IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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最終話 血塗られた救世主

「あぁ!」

 

 トランザム状態のセラヴィーは、ダインスレイヴの損傷で肩のキャノンを一つ失ったといってもコンディションは良い状態を維持していた。

 だがそんな機体もユイトのウイングゼロの前には為す術無く撃墜されていく。セラヴィーもセラフィムも切り裂かれ、破壊されたティルミナは黒煙を上げながら墜落していく。

 

「Cファンネル!!」

 

「挙動が大雑把だな。使い慣れてないんじゃないか?」

 

「なっ…」

 

 瞬時に背後に回るユイト。

 

「ヘンリー!」

 

「駄目だこりゃ…」

 

 大上段からの鋭い一撃がFXを切り裂き爆発する。その爆発を見てティルミナは悲鳴を上げるがすでに手遅れであった。

 対抗するために送られた対の転生者では対処できない。世界の抑止力とやらをユイトは既に踏破していたのだ。

 

「ユイト!」

 

「刀奈…」

 

 キマリス・ヴィタール、この機体にはビーム兵器は効かない。ウイングゼロとしては相性の悪い相手だ。ユイトはムラマサを出すとドリルランスを受け止め、何合も打ち合う。

 

「人の業を背負って、そのまま死ぬつもり。そんなこと駄目よ!」

 

「そうせねばならなかったのだ。どうせ戦うというのなら、戦いの中で導いてやるのが最善なのだ」

 

「貴方の言ってること、言いたいこと、思ってること、全部、理解できる。納得できる。でも私は貴方をもっと理解したいの全て」

 

《キマリスヴィタールより阿頼耶識システムtype-Zの使用が提案されています》

 

「あらやしき?」

 

 突然の機体からのメッセージに、刀奈は驚きながらも詳細を開く。

 

《警告 脳に甚大な損傷の可能性あり、使用は操縦者の危険を伴う》

 

 キマリスヴィタールの全能力解放と戦闘能力の強化。今の彼女にとっては願ってもない機能だが、後遺症が残ると強く警告が出ていた。

 

「許可します。このままじゃ彼を止められない」

 

 彼女には迷いはない。即決した瞬間、キマリスヴィタールのツインアイが紅く光り、自身の脳内に大量の情報が入ってくるのを実感した。

 

 本来ならアイン・ダルトンの脳を介して制御するこのシステムだが、この機体は少しというかかなり違う。

 基本はゼロシステム、それの簡易型とサイコミュの合わせ技でそれを再現している。ゼロシステムが脳と機体の演算処理を介して刀奈の戦闘補助をしつつ、サイコミュで彼女の脳をスキャンし反応速度を極限に上げている。

 大量の情報が脳を介して高速で出入りをするシステムのため、脳へのダメージは未知数なのだ。

 

「なっ!」

 

 突然のハイキックにユイトは虚を突かれ顔面を蹴り飛ばされる。

 

「眼が…」

 

 先程の攻撃のせいで、左眼の義眼が完全に死に、視界が塞がれてしまう。その隙を逃さずにキマリスヴィタールはドリルランスで攻撃。それをいなし、背後に回りムラマサを振るうユイトだが、背部のシールドに阻まれてしまう。

 

「刀奈、それがどんなシステムか体感してるだろう。無理は言わん、今すぐ止めろ」

 

「嫌よ、貴方は命を賭けてこの戦場にいる。なら私も同じものを差し出さなきゃ勝てない」

 

「刀奈!!」

 

「そうよ、私は更識刀奈…更識楯無じゃない。ここにいるのはただのバカなわがまま娘よ!!」

 

 刀奈は膝のドリルニーを展開、ウイングゼロの肩アーマーを破壊した。

 

「くっ、なんて威力だ!」

 

 ここで初めてユイトが押され始める。

 

ーー

 

 地下で大激闘が繰り広げられている中、基地の上層では火が無い区域は既に存在して居らず、次々と岩盤が崩落して施設を破壊していく。

 

「カゲト!」

 

「これは…うっ!!」

 

 その時、カゲト、ケイたちの足場が崩れて巨大な亀裂に落とされる。脱出しようにも降り注ぐ岩石のせいで上に上がれない。

 

「まずい!!」

 

「総帥万歳!!」

 

 降り注ぐ岩石でガデッサ、ガラッゾが押し潰され爆発する。上層は完全に崩壊を始めた。

 

ーー

 

 最下層、崩壊した岩がエネルギーを集束していた塔にぶつかり派手に爆発する。海より遥かに地下にあるために海水が入り込み、回線を次々と破壊していく。

 

「完全崩壊まであと15分といったところか」

 

 思い返せばあっという間だった。表の世界しか知らない子供が突然裏世界の、しかも異世界に飛ばされてここまで成り上がるのにどれほど苦労したか。

 

(この体は持って10分ね…)

 

 阿頼耶識システムtype-Zは一種のドーピングのようなもの。適性がなければ一種で理性が崩壊する。その点、刀奈の適性能力は異常とも言える。

 

 MSの爆発も相まって崩壊が早くなりつつある。正直、うまく持って15分だろう。そんな中、それぞれの戦いも佳境にさしかかっていた。

 

ーー

 

「う…ぐぅ…」

 

「はぁ!」

 

 剣の片割れは砕け、残り一刀となったフィーリアは必死の抵抗を試みるも、千冬の猛攻に押されて機体から火花を散らしている。

 このままだと彼女を保護できる。その時、それを見ていた全員がそう思った。そんな中、シャルの表情は優れないものだった。

 

(本当に…これが正しいの?)

 

 シャルも革命軍の本部を見て回った、そしてフィーリアの叫びを聞いた。自分たちではなく、フィーリアにとっての本当の幸せとは本当にこれなのだろうか。

 

「……」

 

 フラッシュバックするのは彼女との思い出、彼女は裏切るまで命がけで自分たちを守ってくれた。彼女の明るさにどれだけ助けられたか…。

 

「本当の…幸せ……」

 

 その時、彼女の足に当たったのは装填済みのダインスレイヴ。シャルのビームのみの武装では、彼女にダメージを与えられない。だがこの兵器は…。

 

《誰が貧乳じゃぁ!!》

 

《言ってな…!げふっ!》

 

 軽々しい発言でよく鈴や箒の鉄拳を食らっていた彼女。

 

「フィーリア!」

 

「ぐっ!」

 

 すると横合いからクリアの援護射撃。ラウラたちを相手にしているというのに、彼女は千冬にマイクロミサイルを直撃させたのだ。

 

「もらったぁ!」

 

「千冬姉!!」

 

 機体バランスを崩し海水に浸かる明桜、それを庇うように一夏は立ち塞がる。だがフィーリアのバエルは止まるどころか加速する。もはや誰を傷つけようが彼女に後悔はないだろう。

 

「フィーリア、止まれぇぇぇ!!」

 

 突然のシャルの怒号に、フィーリアも一夏も千冬、他の人たちも彼女を見た。ダインスレイヴを構えるシャルの声は、フィーリアに懇願するようだった。

 フェネクスの装甲に隠れて見えないが、彼女の顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。

 

(そうだよ、シャル。私を殺して…)

 

 サイコフレームから伝わってくるフィーリアの感情、それはとても穏やかなものだった

 

《シャルルにシャルロットかぁ、なんか急に変わって呼びにくいからシャルで良い?》

 

 フィーリアの言葉が頭をよぎり、シャルは涙で崩れきった顔でダインスレイヴの引き金を引いた。

 

「くっ…がぁ!」

 

 フェネクスのエネルギーを得て、ダインスレイヴの杭が高速で放たれる。それはバエルの装甲を容易く貫通し、エネルギーを満載した塔に張り付けられる。

 腹を抉られ高速で磔にされた衝撃で、各部装甲が吹き飛ばされてフィーリアの素顔が露わになる。

 

「あぁ…」

 

 口から血反吐を吐き出しなんとも満足げな表情を浮かべている。その光景を見て呆然としていた一夏は、ダインスレイヴを構えていたシャルを見る。

 

「シャル、なんで!?」

 

「これしかなかったんだよ一夏」

 

「でも!」

 

「フィーリアにとってこれが一番だったんだよ!!」

 

 彼女は生きることを望んでいない。それを無理矢理生かして何が彼女のためか…。シャルはそう結論づけたのだ。

 シャルという愛称はフィーリアがつけたものだ。シャルも彼女のことを家族のように信頼していた。だからこそ引き金を引いたのだ。それが彼女のためであると思ったから。

 

「ユイト…さ…」

 

「フィーリア…」

 

 ノイズダラケの通信カらユイトの声が聞こエる。

 

「ありがとう、お前は最高の部下だ。疲れただろう、ゆっくり休め…」

 

「あァ…」

 

 口からは止めどなく地が溢れ言葉が紡げない。

 

(ごめんね、シャル。損な役をやらせて…でもありがとう)

 

 この戦いの前から死ぬことは決めていた。あの人のいない世界など生きている意味などない。でもせっかく貰った命、最後まで全力であがなって、使い切って終わりたかった。自殺などあり得ない。

 

(ありがとう…私の一番の親友)

 

 泣きじゃくるシャル、涙をこらえてこちらを見る一夏に悲しい表情を見せる千冬。背後からは小さなスパーク音が鳴り響いている。塔が損傷に耐えきれずにいるのだ。

 

「楽しかった…」

 

 死相を浮かべながら満面の笑みで笑ったフィーリア。彼女の体を爆発が包み込み、その身を焼き尽くす。なにも後悔なく、思い残すことなく去った彼女は心底幸せであった。

 

ーー

 

「フィーリア…」

 

 その最期を見届けたクリアは静かに呟くと驚愕の表情を浮かべた。運の悪いことに、彼女とともに逝った塔が他の塔を巻き込んで爆発を始めたのだ。

 

「これは!?」

 

 無数の塔が連鎖的に崩壊、爆発して限られた空間を埋め尽くしていく。

 

「脱出だラウラ!シャルロットと一夏を頼む!」

 

「教官!!」

 

 千冬は落とした銀花を拾うと、刀奈の援護をするため戦闘を行っている二人の元へと駆ける。

 

「早く行くぞ!」

 

 海水が入り込んでいる亀裂から出れば海に出られるはずだ。ラウラは一夏を蹴り飛ばし、シャルを担いで穴から脱出させる。

 

「立てる?」

 

「なんとか…」

 

 中破した機体を動かしてティルミナを救出した光一も、亀裂から脱出を試みる。

 

「ユイトの元へは…」

 

「ここは俺が相手だ!」

 

「雑魚が!どけ!!」

 

 クリアはクロイの足止めのせいで駆けつけられない。ただでさえ刀奈に手を焼いていたユイトの元に千冬がやってきてはどうしようもない。

 

「くそっ!」

 

 ユイトはバルカンを放ちながら後退。接近してきた刀奈を蹴り飛ばすと倒れてきた塔が彼女を押しつぶした。

 

「はあぁ!!」

 

「ぬぅん!」

 

 目に映らない程の速度で斬りあう二人、すると復帰したキマリスヴィタールが急速に接近。だがユイトは刀奈の手元を蹴り飛ばし、ドリルランスを弾き遠くへ飛ばす。

 

「貰った!」

 

「っ!」

 

 すると千冬の銀花が彼を切り裂き、頭部と胸部の装甲が剥がされ露わになる。

 

「やはり、子供か!」

 

「だから?」

 

 一瞬にも満たない千冬の隙をユイトは見逃さない。左眼が見えていなくとも渡り合える。ユイトの渾身の一撃が、千冬の利き腕である右腕を斬り飛ばした。

 

「がぁ!」

 

 得物の銀花ごと腕を斬り飛ばされた千冬は、悲鳴を上げながらも彼の脇腹を蹴り飛ばして間合いを取る。その一撃で彼の傷口が開き、吐血する。

 

「ぐっ!」

 

「終わりを望むのならせめて私の手で…」

 

「刀奈か…」

 

 その隙に刀奈がドリルニーを展開して接近。彼の土手っ腹を貫かんとしていた。

 

(これは、死ぬな…)

 

「ユイトぉ!!」

 

「クリア!!」

 

 ユイトに体当たりをかましたのはクリア。そのままデルタカイは彼を突き飛ばし、キマリスヴィタールのドリルニーを喰らい、体に大穴を開ける。

 

「ぐはっ…」

 

「クリア!」

 

 天井の岩盤が崩壊し空間が埋められていく。

 

「脱出しますよ!」

 

 クロイは千冬に肩を貸し、刀奈の腕を引っ張って脱出を促す。刀奈はクリアに駆け寄るユイトの姿を見てその場から離れると、涙を浮かべて亀裂から脱出するのだった。

 

ーー

 

「クリア…」

 

 損傷したデルタカイから出したクリアをまだ無事だったコントロールルームの床に優しく降ろすと、自身も機体を解除する。

 

「ユ……イ…ト」

 

「クリア、すまない…」

 

 彼女を強く抱き締めながら涙を流すユイト、それをクリアも力を振り絞り抱き締め返す。彼の温もりを感じようとありったけの力で抱きしめる彼女の目の光は薄くなりつつあった。

 

「お前にだけは死んで欲しくなかった。俺が死んでも、生き続けて幸せを見つけて欲しかった…」

 

「幸せ…暖……い」

 

 血まみれの手でユイトの頬に触れるクリア。彼女の顔はとても穏やかで静かなものだった。その手を握り締めるユイト、それを見た彼女は目を閉じる。微かだが息がある、彼女の行動の意図を察したユイトも目を閉じる。

 

「ユイ…ト…」

 

「クリア…」

 

 初めての口付け、むせかえるような血の臭いと味。それを感じながらお互いが静かに顔を離す。

 

「行け…まだ…やる…事……が」

 

「あぁ」

 

「待って…る」

 

 とても穏やかな表情で息を引き取ったクリア。ユイトは微笑みながら光を失った目を閉じさせ、優しく頭を撫でる。

 

「行くぞ、ゼロ。最後の仕事だ」

 

 そう言って立ち上がるユイト。その上から岩石が降り注ぎ、二人を埋め尽くさんと殺到してくるのだった。

 

ーー

 

 基地が完全に崩壊し、爆発の炎と黒煙に島が包まれ、ズドンと大きな音がしたと思うと先程の爆音が嘘のように静まりかえった。

 

「でられたぁ…」

 

「千冬姉!」

 

 海面から姿を表したのはクロイと腕を失った千冬、そして中破しているキマリスヴィタールの姿だった。

 

「やったのか?」

 

「勝った、勝ったんだ!」

 

「「うおぉぉぉ!!」」

 

 つかの間の静寂の後、国連の兵たちは雄叫びを上げながら自身の勝利を喜ぶ。

 

ズガガガガッン!!

 

 その時、その雄叫びを遮るように爆音が連鎖した音が戦場に鳴り響く。その瞬間、基地の中央部から天空に向けて極太のビームが駆けた。

 

「なっ…」

 

「まだ終わりじゃないのかよ!」

 

 溶けた岩が溶岩となり空いた大穴に落ちてゆく。そんな中、ほぼ大破したウイングゼロが溶岩と炎の中から姿を現す。

 

「……」

 

 あまりの光景にその場にいたもの全ての人物は言葉を失う。

 そんな中、ユイトはツインバスターライフルを構えその銃口を艦隊に向ける。

 

「まずい!」

 

 射線上にいたMS2個大隊を消し飛ばしたビームは空母付近に着弾し、巨大な水蒸気爆発を起こさせる。

 

「艦のダメージは軽微です」

 

「なんなのよ!死にかけの羽虫が私を狙ったと言うの!?」

 

 狙いは女性主義団体の党首、アリス・トリュグリーが乗艦している空母。だがウイングゼロの火器管制は虫の息、命中させることは出来なかった。

 

「外した…やるしかないか」

 

 ユイトはそう呟くと両手にサーベルを持ち、スラスターを起動させる。

 狙いは女性主義団体の党首。正直、こんなことをする意味はない。奴はすでに社会的に死ぬ運命だ。本来なら苦しむ姿でも見てざまぁみろと言いたいところだが、奴だけは殺しておかねば気が済まない。

 

 計画が完遂した今、これから行うことは私怨による報復だ。ケイニの祖国を、自身の父を、この世界を腐らせた汚物を排除する。そのために国連軍の数を削って奴をこの戦場に引きずり出したのだ。

 

「行くぞ…」

 

「敵機、急速に接近。真っ直ぐに本艦に向かっています!」

 

「国連軍はなにをやっているの!早く撃墜させなさい!!」

 

 恐怖が戦意を上回り、前線のMSたちは身動きが取れずゼロを素通りさせてしまう。

 

「なにをしている!奴は敵の首領、奴さえ倒せば本当にこの戦いは終わりなのだぞ、撃墜しろ!」

 

「い、行くぞ!」

 

「分かってる!」

 

 ようやく我を取り戻し、ゼロを標的にするMS隊がユイトに殺到する。ジェガンが彼を狙ってライフルを撃ちまくるも、容易く避けられ真っ二つにされる。

 

「邪魔だ、どけぇ!!」

 

「隊列を組め、弾幕を集中させろ!」

 

 弾幕を張り、彼を撃墜せんと引き金を引き続けるサーペント隊だったが、すぐにユイトの姿を見失ってしまう。

 

「どこに!?」

 

「後ろだ!!」

 

「っ!」

 

 一瞬にして4機のサーペントが切り裂かれて爆発する。

 

「化け物がぁぁぁぁ!!」

 

 ユイトの気迫と圧倒的すぎる戦闘能力に、すでに戦線はパニック状態。味方が密集しすぎで同士討ちすら発生していた。

 

「がっ!」

 

「やった!!」

 

「あいつに続けぇ!!」

 

 そんな中、一機のリゼルがユイトの腹にサーベルを突き立て、それを見た味方機が殺到してサーベルを次々と突き立てる。

 

「ひっ!」

 

 既に露わになっていたユイトの右眼が背後にいたヘイズル改を睨みつけると、怯えて突き刺したサーベルを手放して下がる。

 

「なにをしている!早くとどめ……」

 

 怒鳴っていたダギ・イルスは、言葉を最後まで放てずに真っ二つにされる。ユイトは自身に突き刺さったサーベルを抜き、ヘイズル改の頭部に突き刺してリゼルの頭を引き千切る。周囲にいた奴らはことごとく惨い死に方を体験させられる。

 

「がはっ…」

 

 口から大量の血を吐き出しながらも迫り来る敵機を切り裂き、ついに眼前に奴を視認する。

 

「アリス様を守れ!!」

 

「この…」

 

「黙れ」

 

 直衛の親衛隊であったラファール二機を見もせずに真っ二つにすると、無理をさせたスラスターから火が出る。墜落しながらも空母のブリッジに着地したユイトは下にいるであろうアリスを睨みつける。

 

「大勢に適応できなかった暴徒が私を殺して良いと!」

 

「お前は私欲のために大勢を殺し、国を滅ぼした。貴様がこんな世界にせねば、もう少しはマシな選択が俺にも出来ただろうな」

 

 ユイトは全身から血を流しながら、ツインバスターを杖のように持って引き金に指をかける。ライフルのエネルギーチャージが開始される。

 

「女性が住みよい世界を作って何が悪いのよ!貴方みたいな低脳な男には分からないでしょうけどね、私は対局を見て!」

 

「女と言っても一部だろう。革命軍にもこの世界を嫌っている女性が多く集まったさ。ISを作って世界を混乱させておきながら、開発者の責任から悠々と逃げた篠ノ乃束も、その混乱に乗じて世界を歪ませたお前も、俺は許さない。死で贖え!!アリス・トリュグリー!!」

 

「誰か、奴を撃ちなさい!早く!!」

 

 オープン回線で叫ぶ彼女の声で動くものは誰もいない。国連にこそ所属し戦ってきたが、MSに乗っているのはほとんどが女尊男卑の被害者たち。

 思いの大小はあるが、少なくとも命をかけて彼女を助けようとする者はアリスの配下以外、誰一人として存在しなかった。

 

「これが世界の答えだ!」

 

「ああぁぁぁぁ!!」

 

 ユイトは引き金を引き、ツインバスターから高エネルギー体が射出される。そのビームはアリスの骨すら残さず焼き尽くすのだった。  

 

「これで…」

 

 

 一変の後悔はないと自身の死を察知したユイトの視界が大きく変わる。美しい月が浮かぶ草原、穏やかな風が頬を撫でる。

 

「……」

 

 背後に振り向くとクリアが微笑みながら立っていた。奥に見える美しい小川の向こうからはフィーリアが元気よく手を振り、ハルトは疲れたようで草原で大の字で寝そべり、マドカとリョウが腰を下ろしてこっちを見ている。

 

「……」

 

「あぁ…行こう」

 

 ユイトはクリアから差し出された手を優しく握るのだった。

 

 

 

 最大出力で放たれたビームに耐えきれずにツインバスターは爆発、瀕死のゼロもそれに巻き込まれ誘爆。機体が大爆発を起こすのだった。

 

 

―革命軍総帥、花柳ユイトの死亡をもって戦闘は終了。人類史上類を見ない最大規模の戦い。歴史に大きく名を刻む革命戦争は幕を閉じたのだった―

 

 

 




 本編最終話はこれで終わりですが次回はエピローグとあとがきをやります。
 つまり、後一話やるのでご了承ください。

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