IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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祝、100話。




第八十三革 悲鳴の体現者

 メインシャフトを抜けて最深部に辿り着いた一夏たちは、光り輝く部屋を見て言葉を失う。

 

「これは…」

 

「美しいだろう…これは死の光だがな……」

 

「その声は…」

 

 革命軍本部エネルギー処理施設、その空中通路にユイトの姿があった。ウイングゼロを展開せず、生身のまま彼らと対峙する彼は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「もう終わりだ、全てが終わった…」

 

「そうだ、全てが終わった」

 

「お前たちの負けだ、世界は力には屈しなかった。人それぞれの幸せがあるのは分かった。でもそれじゃ世界は動かない!」

 

「動いたさ…全て我々の計画通り、掌で動いていたのはお前たちだ」

 

 一夏の言葉にユイトはさらに愉快そうに笑みを漏らしながら、通路を静かに歩く。その様子を見てラウラは悟った、今まで喉に引っ掛かったものが取れたような感覚を得たのだ。

 

「やはり、本当の目的は世界を手に入れ変革することではなく、MSの力を示し広めることで、変革を成そうとしたのか」

 

「元々あった女性に対するクーデターを利用して、MSの立場を強固なものにしてISの立場を失わせた…」

 

 この世界の女尊男卑はISによって生まれてもの、ISの価値がなくなればその世界の構造も必要なくなる。そのことを悟ったラウラとシャルは歯嚙みする。

 本当に彼の掌の上でしかなかった。自分たちは彼の操り人形でしかなかったのだ。

 

「ならこんなことをしなくても、世界にMSを発表して認めさせれば良かったじゃないか。こんな戦争を起こして変革させることはなかった」

 

「そうするしか私達には道はなかったんだよ。一夏」

 

「フィーリア…」

 

 施設の壁に張り巡らされた通路に座って足を揺らしていたフィーリアの言葉に、一夏は言葉を詰まらせる。

 

「たぶん一夏はそれでいいと思うんだよ。ISが消えようがMSが生まれようが、一夏には関係なかったんだから」

 

「それは…」

 

 一夏の背中には、世界最強のIS操縦者の千冬とISの産みの親である束がいた。そのおかけでこの世界の弊害を受けなかった。だからこそ言える言葉だ。

 

「私だって、世界の人々だって、これで解決、ハイそうですねって切り替えられるほど出来た人間じゃないよ」

 

「恨み、妬み、嫉み…。人間の黒い感情は形を変えて永遠に生き続ける。女尊男卑の世界を利用したバカたちのせいで、何人が死んだと思ってるの?」

 

 フィーリアの言葉に一夏は何も言えずに黙り込む。確かに一夏はこの世界の弊害を受けず、自分が良いからと何も考えなかった者の一人だからだ。

 

「確かにIS登場以降、自殺者は10倍以上に膨れ上がっていると聞いたことはあるが…」

 

「それ自体に報道規制が敷かれてたから、知ってる奴なんて軍、警察、政府関係者ぐらいよね」

 

 ラウラと鈴はその事実を否定しない。否定のしようがないからだ。

 

「古代から近世まで男尊女卑が台頭していたが、そんな事態は起こらなかった。女は男が守るべき存在として認識されていたからだ。だが、今の女尊男卑では男は、女の奴隷でしかない」

 

 箒もその考えには賛成だった。歴史から見ても今の事態は異常なことぐらい分かっている。

 

「まぁ、そういう訳だが。この戦場に置いては関係ない。俺は過去最大のテロ組織のリーダーで、お前たちはそれを倒す勇者たちだ。倒してみせろ、お前たちの力で」

 

「っ!!」

 

 言葉が質量を持って襲いかかる。相手は生身、こちらはMS、ISを纏っているというのに逃げだしたくなる。それほどのものが彼にはあるのだ。

 

「これはラスボスじゃないわね。隠しボスよ、しかもかなりヤバい奴」

 

 それぞれの得物を構え、戦闘状態に移行し冷や汗を流す。

 

「ユイト、時間だ…」

 

「その様だな」

 

 クリアの言葉と共に基地が揺れ始める。自爆が始まったのだろう。

 

ーー

 

「こちら陸戦隊。敵基地、研究所と思われるエリアを制圧しました」

 

 そこらに散らばっているアンドロイドの残骸を背景に、陸戦隊は旗艦に連絡を入れる。これで革命軍の恐るべきテクノロジーを掌握できる。これを巡って世界が荒れるだろうが自分には関係のないことだ…。と兵が研究所を見渡していると、その兵は突然の爆発に呑み込まれた。

 

「な、なんだ!?」

 

「自爆か!!」

 

「総員退避、退避!」

 

 基地各所のエネルギーパイプが限界に耐えきれずに次々と爆発し、それが連鎖していく。取りこぼしなど無い、ハルトが生前に綿密に計算した自爆システムだ。

 

「自爆が始まったすね。逃げても良いんすよ」

 

 基地全体が震え、自爆が始まったことを体感する。

 

「バカ言わないでよ、逃げないって分かってるクセに。私は貴方の妻で貴方は私の旦那様なんだから、死が分かつまで私達は一緒よ」

 

「そうっすね」

 

「え…」

 

 初めての肯定、それを耳にしたケイニは目を丸くしながらも笑みを浮かべた。

 

「死が分かとうとも一緒に居てやるっすよ」

 

「うん!!」

 

「「行こう!」」

 

 味方はもう50も居ないが退く気はない。これが最期の花道かもしれないが、誰にも譲る気は無かった。2機の機体はスラスターを噴かして突撃するのだった。

 

「大丈夫?」

 

「問題なし…」

 

 満身創痍のデスサイズヘルを見てケイは言葉を放つが、彼自身の天ミナも満足に動ける状態ではなかった。

 

「護る…」

 

「ありがとう、死ぬときは一緒だよ」

 

「……うん」

 

「良い子だ…」

 

 互いが互いを護るために戦場を駆ける。ただそれだけ、この時においてなによりも幸せな瞬間だった。

 

ーー

 

「さぁ、来い。俺はここだ!」

 

「行くぞ!!」

 

 ラウラの言葉と共に全員が動き出し、ウイングゼロ、バエル、デルタカイに立ち向かう。場所が場所なだけに、グリプス戦役のコロニーレーザー攻防戦の如き戦場と化した。

 

「……」

 

「あの時の機体か!」

 

 第一次IS学園攻防戦で対峙した化け物機体。ラウラはバンシィを床スレスレの位置で飛ばし、エネルギー体が入っている塔を盾にしながらビームを避ける。

 

「上手く立ち回る…」

 

「せりゃ、げぱっ!!」

 

 横合いから鈴が大剣を振りながら接近するが、クリアはビームサーベルで受け流すと同時に、顔面に肘を入れて蹴り飛ばす。

 

「フィーリア!」

 

「シャル!」

 

 激しいつばぜり合いと共に何合も斬り合い加速していく。

 

「このぉ!」

 

「納得いかないだろう。我々の考えを知った上でお前は納得いかない。なぜならそれはお前にとって許せないからだ。人殺しというものを許せないからだ!」

 

「そうだ、他にも方法があるはずなんだ!」

 

「それでこそ主人公だ!」

 

 振るったビームアックスを柄の所で両断したユイトは顔面を掴み、壁に押しつけるとそのまま加速して引きずる。

 

「一夏!」

 

 駆けつけた箒が刀を振るうが、振るった腕を掴まれ、そのまま一夏に叩きつけられた。

 

「がぁ!」

 

「その程度か!」

 

「うおぉ!!」

 

「なっ!」

 

 壁に埋められた二人を見てユイトは叫ぶが、背後から急速接近してきた千冬の一撃を受けてしまった。損傷は軽微、まったく問題ないが、出入り口を見た彼はその笑みを深くした。

 千冬だけではない、刀奈に対の転生者たちも駆けつけていた。

 

「さぁ、基地崩壊まで楽しもうじゃないか!」

 

「行くぞ!」

 

 千冬の掛け声と共にそれぞれが目標に向けて武器を構える。

 

「ラウラ!」

 

「クロイ!!」

 

 クリアに斬り掛かり、一旦距離を置いてライフルで牽制するクロイ。その対処に追われたクリアに迫ったのはラウラだったが、彼女は見ずにサーベルを受け止め押し返す。

 

「なんて奴だ!」

 

「貴様らとは潜ってきた修羅場が違うのだ!」

 

 ラウラとクロイ、そして鈴を相手取って互角以上の力量を見せるクリアは圧倒的だった。

 

「なぜそこまで彼に尽くせる!彼の高潔な精神も人間性も全て肯定できる。だがなぜだ!?」

 

 ラウラが持っていた疑問、なぜそこまでまっすぐ生きられるのか。彼女にとってクリアの姿はとても眩しいものだった。

 

「戦うために作られ、ISの適性で弾かれた私は慰み物にされた。それをユイトが助けてくれたのだ、あの炎の中で助けてくれた。アイツは炎より暖かかった…」

 

 彼女にとって炎は希望の光であり、生きる指針であった。ユイトと同じこの蒼い炎はなによりも暖かい。

 デルタカイの各所から吹き出る蒼い炎、ナイトロシステムが起動したのだ。

 

「私は幸せ者だ。空っぽの私には今、こんなにも暖かい物があふれている」

 

 クリアは歓喜の涙を静かに流す。自分はこの世で一番幸せだと実感できる、これほど満ち足りた気持ちで生きられるなど…。

 

「死など障害ですらない。私はアイツの盾となり剣の切っ先ともなる。なにも迷いなど無い!」

 

「羨ましいよ。心の底からぁ!!」

 

 ラウラもクリアも産まれた経緯は同じ、ラウラは千冬と出会い。クリアはユイトと出会った、ただそれだけの違い。たったそれだけなのに真っ直ぐ走り続ける彼女を見て、ラウラはその姿に羨望を覚えていた。

 

ーー

 

「私はユイトさんの前では負けられない。負けるわけにはいかないんです!!」

 

「フィーリア、こんな所で足掻いてももう何も変わらない。もう全てが終わっている筈だろう、お前たちの計画は成功している」

 

 フィーリアと千冬は互いに鍔迫り合いをしながら言葉を交わすが、フィーリアは聞き入れない。すでにバエルは損傷している、実力は千冬の方が上だ。

 

「それでも私は勝ちます!」

 

 二振りのバエルソードを構え苛烈に攻撃を続ける。

 

「私はユイトさんの剣にも盾にもなれない!」

 

「フィーリア…」

 

 彼女の叫びをシャルや一夏たちは耳にし、その言葉に耳を傾ける。

 

「あの人の心にはクリアさんが居て、あの人の傍にはリョウさんやカゲトさんたちが居た」

 

 彼女が来たときには既にクリアが盾となり、剣の切っ先にはリョウたちが居た。いくら望んでも、いくら努力しても超えられない壁が既に存在していたのだ。

 

「それでも! あの人の傍に立ち、あの人のお役にたてれば。それでいい!」

 

 ユイトの大きな背中を見ているだけで心が救われる。たとえ心に寄り添えなくても、たとえ一番の戦力になれなくても。

 彼の役にたてれば、彼が私に微笑みかけてくれればそれでいいだから迷いはない。心の底からそれだけはいえる。

 

「だから、私は負けない。ユイトさんのために!!」

 

ーー

 

 

「くっ…」

 

 爆発で基地が揺れる。天井に亀裂が入り、その亀裂から基地の残骸が落ちてくる。その中にはMSの残骸も混じっており、装填済みのタインスレイヴもあった。

 

「このぉ!」

 

「はっ!」

 

 ダイタルバズーカを切り裂かれて体勢を崩すヘンリーだったが、Cファンネルで追撃を何とか防ぐ。援護のために砲火を放つティルミナだが、それをユイトはいとも簡単に避け、両手のバズーカを破壊される。

 

「トランザム!」

 

 ティルミナはトランザムを発動させると5本の腕でサーベルを持ち、接近戦を仕掛ける。手数は純粋にこっちの方が上、それで少しでも押せれば。

 

「甘いなぁ」

 

 だがユイトは1本のサーベルで受けそれを圧倒する。これほどの技量、人知を越えている。

 

「これほどの力があってなんで…」

 

「人が人であるためだよ!」

 

 トランザム状態のセラヴィーを吹き飛ばしたユイトは、後方支援に徹していた光一のエアマスターが放ったビームを切り裂くと、彼の眼前に接近する。

 

「なっ!!」

 

 エアマスターの最大の弱点、それは接近に極端に弱いことだ。ユイトはムラマサでエアマスターを切り裂き、翼をもぎ取る。

 

「人は自身の処理範疇を超えると受動的になる。世界のことなど考えても自分には何も出来ない、誰か偉い人がやってくれるだろうってな」

 

 世界を破壊し、構築するためにこの世界に喚ばれたユイトたち。世界のバランスを取るための抑止力として喚ばれた対の転生者たち。両者の差は圧倒的で、とても彼らが対処できる範疇を超えていた。

 

「そのクセに、自身の周囲に不利益が発生すると、世界の終わりが来たかのような剣幕で文句を並べ立てる。そらそうだ、自分の中だけの世界が揺れたんだ、慌てもするさ。結局、人は自身の視界の中で起きたことしか認識せず、しようと努力をしない。自分には関係ないからだ」

 

 ユイトの大演説はその場に居た者、全ての心に突き刺さり、口を塞がせる。

 

「よく言うだろう?飛行機事故やテロの情報でアナウンサーは笑顔で言い放つ、日本人は居ませんでしたってな! 人間なんてそんなもんだ、だからこそ世界を巻き込まねば意味が無いのだ! この世界全ての者がこの戦争の原因であり、当事者である限り!!」

 

 彼の言葉は世界中の人々の耳にも届き、現実を突き付ける。

 

「この戦争が起きたきっかけは、確かにISと女尊男卑だったかもしれない。だが、こんな世界を受け入れ、文句を垂れ流しながら何もしようとしない人々も、その世界であぐらをかく者達も、全てこの戦いを生み出した原因の一つなのだ!」

 

 彼の言葉を誰が否定できよう、誰が言い返せよう。彼こそがこの世界の悲鳴の体現者。人々が目を逸らし続けた現実を改めて世界に示したのだ。

 

 




 ハルト、リョウ、ケイ、カゲトそしてユイト。この五人が目指したのはたった一つの願い。ただ人が人であれる世界を、世界の美しさを知りながらも、世界の醜さを知りながらも彼らは突き進む。
 その先に光あふれる世界があると信じて、これは世界を誰よりも憎み、誰よりも嘆き、誰よりも愛した者達の物語。


次回、最終話。

《血塗られた救世主》

 彼らは世界の英雄か、それとも反逆者か…。


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