無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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六十二話 過去にある思い④

さて、そうして…デウス・エクス・マキナよろしく表れた堀越により戦闘に完全に区切りがついた一同は、と言うと。

 

実質、パラオに喧嘩売ったメンバー全員が投降の意思を見せたことも有り…無理矢理洗脳されていた者達は除いた全員が諸手をワイヤーで縛られつつ、と言う状況下ではあるものの。

実に大人しく、そして粛々と戦いに決着が着き…彼等は皆、洗脳されていた者達やパラオの者達も含めて、雷の案内の下に堀越が運んできた巨大なジェット飛行機…と言うか、戦闘機であるYS-0 Thunder Stormの機内に運び込まれると言う流れに落ち着いた。

 

 

「むぅ…皆も、入れるんデースか」

「放置するわけにもいくまいよ。安心せい金剛殿、暴れさせたりはせぬ故にな」

 

…例の亡霊艦隊も、一緒に乗り込んでたり、と言うこともついでに書いておく。

釣竿齋の言う通り、あのままぼんやりと、制御を失い風船の様にプカプカ浮いているだけのまつろわぬあの艦隊を放置するわけにもいかなかった為。

雷が拾い直した釣竿齋の錫杖を彼に返し、そのまま、彼の制御の下にぞろぞろと…なんだか、鴨の親についていく雛鳥の様に釣竿齋の後ろを付いていく形で一緒にYS-0へと乗り込んでたと言うことだった。

 

そして、話は…そうして、機内に全員が乗り込んだその暫く後から再開することにしよう。

 

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~戦闘終了三十分後、YS-0 Thunder Storm機内~

 

 

「…さて、どこからどう説明すべきやら…」

 

さて、そして全員が乗り込んでから十分程経った頃。

釣竿齋がこんなぼやきが出る程に、機内は相当にカオスな事になっていた、と言う。

 

そう、件の事件の首謀者たる釣竿齋はと言うと…それこそ、パラオのあらゆる者達から質問責めにされていたのだが。

しかし、彼は聖徳太子ではない。数多から矢継ぎ早に飛んでくる質問に一斉に答えられる訳はない。

右に左にと…しかもごちゃごちゃと、わりと大きな声量で色々聞かれている為に、そもそも単純に聞き取りにくい。

しかも、質問の対象者は釣竿齋だけでなく、現状『裏切り者達』と言える大本営出身の釣竿齋についた者達にも色々飛んでくる為に、誰がどう答えられるのやら…と言う、非常にカオスな様相を示していたと言う。

 

実際、極端に鷹楊な性格をしている筈の彼女らには珍しく、釣竿齋と同じように質問攻めにあっているメンバーの時雨や榛名もただただ困った顔でカオスな状況に狼狽えていたと言う辺りお察しくださいと言う具合である。

…まあ、状況を治める努力も説明義務も放棄してハラショーbot状態になって逃げてるヴェールヌイは別だったが。

 

 

とは言え、どう仕切ろうか、どう答えようか…と言う話をいつまでもカオスな状況のせいでしない訳にはいかず…この場を収めたのは、加賀と赤城、一航戦の二人である。

 

パンッ!と諸手をあわせて音を鳴らし、いい加減になさい、と赤城がドスの効いた声で全員を黙らせつつ。

一方の青いのが釣竿齋に促す、とりあえず釣竿齋さんのお話を伺ってからにしましょうよ、と。

 

それに答えるかの様に、釣竿齋自身も、うむ…と頷きながらも再び思案する、さあどこから語ろうぞ、と。

そして…ふと、鎧を脱ぎ去りちんまい素の姿へと戻った島田へと何気無く釣竿齋は視線を向けて、そうだの、と前置きしながらこう語りだす。

そこなカスの様な女のせいで、そもそも拙僧はトラックとやらの話に巻き込まれたのだよ、と。

 

「か…カスはいくらなんでも酷いぞ和尚様!!!自分は確かに、貴公に購えきれないだけの迷惑をかけてしまったが…」

 

島田が慌てて、釣竿齋の言に涙目で割り込むが…彼は、黙れい!と大声で一喝して彼女の口を閉ざしつつ。

ふう…と、溜め息なのか息継ぎなのかわからぬが、息を吐く釣竿齋はそこで一息つきながら。

『そもそも何故彼と島田がトラック泊地へとやってきたのか』と言うことを、そこから改めて話をするのであった…

 

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さて、彼の話を纏めると、凡そこう言う話だった。

 

釣竿齋が現世に顕れた理由と言うのも、ほぼ通康や氏真とあまり変わらぬ理由からだったと言う。

現世に甦り異世界の為に力を振るえ、そう命じられたからと言う話だった。

 

だが、彼の場合は氏真とは逆に、『間違いなく英雄ではあるものの生前の所業があまりにも不徳と不覚が致すことが多すぎて、徳を積まねば天へと送るに至らない』等と閻魔に云われたが故、と言う話も有り…氏真以上に切羽詰まった理由から、この世界へと放り込まれたのであった。

…釣竿齋自身も実に染みている、そんな理由から、だ。

 

そんな彼の顕れた地こそ、甲州…今の山梨県。

真田にもとても縁が深い彼らしい、そんな山梨県のとある山奥へひっそりと、釣竿齋は放り出されたのだとか。

それは、凡そ今から半年程前。氏真や通康がこの世界に顕現する、もう少し前の話だった。

 

 

…なお、ここでちょっとした余談を挟んでおく。

釣竿齋が真田にも関わり深いと言う話を彼が語ってる最中の出来事だ。 

 

真田…武田の手の内の者、だったのか?と…静かに、しかし、確りと怒りを込めた男の声が機内に響く。

それは、氏真のモノだった。

 

「そう険しい顔をするな今川殿、真田家の者達には恩義はあったとて、武田へは何の感慨も無いわ。三好家にとっての松永以上に目障りな織田に並ぶ目の上の瘤、拙僧にとってもその程度故に…黙って、聞きたまへ」

            

一方の氏真に牽制された側の釣竿齋宗渭…つまり三好清海入道でもある彼は、出自を聞かされたアンチ武田でもある氏真が言葉の刃だけでなく無意識に本身の刃に手をかけそうになったので、それを上記の台詞で諌めるなんて一幕は有りつつではあるものの。

さて、そんな険悪な一幕は置いといて話を本筋に戻すことにする。

 

さて、そうして…かつての恩人の縁の地へと降り立ったは良いものの。

彼は、一体全体にどうしろと言うのだろうか?と言う疑問と不安でいっぱいだったと言う。

 

何せ…先立つものが何一つ無い。

金を渡された訳でも、土地を渡された訳でもない。

ましてや、時代も明らかに釣竿齋の生前とは比べるべくもなく違っている。

 

彼が降り立った、鉄か何かのような固くてザラザラした黒き一本道と並び立つ鍬のように折れ曲がる数多の銕の塔…要するに、アスファルトで鋪装された道路や夜道の道路用の電灯や電柱すら、彼には何がなんだかわからない。

 

…否、道路だけならず時代も違えば土地の形状すらまるで違っているのだ。

いかに日の本に再び降り立てたとは言え、釣竿齋にとっては文字通り異世界に飛ばされたに等しいに違いない話であった。

しかも、間の悪いことに…早い段階で睦月と出会い艦隊に現代知識をフォローされていた氏真や、むしろ飛鷹や隼鷹達のが足手まといだった感すらあったものの元が無人島慣れしておりバイタリティ溢れる通康と違って、釣竿齋にはフォローに入ってくれる人間が誰も居なかったから余計であろう。

 

しかし、釣竿齋とてぼんやりする訳にもいかなかった。

彼はどうあがいても人間だ。石を枕にして川で歯を灌ぎ、そして霞を食って生きる等と言う仙人の様な生き方が出来る筈もない。

そりゃ、鉄火場としか言えない極限状態での戦慣れしているが故に、毎日風呂に入って温かい銀シャリが出て畳の上に敷いた布団で寝る…等と言う贅沢を言う気はサラサラ無いものの、それでも、あばら屋でも良いから寝床に成りそうな小屋と水源は確保しとかないと流石に餓死するか病死する。

 

だから早く何かしら小屋でも探さねば、そう思い、釣竿齋は慣れぬ山道を駆けずり回り…そして、人の気配が全く無い打ち棄てられた様な家を発見する。  

 

それは釣竿齋自身も知らぬ話で…脱サラした誰それが始めたが良いが、立地が悪くて赤字であっさり潰れた上に、オーナーが夜逃げしたせいで四年程前に廃墟になってしまった蕎麦屋の跡地だったりしたのだが…

今は、落書きだらけな上に硝子は割られて、蜘蛛の巣はおろか鼬か狸辺りの糞が室内にあるのが窓から見える、と最悪な状態ではあるものの。

まあ、それでも当座の夜露を凌ぐには上等なものだと彼は思い、悪いとは思いつつも、そこに間借りすることにしたと言う。

彼が現世に顕れた当初はと言うと、氏真や通康とはまるで違う、情けなく質素なスタートで幕を開けたのであった…

 

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「…大変だったのねぇ」

 

龍田が、釣竿齋の身の上話に同情し…釣竿齋自身はと言うと、まあ良くあった話故、と軽く流しつつ。

それから、釣竿齋の身の上話は少し時間が飛ぶ。

彼が現世に甦ってから一ヶ月半ぐらい後、島田と釣竿齋が出会った頃の話まで、だ。

 

 

さて、そんな感じで現世ライフを開始した釣竿齋はと言うと、本当にひっそりと、そんな廃墟を根城に慎ましく暮らしていたと言う。

 

廃墟で有るが故に、割れたガラスやら蜘蛛の巣やら鼠の巣だらけで人が暮らしようがなかった箇所を掃除しつつ、埃や錆は適度に落としつつ、穴だらけな窓をその辺にボロボロになって棄てられていたスポーツ新聞やらチラシやらで障子紙代わりに押さえつつ。

そうして、寝床に足る場所にまで一人で整えた小さな小さな自分の城を…まあ、不法占拠なんだがそこは置いといて。

そこを拠点として、仏門の端くれだった彼らしいやり口で、『功徳を積む』ことに一生懸命だったとか。

 

クナイを鐫代わりにして木や岩を拾っては仏像を掘ってみたり。

或いは、三好家の者達や真田の同僚を想いながら、延々と読経してみたり。

己を無にすべく、ただただ一日座禅を組み、寝ずの修行をしてみたりと言うこともあったとか。

 

そう、彼はルイス・フロイスに『神の敵』と罵倒されるぐらいの(ルイス・フロイスはキリスト教に批判的な人物に対して非常に攻撃的だった)熱心な仏教徒でもある。

釣竿齋宗渭としても三好清海入道として見ても紛れもない破戒僧ではあるのだが、彼が仏教に帰依する心は本物でもあった。

 

 

…とは言え、信仰心は本物であったとて、やはり彼は人の子だ。

お腹は空くし、喉は渇く。

 

故に、拠点としている廃墟の水道は止められていることも有り…近くの川へと、恐らくは元は蕎麦屋の掃除か蕎麦作りにでも使ってたのであろう廃墟に棄てられてあったバケツを使い、水や木の実のみならず、魚や時に鳥や蛇でも仕留めることをも兼ねて、そうした食糧を調達しようと山を下りていた。

尚、その辺の生臭については釣竿齋曰く、鳥獣の肉を喰うのではなく山に落ちている木の葉や縄や羽根を食んでいるだけよ、と言うことらしい。 

この破戒僧の言に対する正否の判断は…まあ、読者に任せるとしよう。

 

と、兎に角そう言った理由から山を下り、そして、何時ものようにそれなりの収穫と共に彼はあばら屋へと帰る。

否、その日はいつもより魚が大物かつ大漁だった為か、彼は上機嫌で、鼻唄を歌いながら戻っていた…丁度、そんな時だった。

 

見ると…自分より頭が三つほど小さい女の子が、山道を走り何か大きな箱の様なモノを抱えて必死で逃げている。

そして、それを追いかけるように、黒服でがっしりした背の高い男数名が走っている。

ばか正直に黒服は後ろから追っかけているだけでなく、良く見たら同じ格好をした黒服が山道の上の方に車を止めつつ、そんな女の子を挟み撃ちにするかの様な形で追い込んでいた。

 

 

「何だ?妙な格好をした奴らだが、落人狩りや山賊の類いにしては装備が上等過ぎるのう…人拐いか、遊郭にでも売り飛ばそうとする何かか。或いは、あの箱が狙いなのか?まあなんでも良い、録でもない奴らな事は確かよな。あんな子供を狙う輩を見逃しては、十勇士…否、人として、どうにもならんわ!」

 

…そう言って、彼はバケツをその場に置き、クナイ一本だけを持ち半ば着の身着のままで黒服へと立ち向かう。

大坂の陣では齢80を過ぎて戯れに覚えた忍術を以て猿飛佐助や霧隠才蔵に次ぐ腕を修め、既に老人だった皺のある腕に法力を込めただけで真田幸村にも劣らぬ怪力無双となった彼が…その知識と経験と法力を以てして肉体だけ若返ったのだ。

まあ、チンピラに毛の生えた黒服数名が相手ならば…獲物がクナイ一本だけと言えど、描写する必要はなかっただろう。

 

…そして、五分も経たずにけりをつけた釣竿齋はと言うと。

バケツの獲物の中身を置きっぱなしにしていることを思い出し、狐やトンビにでも横取りされては堪らぬとばかりに慌てて駆け戻ろうとする中、件の少女から声をかけられる。

 

自分を助けてくれて、ありがとうございました、と。

気にするな、拙僧の気まぐれゆえにこの事は忘れろ…と、彼が格好つけて立ち去ろうとした瞬間、きゅうううと、間抜けな腹の音がその場に鳴り響く。

…釣竿齋とその少女、双方から発せられた腹の音だった。 

 

なんだか、格好が絶妙につかないタイミングでの奇跡的な腹のデュエットに…釣竿齋は若干泣きそうな表情になり、一方のその少女は苦笑いをこめてケラケラ爆笑しだす。

そして、はぁ…と、釣竿齋は本当に大きな溜め息を吐きながら、一言だけこう告げた。

腹空いてるなら一緒に飯にしよう、拙僧も色々仕入れたばかり故…と。

 

その少女も、苦笑を崩さぬまま、ウンと頷いたのであった。

 

 

そして、四十分程後まで時間を更に進めよう。

 

成り行きで助けた少女を釣竿齋の拠点に招きつつ、彼が捕った魚を焼いたモノを一緒に頬張りながら、釣竿齋は世間話代わりにその少女の話を聞くことにした。

最初にその少女を見たときから、話を聞きたかった事でもある。

 

「あの、えらい大きな箱…大事そうに抱えておったが、ありゃ一体なんぞ?さっき拙僧がかかえたら重くて思わずふらついたぐらいのモノって、拙僧自慢ではないが力には自信があったのに、ありゃ相当だぞ?中身は何なのだ?」

 

そう、彼が気になっていた、件の少女が後生大事そうにしていた大きな箱。

善意で釣竿齋が代わりに持ってあげようとしたら…怪力自慢の彼ですら運ぶのに難儀すると言う重い物体。

中身その物も気になるし…釣竿齋より遥かに小さいなりをしているその少女が涼しい顔でそれを運んでいる姿を見たら、その少女本人にも興味が湧く。

 

故にそれに質問したと言うことだが、返ってきた答えは、こう言うことだった。

 

「あれは…島田家に代々伝わる家宝、自分の誇りの『さきがけの鎧』と言うモノなんです。自分もその鎧にあやかる様に、名前を『魁』と書いて『カイ』って読ますようにして、あれを着れるように一生懸命筋力鍛えまして。永倉…いや、杉村って言うべきッスかね。自分の親友には話してみたら笑われたんスけど、それぐらい思い入れの有るモノで…価値はそんな大した鎧じゃないとは言え、愛着の有る鎧でして。どうしても、他人に渡せないモノだったんです」

 

そう言って、少女…島田魁は、若干体育会系な中性的かつ雑な敬語ではあるものの。

土下座気味に頭を下げながら、自分以上に家宝の鎧を守ってくれた釣竿齋へと礼を言う。

しかし、とうの釣竿齋はそう言う事情は知らぬ故、反射で飛び出しただけでそこまで感謝されても身に余る。

故に、頭を上げてくれ、と彼は返すものの…島田はと言うと、逆に更に勢い良く頭を伏せながらこう続けるのであった。

 

「…アレ、実は…自分の借金のカタと言うか担保にしてたモノなんスけど。その、不渡りが色々発生しちゃって、借金返すアテが無くなっちゃったから、担保寄越せって借金取りに追われてたってのが真相でして…とは言え、家宝を手放せって言われたら頭が真っ白になっちゃって、慌てて鎧抱えて夜逃げしたんスけど、さっき借金取りの人に追い付かれちゃったとかそんな感じで…」

「おいちょっと待てええええええ!!」

 

…そして飛ぶ、釣竿齋のツッコミ。

あまりにも酷い話の内容に、思わず島田の首根っこ捕まえて顔を上げさせる。

そして、裸絞めで締め上げながら、詳しい話の内容を聞くことにした。

 

 

島田曰く、ようするにこう言う話だったと言う。

現世に顕れた理由こそ、更に二年ほど以前に顕れたと言う時期のズレこそ有れど、釣竿齋とも似た理由だったから省くとして…夜逃げする経緯について、の詳しい話だ。

 

島田は功徳を積めと言われても、それこそ、やり方がとんとわからない。

釣竿齋に負けぬ熱心な仏教徒でもあるが、彼とは違い出家したとかどうとかと言う訳ではない故に、経をそらんじることが限界で悟るだのどうだのと言う領域には届かない。

 

ならば即物的な何かこそ正解かも知れない、と思い至った。

寄付だ。金も良いし、食糧や雑貨でも良い。

慈善事業を興せば、良い功徳を積むやり方なのではないか…島田は、そう思い至ったのである。

 

しかし…学歴や保証人はおろか、戸籍も無い彼女を雇ってくれる企業など、大小どころか零細ですらなかった。

ならば自分で企業を興すしかない、そう考えて行動したのである。

 

…が、そこまでならば綺麗な話だったのだが、こっから先がしょっぱいオチがついてしまうことになる。

 

幾ら零細からスタートするとなれど、ン千万もの借金を、保証人も先立つモノも無い所から出してくれる銀行なんて有るわけがなく…結果、どこぞのアンダーグラウンドなヤのつく仕事の人らが見え隠れする、金利が法的な上限越えてるようなヤミ金から多重に借りざるを得ず。

しかも、例によって、あの艦娘ですら死にかけたアホみたいな毒飲料で勝負して…半年ちょいで自社工場が倒産すると言う悲惨な目にもあったとか。

 

それで、借金を返そうと色々…借金主に言われるままに、心身共に汚される子供には言えない仕事とかもやらされる羽目になっても涙も見せず頑張っていたのだが。

しかし…それでも首が回りきらず、ついに家宝にまで手をかけられそうになってしまい、色々限界で逃げ出してしまった…と言うことが、ことの真相だった。

 

 

「先立つモノを持たぬが故の違法な借金とは同情は出来るが…自業自得な部分が大半ではないか。一足飛びで結果を求めた罰よ、この阿呆が」

「か…返す言葉も無いッス…」

 

そんな話を聞かされた二人のやりとりは、大体こんな感じで、普通に怒りと呆れも混じった釣竿齋の説教と言うオチだったものの。

そして…そんな説教をした釣竿齋自身が、自分の言葉を咀嚼する。

『一足飛びで結果を求めた罰』と言う、己の言に。

 

そして…はぁ、と軽くため息を吐いた釣竿齋は、島田への呆れ以上の軽くない自己嫌悪に見舞われながらもこう告げた。

この場は色々見逃してやる故にとっとと失せよ、関わらぬ方がお互いの為ぞ、と。

だが…そう告げられた当の島田はと言うと、物凄く申し訳なさそうな表情で、しかし釣竿齋から顔を背けつつこう言ったのである。

 

「…その、あの…自分の借金主さんって、すっごくたちの悪い裏の大物って事で有名でして…成り行きで、和尚様、その人の手駒を片っ端からぶっ飛ばしちゃったじゃないですか…だから、その、面子を守るためにも和尚様の首を文字通り狙ってくると思うンス。しかも下手に殴りあったら、物理的には多分、和尚様一人でも借金主さんの手勢相手ぐらい何とかなりそうはなりそうだけど…自分も把握しきれないバックについてる恐い人等の銃弾飛び交う二次災害三次災害が目に見えてて…結局、その、和尚様が借金こさえた自分以上に血眼で探してるターゲットにされてる上に、こっちが手出ししにくい話になっているって可能性が高いかも…」

 

そう言って、真っ青な顔色で釣竿齋が島田のせいで巻き込まれてしまった事態を説明するに至り。

ただただ当の彼はと言うと、本当に泣きそうな表情でこう絶叫したのであった。

 

「もしかして本当にめんどくさい話になって無いかコレェェェェェェ!!!」

 

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「…と、そんな感じで…このカスを助けようとしたばかりに、拙僧、本当にえらい目にあったというか…すーつ、と言うのかの?日ノ本でひっそりと暮らしてたハズの拙僧が、突然、そんなかっちりした洋装の黒服に日中夜追われる羽目になっての…多分ならず、殴り合いなら千人相手でも負ける気はせんとは言え、手出し出来ぬ故に逃げ回るしか無くての。島田とか言う事の元凶と共に、東西南北フラフラと遁走する羽目になったのだ…」 

 

と、一度ここで区切り、彼と島田との出会いを説明する釣竿齋。

 

「じ… 自分を見る皆の目が何だか急に冷たい!!やだ、泣きたい、何これ!?」

 

そして、対する島田への視線に対するコメントは…これは自業自得。

とまあ、それはそうと、そこで話を区切りをつけつつも…もう少しだけ、釣竿齋は話を進めるのである。

 

 

そして…そんな感じで古今東西逃げ回るにも、国内では幾らなんでも限度がある。

車やバイクがなかった故に、尚更だ。

さて、それではどうするか…それは、山梨県の隣県に有る、神奈川県にまで半月かけて逃げ走った時に島田が閃いたことだ。

海路…船を使って、遠くまで逃げよう、と。

要するに、密航だった。

 

 

~横須賀港、早朝~

 

「…功徳を積もうとするハズが…なんだか拙僧、真逆の道へと突っ走っとるんだが…」

 

今は、『深海棲艦』と言う海の化け物が跋扈するこの世の中、危険な海路までは奴さんも手出しは出来ないだろう、と。

 

「むぅ…ならば、そもそも海路自体が危険で密航も何も無いのではないか?」

 

そう疑問をぶつける釣竿齋に対して、浮き世に少し詳しい島田はと言うと、チッチッチと指を鳴らしながらこう返すのであった。

 

「横須賀にはですね、呉にならぶ日本最大の鎮守府施設の有る、その名もズバリ『横須賀鎮守府』なる施設が有って、深海棲艦に対抗できるカンムスって凄い兵器が有るらしいンス!だから、最大規模のカンムスを動かせる故に、日本でも数少ない海路の窓口になってるっす!」

 

そう言って、彼女は胸を張り釣竿齋の疑問へと答える。

 

確かに、彼女の言う通り。

艦娘は軍事機密故に当時の彼女が名前以外の事を知ることはなかった為、何だかおかしな説明にはなっているが…釣竿齋には思いもよらないような、鉄で出来た巨大な船体を持つコンテナ船やタンカーが横須賀港を行き来しているのが見えている。

軍事用の資材の受け渡しのみならず、自国の生産資源の低い日本ならではな、食糧やエネルギー資源の受け渡しを行うために、ひっきりなしに様々な国籍の船が入れ替わり立ち替わりやってくる、深海棲艦とやらに海を脅かされているとは見た目には思えない程の、実に賑やかなものでもあった。

 

そんな情景に圧倒されつつ…釣竿齋は、また別な理由からため息を吐きながら島田の隣にあったものを眺めていた。

『さきがけの鎧』…島田の家宝、しかし、ヤミ金の追っ手からこの逃げ回る状況下では、あきらかに邪魔かつデッドウエイトこの上ないこの鎧。

途中、何度か棄てる様に島田に言っては見たのだが…

 

「何もかも売ったッス…誇りも…でも、コレは捨てたら私が私じゃなくなる気がするンス……」

 

そう言って、泣きながら手放そうとしないが故に、結局最後まで付いてきたこの鎧。

…そもそも、そんな物を借金のカタにしようとするな、と内心で何度も釣竿齋は毒付きながら。

しかし…何故か、本当に邪魔臭いことこの上ない物質だったとは言え、半月も一緒に逃げてたら妙な愛着も湧いてくる。

 

鎧も含めて…ここまで来たら一蓮托生、一緒に行こうか

そう釣竿齋は小声で呟きながら、今にも横須賀港を出港しようとする貨物船の一隻、そのコンテナへと呪符の付いたクナイをビシュッと投げつける。

そして…同じ呪文が描かれた呪符を、一枚は鎧が収められた箱に張り、残る二枚の札をそれぞれ島田と釣竿齋が握り締める。

 

そして…えいや!と釣竿齋が符に力を込めるなり、彼等は影の中へとズブズブと入り込み…

島田が何度もその目で見た奇跡たる彼の忍術だか法術だかの力を以て、影から影へと、鍵も蓋も開けずに巨大なコンテナの中へ瞬間移動すると言う、一流奇術師も裸足で逃げ出すような魔術で横須賀港から貨物船の中へと密航することに成功したのだと言う。

 

そして…島田や鎧も無事にコンテナの中へと移動したことを確認した彼は、安堵の表情を見せながら、ただ一言こう告げた。 

上手く言って何よりだが…つくのは何処か、良く考えたら検討も付かんわ。伊豆か加賀か土佐か…それとも下手したら薩摩か、勢いで移動したは良いが知らん土地に行くのは不安になるな、と。

 

そんな釣竿齋に対して、島田は心底キョトンとした顔になる。

これ、そんな所には行きませんよ和尚様、と。

じゃあ何処に行くのか、と釣竿齋に問われ…何だか妙に噛み合ってない会話に苦笑いしつつ、島田はこう返したのである。

 

「これ…多分、海外航路の船ッスから、そもそも日ノ本すら離れて国単位で違う場所に向かうと思いますよ?うーん、多分、日本の最近の貿易とか考えたら南の国行きかなぁ。ハワイとかグアムとか、暖かい所の方が自分の好みなんスけどね~」

 

そう言って、のんびりと密入国した後の展望を語る島田に対して…もしかして、南蛮とかそのぐらいの規模の航路の船に乗り込んじゃったの!?と青い顔で島田に質問する釣竿齋。  

そっスよ、そうでもしないと和尚様が追っ手から逃げられないじゃないですか、と真顔で返す彼女に対して…釣竿齋は、こう絶叫し返したと言う。

 

「拙僧…もしかして、えらいところまで出荷されちゃったのか!?」

 

 

…それは、まあ、その通りな訳である。

そうして、釣竿齋達はと言うと、最後は自業自得な部分があるものの…何か釣竿齋にも全く訳のわからない流れのまま流されて、こうして一週間程かけてトラック諸島へと出荷されることになる。

 

そして…それから、今回の騒動の発端となる神隠し事件が始まり、そして九人の艦娘と釣竿齋と島田がそこで本格的に関わる訳であるのだが。

それは次回から語ることにしよう。

 


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