視界一面、燃え盛る炎に囲まれていた。
その中に佇む、影が複数…本来なら幾多の生命が耐えれぬであろう炎の中の影は動き血みどろの女性を睨む。
「化け……も…共…め……」
「……」
その女性はその状況に置いても眼光は鋭く、今にも噛みつきそうな顔だった。
影の眼はその姿を嘲笑うように煌めきその場から去っていく。
「ま……て…」
「……」
発した言葉は虚しく薄い空気を震わすだけであった。
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後日、世界を震撼させるニュースが飛び回った。
……その内容は
《イタリア軍基地にテロリスト襲撃、テンペスタⅡ及びテンペスタ喪失 ーイタリア代表及び代表候補生の死亡を確認ー》
この知らせは当然、各国首脳にも届いた。
関係者を招集し状況の詳細な情報が求められた。
世界中が注目する中、イタリアが出した答えはたった一言。
《不明》
たったそれだけだった。
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ニュース、ラジオ、新聞、全ての情報誌はその事件を取り上げていた。
ーIS学園職員室ー
その中で美しい黒髪を持った女性、織斑千冬はその事件を一面に取り上げていた新聞を片手にコーヒーをすすっていた。
「織斑先生…もうすぐ入学式が始まりますが……」
「あぁ、すまない」
一見生徒と見間違うほどの童顔を持つ山田真耶は恐る恐る千冬に声をかける。
その言葉に時計を見た千冬は新聞を折り畳み職員室に設置されたボックスに戻す。
「やっぱり…気になりますか?」
「あぁ…」
どことなく上の空の千冬に真耶は珍しそうな物を見る目で見る。
真耶が見る限りこれ程思考の海に浸るのを見るのは初めてだったからだ。
監視カメラ、衛星の記録どころかISのコアの随まで戦闘の記録が綺麗に抹消されていた。
イタリア軍は事が終わるまで演習を行っている基地が襲われているなど誰も知りはしなかった。
新聞の情報が正しければ襲撃時間はたった1時間半、そんな短時間に国の代表とその候補生を倒し、基地を焦土にした。
それに加え完全な情報抹消まで…
「ありえない」
千冬は断言する。テロリストが出来る芸当ではない大国の軍隊が行っても難しい。
そんな疑問を胸に持ちながら彼女は入学式の会場に足を踏み入れるのだった。
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イギリス某所
「セシリア・オルコットには…」
「既に伝えてあります…有事の際は殺傷を認めると……」
「うむ……」
整然としている部屋の中心、デスクに座る一人の男性、ゴルドウィン准将は目の前に経っている女性と話していた。
この男はイギリス軍のISに関する全ての決定権を持つ統括者だ、女尊男卑の世界でありながら軍の最重要ポストについている彼の能力は計り知れない。
「イルフリーデ…"アレ"も滞りなくな……」
「はい…」
イギリス代表、イルフリーデ・シュルツはゴルドウィンの言葉を聞き静かに笑うのだった。
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日本某所
「いや~大変なことになりそうだ…」
「…………」
日本政府から来た報告書を読み終わった男性…橘少将は笑いながら報告書を目の前の女性に渡す。
一見、脳天気そうに見える男性だがその目の前にいた女性は彼を見下すどころか尊敬のまなざしで見ていた。
「少将……これは…」
「イタリア軍もよく見つけたよね~各国の抗議がそんなに辛かったのかな?」
その女性の驚いた顔に橘は更に面白そうに笑う。
「やっぱり…必要かな?」
その言葉に女性は息を呑むことしか出来なかった。