無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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五十九話 過去にある思い①

さて…釣竿齋が禁術を使ったことまでは語ったのであるが、ここで話をホンの少しだけ巻き戻す。

時間的には、釣竿齋が件の術を使ったその四十分前程、また別な場所にて…と言う具合だろうか。

そこでは、二人の男女の会話が、続いていた。

 

 

~四十分前、某所~

 

 

「…すまない、君が気が付かなかったら、私は彼の真意を見過ごしてしまう所だった」

 

男が少女に頭を下げて、こう、一言だけ謝罪する。

 

「ううん、貴方が謝ることないじゃない!元々悪いのはアイツらで、そして…責任を取らなきゃいけなかったのは、本当はあたし達のハズじゃない。なのに、あそこまで私達の事を想って思い詰めてるなら、きっと、あれぐらいするだろう事は元々わかってたもの!」

 

女は、そんな男に対して爽やかに許し、ドンと右手で胸叩きつつ、それを張る。

 

そして…二人は『最後の舞台装置』へと乗り込んで。

ソレが旅立つ様を下手な敬礼のポーズで一人の女が送り出すのを尻目に、天へソレが向かっていく。

それは、最後の戦いのピースであることは、まだパラオの者達もトラック泊地の者達も、誰も知らないことだった… 

 

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…そして、話はまた、本筋に戻すとしよう。

場面も、件の最終決戦のクライマックスの場面にあたる時間に、だ。

 

 

「…くっそ、やりにくいな!!」

 

あのマイペースな朧が珍しく、焦った口調で目の前の『敵』へと悪態を突く。

 

その目の前の敵…かつての、パラオの艦隊だった者達の、脱け殻。

それらが、実体化して襲いかかってくると言う、オカルティックな悪夢。

朧が悪態をついた理由の一つと言うのは…彼女のみならず、まず、そんな異常事態が恐ろしいが故だった。

 

だが、そんなオカルティックな敵の強さは…弱い。

もう一度言う、ハッキリ言って弱い。

少なくとも、その実力は、敵味方側問わずな大本営の戦闘エリート達どころか、今のパラオの者達の誰にも及びはしない。

あの、機械的に操られていただけのトラック泊地の艦隊よりも動きが鈍い、と言うか、正確に言えば何処と無くどんくさい。

数だったとて、元々提督だった男は戦力ですらないので実質八人、そもそも単純にパラオ側の艦隊の方が多いという有り様だ。

 

…例えるなら、キラーマジンガの群をなんとか排除したと思った後に、バラモスを押し退けて出てきたゾーマ様が新たに召喚したのがドラキー数匹だったとか正味そんな感じである。

驚異度その物は、今まで出てきた者達の中では何より下だった。

 

 

だが、ソレが故に…非常にめんどくさい事になってるのである。

恐らくは、彼女らの実力は、そのまま生前の実力その物をコピーしたと言う具合なのだろう。

その、荒い攻撃精度も。

その、拙い連携も。

そして…その、練度不足によるダメコンの下手さによる、ダメージを無駄に受けている様も。

 

そうだ。あの亡霊のような敵に対して迎撃しようと、応戦しようと、パラオ側もトラック側も攻撃して…その攻撃は、それその物は面白いように入る。

…入って、しまう。 

 

攻撃をあの亡霊のような艦隊が受ける度、影だと言うのに、それらは血を流す。

火傷のような、或いは、打撲の様なアザが出来る。

そして、痛そうに、苦しそうに顔をしかめながら…それでも、此方に向かっていく。

 

ソレが、見ず知らずの初対面の者達だと言うのであれば、別段どうと言う話でも無かろう事だ。

せいぜい、弱いもの苛めに近い良心の呵責が起きるかどうか、その程度の事である。

実際…時間が無いと言う物理的な理由も有る、球磨を筆頭とした『氏真が正式にパラオに提督に着任して以降、顕れた者』達や、釣竿齋を止めようと一時的に寝返ったトラック泊地側の艦隊の大半は、亡霊のような艦隊相手に容赦なく行こうとしていた。

 

だが、『ソレが、初対面の者達ではなく知り合いだった』としたら…更に言えば、少なからず、好意を寄せていた相手だったとしたら…どうだろう。

途端に、それは、非情な呪いへと変わってしまう。

 

…何故、お前らは生きていて、自分達は死んだのか?

…何故、無理矢理蘇らされて、戦わなければならないのか?

…なにより、何故、そんな被害者な自分達に、矢や鉄砲を文字通り向けるのか?

そんな風に、物言わぬ亡霊のような相手だからこそ、傷つけてしまう度にそんな訴えを聞いてしまうような錯覚にまで陥ってしまうのだ。

 

特に…彼女らが直接死ぬ事態を引き起こしてしまう発端となってしまった金剛や、彼女らがボロボロの死体と化した姿を間近で見てしまった隼鷹は、そうであった。

 

「や…やだ…撃っちゃ駄目デス!!」

「ちょ、皆、止めてくれ!!」

 

…そう言って二人は、直接的に攻撃を止めようとして…

 

「う…うぉぉぉお!?隼鷹、邪魔すんなや!?危ないけん!」

「ちょ、ちょ待て金剛ちゃん!間合いに入るな、斬るから!?」

 

最大戦力である彼らを邪魔しようと、立ちふさがってしまうぐらいに、だ。

否、彼らのみならず、此方側の攻撃を邪魔しようとした、と言う方が正解だろうか。

おかげで、同士討ちを回避するために、やたらめんどくさい事になっていたのである。

 

 

…責める訳にはいかないだろう、金剛と隼鷹を。

 

誰だって、彼女らの立場だったら、あの元々仲間だった艦隊が再び海に沈む様を見たくない。

無理矢理現世に引っ張り出されて、無理矢理戦わせられている事は知っているならば尚の事だ。

彼女ら二人のみならず、元々顔見知りであり甘い性格である龍田や浜風も、金剛ら程に直接的な妨害はしなかったものの、あの亡霊のような艦隊が傷付く度に悲鳴を漏らして、しまいには泣き出したりしていたし…天龍や飛鷹も、口ではあの敵を見ても好戦的な口調は崩さないものの、相手が相手なせいで見るからに手が震えている。

 

加古はと言うと、彼女に関しては元は冷飯食いだったせいか、その辺わりと割り切りが良いと言うか『死んだヤツは死んだヤツ』としか考えて無い上に、『あの魂はとっととぶちのめして成仏させてやった方が良い』とも思ってる故か容赦なく攻撃しようとしていたのだが。

逆に言えば、『生きているヤツの事は最優先にしなきゃいけない』と言う部分は加古の根っこで有るがゆえ、浜風の悲鳴や金剛の説得が飛ぶ度に、攻撃を躊躇してしまう。

実力は既に加古があの艦隊の大半を凌駕した今だと言うのに、その実力は発揮されなかった。

 

そんな空気は、戦場でどんどんと蔓延する。

 

向こうは殺す気で、しかも機械的に襲ってくるが故に、無視する事等出来やしない。

だが、相手が相手で本気で倒そうにも、一線を越えるだけのレベルの戦意が湧かない。

更に言えば、相手が弱すぎて、逆に手加減のしようがない事もある。

しかし、早く倒さないと…

 

「と…とおさ…!ぐうっ!!」

「む……むぐ……!」

 

そう呻きながら苦しんでいる、加賀と瑞鳳の二人が窒息死するか引きちぎられるかしてしまうのが時間の問題なのだ。

悠長なことは言ってられない。

あの、影の手に捕まった二人は…後、長く見積もっても五分以内に助けてやらないと、糞尿撒き散らす死体となり果てるのは明白だ。

その二人を助ける為には、あの釣竿齋を叩くしかなく…その釣竿齋を叩く為には、釣竿齋を護る様に囲っているあの亡霊艦隊を始末せねばならないだろう。

 

 

「くっ…本当、厄介…!!あんなの、下手な姫級よりめんどくさい…!」

 

そんな相手が相手だった為か扶桑が真面目な態度で血糊も吐かず悪態をつく中で、ぬっと横から飛び出した影が、4つ表れた。

 

「…ん、大体、『見』に回って奴さんの術のカラクリは解けたにゃ。〆は私が行くから…テメーら、好きなように引っ掻き回せ、にゃ!」

 

まずそう言って出てきた…睦月。

 

「ぽいぽーい、要は私達で引っ掻き回せってオーダーね。改二の初陣にしちゃ素敵とは言いがたいけど…まあ、私にはお似合いっぽい?」

 

次にそう呻きながら表れるのは、夕立。

 

「むー…主役を渡すのは主人公さん的にはあんまり好きな展開じゃないんですが、まあ良いです。因縁有る睦月ちゃんが、キッチリあの亡霊さん達にケリつけてください!」

 

更に出てきたのは、主人公こと吹雪。

 

「ふふふ…真の赤いひげの力、解放する時ね!敵は全てクズ!愛など要らぬ、ひれ伏すのよ!フハハハハハハ!!!」

 

そしてトリを飾るは、赤い髭の力を得た人だった。

 

「って、なんで聖帝様にゃし!!?」

「退かぬ媚びぬ省みぬぅ!?」 

 

…もとい、更に方向性が迷走し出した、睦月にしばかれてる霞で有ったのである…

 

 

 


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