無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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六十六話 過去にある思い⑧

…そうして、遂に話の核心に辿り着く。

では、その事について語るため、前回の話の続きから話を進めることにしよう…

 

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さて… 

そうして、釣竿齋が、なんだか笑ってるのか悪巧みしてるのか良くわからない表情のまま、絶句しつつ混乱する艦娘達を尻目に、こう続けるので有った。

 

「まあ…根本的には相手の技量と良心に託す部分の多い雑な作戦だとは我ながら思うがの、しかし他に手は有るまいよ?誰かしらが贄にならねばならぬなら、其れは拙僧一人で構わんさ。まあ…とらっくとやらの者達が殺されぬように上手く負ける必要こそ有るが、其れは臨機応変に、と言う話かの?」

 

そう言いながら…彼は、目にも止まらぬ速さで手裏剣やクナイを投げつけて、再びこの場に居る艦娘達とついでに島田も含めて『影縫い』に捉えつつ…

ゆっくりと、雷の前へと彼は歩を進める。

 

そうして、本当に申し訳なさそうな顔を見せながら、彼はこう話を続けるので有る。

 

「すまんの、本当に酷い話に巻き込まれてると思うが…『貴殿等に責任が無いことを対外的に示すには、この泊地とやらに居る者達全員が正気でなかったと証明する必要がある』のだよ。だから、暫くは拙僧の術で…」

 

そう言いながら札を取り出そうとする釣竿齋に向かい、雷は、震える声でこう告げる。

止めて、と、ただ一言だ。

 

やはり、怖いのだろうし混乱しているのであろう、と余計に申し訳無く釣竿齋は感じながら…しかし、それで躊躇ってしまうと策の根幹が為さない為、断腸の思いでも有るが彼女の意思を奪おうとする。

 

何故ならば、厳密にはタイミングが前後しているのだが、緊急事態の発覚時に、既に正気でなく別の誰かにマインド・コントロールされていた…と為ると、その場合に於いてならば、まあその被害者に対して責任を負わせるわけにはいかなくなる。

凶賊の手に落ちたと言う点で責任者として大きな減点にはなるだろうが、事情が事情と言う話も有り、イベントが云々で何もかもを背負わせられることには為らないだろう。

 

それに、釣竿齋は本来は、九人の大本営の艦娘達は本部の元へ帰してやるつもりでも有った。

自分と言う手に負えない凶賊の手に堕ちたが故に、トラック泊地の情報だけ持ち帰らせてからがら逃げ帰った…と言う体にすれば、そちらが釣竿齋に対して攻撃できる大義名分も出来るし、任務失敗の責も問われまいだろう。

ある凶賊に正気を無理矢理奪われていた…と言う事情を彼女達経由で話せば、事情聴取と人命保護も兼ねて、トラック泊地側の人間と艦娘は出来る限りの数は保護せねばならないと言う理屈も成り立つ。

 

彼が最初の方で言った通り、トラックの艦娘達が身内に上手いこと負けて轟沈さえされなければ…真の意味で傷つくのは、釣竿齋一人で済む。

島田は道連れにしてやろう…と言う、意地の悪い考えももたげたが、まあ…アホで迷惑な娘だったが悪い人では無いのだ、彼女もついでに保護して貰えるように計らう術はいくらでも有るだろう。

 

まあ、その辺りは彼なりに上手くやるつもりでも有った。

簡単に無力化できるように弱点でも分かりやすくつければ良いし、逆に相手を殺さないように手加減さえさせられる何らかの仕込みさえできれば向こうの被害者も極力0に近付けるだろう。

其れを考えられる時間は、まあ、4ヶ月も有れば充分だろう。

 

彼が思い付いた事は、基本的にはそう言う事でもある。

ならば、今暫くの間だけでも雷には、『眠って』貰う他はなかった訳で有った。

 

だが、そんな当の雷は…震える声で、こう続けるので有る。

 

「…止めて、止めてよ…何で、何で和尚様だけ傷付かなきゃいけないの…!何で貴方が悪者にならなきゃいけないの!?そんな話、おかしいじゃない…!やり方は酷かったけど…一生懸命皆を助けてくれようとして、そしてこんなに優しい関係無い貴方一人が悪者になってまで、今も私達の分までの泥を被ろうとまでしてくれてるなんて…そんなおかしな話が有って良いわけ無いじゃない!」

 

そう言って、真っ直ぐ睨み付けながら…震える声で、必死に訴えていた。

 

自分が目の前の男に何をされるか、なんてどうでも良いと言うように。

雷は…必死に訴えていたのだ。

何で彼一人が悪者にならなきゃいけないのか、と。

 

 

そんな雷に対して…釣竿齋は、心底驚いていた。

こんなに小さい娘なのに、自分の事などどうでも良いと言わんばかりに、釣竿齋の事をおもんばかり食って掛かる雷に対して…だ。

 

そんな想いに対して、彼は本当に泣きそうとも申し訳無さそうとも言わんばかりの表情になりながら…

其れを隠すような苦笑する顔に切り替えて、彼は自分の思いを語りだしたのだ。

『過去に置いてきた思い』を、だ。

 

 

「…拙僧は、この釣竿齋宗渭こと三好三人衆が一人、三好政康は、英雄に成りたかったのだ!拙僧は、誰にも憚らぬ存在へと成りたかったのだ!!」  

 

そう、脈絡無くいきなり切り出す彼は、こう話を続ける。

 

「日ノ本を統べるは拙僧達率いる三好の一族!!細川も織田も武田も上杉も徳川も羽柴も毛利もひれ伏す千年帝国の、我は一族のその礎となり、永劫語られる天下に憚らぬ存在に成りたかったのだ!!」

 

そう、役者じみた口調で大声で語りながら…更に話を切り替える。

声のトーンを落として、今までの素の口調で、だ。

 

「…しかし、拙僧はそうは成れなかった。結局、あの時代の有象無象に毛の生えた、つまらぬ一族の男の一人に過ぎなくての。織田に敗れ一族が滅びる様をまざまざ見せつけられながら、知り合いの寺を頼りにからがら逃げ延びて…結局は、何も為せぬまま、八十過ぎまでのうのうと生き延びたのよ。情けないモノだよ、何かに成りたくて、届かぬモノにまで人を裏切り傷つけてまで手を伸ばした挙げ句、何かを為せぬままに終わった男と言うモノは、な」

 

そう言って、遠い目をしながら、こう続けるので有った。

 

「手慰みで覚えた法術も忍術も、結局は拙僧の空いた侘しさを埋めるに至らなかったが…塞翁が馬と言うのかな、何がどうなるか拙僧にもわからないモノでの。大坂の陣で真田殿が戦力が欲しいと色々かき集めておった際、まあ…その時に、色々利害が一致したのよ。真田殿は、拙僧の法力と三好の家が有った頃のツテが欲しかった。拙僧自身は…手近に金が欲しかった以上にの、名誉欲が老いて尚もたげてしまったのよ。恐らく、二度と無い大戦の中で拙僧の名を上げれば、三好の名を取り戻せるのではないか、なんて考えて…だが、結局は勝ち馬に乗れず、徳川の軍勢に敗れ犬ころの様に其処で死んだわ。我ながら自業自得な最期だったと思うよ」

 

そう言って…一拍置き、そして、今まで以上に遥かに強い口調でこう締めたので有った。

 

「だが…そんな情けない拙僧を、他人は三好清海入道として、真田殿達と共に『十勇士』として崇めていると言う!こんな何にも成れなかった拙僧を『英雄』と謳われていると言う!…道理が、合わないではないか!!どれだけ、死後の地獄で肩身が狭かったと思うのだ!ただただ薄汚いだけの拙僧を…純粋な敬意で崇められているなんて…何かに為ろうと正道に生きている一生懸命な者達へ、拙僧の為に死んだ者達へ、申し訳が立たぬではないか!!何をどう、そんな綺麗な想いへと返したら良いかなんて…正直に言えば、今でも自分でも判らぬのさ!だから、きっと…この結末で、良いのだ…!虫か何かの様に人知れず、そして、何かを為して尚、他人から蔑まれたままに死ぬが相応しいのだよ」

 

 

そう言って…彼の人生全てにある思いを、吐き出した。

 

彼は、根本的には、氏真とは様々な意味で逆な人生を送っていた。

名誉の為に誰かを裏切り続けた挙げ句、戦に負けたら彼の周りには文字通り何一つ居なくなり…

そうして、一人寂しく隠居したと思いきや、寂しさから色んな術の習得で気をまぎらわそうとし…

それでも埋められない寂しさを、老いて尚燻っていた野心の炎で埋めようとして…

そして、最期は人知れず、大坂の陣で豊臣方に付いて何一つ為せないまま死んでしまった。

 

そんな悲哀溢れる者の最期こそ、ある程度自分で納得の行く終わり方だったのであろう。

 

だがしかし、死後の彼の背中に託された思いは、過去にある思いと言うモノは…彼が思っている以上に、死んでからこそ、純粋過ぎるモノばかり積み上がっていく。

まるで、水晶細工の積み木の様に、美しく…そして、背負うにはあまりにも重いモノだった。

 

『何かを為せぬまま死んだ男は情けない』…彼の言である。実際、その通りなのだろう。

だがしかし、それ以上に、今の彼にある思いを続けるならば、きっとこうなるだろう。

『何かを為せぬ男なのに持ち上げられてしまう事の方が、それ以上に自分自身が惨めになって情けない』、と。

 

そんな自分が…閻魔の好意か気紛れで、もう一度功徳を積む機会が来た今だからこそ言えることだ。

 

きっと、自分のやるべき事は、御祓を兼ねた功を積むことだ。

今までの自分は…やるべき事がわからず、適当な修行でお茶を濁していたが、彼の中で漸く、やるべき事はわかったのだ。

誰かの…それも、綺麗な心を持った者達へ、身代わりとなり文字通り死ぬ気で何かを為さねば為らぬだろうと言うことを、だ。

 

誰かの為に涙まで見せて訴えて…しかも、こんな自分まで心配する様な御人好しな娘達の為にこそ、その命を捧げるべきなのだと考えて居たのだ。

 

 

そして、釣竿齋は今、それを形に為す。

 

こんな拙僧を想ってくれて本当にありがとう、そして、それを仇で返そうとする拙僧を…できれば、赦さないでくれ。

そう告げて…彼は、改めて雷に札を張り付けて、彼女の意思を奪ったので有った。

 

そうして…次にやるべき事はと言うと、泊地の者達を全員洗脳する前に、九人の艦娘達を元居た所へと帰さねば為らないと言うことだ。

その為に、語り部にすると言う名目で、無傷なままに解放してやる為に…件の九人の艦娘達へと目を向けた彼に対して、声をかけたのは川内である。

 

彼女はこう聞く、私達に何する気?と。

 

何もせぬ、拙僧の事を出きるだけ悪し様に伝えてくれたら、それ以上にどうこうするつもりもない、勝手に失せよ…と返す釣竿齋に向かい、彼女は…一言だけ、こう付け加えた。

私に、手伝えることは無いの?と。

 

キョトンとする釣竿齋に対して…川内は、苦笑しながらこう締めたので有った。

 

「あんな話を聞いて…私、貴方みたいな人を一人でほっとける訳無いでしょ!貴方は、きっと、貴方が思っている以上に立派だと思うよ?一生懸命で、苦しくて、それでも何かに為ろうと手を伸ばしてる今の貴方は。まるで、私が昔、本や漫画で憧れた忍者そのモノみたいな貴方を、一人だけに悪者なんて役を押し付ける真似はしたくないの!!だから…私一人だけでもいいから、貴方の力に成りたくて、仕方無いの」

 

そう言って…後は無言を貫く川内に追随するかの様に、続々と声が上がっていく。

 

 

「きっと…多聞丸も、貴方みたいな人はほっとけないかな。良いよ、私も川内とおんなじ気持ちだわ!」

 

まずは、飛龍が声を上げる。

 

「うん、まあ、川内が言うなら仕方無いね。僕も、一緒に力になってやるさ。破戒僧さん、面白そうな話をいっぱい知ってそうで退屈しなそうだしね?」

 

次に、時雨が追随する。

 

「赤いロシアの不死鳥は、伊達ではないさ。同士として、力を貸してあげるよ」

 

そして、ヴェールヌイがニヤリと笑いながら告げる。

 

「…まあ、この流れなら私も、ですね。大体、艦隊運用の基礎も知らない人にこんな作戦が上手くいくなんて思えませんし…良いですよ、榛名は、貴方に付いても大丈夫です!」

 

更に、榛名が呆れつつ語りだす。

 

「じゃあ、機械とかについては私にお任せあれってね!バリバリ手伝ってあげるから!」

 

横から口を挟む様に、夕張が自慢げにこう言って来る。

 

「か、勘違いしないで下さいよ!?鳥海さんや利根型のジュウジュニウムの保護の為です!」

 

そして、何故かツンデレ気味に、古鷹がキャラじゃないだろうにこう叫ぶ。

 

「うーん、じゃあ、ダチョ○倶楽部じゃあ無いけど…アタシも、かな~」  

 

間延びしつつ、北上が同意する。

そして…最後に、瑞鳳が、こう締めた

 

「…ごめんね、和尚さま。私達が力がないからこんな事させて…そして、そんな貴方を止められない私達を、許して欲しいの。間違ってると思う。私は、本当はこんなやり方間違ってると思うけど…代わりに何もできないし、何も思い付かない自分が情けない…だから、だからせめて、事情を知ったなら私の出来る力全部、貴方に貸してあげるよぅ…他に、私が貴方に出来る事が、本当に何一つ無いんだもの…」

 

そして…そうトリを飾った瑞鳳が…本当に色々と限界を超えて、ポロポロと泣き出してしまった。

 

そんな傷付いてしまう者達が多く出て、しかも、その歪みを元凶の深海棲艦もろともに、目の前の釣竿齋と言う本来無関係な一人の優しい男に押し付けるやり方なんて絶対に間違ってる。

もっと良いやり方だって、きっとある。

 

それでも、代案なんてマトモに思い付かないし、仮に思い付いても実行出来る手段が誰にもまるでない。

それに、彼の計画に乗らないと、今度はトラック泊地の者達が酷い目に合いかねず…本当に、瑞鳳にとってのみならず、皆の内心が八方塞がりで有ったのだ。

 

だから、だからせめて…何か力を貸してあげないと、本当に自分が赦せなかったのだ。

彼の言うように、何一つ傷付かずに本部に逃げ帰る、と言う恥知らずな真似を…あらゆる意味で、できる訳はなかったので有った。

 

 

「お主等…」 

 

そう言って…当の釣竿齋は、二の句が告げなくなる。

しかし、それでも説得をしようとするが…何処かで、無駄なことだとは感じていた。

彼女達の目が、あの時の、真田幸村の元へ集う十勇士達の仲間の目と同じ様に映ってしまったからだ。

  

或いは、実行行使で彼女達を札を張り付けて送り返してやろう、とも考えていたが…二重の意味で、それは叶わない話だったと言う。

 

そもそも、榛名や夕張が言うように、何処かで艦娘の力を借りないと破綻する計画だと彼自身が気が付いた事も有るが、それ以上に…あの時の、真田幸村についていこうとした仲間と同じ目をして居る九人の艦娘達へと洗脳する事が、何故か自分でも解らぬが出来なかったのだと言う。

 

きっと、自分自身が気が付いてない領域の話なのだろうが…それは、逆らえば命すら無いだろう勅命に逆らってまで見ず知らずのトラック泊地の者達を助けようとして、今でも、無関係な自分の無謀な計画に協力しようとしてくれる彼女達への、純粋な尊敬から、だったのかも知れなかった。

 

そして…はぁ、と溜め息を吐きながら、彼女等の影縫いを解除しながらも、宜しく頼むとばかりに釣竿齋は頭を下げたと言う。

 

釣竿齋が発端となり、大本営の裏切り者へと身を落とした者達も巻き込んだ『計画』が始まった、その本当の瞬間で有ったのだ…

 

 

「あの…自分も協力して…」

「お主は、もう、地獄まで道連れじゃこんにゃろう!!お主は本当に良心痛まんからな!?」

 

なお、ついでに巻き込んだ島田さんは、大体こんな扱いだったりそうじゃなかったりしたとか、そうでないとか…と言う話は、まあ、余談として書いておこう。


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