「では本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を実施する」
「「「はい!」」」
転校生二人がやって来てから初めての授業、新しい男子出現に群がる女子たちを回避して何とか授業に辿り着いた一夏たちだった。
「今日は戦闘を実演して貰う、ちょうど活気溢れんばかりの十代女子がいることだしな…凰!オルコット!」
「何故わたくしが…」
「専用機はすぐに始められるからだ、前に出ろ」
先程から出席簿で叩き潰されている二人が呼ばれしぶしぶ前に出るが千冬なにやら耳打ちをすると突然元気になる。
「やはりここはイギリス代表候補生のセシリア・オルコットが!」
「専用機持ちの実力を見せるいい機会よね!」
(チョロいな…)
そんな様子を見てフィーリアは心の中でそう呟くが決して表に出さない。何事に関してもそれが長生きの秘訣である。
テンションMAXの二人が話していると上空から物凄い早さで墜ちてくる物体があった。
「ああああ、退いて下さい!」
気づいたときには既に遅い、当初の一夏のごとく地面に落下すると思われた瞬間千冬が叫んだ。
「ボーデヴィッヒ!!」
「ヤー!」
あっと言う間にISを展開したラウラは左手をかざしナニかをする。すると落下中のラファールを纏った落下物こと山田先生が空中で停止した。
「おぉーー」
あまりの光景に生徒が歓声を上げるが時間を稼いだだけであって解決にはならない。
「すいません、もう大丈夫です…」
すると山田先生はそう話すとラウラは左手を収めて元の体勢に戻る。するとラファールが空中で一回転し見事に着地した。空中で制止していたのが地表から20センチ辺りだったと言うのに無事に着地するその技量に全員が舌を巻いた。
「まぁ、山田先生はああ見えて元代表候補生だからな、今ぐらいの機動は造作もない」
「む、昔のことですよ…楠木さんの足元にも及ばなかったですし」
千冬の言葉に山田先生は恥ずかしそうに手を振る。
「さて、いつまで惚けている…さっさと始めるぞ」
「え?二対一で?」
「いや、流石にそれは…」
「安心しろ、今のお前たちではすぐ負ける…」
数的有利に遠慮しがちな二人だったが千冬の言葉が気に入らなかったのかすぐに戦闘態勢に入った。
「では始め!」
千冬の言葉と共に動き出す三人、先制攻撃を仕掛けるセシリアだったが山田先生に難なく躱されると鈴が接近戦に入る。
「ちょうどいい…デュノア、山田先生の使っているISの説明をして見ろ」
「あ、はい…」
戦闘が始まると千冬はシャルルに対して質問を出すと彼はしっかりとさした口調で話し始める。
「山田先生の使用されているのはデュノア社製《ラファール・リヴァイヴ》です。第二世代最後期の機体ですが、そのスペックは初期第三世代にも劣らないもので、安定した性能と高い汎用性、豊富な後付武装が特徴の機体です。現在配備されている量産型ISの中では最後発でありながら世界三位のシェアを持ち……(以下省略)」
長いので省略しましたすいませんby砂岩改
詰まるところMSでいうジムⅢ辺りに匹敵するMSであるといえ事だ(個人的)。
扱いやすく武装も豊富だがすぐに新機体が出てきてあんまり評価されない機体ということだ。
「ああ、一旦そこまででいい…そろそろ終わるぞ…」
千冬の言葉通りグレネードの直撃を受けた二人が地面に落下して勝負が決まる。落下地点もちゃんと確認してあったようで安全なところだ。
「さて、これで諸君らもIS学園教師の実力は理解できたであろう、以後は敬意を持って接するように」
千冬の言葉にフィーリアは頷く。恐らく世界中から集められたIS学園の教師たちは世界トップクラスの実力者ばかりだろう、そうでなければ国の権力を行使できないなんて法外な建前が誓約されるものか。
どうやらグループ実習をするようで女子たちが男子二人に群がる。群がる女子たちのせいで授業が進まない現状を見た千冬は…。
「この馬鹿者が…出席番号順に一人ずつ並べ!順番はさっき行ったとおり、次もたつくようならIS背負ってグラウンド百周させるからな」
死んでしまいます、なんて突っ込みなど出来るものか…急いで指示に従う生徒たち。
「お、フィーちゃんの班だ!」
「フィーリアは何だかんだで凄い事してるからねぇ!」
「ありがとう、じゃあさっさとやっちゃいましょうか!」
「「おう!」」
1番明るかったのはフィーリアの班だ。無駄口も多いがちゃんと指示を出すフィーリアと手早く行動する班員たちに文句の付け所がないのが千冬はノータッチだ。
だがちょっとうるさいのが難点だった。
「このISスーツ、フィーリアお勧めの会社にしてみたんだ!」
「そうなの?どう?」
「いい感じ…そんなに値も張らないし両親はすぐ許可してくれたよ!」
「よかったねぇ!」
キャアキャア言っているフィーリアたちの班をラウラは班員に指示を出してながら静かに見つめていた。
「ボーデヴィッヒさんも気になる?」
「ん?あぁ…まぁな…」
「凄くいい人だよ」
「そうか…」
転校してきたばかりのラウラに気を遣いフィーリアの印象を話す女子だった。
しかしラウラがフィーリアに向ける視線は好奇心ではなく警戒心から来る者だとは本人以外誰も知らないことだった。
「終了!」
「終わったぁ!」
一番乗りをしたのはやはりフィーリアの班だ。彼女たちの恐るべき団結力で他の班と大差をつけて終了した。しかしその目的は…。
「次は昼休みだ!」
「早くISを片づけろ!」
「食堂が溢れる前に席を確保するんだ!」
「相変わらずフィーリアは元気だよなぁ」
そんな様子を見ていた一夏は素直な感想を漏らす。その言葉は他の班の子たちが抱いた感想そのものだった。
ーーーー
「せっかく早く終わったのにぃ…」
ブウブウと文句を垂らすフィーリアを横目に一夏たちが集まったのはIS学園の屋上。そこには一夏を含むいつものメンバー+シャルルとラウラがいた。
「なんで焼きそばパンだけなのだ?」
急な場所変更で食事を用意していなかったフィーリアは仲良くシャルルとパンを買いに行ったので手元には焼きそばパンが三つあった。
「焼きそばパンの気分だったのさ!」
「そんなドヤ顔をされましても…」
ワイワイと騒ぐセシリアたちを見てシャルルは疑問をこぼす。
「いつものこんなに賑やかなの?」
「そうだな…フィーリアはいつも明るいから賑やかだな」
「なるほど、ムードメーカーというものか…」
「そうだな、俺もなにかと良くして貰ってるから…なんだかんだ言ってIS学園で一番よくしゃべるのはフィーリアかもな」
「なるほどな…」
ラウラはそう呟きながらペットボトルのお茶を飲む。そんな話をしていると箒が思い出したようにラウラに詰め寄った。
「そう言えば、一夏とはどう言う関係なのだ!」
「そうですわ!白状なさい!」
「私にも聞かせて貰うわよ!」
箒に続いてセシリアと鈴もラウラに詰め寄る。
ラウラはヤレヤレといった感じでペットボトルのキャップを閉めると口を開く。
「どうもこうもない…織斑一夏と会ったのは一、二度だ」
「初めは誘拐されかけた時、二度目は俺の家だったよな」
「そうだな」
「い、家ですって!」
一夏の言葉に一番に反応したのはセシリアだ。彼女は他の二人が騒がないのを見て振り返るとドヤ顔の二人が…幼馴染みだった二人は当然言ったことがあるのだ。
それを悟った瞬間、とてつもない敗北感を味わったセシリアであった。
だが三人は一旦一夏の答えを反復した…何かしらの違和感があったからだ。
「「「「誘拐だと!(ですって!)」」」」
衝撃のカミングアウトにフィーリア含む四人は立ち上がり叫んだ。
「あぁ、あれは第二回モンドグロッソの時だったなぁ」
「懐かしいな…教官が二度目の栄光を手にした時だ…」
「早く話なさいよ!」
シミジミと語る二人に三人は嫉妬したのか早く話をさせようと急かす。
ーーーー
3年前、ラウラはモンドグロッソの警備のために会場の周辺施設の警戒を行っていた。本人は是非ともモンドグロッソを見て下がり続ける自身のIS成績を上げようとしたかったのだが軍の命令では仕方がない。
「いったい私になにが足りないと言うのだ…」
ため息をつきながら警戒を続けるラウラの目の前を黒塗りのバンが猛スピードで目の前を通っていた。
「こちらラウラ・ボーデヴィッヒ大尉、不審者を確認…追跡を行う…私の行動をトレースされたし」
「了解した大尉、報告は密に頼む…」
「了解した」
本部と通信をとったラウラは目の前に止まっていたバイクをお借りして追跡を開始する。もちろん、訓練で操縦を習っているため普通のドライバーより上手く扱える。
ほどよく車間を開けたり、ルートを予想して一旦離れ敵の目から逃れたところで合流したりと上手いこと追跡を行い山岳部のすたびれた倉庫に辿り着いた。
「こちらボーデヴィッヒだ、不審車停止…中学生ぐらいの少年を誘拐した模様」
「こちら本部…ただいま警察から連絡があった、織斑千冬の弟、織斑一夏が誘拐されたらしい…特徴は…」
オペレーターの言葉に先程見かけたり少年の特徴と照らし合わせ一致させる。
「特徴一致、恐らく同一人物でしょう…」
「了解した…奴らの思い通りにはさせない…織斑千冬にはそのまま出場して貰う、増援を送りテレビで織斑千冬の出場が確認されたら我々が制圧する」
「了解した…待機する…」
「早急に増援を送る…」
通信を終えたラウラは倉庫の中を見れないが辺りを物色するが全て塞がれていて無理だった。
「ん?」
ラウラは倉庫が急に騒がしくなったのを感じていた。まだ準決勝の試合中だ、織斑千冬が出てきてはいないはず。
ガシャーン!
倉庫の正面入り口の隙間から状況を確認しようとラウラが身を地面に寝転ばせるとその数センチ上をISが壁を突き破りながら吹っ飛んでいった。もう少し体勢が上だった確実に死んでいた。
「全身装甲だと!?」
飛んできた瓦礫に身を隠しながらラウラは呟いた。飛んできたのは黒を中心に所々に金色のフレームが見える機体だった。
正式な機体名はアストレイゴールドフレーム天と言うのだがそんな事どうでもいい。
中を見れば巨大な光る大鎌を持った機体《デスサイズ》と無数の腕を持つ機体《アラクネ》が激しくぶつかっていた。
その足下に縛られ身動きが取れない織斑一夏の姿があった、あんな所に居れば潰れたトマトの如く真っ赤な血を飛び散らせるだろう。
(仕方がない!)
軍の増援など待っていられない体勢を低くし織斑一夏の元へ駆け寄るラウラ、途中…黒い機体《ブリッツ》に蹴飛ばされそうになったが問題ない。
「ん!んん!!」
「静かにしろ!速く逃げるぞ!」
持っていたナイフで縄を切り立たせると腕を掴み全力で走る、一夏もフラフラでありながら一生懸命走る。
戦闘に耐えきれなくなった倉庫は天井から崩れていく運搬用のクレーンが目の前に落ちてきたりと中々肝の冷える状況だったがなんとか脱出、近くの茂みに隠れた。
「大丈夫か!?」
「あぁ…ありがとう……」
息も絶え絶えの一夏を助けたラウラは一緒に倉庫の戦闘を終えるまでその茂みに息を潜めて隠れたのだった。
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壮絶な体験に聞いていた全員が唖然とする。
「あんた本当に大変だったのね」
「まさに九死に一生を得たと言うのだな」
「凄すぎて言葉も出ませんわ」
その後、話を聞いていたせいで時間がなくなり急いでごはんを食べた後、次の授業に向かうのだった。