IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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第107話

 パリ郊外。

 

「ちっ、ロートルの癖にやるじゃねぇか」

 

「そっちは機体の持ち腐れだね」

 

「良いぜぇ、楽には殺さねぇ…」

 

 ケイとルプスが戦っている間に、フランス軍は森の中で作戦行動を行っていた。

 

「第一部隊、Tポイントを確保」

 

「第二小隊、目標を補足。誘導を開始します」

 

「対MS機械化歩兵隊は配置を完了しています」

 

 ジェガン隊がシャルロットたちに追い付き攻撃を開始する。

 

「くそ、ジェガン隊だ!」

 

「森の中に待避だ!」

 

「しかたねぇか」

 

 ラファールたちは包囲を恐れて森の中に逃げ込む。ルプスも味方と離れるわけにいかず、森へと退いていく。

 

「よし、追いたてろ!」

 

「第三小隊、攻撃開始します!」

 

 森の上空に滞空していたスタークジェガン隊が、装備されている武装を余すことなく使用する。

 

「あいつら…」

 

「気にするな、当てずっ……」

 

 そのうち、一機のラファールにミサイルが直撃。一瞬で絶命する。

 

「ひいぃぃ!」

 

「役立たずが…見失っちまったじゃねぇか!」

 

 ルプスが他に気を取られていた瞬間、前方に無数の熱源を探知した。

 

「っ!?やべぇ!」

 

「撃てぇ!!」

 

 前方に伏せていた待ち伏せ部隊が攻撃を開始する。10機近くのGキャノンのガトリングが炸裂。弾丸の嵐に巻き込まれたラファールが次々と破壊されていく。

 

「流石は軍隊だ…統制が取れてる」

 

 その様子を見ていたケイは感心する。

 

「くそがぁ…」

 

 相変わらず粗暴な声を上げながら暴れるルプスだったが、突然動きが止まる。

 

「分かったよゼロ、戻れば良いんだろ…」

 

「尻尾巻いて逃げるのか?」

 

「ほざいてろ。声は覚えた、ぜってぇ殺してやるからな」

 

 そう言うとルプスは機体を翻してその場を去る。バルバトスが出てきた時点で持っていたクロスボーンは役に立たない。その為にゲイレールで応戦したが、正直キツかった。

 

「またヤバイのが来たね。同じ転生者なんて思いたくない…」

 

「ケイ…」

 

「カリナ、大丈夫だよ。今度はちゃんと仕留める」

 

「うん…」

 

 あれは完全にバルバトスルプスだ。ゼロだけではなく他の機体まで居るなんて思ってもなかった。

 

「ありがとう。僕たちだけじゃ、死んでたよ」

 

「操縦技術は平凡だけど。やっぱり機体性能が開くとキツいね」

 

「他のラファールも逃げられた。全く、あの腐った女が残したISが襲ってくるなんてね…」

 

 腐った女とはデュノア婦人の事を指している。失脚した落ちぶれた女、そいつがラファールをシャルロットに送り、IS学園に送り込んだ張本人だった。

 

「ラファールは負の遺産だからね。ガルド鉱石がたっぷり使われてるからね」

 

 謎の転生者軍団。本当に大変な事態だとケイは改めて思う。そんなシャルロットたちの様子を最大望遠から覗くシュヴァルベグレイズは、剣をしまうとそのまま飛び立つのだった。

 

ーーーー

 

 その頃、全てが隔絶された空間では、女神がその表情に怒りを露にして歩いていた。

 

「おや、どうしたのかしら?」

 

「貴方ね、試練に細工したのは!」

 

「細工なんて人聞きの悪い。私はなにもしていません」

 

 対するは違う世界の女神。彼女は不敵な笑みを浮かべる。

 

「本来の試練は女性主義団体の残党が観艦式を襲い、それを阻止する。それを通して革命軍戦争の当事者たちの覚悟を確かめる予定だった!でも既に、少なくとも二人も異分子が入り込んでる!こっちの輪廻まで弄って何様のつもりよ!」

 

「大きな試練はその覚悟の深さを示すのではなくて?」

 

「ふざけないで!瞬きほどの時しか過ぎていない人類が過敏に反応すれば世界が滅びる!せっかく回避した男女間戦争のトリガーはまだ残ってる!」

 

 国すら垣根にしない全面戦争。それは女性主義団体が無くなっても危険性は孕んでいる。そんな時に女性主義団体に過剰な戦力投入がなされた。これでは全てが水の泡になってしまう。

 

「あら、貴方も輪廻を弄って妨害したじゃない?」

 

「試練をあるべき姿に戻すためにね。このクズめ…」

 

 吐き捨てるように去る女神。それを横目に残った女神は静かに呟く。

 

「あなたの世界なんか勝手に滅びればいいのよ…」

 

ーーーー

 

「スクランブルだ!機体が強奪された、敵は不明!」

 

 日本の航空基地。そこに配備されたリゼルが一機、何者かによって強奪された。まるでその機体に命が宿ったらかのように突然動き出したリゼルは、そのまま日本の監視網をすり抜けて姿を消すのだった。

 

「くそ、何だったんだ?」

 

ーーーー

 

「イギリス部隊の消失を機に、きな臭い事件が増えてる。フランスもデュノア社が襲われたって」

 

「シャルは無事なのか?」

 

「うん、大丈夫だよ。所属不明機が加勢したみたい。たぶん、革命軍だろうね」

 

「そうか…」

 

 ドイツの豪邸に居を構えているラウラ・ボーデヴィッヒは、コーヒーを飲みながら新聞を見つめる。それに対してクロイ・ボーデビィッヒは朝食を机に並べ終えて満足そうにする。

 

「俺のウーンドウォートの出番かな?」

 

「シュヴァルツ・ハーゼも観艦式に出席予定だったな」

 

「そら、革命軍のことを察している連中はすぐに参加を表明したからね」

 

「一夏たちと会うのも何年ぶりだろうな」

 

 国連に所属している一夏や同じヨーロッパ圏にいるシャルロットとはいくらか接触しているが、箒や鈴、千冬たちとは10年近く会っていない。少し懐かしい気がする。

 

「あの戦争の後。ラウラはドイツにトンボ返りだったもんね」

 

「そうだな、しかし学園生活と言うのは得難い体験だった」

 

 たった半年足らずの生活だったが、当時のラウラにとって未知の体験であった。赤い髪をなびかせていたフィーリアが懐かしい。彼女の笑みが嘘ではないと分かっているだけで救われる気がする。

 

「本当にあっという間だった…」

 

 同じ強化人間として生まれながらも、命の煌めきを魅せたクリアをラウラは純粋に尊敬していた。多くの命が失われたが、ラウラには人生の大きな糧となっていたのだ。

 

ーー

 

 日本海の無人島。そこには、先程強奪されたリゼルとトールギスが静かに佇んでいた。まるで、何かを待っているような2機は、静かにその時を待つのだった。

 

ーー

 

「なんで俺を戻したんだよ。俺様がいればあんな連中なんてすぐ殺せたのによ」

 

「慌てるな、本番は観艦式だ。それに腕慣らしを所望したのはお前だろ、ルプス」

 

「そう言われるとなんも言えねぇなゼロ。でももう少し遊びたかったぜ」

 

 女性解放戦線の本部。そこには無数のISとMSが整備され、決戦の時を待っていた。

 

「ゼロ、君の言う通り全ての戦力を集めた」

 

「小出しして消耗するより一気に片付けた方が楽だ。観艦式が襲われるさまを見ているがいい…」

 

ーーーー

 

 こうして、楯無たちの努力も虚しく時が過ぎていき、ついに観艦式当日を迎えることになってしまった。

 

 


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