無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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六十七話 解き放つ魂

…さて、釣竿齋と榛名の長い長い独白が終わりを告げた後から話を進めよう。

 

 

彼等の『計画』の本当の目的の概要、そして、何故彼等が暴走せざるを得なかったのか…と言う過去にあった思いの全てを聞いた、対するパラオの面子の方はと言うと。

 

「…な、何で…何で一言相談してくれなかったんですか!!お姉様!!」

 

そうアワアワとした表情で告げた神通を皮切りに、大体同じ様な感想になりながら顔を真っ青にさせていた。

何故、此方に少しでも相談してくれなかったのか、と。

そうしたら、こんな大事にもならずに済んだかも知れないのに、と。

 

そう問い詰めた者達を制したのは…意外にも、加賀であった。

瑞鳳さんからの又聞きでは有りますが、と前置きしながらこう話を始めたと言う。

 

「要約したら、と言う言い方に成りますが…相談してからのプロレスは、一番最初に考えたそうです。神通さんか赤城さん辺りに相談して、台本作って、その通りに演技すると言う形の『茶番』。それならば、確かに怪我人も出ないでしょうし、安全策ではあったのですが…何重の意味でも、それは叶わない事でした」

 

そう一拍置きながら、加賀はこう続ける。

 

「第一に、それをしようとすると『パラオ側にトラック側の裏切り者としての艦娘達との通信記録が残ってしまう危険性が高い』んです。要するに、計画が為した後の事後調査の結果として此方が口裏を合わせていたと言うことが万一知れたら…父さんや睦月さん、そして神通さんと赤城さんにまで無駄に責任が発生しかねません。第二に、単純にトラック側の事情を全部説明したとして、此方が全部信用してトラック側に合わせて動くなんか非現実的にも程が有る話です。そして…」

 

ここで区切った加賀は、最後に赤城の他、神通・木曾・加古・夕立・球磨の順に視線を向け、〆に金剛に顔を合わせてこう言葉を締めたので有る。

 

「…そして、何よりも、こんな穴も有って何もかも傷付けざるを得なかった計画に『身内』を巻き込みたくなかったんでしょう。せめて刃を向けるなら…パラオ側を『被害者』と言う形にして、私達全員に責任が発生しない様な形にする必要が有り、気持ち良く此方が瑞鳳さん達九人の艦娘達や釣竿齋さん達を殴れる形に持っていかざるを得なかったのです。だから、あんなチグハグで挑発的な戦術で此方に向かってきたんですよ、わざわざ私達が死なないように弾薬の信管を抜いて、トラックの操られてる方達は『弱点』がわざと見え見えになるようにして私達が最小限のダメージで倒しやすいように仕向けてまで!」

 

 

そう言って、額に手を乗せながら…それでも、本音を言えば事前に状況を相談して欲しかったですが、と付け加えた加賀に対して横から口を挟んだのは川内だった。

彼女は、こう言葉を口にするので有る。

 

「神通…あんたはさ、私の事を『嘘つき』なんて言ってたけど、あの時に吐いた言葉は、嘘は何もついてない。『大本営の勅命より釣竿齋さんの計画の方が魅力を感じた』…嘘じゃ無いんだ。嘘じゃ無いんだよ、神通。あの人を私達が捕らえることは物理的に不可能だろうし、何より、あんな一生懸命に今を生きる人を想って、そうして、自分の身を犠牲にしようとする人を単なる悪党として引き渡して…何になるのさ?あの危険性の高いトラックの現状をどうにもできないまま何にも悪くないトラックの人達が傷付くかも知れないし、何より、あんな一生懸命にトラックの人達を助けようとした釣竿齋さんを想いも行動も無視して網走にでも放り込めって事?…それは、出来ないよ。トラック側を救う為のあの人の代案も出せなかった私達に、あの人の想いを聞いてしまった私達に、そんな無責任な真似をする資格もない。だから皆が皆、協力したの。『言葉が足りなかったことは、嘘って言わないんだよ』…神通」 

 

そう、諭すように告げる川内の言に…神通は、感極まって泣き崩れる。

ごめんなさい、と。

お姉ちゃんの事、何一つわかろうとしないまま…傷付けてしまった、と。

 

金剛と阿賀野も、一方は肉体的に、もう一方は精神的にと言う方向性であるが、ぼこぼこに相手を追い込んでしまった両者も同じように其々の相手に詫びていた。

あんな状況下で…危険性から色々と精神的に追い詰められていた状況と言うことを知らずに酷い事をしてしまった、と。

同じような状況下に放り込まれたとしたら、果たして、彼女達を責められる程に立派なことも出来る訳でも言える訳でも無いのに…ああも苦しめることはなかったろうにと言う、自罰的な理由からだった。

特に金剛は、榛名を泣きながら抱きしめて…酷いシスターでごめんなさい、と、本来なら被害者と加害者が逆なハズなのに、延々とイタズラを咎められた子供の様な口調で詫び続けていたと言う。

 

赤城も口では謝りませんよ、と言いながらも…飛龍から視線をそらしながら申し訳無さそうにしていた。

一方の、榛名や夕張や飛龍を含めた元大本営の釣竿齋についた側の艦娘達はと言うと、そんな彼女達に対して苦笑いするしかなかったが。

 

 

そんな彼女達に向かって、マイクを使い口を唐突に挟んだのは、YS-0のパイロットたる堀越である。

彼は、こう事務的な口調でこう告げた。

 

「…君達が私達に対して詫びる必要は有りません。貴女達こそが被害者で、私達が加害者と言う図には全く問題が有りませんから。私自身の役割こそ、『艦娘以外のトラック泊地の方々、及びこの機体に詰められるだけのトラック泊地にある備品の数々を、無傷でこのYS-0で空路を使い無傷で別の海軍基地に保護を兼ねて輸送する』と言う穏当なモノであり、それが『茶番に近い形でのトラック泊地の本来の艦娘の方々の正気を奪ってでの交戦状態を作ることで、対外的にトラック泊地所属の艦娘の方達をパラオ側を通じてでの異常事態だったことの証言をして貰うこと、及び保護勧告をする様に上層部の方々に具申して貰うこと』と言う、もう一つの計画の根幹とは異なる話でもあるのですが…どちらにせよ、私達が結局の所、言い訳しようの無い悪と言うことに変わりは無いのでしょう」

 

そうアナウンスする彼の言葉は、こう続いた。

 

「…結局、私は技士失格の男です。こんな破壊的な計画に、よりによってモノ造りに関わる人間が積極的に関わってしまった時点で、恐らくは艦娘の方々や釣竿齋さん以上に罪深い話です。本音で言えばこんな無茶苦茶な計画は間違ってると、途中参加だった私も思いましたが…結局、代案も出せずにそれを止めようとしなかった以上言い訳はしません。ですから、私達に同情することは、無いんですよ」

 

そう淡々と、機械的に告げる彼の言葉は…とても、パラオのメンバーには重いモノだった。

 

彼の言う通りだ。

そもそも、こんな無茶苦茶な計画…結果として上手く回ったが、失敗する公算の方が高い。

加賀が語ったように、あえてキョンシーのように札を分かりやすい位置に張り付けることで、『弱点』を丸出しにして倒しやすいようにトラックの艦娘を調整して。 

逆に巻き込まれた側のパラオ側に配慮して…そう、金剛や天龍が違和感として把握してたように、武装から信管を抜いてリミッターをかけて(北上だけはあえてそれは無視していたが)、中破以上のダメージが通らないように配慮していたとは言え、結局の所だと、勝手な理屈ではある。

 

そもそもが、本来助けようとしたトラックの艦娘こそ、非常に危険な鉄火場に放り込まないといけないと言うことが問題だ。

かつて釣竿齋自身が言ったように、相手の技量と良心にこそ託す部分が大きいことがネックになるだろう。 

 

何せ、相手側…つまり、パラオ側は『計画』の概要なんて知る訳がない。

いくら計画を立てた側に殺意が無いとは言え、向かってきた敵に対して、無力化して尚トドメを刺しに容赦なく殺そうとしてもおかしくはなかったのだから。 

結局の所、勝手な理屈で喧嘩を売りながら、相手の良心に託すようなやり方が正しいハズがない。

 

第一、いくら信管を抜いて居るとは言え、撃たれればそれは怪我人は出るだろう。

実際、浜風を筆頭に結構なダメージを受けてる艦娘はパラオ側に大勢居る。瑞鳳が弓を引けなかった理由も、そう言うことでもあった。 

死ななければそれで済む、と言うことでもなかったので有る。

 

逆を言えば…北上は、内心本当に血の涙流しながらと言う形ではあるモノの、いっそ一人だけ明らかに違うレベルでの取り返しの付かない被害を出してしまえば泥被れるんじゃ無いか、と思い詰めて暴走しかけるぐらいにだ。

 

とは言え、だ。

こんなにっちもさっちもいかない状況下で苦しんで、穏当な手段は一切取れず、見ず知らずに近い咎無き者を汚名を被ってまで一生懸命に救おうとして、それで暴走せざるを得なかった彼等を責められるので有るか。 

…そんなことは、出来なかった。

 

パラオに集う者達は皆、びっくりするぐらいのお人好し揃いだったのだ。

あの飛鷹や加古や通康ですら、釣竿齋達に向かって、何と声をかけて良いのかわからなかったと言う。

 

 

そんな、当の釣竿齋が…ふと、思い付いたように、声を上げた。

 

「…まあ、今更拙僧達は、逃げも隠れもしないさ、堀越殿の言うように拙僧達こそが悪故に煮るなり焼くなりは貴殿らに任せるが。その前に、そうだの…計画外の『オマケ』から、だ」

 

そう言うなり、いつのまにか手に取っていた錫杖を、シャリンシャリンと鳴らすなり、一つの術を解きにかかる。

それは…  

 

「先程、戦場で対峙した時に言うたであろう、『魔化流返死の術と言うのは衆生を救う為の術』、と。本来はこう使うのだ、イタコの様に死者の魂を一時的に仮初めの肉体と共に現界させて語らう術なのよ。魂の持ち主が死した地でしか使えぬ故に…あの時は本当に冒涜してしまったことを今更詫びるのは都合が良すぎる気もするがの、雷殿の妖精殿を介してたまたま過去を知ってしまった時に思い付いたことだ。巻き込んだぱらおの者達に拙僧が何か返せるとしたら、こんなことしかなかったのよ」

 

そう告げる釣竿齋の言に合わせるかの様に、その者達は、その体から嫌な黒いオーラの様なモノが抜け出て、瞳もキラリと光を取り戻していく。

 

 

そう、魔化流返死の術に巻き込まれた魂…かつて、海に沈んだ艦娘達や提督の魂が、正気を取り戻した姿であったので有る…


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