鉄血のストラトス   作:ビーハイブ

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お久しぶりです。仕事だったりFGOの夏イベだったり、仕事だったりFGOのネロ祭りだったり、仕事だったり仕事だったり仕事で忙しかったため、更新が遅れました。




世界の王達

 

 

―――――扉の先に広がるのは不思議な空間であった

 

 

 

 白を基調としたデザインの壁紙。芸術の知識が一切無いラウラでも高価だとわかるアンティークの調度品。そして閉ざされた窓からは綺麗な海が見え、開放的な青空をカモメが飛んでいる。

 

(相変わらず不気味な場所だな)

 

 そんなリゾート地のような景色を見たラウラは一切表情や態度を変えること無く、内心で不快感を示す。ラウラがこの場所を訪れたのは二度目だが、彼女はこの空間が好きではなかった。

 

 だがそれはラウラの美意識が歪んでいる訳ではない。実際似たような光景であるオルコット家の彼女の書斎や私室から眺める景色は見ていると戦いへの衝動を忘れる事ができる為、とても好きであった。

 

 

――――――おそらくこの場所が地下にあるのでなければ好きになれただろう

 

 

 窓が開いていないのはその先に何もないから。今見えているのは本物と液晶に写った遜色ない映像に他ならず、周りの調度品も埃一つないが普段から使われている形跡がない。見た目だけを整えた生活感や人の営みの気配の一切無い偽りの空間がラウラは嫌いであった。

 

 そして部屋の中央に置かれているのは値が張りそうな木製の長テーブルと二メートルはある背もたれに家紋が描かれた七つの椅子。そのうち五つには先程束と会話していたスコールとギャラルホルンの制服を着た三人の若い女。そして浅葱鼠の和服を着た一人の初老の男性が座り、それぞれの隣には護衛が立っている。

 

 彼らはこの世界を支配するギャラルホルンの頂点に立つセブンスターズ。その当主である五人とその専属護衛であった。

 

「お早いお着きだな最年少。待ちくたびれたぞ」

 

 その中の一人、ギャラルホルンの士官を隣に従え、書物を持った人が描かれた家紋の椅子に座る皮肉たっぷりにセシリアへと声を掛けてくる女性の名はイーリス・コーリング。セブンスターズの一門、コーリング家当主であり、二百機を超えるISを擁するギャラルホルン最大戦力である【アリアンロッド】の司令官であり、自らもISを駆って前線に立つ武人である。

 

「申し訳ありませんコーリング公。デュノア社の手続きに少し時間がかかっておりましたので遅れてしまいました」

「ちっ!」

 

 その皮肉を聞いたセシリアが穏やかな笑顔のままそう言って優雅に頭を下げると、気に入らなかったのかイーリスが短く舌打ちする。それを見たラウラは内心では半泣きなんだろうなと思いつつも、けして口にも顔にも出さず、鉄面皮のままセシリアの後ろに控えていた。

 

「コーリング公。会議に遅れたのならばまだしも開始の時間までまだ三十分あります。非がないオルコット公を責めるのはお門違いかと」

「ナタ……ファイルス公。ったく! わぁかったよ」

 

 イーリス同様、ギャラルホルンの士官を傍らに従えた不死鳥が描かれた椅子に座る長い金髪の女性が諌めるようにそう言うと、イーリスは渋々と言った様子で引き下がる。

 

 彼女の名はナターシャ・ファイルス。セブンスターズの一門、ファイルス家の当主であり、ギャラルホルンで使用される兵器の開発を主導している人物である。先程セシリアがここに来るのに使った小型輸送機やグレイズやカスタム機であるシュヴァルベ・グレイズの開発などはコーリング家の功績である。

 

「ありがとうございます。ファイルス公」

「お気になさらず。私はただこの場に相応しくない対応を咎めただけですから」

 

 自身の家の家紋が描かれた席に着いたセシリアが感謝の言葉を伝えるとナターシャは笑顔でそう返してくる。

 

 一見ナターシャがセシリアを庇ったように見えるが、オルコット家とファイルス家は敵対していないだけで友好な間柄ではなく、むしろファイルス家はコーリング家と強い繋がりを持っている。

 

 アフリカユニオンに属する旧アメリカ、アラスカ地区と、旧カナダ全土を拠点とするファイルス家とSAUに属する旧アメリカ全土を拠点にするコーリング家はセブンスターズ内部での発言権を強めるために初代当主の時代から同盟を結んでおり、その縁から住む場所は離れていても現当主二人は幼馴染みと言っても過言でないほど親密な間柄である。

 

 それ故にナターシャが今イーリスを止めたのは今の発言が当主らしからぬ物だった故。つまりは恥ずかしいから止めろという意味合いが強く、けしてセシリアに気を使ったからではなかった。

 

 

――――操縦者を殺して機体の回収を狙うコーリング家と操縦者に関心がなく機体の研究を望むファイルス家

 

 

 コーリング家がバルバトスを運用し、ファイルス家が整備と稼働データの収集を行うならば両家の目的は果たされる上に現当主がそのような関係である以上、両家が対立する事はあり得ず、ナツの保護を目的とするセシリアにとって二人は明確な敵と言えた。

 

「うふふ。小さなことで争う姿というのは見ていて面白いものですわね」

 

 その様子を見ていた水流の模様を持つ楯が描かれた椅子に座る水色の髪の少女が扇子で口元を隠しながら楽しそうに笑う。だがその眼差しには昏い炎のような負の感情が宿っており、その言葉が本心でないとセシリアは簡単に理解できた。

 

「……喧嘩売ってんのか殺人鬼」

「まぁ酷い。更識の使命をそのように言われるとはとてもショックです」

 

 扇子をくるりと返しながら表情は変えず、口調だけを悲しそうに変える少女。その扇子には【残念無念】と書かれていた。

 

 傍らに護衛役として近い年頃の眼鏡を掛けた三つ編みの少女を従えている彼女の名は更識楯無。殺された父親の代わりに若干十二歳でセブンスターズの一門、更識家当主の座を継いだセシリアより一つ上の十五歳の少女。

 

 当主を継いだ年齢だけを見れば八歳で両親を亡くしたセシリアの方が早いが、彼女は一年前まで後見人となった人物の支援を受けていたので、事実上歴代最年少で当主の座を継いだ若き才女。

 

 そして更識家直轄部隊【骸】を率いてギャラルホルンに反逆する者達を笑顔のまま殺し続ける姿から【微笑む殺戮姫】の異名と恐れられる冷酷無慈悲な断罪者。直接手を下したのは当然、命令を下して間接的に殺した者も含めれば既にこの中で二番目に人を殺した数が多いだろう。

 

「我が更識が秩序を乱す者を処理する事で世界の平穏は保たれ、同時にギャラルホルンへ反抗しようとする愚者への抑止力となる。とても効率的でしょう?」

「何が抑止力だ。結局は恐怖と暴力で支配してるだけだろうが」

「うふふ。ギャラルホルン最大戦力であるアリアンロッドの指揮権を持つ貴女がそれを言いますか?」

「私はお前達と違って疑わしいってだけで殺すような真似はしてねぇよ」

 

 ギャラルホルンの栄光と威信の象徴たるアリアンロッドを率いるイーリスとギャラルホルンの暗部と恐怖の象徴たる骸を率いる楯無。

 

 共にギャラルホルンが統治する世界での恒久的平和という理想を持ちながら方法と信念が異なる二人は、決して互いを認める事も受け入れる事もなく、顔を合わせ、会話する度に対立するのが常であった。

 

「双方、静まれ」

 

 うっすらと笑みを浮かべているスコールとまたかという表情を浮かべるセシリア、ナターシャであったが、威圧感の籠ったその声を聞いた瞬間、僅かに身をこわばらせる。

 

 その声を発したのは奥に座る蛇を持つ人が描かれた椅子に座るこの部屋にいる唯一の男。他の五人とは違いセブンスターズの制服ではなく浅葱色の和服を着たその老人が口を開いただけで先程まであった険悪な空気は吹き飛び、緊張感が場を支配していた。

 

 そして直接声を掛けられたイーリスは分かりやすく肩をびくりとさせ、楯無も表情や仕草に変化はなかったが、視線と意識を声の方へと集中させている。

 

「意義ある議論ならば大いに結構。答えが出るまでいくらでも待ってやる。が、こいつは違うだろう?」

「っ!申し訳ありません!」

「お見苦しい所をお見せしました」

 

 イーリスは慌てた様子で謝罪し、楯無は静かに立ち上がると頭を下げる。それを見た老人はわかれば良いとだけ告げると険しい表情のまま背もたれに身体を預ける。

 

 老人の名は凰 白龍(ファン パイロン)。セブンスターズの一人であり、世界最大の複合企業【テイワズ】を手中に収めている老練な支配者である。

 

 未来が見えていると言われる程の慧眼、有能であれば敵であった者も笑って受け入れる剛毅さと義理人情を重んじる気質を持ちながら、裏切れば身内ですら躊躇なく切り捨て、必要であれば恐ろしい程合理的な思考で判断を下す残酷さを兼ね備える。今の女性優位の時代においても決して逆らってはならないと言われている人物である。

 

「全く。お前達を見ているとアイツらを見てる気分になるぜ。本当に親子だなぁ……」

 

 数秒程その表情のままイーリスと楯無を見ていた白龍であったが、不意に楽しげな笑みを浮かべるとそう呟く。その様子は本当に楽しそうで、白龍の事を知らない者ならば、先程まで威圧感を放っていた人物と同一人物なのかと疑ってしまうだろう。

 

 二人の姿に誰かの姿を重ねながら懐かしさに浸っていた白龍が、ちらりと隣へ立つ人物へ視線を向ける。

 

 白龍の傍らに立っていたのは硬い表情を浮かべる若い女性であった。きっちりとしたスーツに黒縁の眼鏡の奥から覗く切れ目。長い茶色い髪を後ろに束ねて直立不動の姿勢で立つ姿はキャリアウーマンといった印象を抱かせる。

 

「他所は若手が熱意に溢れてて羨ましいぜ……そうは思わねぇか鈴玉(リンユー)

「ひゃいっ! そうだねおじい……じゃなかった! 白龍様!」

 

 だが白龍に声を掛けられた女性は先程までの様子とは一転して大慌てしながら裏返った声で答え、それを見た白龍は残念そうに溜息を吐いた。

 

 女性の名は凰 鈴玉(ファン リンユー)。白龍の孫娘であり、当主継承権第二位の資格を持つ人物である。

 

 白龍を超えると言われる程の頭脳を持ち、ISでは防御に重きを置いた堅実な戦い方を主体としながらも遠近中距離問わずに戦える【玄武】の異名を持つテイワズ内でもトップクラスの実力者であり、継承権一位の資格を持っていた姉が権利を放棄した為、現時点での次期当主最有力候補者。

 

「ったく。お前もあの馬鹿も俺を隠居させて楽させようって言う優しさはねぇのかねぇ」

「私におじ……白龍様の後を継ぐなんて無理です! それに私程度の能力ではではお姉ちゃ……姉様に遠く及びませんし」

 

 だが彼女はISを纏わずに多人数の視線に晒されると緊張で上がってしまうという欠点を持っていた。先程までの硬い表情は元来の真面目な性格も影響してはいるが、それ以上にこの場の空気に飲まれて固まっていただけというのが大きいだろう。

 

 それに加えて自己評価が低く、さらには優秀な姉に対する劣等感を抱えていた。その影響により自身よりも優秀な者が継ぐべきであると考えており、正式に継承権放棄を明言していないものの、継承権一位であった姉か継承権三位である白龍の義娘に任せるつもりであった。

 

「姉妹揃って当主の座を他の奴に押し付けてんじゃねぇよ……っとすまねぇ。無駄話するなっつった俺が無駄話しちまったな」

 

 自らの後継者問題に溜息を吐いた白龍であったが、この場において無関係な話であったと気付き謝罪の言葉を口にすると部屋に張りつめていた空気が僅かに弛緩する。

 

 それによって緊張から解放されたセリシアが僅かに視線を逸らすと、偶然鈴玉を見ている楯無の姿を視界に捉える。その表情は普段浮かべている作り笑顔でなく少し寂しそうで、鈴玉に向ける視線には彼女を通して誰かを見ているような様子であった。

 

「後継者問題に悩むのは何処も同じですね。我がミューゼル家も分家が絶え、身内もいないので早く子を為さねばと焦っておりますわ。オルコット公も早く配偶者と子を為さないといざという時に困りますわよ」

「ふえっ!?」

 

 その様子に疑問を感じたセシリアであったが、これまで静観していたスコールに急に話題を振られた事に驚き、視線を楯無から外してしまう。慌ててもう一度視線を楯無の方へ向けるも、その表情はいつもの本心を悟らせない作った笑顔に戻ってしまっていた。

 

 問いかけるタイミングを逃し、またこの場で聞く事柄ではないと思いなおしたセシリアは抱いた疑問を胸の奥にしまい込み、一度深呼吸して冷静さを取り戻してからスコールの方へ向き直る。

 

 駝上の貴婦人が描かれた椅子に座っているセシリアが物心ついた時から変わらぬ容姿を持つ年齢不詳の女性。分家は絶えたのではなく、自らの立場を万全にする為にわざと絶やしたのだとか、人体実験をしているといった黒い噂が絶えない人物。彼女が傍らに置くフルフェイスのヘルメットで顔を隠した性別年齢不明の護衛役も、人体実験によって素顔を晒せなくなったのではないかと言われている。

 

「ご安心ください。まだ死ぬつもりはございませんから」

 

 とはいえあくまで噂であり、実際には証拠は一切ない。疑わしきだけで糾弾するなどする訳にはいかず、セシリアにとって好ましい人物ではないとはいえ公の場で嫌悪感をむき出しにするのは淑女らしく無いので笑顔で応対する。

 

「あら。そうやって油断してますと危ないですわよ。先代のオルコット御夫妻もそうやって――」

「先代は誇りと未来を守って逝きました。その死を語る事は御止めくださいな」

 

 列車テロに巻き込まれて亡くなった両親の名を出されて湧き上がる怒りを必死で抑え込みながら、スコールの言葉をセシリアは笑顔で遮る。両親の死は不運ゆえであったが、少なくともISという最強の守りを持っていた母親は死を回避する事ができた。

 

 

―――両親が死んだ原因は他でもなくセシリアだった

 

 

 父親は犯人の銃弾から身を盾にして母とセシリアを庇って命を落とし、母は父が作った時間を使って自らの持つISの所有権をセシリアに譲渡して彼女を逃がし、爆発する列車と運命を共にした。二人は自分達が助かる可能性を躊躇なく放棄してセシリアを守ったのである。

 

 彼女にとって両親は誇りであり、永遠に愛すべき者である。そして二人が繋いだ命を持つ自分が生きている限り、その魂はけして消えないと考えている。そんな存在をくだらない軽口で出されるというのは彼女にとっては最大限の侮辱であったのだ。

 

 不穏な空気に包まれ、一触即発の気配が漂う室内。その状況を治めようと再び白竜が口を開こうとした時、閉ざされていた扉が開き、自然と全員の視線がそちらに向けられる。

 

「やはり私達が最後か。遅くなってすまないね」

 

 開かれた扉の先に立っていたのは黒いスーツの上から白衣という変わった格好をした束とその後ろに隠れるように立つ黒いワンピースドレスを着て淡く化粧が施された千冬であった。

 

「っと。お取込み中だったかな? 空気の読めない女で申し訳ない」

 

 剣呑な場の空気を察した束が芝居がかった動きを見せながら全員へ向けて謝罪する。動作そのものは意図的だと言うのにその声質には真っ直ぐな誠意が籠っているという相反する行動と発言をしながら束は室内へ歩を進める。

 

「ここは関係者以外の立ち入りは禁止だぜ博士よぉ」

「今回彼女は私の護衛役。つまり何ら問題はない。それに千冬にはこの会議に参加する権利がある」

 

 そんな束に対し僅かに不快感と警戒心を滲ませた言葉を白竜は投げかけるが、彼女は爽やかな笑みを浮かべながらそう答えを返すと、空席であった紅い椿が描かれた椅子に座る。

 

「さぁ、始めようか。鹵獲したISと操縦者の対応を決める七星会議を」

 

 そして部屋に入ってから一分にも満たぬ時間で場の中心となった束は、まるで謳うように会議の開始を告げたのであった。

 

 




主人公が4話連続出てきていないという事実に後書き書く直前に気が付きました。



ファイルス家設定。

ナターシャ・ファイルスが当主を務めるセブンスターズの一席。

ギャラルホルンでは束がエイハブリアクターとゲイレールを開発するまで新型機の開発はされておらず、厄祭戦時代のレストア機がギャラルホルンの戦力と使用されていた。

後期型リアクターの登場で新型開発の流れが急速に進み、ファイルス家主導でギャラルホルンの戦力拡大が行われる事となる。

現在はグレイズでの限界を訴える現場での声を聞き、その後続機の開発と熱量兵器を実戦レベルへ引き上げる研究を行っている。

その為に悪魔と天使の技術を融合する研究がおこなわれているとギャラルホルンの中で噂が流れている。

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