IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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細かい紹介はしませんが原作キャラは全員原作より10年後の成長した姿です。その姿はご想像にお任せします。




第105話

「全く、なんなんだお前は?帰ってきて早々、黙って茶を飲み続けるなど…」

 

「ごめん、箒。何て言えばいいのか分からなくてさ…」

 

「ならもっと顔を出せ。千冬さんには特にな」

 

 篠ノ乃神社に併設された家の居間では、一夏が静かに箒の出したお茶をすする。

 

「ガルド王国に行ってきた」

 

「あぁ、革命軍の本拠地があるとかないとか…。騒がれていた国だな」

 

 ガルド王国が建国したばかりの頃に流れていた噂だ。どこかの国のゴシップ誌が言い出した説で、一時期は大流行していた噂話だ。だがそれも10年という時の流れには逆らえず、すっかり衰退してしまった。

 

「本当だったよ。基地で見かけた奴が国王なんてやってたからね」

 

「…そうか」

 

 革命軍戦争から10年、一夏も箒ももうすぐ三十路だ。それまでに数多くの経験をしてきたが、あの時の出来事はまだ鮮明に覚えている。

 

「フィーリアに挨拶は済ませたか?」

 

「一応は…シャルも居たよ」

 

「毎年毎年…シャルも律儀なことだ」

 

 太平洋に浮かんだ革命軍の元基地は、今や遺跡に近い扱いを受けている。その地下奥深くにバエルソードが突き刺さっており、そこがフィーリアの墓として花を手向ける。シャルは革命軍戦争の終戦日に、必ず顔を出していた。

 

「親父を手伝って今やデュノア社の専務だ。次期社長は確定だろう」

 

「フランスの児童福祉施設は、ほとんどシャルの管轄だからな」

 

「うむ…あいつはフィーリアの親友だったからな」

 

 IS学園メンバーにとって、フィーリアは特別な存在である。特に一夏にとって、彼女はかけがえのない存在であった。

 

「笑って死ねたんだ。フィーリアも良かっただろうさ」

 

「…一夏」

 

 少し一夏が黄昏ていると、彼の通信端末が鳴り響く。それを取ると相手は千冬であった。

 

「千冬姉…」

 

「どうせ篠ノ乃神社にいるんだろう?すぐに来てくれ、緊急事態だ」

 

「え?」

 

ーーーー

 

 小笠原諸島近海、そこでは既に戦端が開かれ、激しい戦いが繰り広げられていた。

 

「固まるな!ツーマンセルを組みつつ散会しろ!」

 

「ツインバスターとて砲口は一つだ!分割させるな!」

 

 ウイングゼロカスタムはバルカンで牽制しつつバスターライフルを放つが、射線にいたドーベン・ウルフは軽々と避けて、メガランチャーでゼロを狙う。

 

「そら!」

 

 ドーベンに気を取られていると、背後からマントを被ったクロスボーンガンダムX1がビームザンバーを振りかざしながら接近したが、サーベルで防がれてしまう。

 

「滅殺!」

 

 その隙にX2がゼロを蹴り飛ばし、ブラインドマーカーで襲いかかるもひらりと逃げられる。

 

「カリナ、無事かい?」

 

「無論、ケイは?」

 

「当然さ…それにしても文句なしに強いね」

 

 ゼロと対峙していたのは革命軍の残党部隊。随伴のドーベン・ウルフやザクⅢたちも手慣れた動きでゼロを翻弄しながらも、撃墜せんと追い詰める。

 

「情報長、どうしますか?」

 

「ここままではジリ貧です。日本の防衛隊に我々の存在が知られるのは、あまりよくありません」

 

「必要な情報は集められたけど、少しでも手傷は追わせたい。10分後に引き上げる。それまで粘ろう」

 

「「了解!」」

 

ーーーー

 

「間違いないんだな!」

 

「はい。今、本土防衛隊が出動しています。すでに戦闘の光を探知しているそうです!」

 

 千冬は片腕用にカスタムされた明桜を操りながら、楯無のキマリスに追随する。

 

「状況は?」

 

「更識長官!?」

 

 先行していたEWACジェガンは楯無に驚くも、状況を説明する。

 

「近海にアンノウンが現れたために急行したところ、既に戦闘が発生しておりました。それと問題が…」

 

「なに?」

 

「これを…」

 

 EWACジェガンが差し出した画像データには、クロスボーンガンダム2機とドーベン・ウルフ、ザクⅢと言った機体たちが映し出されている。

 

「革命軍…」

 

「はい、間違いないかと」

 

 あの革命軍戦争からMSが普及し始めたが、その製造に当たって一つの取り決めが行われた。革命軍を象徴する一つ眼のMSの製造を禁止するものだった。

 世界的テロリストとして名を馳せた、革命軍MSを連想させる機体を全面的に禁止した。それに加え…。

 

「ドーベンもザクⅢも技術的にはブラックボックス過ぎて、開発には至っていません」

 

「それを言うなら、MS自体もIS以上のブラックボックスの塊だろうに」

 

 この10年間。MSの生産は可能になったものの、その根本的な構造を理解することは叶わず、新規MSの製造が不可能とされていたのだ。そんな状態で革命軍MSの再現など出来る筈がない。

 

「とにかく、革命軍であるというのは確定なのだな」

 

「そうです。しかしそうなると、なぜウイングゼロと革命軍が対峙しているかが分かりません」

 

 疑問しか生まれない戦場に様子見を決め込んでいた千冬たちだったが、そうしているうちに革命軍もゼロカスタムも、すぐさま退くと姿を消すのだった。

 

ーーーー

 

「どう?」

 

「完璧な状態のゼロカスタムっすね」

 

 小笠原諸島の無人島に身を潜めていたケイは、手に入れた映像をカゲトに送って解析をしてもらっていた。

 

「戦ってみた感触はどうだったすか?」

 

「感触もなにも、ユイトが強すぎて戦い方なんて覚えてないよ」

 

「そうっすよね」

 

「向こうも本気ではないみたいだったし。と言うより戸惑っている節があった」

 

(使うしかないっすね…)

 

 ユイトがこの世界に来てから使っていた最強の情報入手手段。まだ彼女が答えてくれればの話だが。

 

ーー

 

 ガルド王国の王宮地下に、閉鎖された玉座の間が存在する。そこに一人で足を運んだカゲトは大きな声で叫ぶ。

 

「女神、ここなら誰も来ないっす!」

 

「まさか、呼ばれるとは思わなかったわ。貴方、以外と記憶力がいいのね」

 

「なにを馬鹿げたことを…この世界でゼロカスタムを作れるのは俺だけっすよ」

 

 純然たる事実として、カゲト以外にゼロを作り出すことは不可能。なら考えられる可能性は転生者、それに類する存在が世界に現れたということだ。

 

「世界の安定は、あんたが望んだものじゃなかったすか?」

 

「そうよ…」

 

「ならなぜ!」

 

「これは世界のルール。人類でいうと試練なのよ」

 

 世界は世界という一つのシステムを維持させていくために、人類という存在を許した。考え、学習する生き物である人間に課せられた試練。

 

「人類は小さな戦争を経験し、新たな力を得た。それに相応しくあるのかという試練。それは私の一存で決められるものではない。だからウイングゼロカスタムの中身は分からないわ。それをどう対処して解決するか、その答えは存在しない」

 

「でも下手すれば、このユイトたちが築き上げてきた平和を壊してしまう…」

 

「そう、考えて行動しなさい。ユイトが遺したものを誰がどう受け止めているのか、それを示すのよ。彼らも貴方たちを見ているわ」

 

「ユイトたちが…」

 

「一つだけ…言うわ」

 

「なんすか…」

 

「リョウやマドカたちは確認できたけど、ユイトとクリアが確認できないの。少なくとも、私の管轄にはいないってことになる」

 

「ゼロの中身がユイトだとでも!」

 

「それは分からないわ。でも可能性はある。それだけは覚えておいて…」

 

 瞬きをする間もなく消える女神。恐らく、もう現れてはくれないだろう。覚悟を決めたカゲトは玉座の扉に手をかけた瞬間、一瞬だけ影が映った気がしたが、振り向かずに外に出るのだった。

 

ーーーー

 

「貴様の実力は見させてもらった。我々が必死に戦っていた革命軍を、意図も容易く退けるとはな」

 

「………」

 

 誰もいない空間に静かに佇むゼロカスタム。その周りを複数のISが取り囲み、警戒していた。

 

「歓迎しよう。我ら女性解放戦線にようこそ」

 

 


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