IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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エピローグ

 花柳ユイトを党首とした革命軍戦争から3年、世界は劇的にと言うわけにはいかなかったが、確実に変化していた。

 

MSの世界普及と、革命軍との戦いを見て突き動かされた人々の活動のおかげで女性優遇法の破棄が各国で決定。

これまでの法と女性優遇法を参考に新たな男女平等法が制定された。

 

「IS登場以降、完全に沈黙していた民衆活動はIS登場以前より活発化して、民主主義の基本的な部分が息を吹き返した。貴方の言葉に感化された結果が3年経った今でも生き続けているわ…ユイト」

 

 世界中の民衆が活発化したことにより、一部の国では新たな勢力が台頭して民主主義国家が成立するなど、関係ないと割り切っていた人々が動き出していた。

 

「お姉ちゃん…」

 

 日本IS学園跡、そこには人工島全てを使った巨大な戦史博物館が出来ていた。人々が繰り広げてきた戦いの歴史を忘れぬための施設。その最奥にはWW3、第三次世界大戦史と表記された施設がある。

 

「私も私に出来ることをするわ。この命が続く限り」

 

 車椅子に座り、少しやつれた顔をしていた刀奈は目の前に展示されているウイングゼロを見つめる。

 完全に大破したウイングゼロの解析で分かったのは装甲の成分ぐらい。解析が終了したゼロはそのまま博物館行きとなり、その生々しい姿を見せつける。

 

「行こう、お姉ちゃん」

 

「そうね、簪ちゃん。まだやることがあるもの」

 

 車椅子を押していた簪は、そのまま車椅子を反転させるとその場を後にするのだった。

 

ーー

 

「……」

 

 同じく人工島の端には綺麗な花畑と慰霊碑が建っていた。それを見つめるのはシャル、彼女は花束を慰霊碑に添えるとその場を後にする。

 

「また来るよ、フィーリア。もう少し世界を住みよくしてね」

 

 シャルの父親は革命軍の脱出艇に乗っており、フランスで発見された。現在、彼女は大学で路頭に迷う子供たちの事を学びながら、デュノア社の秘書として父の下で働いている。

 

(……)

 

 穏やかな風に乗り、何か聞こえた気がしたが、彼女は足を止めずにその場を去る。

 現在、デュノア社は貧困層の子供たちの支援をしており、その先頭に彼女が立っている。フィーリアのような子を無くすために彼女は奮闘しているのだ。

 

ーー

 

「ふぅ…」

 

「お疲れさま…」

 

 ラウラはあの戦いの後、すぐにドイツに帰国し軍の立て直しを図った。ドイツ改革派だったフランツ少将、フォルガー大佐が戦死してしまった以上、その後任を引き継ぐのはラウラしか居なかった。

 

「流石は嫁だ。良いコーヒーを炒れる」

 

 正直、彼女はクリアと呼ばれる人物の影を追い続けているのかもしれない。あの迷いがない真っ直ぐな彼女の姿が忘れられない。

 

「お褒めいただきありがとうございます。大佐殿」

 

「何を言うか、大尉。お前の方が異例の昇進なのだからな」

 

「おかげでラウラのシュバルツ・ハーゼを預からせて貰ってるよ」

 

 そう言ってクロイも自分が炒れたコーヒーを飲む。この二人は戦後、ドイツを文字通り改革。膨れあがった無能な軍関係者、政治家を権力の座から蹴り飛ばし、平等で公正な国家を目指して活動を続けている。

 

「この後、一杯行くか」

 

「いいね。ラウラの奢りで」

 

「なっ!それはないだろう」

 

 彼女たちの戦いはまだ始まったばかりで終わりなど見えない。でも、それでも前に進もう。この世界を誰よりも愛した者たちの為に…。

 

ーー

 

 セシリアはゴルドウィンやイルフリーデの力を借りつつ政治家になった。自身の家のコネは一切使わずに、民衆の支持だけでのし上がったのだ。

 

 首から左の脇腹までにある大きな火傷の跡をもって、人が人である当然の国にするために次々と改革を推し進めていった。

 世間からは《革命の乙女》として親しまれ、あのような悲劇を繰り返さないために彼女は日々駆けている。

 

ーー

 

「そうか、この神社を継ぐか…」

 

「元々決めていたことです。あの戦いで命を落とした者たちの供養を、未熟ながら支えていきたいと思っています」

 

「立派な志だよ」

 

 箒の話を聞いていた千冬は残った左手で茶を飲むと一息つく。千冬は現在も教師として教鞭を執り、あの戦争の経験を生徒たちに伝えている。

 

「皮肉な話だ。私と束のせいで狂わせた世界を私達より年下の彼らが変え、存続させたのだからな。テロリストは彼らではなく私の方だったということだ」

 

 あの時、右腕を失った時に死んでいればと何度も思う。だが生き延びてしまった以上、彼らの夢見た世界を守る事で償い続ける。この命が尽き果てるまで最期まで。

 

「そうですか…ところで一夏は?」

 

「国連軍に入隊してから音信不通でな」

 

 女性主義団体の残党がISを使い紛争を巻き起こしている。その鎮圧で現在も忙しいのだろう。その影響もあってか各国軍を国連に所属させ一つに纏めようとしている動きもあるようだ。

 あの戦いの後、一夏はユイトたちが見てきた世界をしっかりと見たいと言って国連軍に入隊。紛争鎮圧に奔走し、色々なものを見ているだろう。それがフィーリアを、そしてユイトの届かない背中を見ていると言うことも分かっている、だがそれが彼にとって礎になるのなら…。

 

「箒ぃ。これ置いとくわよ」

 

「あぁ、頼む」

 

 鈴はしばらく箒の手伝いをするそうだ。軍には自分は必要ないと身を引いた彼女は、箒の下で人々の供養のために奔走している。

 

 どれが正解なのかは分からない。でも自身が自身で出来ることを全力でやる。それが何かに繋がると信じて。

 

ーー

 

 ついでに黛渚子は革命軍に捕まった経験を生かして本を出版。《私たちが革命軍で見た全て―無関係なんていわせない―》。自身の体験と一夏、シャル、刀奈の話を加えて出版された本は世界的な大ベストセラーとなり、世界の人々に革命軍の存在意義を彼女なりに解析して感じた事を知らせ続けている。

 

「今度は革命軍の人にも話を聞いて世界に広めたいわ!必ず探し出してみせる」

 

 彼女の筆による戦いはまだ続くようだ。ペンは剣よりも強し等という言葉もあるが、革命軍という剣を引き継いだのは渚子というペン。ある意味、彼女が一番革命軍の意思に沿っている行動をしていると言っても過言ではないだろう。

 

ーー

 

 革命軍の評価は文字通り千差万別。民主化を果たした国では英雄視され、高い評価を下している者もいるが、その理念と行動は賞賛するが暴力に訴えかけたこと、大量破壊兵器の使用などの行為は容認できないといった意見も多い。

 

 そんな世界の中、革命軍幹部であったケイはカリナと供にバックパックを背負い、草原を歩いていた。

 

「休憩する?」

 

「ん…」

 

 草原に腰を下ろしながら水を飲む二人。澄み渡った空を眺めながらボーッとする。

 

「次はどこに行こうか?」

 

「どこへでも…」

 

「そうだね。どこへでも行こう」

 

 血とオイルの匂いを嗅ぎ続けたカリナだったが、そんな彼女も豊かな自然と緩やかな空気に染まり、だいぶ表情が柔らかくなってきた。

 

「カゲトたちももうすぐかなぁ」

 

「お祝い…」

 

 そしてこの日、一つの国が復興し、復国の式典が執り行われていた。

 

 モロッコの辺境、ガルド王国。女王の名は《ケイニ・フェン・マトリネクス・ガルド》。失われたガルド王国の女王が復活し、国の再興を民衆は喜ぶ。

 

「ついにこの時が来たっすね…」

 

「えぇ、これも貴方と総帥たちのおかげ…感謝してもしきれないわ」

 

「……」

 

 ハルトもリョウもユイトも去って行った。そんな彼らの為に、自分はこの世界を見守り続ける。予想し得ないもしもの時のために、自分は存在しているのだから。

 

「せめて安らかに、ハルト、リョウ、ユイト…」

 

 亡き戦友たちを想いながら呟いたカゲトの呟きは、歓喜に溢れる民衆の中に消えていくのだった。

 

 

 




 ということでインフィニット・ストラトス《血塗られた救世主達》は完結です。
彼らは英雄か…それとも反逆者か…。それは皆様ご自身がお決めになってください。
 そして本当に、本当に読んでいただきありがとうございました!

 それではここからはちょっとした小話です。作者の独り言のような物なので読まなくても全く問題ありません。
 読まれるのなら自身が似合うと思ったエンディング曲でもBGMにしてでもどうぞ。最期にスタッフロールもどきも出しますので。

 お分かりの通り、この作品はインフィニット・ストラトスの世界観に常々疑問に思っていた私が…じゃあ、ぶち壊そうと書き始めたものでございます。
 そのついでに大好きなガンダムシリーズを組み込み、コードギアスを参考にしつつ連載に至った次第であります。
 刀奈こと楯無をサブヒロインにしたのは単純に好きだったからです。

 この作品の裏テーマとしては《人の幸せとは?》生まれや育ちによる価値観と幸福観の違いについては重点的に書いていったつもりです。うまく書けずに伝わらなかったかもしれませんが。
 そういう点ではフィーリアは重要なキャラだったと思っています。一夏たちと同じ時間と感情を共有した彼女は最期まで己のために敵対し続け最期は親友のシャルの手で終わった。
 キャラとしてはユイトの次に好きなキャラだったので死ぬシーンは辛かったです。

 あまり長くなるとあれなので、最後に…。
 ユイトを含めあの戦場で散った多くの命はこの世界を心から悲しみ、嘆き、誰よりも世界を愛した者達でした。心から彼らに敬愛を、賞賛を。彼らの魂が安らかであらんことを…。



―Special thanks―

誤字報告支援の方々

馬骨ホービット様、七美(過負荷)様、N-N-N様、大希様、ケーラッド様、オカムー様。

評価を下さった方々

赤紫セイバー様、優星様、exvsmb様、ねむりずき様、シューティングスターフォールダウン様、人類に逃げ場なし様、あさかぜ様、優雅な敗者様、信田様、Lankas様、もろQ、かるぼなら様、磯辺様、ねむりぬこ様、吉田さんの家の様、赤覇様、蝿声厭魅様、新羅様、ユウ・十六夜様、まじっくなんばー様、128MB様。

感想を頂いた読者の皆様

闇の皇帝ジークジオン 様、ブルスク様、オカムー様、鼻眼鏡26号様、通り過ぎる誰か様、ただの通りすがり様、Big mouth様、マッキン様、マクロスキー様、黒25様。

(人数が想像以上に多かったため感想の方は最新10名にしました、割愛をお許しください)

作者-砂岩改-

 最後にもう一度。

 最後までお付き合い頂きありがとうございました。この作品が完結できたのは皆様の応援のおかげでございます。本当にありがとうございました!!


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