「うむ、ご苦労だった、プレアデス達よ。各々持ち場に戻るがいい」
笑顔のルプスレギナは元気よく頭を下げる。他のプレアデス達も無念の気持ちを振り払うように優雅な一礼をし、命令に従って執務室の扉へと向かう。
「アルベド、シャルティアを呼べ。任務に必要なアイテムを貸し与える」
「畏まりました」
捕縛した陽光聖典から聞き出した情報で、この世界にはユグドラシルには無い特有の能力が二つあることが判明していた。生まれながらに異能を持つタレント、
「あっ、アインズにシャルティアの任務で言いたいことがあったんだ。ユリ、少し待ってくれ」
名前を呼ばれたユリは扉に伸ばしていた手を下げ、先程まで立っていた場所へと戻る。
「どうしたんだ、ペロロンチーノ?」
「シャルティアの供にユリをつけようと思ってる」
「ふむ、それはいいが理由はなんだ?」
「血の狂乱を防ぐためだ」
「なるほど。だが、シャルティアもそうならないよう行動するんじゃないか?」
「アインズはシャルティアの脳筋っぷりを分かってない。雑魚を狩りまくって調子に乗った
「成る程、理解した」
普段のシャルティアの言動を見るに、あり得る話だと納得する。
「シャルティアもユリと一緒だと喜ぶし」
そう意味深な言葉を発したペロロンチーノは、チラリとユリを見る。何か思い当たる節があるのか、僅かではあるがユリが反応を示した事にアインズは気付く。シャルティアが何故ユリと一緒なら喜ぶか考えるが、
シャルティア・ブラッドフォールン――見た者の心を鷲掴みにする美貌とは裏腹に、数多の設定を紳士ペロロンチーノにより組み込まれていた。両刀、
ユリもその性癖を知っていて、飢えた獣のような目を向けられる
そんなユリの心配をよそにアインズとペロロンチーノの会話は途切れることなく続いていた。シャルティアとユリの関係、ナザリックの強化計画、冒険者になった時の方針、アルベドにはアインズがとても活き活きしているように見えた。至高の御方が誰も来なくなってから見せていた、哀愁漂う姿はそこにはない。アルベドはただ微笑み、愛する至高の御方を見つめた。
二人の会話は時が進むにつれ、激論へと変わっていった。
「分かってないなアインズ、だからそこは――シャルティアが来たな」
ペロロンチーノの言葉と同時に執務室の扉が開き、予測通りの者が姿を現す。偽の胸を揺らす、黒に近い紫色のゴシックドレスに身を包んだ
至高の御方々の前で足を止めたシャルティアはスカートを摘み、貴族がするような可憐な一礼をする。それはどんな美しい王族や貴族が同じことをしても、霞んでしまうほど
「お待たせして申し訳ないでありんす」
「よく来たなシャルティア、相変わらずパーフェクトだ」
腕組みし、ニヤリと笑うペロロンチーノに、シャルティアの透き通るような白い肌が赤く染まっていった。長らく造物主がいなかった喪失感は遠い昔のよう、今その身を満たすのは歓喜を遥かに凌駕する幸福感、これは何度会っても変わらなかった。ただ姿を見るだけで体が熱くなり、火照っていく。
「あ、ありがとうございます! ペロロンチーノ様!」
「そんな完璧少女に渡すものがある、アインズあれを」
「うむ、シャルティアこれを。
――
現在ナザリックにはそんな
「それで
ガゼフというこの世界最高クラスの戦士を殺したのがプレイヤーの可能性もある以上、
シャルティアは了解したと受け取った強欲と無欲を大事に抱え、任務を絶対成功させると固く誓い礼をする。
「それと補佐としてユリをつける。何かあったらユリの言葉に耳を傾けよ」
「承知したでありんす」
ユリと聞いて、任務に楽しみができたと心の中で密かに歓喜する。シャルティアの気持ちを鋭く察したペロロンチーノは満足げに頷き、全く気付かないアインズは話を進める。
「セバス達ともうまく連携しろ。では任務の成功を期待する」
「頑張れシャルティア、俺も応援してるぞ」
真に忠義を尽くすペロロンチーノと敬愛なるアインズに見送られ、シャルティアは執務室を後にする。
「さて、ペロロンチーノ、そろそろ私達も行くか」
アインズは黒革の椅子からゆっくりと立ち上がる。
「あぁ、ついに冒険が始まるな」
まだ見ぬ少女達を想像し、ペロロンチーノの胸は高鳴っていく。
アインズも激務から解放される喜びを抱え、ルプスレギナに
『ルプスレギナ、出発だ』