おかえり、ペロロンチーノ   作:特上カルビ

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リ・エスティーゼ王国
一緒に面接


 ナザリック地下大墳墓、執務室を兼ねたアインズの自室。

 黒革の椅子に身を委ねるアインズは黒檀の執務机に両手を置き、アルベドから報告を聞いていた。カルネ村で捕らえたニグンという男は、スレイン法国の特殊部隊隊長とのこと。目的は近隣諸国最強と名高い、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフという男の抹殺。だが、この男はどうやら消息不明とのこと。エ・ランテルに忍ばせたシモベによると、ガゼフ失踪の噂で持ちきりらしい。

 アインズは執務机を一定の間隔で軽く叩きながら、思考する。

 

「……これだけの有名人物が消息不明、やはり死んでいるか……。しかし、スレイン法国の部隊は私達が殺した。なら一体誰が? ガゼフはこの世界ではかなり強いらしいし……。まさかプレイヤーか?」

 

 可能性はあると、アインズは警戒する。この世界に飛ばされたのが二人だけとは限らない。

 ともかく、今は情報収集が最優先。当初はエ・ランテルに行こうかと考えていたが、リ・エスティーゼ王国の動向を詳しく調べるには王都に変更すべきか考える。戦士長の捜索範囲を広げられれば、ナザリックが発見の可能性が高まり、プレイヤーが戦士長を狙ったならば、その影があるかもしれない。 

 バハルス帝国と毎年行う戦争も気になる。毎回の戦闘場所であるカッツェ平野は、ナザリックからそう離れていない。ナザリックのより近くに変更されるのは阻止したい。

 様々な理由の結果、エ・ランテルより王都の方が有用そうだと結論付ける。

 一息ついたアインズは、一般メイドと楽しくお茶するペロロンチーノに向けられた。

 どうやらまた変態的な何かを言ったらしく、シクスス顔はリンゴの様に真っ赤になる。

 

「いい! その恥じらいすごくいい!」

 

 もはや見慣れつつあるペロロンチーノの奇行――いや、日に日に酷くなる乱心にアインズは呆れを通り越す。

 

「だから、そういうことはシャルティアでやればいいだろ」

 

「……やっちゃおうか……いや、シャルティアはこの宇宙最高峰、一度味わったら他の少女達では物足りなくなってしまう。それは許されない至高の芸術(カタルシス)!」

 

 手の施しようがなかった。やりたい放題の世界に放り出されたこの男を止めるのは、もはや不可能。

 

「はぁ、もういい。王都で冒険者となる。そこで情報収集だ」

 

「一人連れて行くと言っていたプレアデスは、誰にしたんだ?」

 

「ナーベラルにしようと思ってる」

 

「え、本当? アインズは黒髪の人間見下し系が好きなんだ」

 

 ピクリとアルベドが反応を示す。いつもの微笑みにはどこか違和感があり、興味津々なのが明白。

 

「なんだそれは? 単にナーベラルは真面目そうだから……」

 

「それならユリを選ぶはず。アルベドよかったな、好みだってよ」

 

 アルベドは満面を超える崩れた笑顔で、優雅に一礼する。

 

「待て、勝手に話しを進めるな」

 

 ペロロンチーノはアルベドによく思われていないことを知っていた。巧妙に隠されてはいるが、時折感じる敵意は確かだ。その怒りはナザリックを去った事に対してか、アインズと仲良くやっている事の嫉妬か、はたまた全く別の事かは分からないが敵対されるのは避けたい。故にこうやってアインズを生け贄にし、点数稼ぎを行っているのだ。それにアルベドはヤンデレ気質だが、絶対の忠誠心があり何より絶世の美人。アインズにとってもそれほど悪いこととは思えなかった。

 

「アインズはアルベドが好みなんでしょ。だから、設定を変えた。よく見ろ、美人だと思ってるだろ」

 

「え、い、いや、それは」

 

「正直に言ったらこれ以上追及しない」

 

「う、うむ、そうだな……び、美人だとは思うが」

 

「くふー! 私の準備は出来ております。ささ、寝室へ」

 

「待つのだアルベド、まずは落ち着け」

 

 アルベドは羽をバタバタ動かし、崩れた笑顔で体をくねらせた。見開かれた金色の瞳はアインズを捕らえて離さず、興奮で息遣いもかなり荒い。笑顔ではいるが、その瞳は肉食獣の様な獰猛さが浮かび、今にも飛び掛かりそうな雰囲気。

 充分に点数を稼いだペロロンチーノは、取り敢えずここで追及を止める。アルベドの理性ギリギリ、絶妙のラインを維持したと満足気。

 それにしてもナーベラルかと――ペロロンチーノにとっては思いがけない人選だった。

 

「ナーベラルを選んだ理由は真面目そうだからだけ?」

 

「え? うむ、そうだが……」

 

 アインズの返答にペロロンチーノは渾身の溜息をつく。

 

「ナーベラルの魅力は毒舌と意外なポンコツっぷり。アインズはまるで分かってない」

 

「毒舌? 聞いたことないが」

 

「毒舌は人間限定。それじゃ、エントマの魅力は?」

 

「エントマ……虫……虫っぽい、虫、あー符術師だ」

 

「ふ、符術師……そんなどうでもいいところは知っていて……はぁ、いいでしょう、教えてあげます。エントマの魅力は可愛いことです」

 

「……」

 

「これは重症だ。一度プレアデスを集める必要がある。アルベド、プレアデス召集だ。ついでに冒険者に同行する者を選ぼう」

 

「畏まりました、ペロロンチーノ様」

 

 ペロロンチーノは気付く。先程点数を稼いだおかげで、幾分接してくる雰囲気が柔らかになった事に。やはり効果があったようだ、困ったらこれをしようと深く心に刻む。

 展開についていけないアインズが茫然とする中、召集命令を受けたプレアデスが執務室に入室する。横一列綺麗に並び、一切乱れのない一礼をしてから静かに佇む。アルベドから、冒険者に同行するメンバーを決めると聞かされており、一同緊張の色が見て取れる。それは普段、真面目なユリや騒がしいルプスレギナも例外ではない。

 プレアデスの個性豊かな面々に深く頷いたペロロンチーノは、静寂を切り裂くようにスッと手を上げる。

 

「提案がある。今からいくつか質問するが、プレアデスのみんなには砕けた感じで受け答えしてもらいたい。アインズによく知ってもらうためだ」

 

 これに関して、アインズは異論がない。単純にいつも支配者ロールプレイでは疲れるのだ。冒険者になる半分の理由はそれだ。反論する理由も特に無いので黙っていると、アルベドが明らかに不機嫌になっていた。至高の御方に逆らうわけにはいかないが、今にも何か言いそうな雰囲気。それを見たアインズが素早くペロロンチーノに同調の意思を示す。

 

「うむ、冒険者では仲間というスタンスだ。一々物々しい言い回しでは疑われる。よいな、アルベド」

 

「……アインズ様の御意思のままに」

 

 アルベドに釘を刺したアインズがペロロンチーノに目を向けると、何やら真剣に考え込んでいる。腕を組み、ブツブツと自問自答していた。滅多に見れない光景だ。

 アインズは何か重大な事でもあったのかと、急いでメッセージを飛ばす。

 

『どうしたんですか?』

 

『アインズさん、俺とんでもないことに気付きました』

 

『なんですか?』

 

『俺、エントマもイケるかもしれません』

 

『は?』

 

『アインズさんの言いたいことは分かります。エントマは可愛いですから。でもそれは撫でたい可愛さ。彼女はあくまで蜘蛛人(アラクノイド)。正体で欲情するのは上級者だけです。でも気付いたんですよ。擬態のままならイケるのではとね』

 

 アインズはそっとメッセージを切る。この鳥何言ってるんだろうと、返事をする気も失せていた。

 ペロロンチーノの熱い視線に気付いたエントマは、恥ずかしさから彷徨う視線を床で固定し触覚をピクピク動かしながら、モジモジし始める。

 ツッコミを入れるのも面倒になったアインズは、構わず質問を開始する。

 

「今から質問するが先程の事を忘れるなよ。プレアデス同士で会話する感じだ、それと嘘はつくな。した場合の失望は深い」

 

 アインズがプレアデスを見渡すと、了承したと一礼で返答する。

 

「まずは、そうだな……人間をどう思う。ユリ、答えよ」

 

「ナザリックでは下に見ることが多いですが、中にはよい人間もいるかと思っております」

 

「うむ、次、ルプスレギナ」

 

「オモチャっす!」

 

「お、おも……次、ナーベラル」

 

「ゴミです」

 

「ゴミ……次、シズ」

 

「……どっちでもいい」

 

「興味なしか、まぁうん。次、ソリュシャン」

 

「溶かすと甘美な声を上げる下等生物です」

 

「だんだん慣れてきた。次、エントマ」

 

「お肉ですぅ」

 

「そうか、肉か、そうかそうか」

 

 息を吐く仕草さとともに、頭に手を当てるアインズの脳裏に浮かぶ感想。

 ――プレアデスすげぇ。


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