無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

8 / 84
七話 夜襲開始

「…なるほど、妖精さんが工匠の深海の死体の山にドン引きしてたのは、そう言う訳でしたか」

 

龍田に氏真の武勇伝を聞かされた浜風は、ポツリともらす。

そしてこう続ける。

 

「人間が『出撃』とは中々面白いジョークを飛ばすのだな、と考えてましたが……なるほど、あの戦果を衝動で出せるってなら、確かに期待大ですね」

 

そう言って、ずずっと水を一口水差しから啜ると、浜風はボンヤリと空を見上げながら、いん…と口ずさむ。

聞き取れなかった龍田がそれに突っ込みを入れた際、浜風は『良い人が来て良かった』と言いたかった、等とごまかし龍田を安心させるが…浜風は、こう言うつもりだったという。

 

 

…陰毛でも御守りに差し上げるべきでしたか、私達の為に奔走してくれるなら、と。

 

 

誤解無く言うと浜風はふざけてる訳では無く、女性の陰毛を持たせるのは古今東西つい最近まで有った兵士の帰還のおまじないのようなものである。

下ネタ嫌いな龍田の目の前だったので浜風は流石に自重したが…春画なり女性の陰毛なりを戦装束に仕込む兵はあの時代ならず、浜風の艦だったWW2の頃の兵士達にも当たり前にやっていたことだった、とは追記しておく。

 

時刻は既に夜10時半を回っている。

加古と氏真は、既にこの泊地を出発していた時間で有った…

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一方その頃、当の加古達はというと。

 

艤装に装備に輸送用のドラム缶をありったけ、加古はワイヤーに付けて積めるだけ積んで。

まるで何処かのメロンなり神戸生まれなお洒落な娘なりみたいな武装編成をした彼女のドラム缶の一つの上に、氏真はあぐらをかきながら乗っかっていた。

 

曳航されて楽チンは楽チンだけど揺れが酷いな、とドラム缶の上からひっくり返らず器用に乗っかりながら軽口を叩く氏真に、加古は文句があるなら海に叩き落とすぞ!と睨み付ける。

ゴメンゴメン、と謝る氏真ではあるが、しかし…と、前置きを挟みつつこう漏らした。

 

「…不思議なものだなぁ、君らの本質は、こう言う不可思議な鎧を見るに本当に『船』なのか」

 

加古の手甲のような艤装に目を向けながら、である。

 

 

艤装。

 

加古ならず、艦娘の武装兼防御用の鎧という攻防一体のアーマー。

WW2のあの頃の戦艦だった能力を凝縮したような、艦娘達の唯一無二の武装。

加古の場合なら手甲のような装着型のアーマーらしいアーマーが印象的でもあり、天龍や龍田なら手持ちの近接用の長物や特徴的なアンテナが目を引くものである。

そして…艦娘達の「本体」でもある。

 

たとえば、ボーキサイトなり鉄鋼なり重油なりを、我々が体内に含んだらどうなるか…

言うまでも無かろう、鉄鋼ですら飲み込めないだろうしボーキサイトや重油は言わずもがな死ぬであろう。

しかし、艦娘の場合は、それらを手に取るだけでそれらを体内に納め艤装に送ることができる。

そして、それらを問題なく運用することが可能なのだ。

 

何故ならば、あくまでも艦娘は「船の精霊」。

ふだんの見た目や食生活や肉体構造などは人間に近いし感情もあるが…正に「木の又から産まれる」レベルに不可思議な艦娘の本質・本体となるのは実は艤装の方となる。

艦娘の「娘」部分とは、言ってしまえば「コップに注いだビールの中の、液体ではなく泡の方」。

極端な話をしたら、麗しい少女の姿は「本体の上澄み部分」でしかないのだ。

 

より正確に言うとするならば、車のバッテリーと本体の関係が正しいのかも知れない。

バッテリーには電気が必要になるが、根本的に必要なのは車の部品やガソリンにあたるだろう。

本体の部品に異常が出たりガソリンがガス欠だったら、かりにバッテリーの液や充電が充分でもエンジンはかかるまい。

 

そう言うことだ、艦娘をバッテリーとして見た場合、艤装は車全体の「本体」と言うべきものなのだ。

仮に、飯や薬で艦娘の生体部分のコンディションを維持できたとして、それこそ、車に例えるならばフレームごとへしゃげるぐらいの、『本体』にあたるだろう艤装へのダメージが大きすぎたとしたら、本当に彼女ら艦娘にとって致命傷としか言えないことになってしまう。

 

金剛が目を覚まさないのも、天龍達が戦うに戦えなかったのもそこに理由がある。

艤装を直せば艦娘の怪我が直り、艤装に致命傷を受けてしまうと逆にいっさいがっさいの身動きが取れなくなってしまう…「艦娘」としての誇りであり長所ながら、弱点でもある特徴だったのだから。

 

 

そして氏真も、一度は艦娘についての基礎的な話を睦月から話を聞いていたが、正直普通の女の子にしか見えなかった彼は半信半疑では有った。

しかし、こうも涼しげにドラム缶ごと自分を引っ張る加古を見るに、否応なしに彼女の本質を知ることになった、という案配で有った。

…本質的には、その特性も、あるいは気質も。機械的な部分がわりと強く出やすいのが、艦娘と言う存在であったのだ。

 

 

そんな氏真の言を受けて、加古は複雑そうな声で一言呟く。

アタシらの本質はあんた以上の機械だけど、もしかして怖くなったりしたのかい?と。

だが、加古からは死角で見えないが…加古の言葉に対して氏真は心底きょとんとした表情を見せながら、こう返した。

 

「キミらの本質が『船』だったり『兵器』だったりってのは正直どうでもいい話だろう。ソコは君らが人間とは違う部分ってだけで、それこそ僕がどう否定しようが兵器は兵器だ。ただの人間が塚原先生の地獄な訓練も肥前周辺の魔境の争いも無しにこんな装備を引っ張れるもんかい?」

 

こんな言葉を受けて、少しならず加古は傷付いた表情を見せるが…構わず氏真はこう続ける。

 

「とは言うものの…しかし、『船』と一緒に仕事したり遊んだりして友達になれるなんて、なんて面白い二度目の生かね!こんな面白い世界が有ったとは…竹千代や早川殿や親父達にもあっちに行ったら自慢し放題じゃないか!しかも艦娘達はみんな可愛くて優しいと来た!ハゲ猿が侍らしたくて泣いて悔しがるだろうね!」

 

…はぁ、と、加古は一人でテンションが上がってる氏真に呆れるしかなかった、とか。

 

 

そう、氏真のスタンスは至極単純である。

 

艦娘は艦娘、完全に人間より戦艦に近い兵器的な存在という認識ながら、それはそれで置いといて人間以上の友達になれるだろうし別に害を為さないのならこちらも艦娘にできるだけ歩み寄る、という具合だろう。

艦娘の見た目が人間そっくりなので、反発する方も反論する方も居るかも知れないが…「ドラえもんに対するのび太」のようなモノか。

のび太からしたらドラえもんはあくまでもロボットはロボットだろうが、それはそれで家族であり相棒という認識だろう、氏真の理解もそれに限りなく近かった。

 

 

さて、そんな氏真の言葉を受けて、なんだかホッとしたような表情を見せる加古ではあるが…急に、氏真の方から冷たい殺気を背中から感じ、背筋を震わせる。

何事か、と思わず氏真に声をかけようとした瞬間…加古の頭上を銀色の閃光が舞う。

その閃光の先には…氏真が投げつけたであろう、脇差しを額に受けて即死した、ロ級の死体が浮いていた。

 

そして、ついさっきまで受かれていた男とは思えない冷たい目をした氏真が加古を一瞥すると、こう宣言した。

 

 

「そろそろ奴さんの膓に飛び込んだみたいだな…加古ちゃん、周辺警戒を怠るな!僕が、この場を『切り開く』!文字どおりにな!」

 

そう言うや否や、ドラム缶から飛び上がった氏真は、敵が近づいて居るだろう場所へと飛び込んで行った…!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。