無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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六十三話 過去に有る思い⑤

「…そうして、まあ、密航と言うか密輸気味に国外へ逃げる羽目になっての…」

「トイレとか大変だったッス」

「…うん、バレたら最悪海に突き落とされて魚のエサ故、そこのアホが乗組員の人等にバレないようにするのは大変であった。いやさ、本当にな!!」

 

そんな感じで、船内の密航の様子を実に簡素ながらも疲れた表情で釣竿齋も島田も語り合いつつではあったのだが、まあそれは置いといて。

話は、少し飛び、トラック島へと出荷されてかの地に降り立ったタイミングから話を再開しよう。

 

 

「流石に、あんまり悪いことをしていない筈なのに南蛮へと流刑の様に出荷されてしまうのは予想外だったが…まあ、なってしまったことは仕方ない。言葉も通じぬわ、托鉢で餓えを凌ごうにも宗教が違う故に意味無いわと難儀したが…まあ、その上にアレが馬鹿力と剣術以外本当役に立たん故に、暫くは拙僧一人が法力で大道芸の様の真似事をしたり海の獲物を狙ったりと、路上生活気味に慎ましく暮らしていたのだが…」

 

そうして、そこの地で彼等がどうやって生活していたかを軽く触れながら、ソレから話の核心の序章へと切り出していく。

『神隠し』、トラック泊地の者達が次々に行方不明になる拉致事件の話に、だ。

 

 

アレは…トラックに流れ着いて更に十日ぐらいしてからかの、と彼は話の核心へと触れようとするが、さあどうやって説明しようかと話を改めて纏めようとするタイミングである人物が口を挟んでくる。

それは、榛名であった。

 

「和尚様…ここから先は私にバトンタッチしてくれませんか?その方が、多分説明がスムーズにいきますから。榛名はその方が大丈夫だと思いますし!」

 

そう言う彼女の言に…釣竿齋は、ただ一言だけ、任せると言って口をつぐむ。

そうして、榛名に説明の視点が入れ替わり…トラック泊地の大騒動の話の幕開けを語りだすのであった。

 

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~トラック泊地、『神隠し』発生、2週間後~

 

 

「…行方不明事件か~、これ、この人数が出張る案件かね?」

「うーん、確かに…コレ、単なる集団脱走とかだったりしたら、憲兵さんの仕事の怠慢だしね。上層部の人等も、やりすぎなんじゃ…」

 

北上と夕張が海上の移動中、二人で軽口を叩き合いながら今回の依頼について文句を垂れあっていた。

『トラック泊地の海軍関係者が次々に行方不明になっている』と言う事件の調査員、それに選ばれた九人と言うことへの、不満である。

 

…まあ、彼女らがぶーたれる気持ちもわからない訳では無い。

川内・時雨・ヴェールヌイ…まあ、色をつけて北上と夕張と古鷹辺りまでは出ることはわかる。

隠密行動や逃走と追走に長けた彼女らを調査員に使う理由は、確かに納得がいくことだ。

だから、北上も夕張も、自分に白羽の矢が立ったこと自体には何の不満もなかった。

 

しかし、榛名だの飛龍だの瑞鳳だの、この辺りに至っては…隠密行動には、はっきり言って邪魔だ。

いくら足は早いと言っても戦艦がこの手の任務に向かうのは向いてないし、良くも悪くも要領が悪いきらいがある飛龍や瑞鳳に関しては、この手のこそこそした調査員に性格柄合ってない。

彼女らまで連れていけ、と言われたら…多少ならず人選について文句の一つは出るだろうことは、明白だったろう。

 

しかし、榛名が彼女ら二人に対してこう返す。

恐らく、この事件は単純な話じゃない気がします、と。

そして…どこぞの少年探偵アニメのOPよろしく、無表情にパラパラを舞いながら榛名は更にこう続けるのであった。

 

「この大丈夫じゃ全く無い軍事基地の人員の拉致事件…目的が一切わからないので現段階では予想の範疇に過ぎませんが、下手したら犯人の調査中に、その犯人との交戦になる可能性が有ります。深海棲艦か…或いは、それ以上の別の驚異かはわかりませんが。そうなると、直接戦闘において火力と防御力が心許ない貴女達を守れる人員が必要になるでしょう」

 

そう言って、一拍置き…飛龍さんや瑞鳳さんは性格的に正直人選ミス感は有りますが、と付け加えながらもこう締めた。

 

「貴女達の練度が高すぎて、足引っ張らずにマトモに護衛役として動かせる人員が限られてましてね。霧島は呉に出向中ですし比叡姉様はアホですし…大和さんや武蔵さんなんざ動かせる人員じゃないですし。海外から出向していらっしゃるビスマルクさんやローマさん達は何か合ったら国際問題ですから論外で…空母の方だと、蒼龍さんや龍驤さんは横須賀の方へ任務に向かってたり、雲龍型の子達はまだ未熟で…と、まあ、消去法ですがこう言った人選になっちゃったみたいなんです。大丈夫にさせられず申し訳ないです」

 

そう言って、ペコリと頭を下げる榛名に対して、流石にそこまでさせるつもりも無ければ事情自体は把握している二人は逆に恐縮しつつ、軽率な言に対して謝り倒す。

 

そんな彼女らを時雨が心底呆れた目で見るが…ふと、気になったものが目に飛び込んだ為、それに声をかける。

それは、暗い顔をしているヴェールヌイだった。

 

「なあ、親友…君も、あのアホな連中に呆れてるのかい?」

 

そう言って、ヴェールヌイに声をかけ…一方、ソレを聞いていた夕張や北上や、ついでに榛名も怒るなか、ただただ真面目な表情でとうのヴェールヌイはその言にこう答えた。

 

嫌な、悪寒が…トラック泊地からビリビリ伝わってくるんだ、と。

 

そのヴェールヌイの言葉に対して、皆は首をかしげざるをえなかったと言う…

 

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~その会話から三時間半後、トラック泊地内~

 

 

「遠路はるばるようこそ、いらっしゃいませじゃない!!私の名前は雷、この泊地の秘書艦よ!そして此方が…」

「私が、この泊地の提督にあたる者、に成ります。わざわざ、本土よりいらしてくれて、我々に力を御貸ししてもらえるとは…感謝の言葉も見つかりません。ようこそ、おいで下さいました!」

 

そう言って、九人の艦娘を出迎えた二人の男女…トラック泊地の提督と、その秘書艦の暁型三番艦の雷。

彼等この泊地の最大権力者たる者達自らが、歓待の意思を見せるかの如く、きさくな態度では有りながらも礼儀正しく敬礼を見せながら出迎える。

 

「…後、なんであそこに居るマフラーの人は、妙に遠くに一人で佇んでるの?嫌われてたりするの?」

 

尚、その時の話であるが、雷が川内が妙に一人だけ離れた場所に立っていることに気が付き、仲間外れやイジメが大嫌いな彼女がいぶかしむ表情で、挨拶もそこそこにいきなり大本営側の艦娘達を問い詰める。 

それに苦笑しながら答えたのは、瑞鳳だった。

 

「あー…あれは、そのぅ、川内さん美人だし優しいし頼りになるし、本当は皆大好きなんだけどねぇ…見たらわかるか。川内さーん、ちょっとこっち来てー!!」

  

そして…草木も眠らぬシャカリキを決めた様な明るい日中の事だ。

ヤセンスレイヤー=サンのエントリーとなり、壮絶なるアイサツの開始点と化す!

アイサツは大事、古事記にもそう書かれてある。 

そして…ドーモと恭しく頭を下げて、ヤセンスレイヤー=サンは…

 

「いやちょっと待って、何これ!?」

 

と、ここで雷=サンのアンブッシュ=ツッコミ・ジツが地の文へとインターセプトを決める!

ゴウランガ!ヤセンスレイヤー=サン特有のアトモスフィアに慣れてない者達が一度は遭遇する、ヤセンリアリティ・ショックを発症した結果である。

  

「私もわかんないけど…多分何かの呪いかなぁ。戦闘中とかそれに近い修羅場が目の前に有ったら別だけど…普段は、妙に良い声の男の人のナレーションが脳内に響きながら、何か私の普段のやることなすことが何か忍殺っぽくなっちゃうから、周りに迷惑かけないように自主的に周りから離れてるのよね…」

 

そう言って、やるせない表情で己が撒き散らすアトモスフィアに対してげんなりした顔を見せている。ショギョウムッジョ…と、この辺りで川内が何か無駄に泣きそうな顔で再び遠くに離れたことにより、忍殺時空が無くなったことに雷とトラック泊地の提督は唖然とする、と言う一幕が有りながら。

 

 

兎に角、そうして出迎えられた側の者達も、此方こそ、とばかりに爽やかにビシッと敬礼を返し…そうして、ひどく友好的に邂逅した彼等はと言うと。

挨拶もそこそこに、衛士隊等の見張りもつけさせないまま、粛々と九人の大本営より選抜された艦娘達は雷と提督に連れられながら、執務室へと向かっていた。

そして、彼等が執務室に到着したなり、提督の勅命により執務室のドアを二重に閉めて外部からの人間も艦娘も入り込むことをシャットアウトし、窓も二重に硝子を閉めてカーテンで幕を張り外から見えなくする。

その理由は…秘密の話をするから、彼等の会話を外部に漏らさないためである。

 

トラック泊地の提督が…一蓮托生と言えるレベルで心底信頼している以上に唯一責任を分かち合える立場にある雷と、完全に外部の人間で有ったが故に『神隠し』に関わりがない事が確定している心強い助っ人九人以外には、仮に愛する他の艦娘達だろうと聞かせる訳にはいかないことだったからだ。

 

 

さて、そうして密室状態にして、執務室に彼等以外にネズミ一匹入らないことを居ないことを確認するなり、かのトラックの提督はこう切り出していく。

単刀直入に言って、つい先日…ついにウチの艦娘がやられた、と。

 

「か、艦娘…誰ですか!?」

 

飛龍が思わず口を挟むその言に、彼はこう続ける。

やられたのは、利根と筑摩の二人だ、と。

そして、その提督はこう続けるのであった。

 

「元々『神隠し』は、門番を兼ねていた陸軍隊の憲兵さんが急に連日行方不明になっていることが発覚したのがきっかけで…最初は、向こうに何か問題があったのでは無いかとクレームをつけたんですが、向こうさんの話によると『急に連日身内が行方不明になって此方がたまったもんじゃない』と怒られて…調べてみたら、坊さんみたいな格好の男と鎧武者みたいな大男が泊地付近を彷徨いてるのを監視カメラに納められているのを発見した…ここまでは、大本営に連絡したことなんですが」

 

そう言って、一拍置き、こう続けるのである。

 

「…ソレを気に病んだ利根が、『我輩がこの不埒者を取っ捕まえてやる』なんて言い出して…私や雷、それに筑摩も反対していたんですが、利根がどうしてもと聞かなくて…アイツ、憲兵隊の人らとも暇な時に良く碁や将棋指してたりしたから個人的にすっごく仲良かったんでしょうね、だからか私達もアイツの熱意に折れてしまいました。結局、筑摩も一緒に利根のフォローを兼ねて見張らせることを条件に、利根の言い分を呑んだのですが、それが不味かった」

 

そう言って…なんで私はあんな軽率な事を、と言いながらトラック泊地の提督が頭を机にガンと叩きつけながら、最後にこう締めたのであった。

 

「『艦娘』は、仮に力を十全に発揮できない陸上でもそうそう人間に負けやしない。そうたかを括った私の怠慢だ…私が彼女ら姉妹を最後に見たのは、結局、その神隠しの調査に出掛ける日の夕方のそれっきりでした。恐らく、彼女らも憲兵隊の方達と同じく拉致事件に巻き込まれてしまったのでしょうね。私は、止めることが出来なかった、最低な提督だ…!」

 

そう言って…部下の軽率な行動を諌められなかったこと、そして、部下が行方不明になっていることの両方に自分自身へと怒りを向けたそのトラック泊地の提督は、右手から爪が食い込み血が流れるぐらい強く握り拳を作りながら…しかし、顔だけは表面上は冷静なままに机から顔を上げていた。

 

 

「…わかりました」

 

そう言って、そんな痛々しいトラック泊地の提督に対して、声をかけたのは…古鷹だ。

 

その表情は、いつもの呑気な古鷹の何時もの優しい顔つきとまるで異なるモノである。

静かな怒りを、元々受けていた依頼に対する使命感やら何やらに上乗せするかの様などす黒い表情を、彼女は見せていた。

その怒りの矛先は、当然、件の下手人に対してだ。

 

「私の知る範囲で、重巡に手を出すとは…良い度胸です。憲兵さん方の敵討ちでもあり、私の…いえ、私達からしたら百は殺す理由が出来ましたね、その犯人は。我々、海軍本部直属の重巡を愛する者達の誇りをかけて、その犯人を絶対に始末することを…誓いましょう」

 

そう言って、恭しくも、しかし猛々しい殺気を放ちながら頭を下げて宣言する古鷹に対して…周囲の反応はと言うと。

雷とトラックの提督は、畏怖を覚えつつも、協力してくれることに安堵する一方で…残りの八人はと言うと、てめえの性癖に全員巻き込むな!だの、重巡じゃなくて勅命に対して誇りをかけろ!だの、ごく全うなツッコミを入れつつ古鷹をしばいていたと言う。

 

…そして、そんな彼女達が件の下手人、つまり釣竿齋に出会ったのはそんな夜の出来事だったと言うのである…


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