しつぶされそうな殺気にオータムは怯みその顔から笑みが一瞬で消えた。涙と鼻水を垂れ流した酷い顔になる、それは恐怖の底に叩き落とされた者がする表情そのものだった。
「マズハ…ヒダリウデ」
「えぁ!!」
肩口からバッサリと切り飛ばされた左腕が空中を舞う。両腕を失ったオータムの傷口からは血が吹き出ない…ビームの熱で傷口が塞がってしまうのだ。
「殺しちゃダメだよ!カリナ!!」
一夏を置いといてカリナを止めようと歩を進めるニコラ、その際に足下に誰かがいたなんて彼は知らなかった。
「ウルサイ!」
ニコラを邪魔だと反応したのかカリナはデスサイズの左腕を上げて狙いをつける。バスターシールドを発射しニコラを牽制する。
「死んじゃうよ!?」
飛来してくるバスターシールドをニコラはトリケロスを斜めにすることで受け流し避ける。受け流されたバスターシールドは天井にあった運搬用のクレーンの基部を破壊してどこかへ飛んでいく。
受け流した反動で壁に埋まるニコラ、それを見たカリナは続きを始める。
「ニゲルナ…ツギはリョウアシを柄でツブシテヤル」
「があぁ!!」
容赦なく潰される両足の痛みに悲鳴を上げながら泣くオータムだがそれを見たカリナは逆に嬉しそうだ。そして新たに展開した小型ナイフを掴みオータムの両目を切り裂く。
アラクネのバイザーがあったはずだがそんなもの粉々に砕かれていた。アラクネ自体のエネルギーも尽き果てオータムとっては足枷に他ならなかった。
「あ、あぁ…助けてくれ……助けてくれスコール……」
当時、奪ったばかりのアラクネは最高レベルの性能を誇っていた。その機体をオータムは使いこなしていた…なのに……なのにこんな結末……。
「ワタシをイジルだけイジッテ…ニンゲン以下のソンザイにしたアゲク……ハズカシメ、ワタシをコロシタヤツら、ユルサナイ…コロシテヤル……」
「あぁ…」
死神の鎌が振られるとオータムは頭を焼き消され力なく倒れた。その光景をニコラと気がついたケイは黙って見守るしかなかった。
その後、カリナは命令違反を名目に精神安定室に送られ計画の第二段階開始時まで安定室に度々入れられる事となった。
親衛隊に所属するほとんどか者達は悲惨な過去を持つ強化人間たちだ。その中には過去に耐えきれず精神が不安定な者もいる今回のカリナとユイトといつもいるクリアもそうだ。
その場合、その者達の精神安定剤として親衛隊を主導する人物…つまりユイトやケイ等の転生者が心の支えとなっている場合が多いのだった。
今回はちょっと解説を追加
坂下ケイ直属親衛部隊
隊長をカリナ、副隊長をニコラに据えた隠密部隊で全5名。情報操作や撹乱等のシステム関係を得意とするためその親衛隊も隠密を得意とするケイをサポートするために組織された。
機体はデスサイズ、ブリッツの他にストライクノワールやブルデュエル、ヴェルデバスターが所属している。