無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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五十八話 蘇りし魂の、告げるゴング

…魔化流返死の術。

 

そう告げた釣竿齋が、法力と忍術の奥義により放たれた後に顕れたもの。

それは…黒煙を巻き上げて顕れた巨大な影の塊である。

影の塊は、直ぐにぐにぐにと形を変えて…幾つかの影へと分かれていく。

分化する幾つかの数は、ひいふうみいと続々と増え…それは、最終的には、9つの影となり分離する。

 

その影は、そうして分かたれた後…また、粘土の様に、形を変えて姿を成し色を為す。

9つの影は、8つは女、1つは男の姿となりて次第にその姿を完成させていた。

 

一人は…色っぽい空気をまるで隠そうとしない、『男の理想の女』をそのまま形にした様なミドルにカットされた茶髪の巨乳の女性である。 

ビキニの様に面積が狭い扇情的な服装を、羞恥心を全く見せず着こなして…そして、背負うは巨大な砲塔だ。

そんな、一見ハチャメチャな格好をした姿をしているのに妙に落ち着いた空気を何処と無く匂わせる、まるで、家庭教師の様な評価をしたくなる不思議な女性である。

 

一人は…生真面目な空気を纏っている、黒髪の女性である。

青い、水先案内人を彷彿とさせる爽やかな服を身に纏い…それ以上に、そのぴっちりした服の上からでもわかる豊かなスタイルは一際目を惹く。

しかし、何故かその姿には…妙な余裕のなさが、身体全体から放たれてはいた。

 

一人は…桃色の短めの髪をポニーテールに束ねた、蒼い瞳をした少女である。

何となく…妙にちょこまかした空気感がひしひしと、全体的に伝わってくる。

そして、そのセーラー服の胸の辺りに掲げられたカメラが、妙に印象的に黒く煌めいている。

 

一人は…和服を纏う、ポニーテールの黒髪の背の低い美人である。

年若い少女…の、ハズなのだが、何故か異様に老けて見える謎のオーラが全体的に放たれていた。

老成した性格が滲み出ているのか、そのモデルが古いせいなのかは定かでないが…居酒屋か何かの若女将、そんな評価がしたくなる少女だ。

 

一人は…ピンク色の長いサイドテールを、包帯の様にリボンでぐるぐる巻きにした不思議な髪型の女の子だ。

とは言え、よくも悪くも、それ以上の濃い特長が無い。

それが却って妙な安心感を覚える、そんな『普通の女の子』だった。

 

一人は…紫色の長髪の、同じくサイドテールに束ねた花を付けた小柄な少女である。

その顔つきからでも判るように、その気の強そうな瞳からは彼女の性格が読み取れる気がする。

無表情だと言うのに、不思議な話であった。

 

一人は…ストレートヘアの長い髪をした、蒼く染めた髪の純朴そうな女の子だ。

白を基調とした、清潔感のある制服に身を包んだ、やや背の高い女の子でもある。

そして、何故か守ってあげたくなる様な空気を滲ませていた。

 

一人は…無表情なままでかっちりした空気を持つ、軍人らしい軍人の少女である。

その無表情な瞳には…元々は殺気溢れるものが宿っていたのであろう事が用意に読み取れる。

だが、何故か…本当に何故か、平時の神通並のポンコツ臭が溢れていた。

 

そして最後に、その少女達の中で浮いている、白服の軍服を着た、年若い顔つきの青年が…

本当に物理的な意味で、身体をくの字に折り曲げられて、ふわりと浮かされている。

 

 

そんな、唐突に顕れた9人の、恐らくは艦娘であろう8人と軍人一人。 

対するは、先程動けるメンバーが全員が一ヶ所に集まった関係で、そのパラオ・トラック側問わぬもの達のその半数以上は、本当に何の脈絡もないまま突然顕れたが故に混乱するものの…

大半の連中が意味がわからないまま、威嚇しようとしたり防御体勢に移ったり、赤城に至っては即迎撃を開始しようと弓に手をかける中での事…『その正体を知る』メンバーだけから、異変が起きていた。

 

天龍・龍田・加古・浜風・睦月・金剛・飛鷹・隼鷹の八人だけは、死ぬほど驚いた表情で、パニック寸前のまま彼女らを眺めている。 

口をアワアワさせたり、マジか…と小声で呟いたりする者は当たり前。

金剛や浜風に至っては、泣きそうとも恐れているともとれる表情に陥り、腰を抜かしていた。 

隼鷹は…突如顕れた艦娘達を見て、かつての記憶が蘇り、珍しく酒は入ってないハズなのに吐きそうにまでなっている。

 

そんな本来のパラオの艦隊である艦娘らの異変に他の者は目を向けて、唐突に、先程金剛が言っていたことを思い出す。

…ここは、皆が眠る地だ、と。  

  

そんな言葉を思い出して、他の者は答えにたどり着く。

突如顕れた艦娘達の、正体を…

 

 

「…貴様、前のパラオの艦隊を…その、死体を!!」

「如何にも、今川殿…と、言いたいが、利用したのは魂のみよ。これぞ、拙僧の禁術の一つなり!」

 

 

陸奥、高雄、青葉、鳳翔、由良、曙、五月雨、不知火…そして、彼女らを纏めていたであろう、更に言えば、氏真が顕れるまでパラオの艦隊を纏めていたであろう提督。

…そう、かつて無謀な特攻作戦と共に敵と相討ちとなり、深海棲艦と共に海に消えた者達の、成れの果てであった。

 

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「…法力と言うものはの、そもそもが、迷える衆生の悩みを解き放つ術の体系よ」

 

…さて、そうして、いきなりかつてのパラオの艦隊の魂を召喚した釣竿齋はと言うと。

 

釣竿齋は、誰に聞かれてる訳でもないと言うのに、淡々と口を開き語り出す。

そして…こう続ける。

 

「その衆生の悩み、古今東西最大の悩みと言うものは、富の執着を除けば『死』への恐怖の只一つ。それ故…不老不死の術は、数多の者が追い求め、そして…誰も、その手段を見つけられなかった」

 

ただただ、釣竿齋は続ける。

まるで、子供を寝かしつける母親が、本を開いて物語を語るかの様に。

 

「故に発想を変えたのも拙僧の先人よ、『死が逃れられぬならば、逆に考えて死した魂を何時でも蘇らせる術を創れば、それは不老不死と変わらない』と…命や魂を舐めた話であろう?だが、その研究は不老不死の術よりも遥かに進み、ある程度の形をなした。この術も、その結果の一つ」

 

そして…ここで一拍置き、まるで舞台俳優の様な仰々しい口調でこう締めた。

 

「…南蛮では、土塊を金に変える術を『錬金術』と呼ぶそうだが…これもまた結果は同じよ。如何に錬金の法をかけた所で土塊は土塊のまま金に変わらない様に、死人は死人で変わらなかったが…良くできた『もどき』は幾らでも出来たのよ。この術は『その地に眠る死人の魂を、意のままに操る人形の様に一時的に現世に現界する』術…まあ、南蛮では、ねくろまんす、とでも呼ぶのかの?古今東西、皆、考えることは同じようだったわ!」

 

 

そう言って…わざとらしく、カンラカンラと笑う釣竿齋に、加古は怒りを込めた表情で釣竿齋に吠える。

てめえが、死んだアタシの仲間達まで利用したのか!!と。

然り、と答えた釣竿齋に向かって、睦月は横から更に質問を重ねた。

どこで、皆の事を知ったのだ、と。

 

そう問われた釣竿齋は…ニヤリと笑いながら、こう告げたのであった。

 

「…皆、あの時、パラオに雷を潜り込ませた時に、その雷だけに目をつけておったがの。『装備妖精』とやらはまるで警戒しておらんかっただろう?そこから情報を抜く事など、赤子から物を取るに等しかったわ」

「にゃ…!?そうか、妖精さんは盲点だったぞ…」

 

そう、何故、無関係な釣竿齋が死んだ者達の事を知れたのか。

彼が言うように、それは一重に、雷だけでなく彼女の妖精さんをも操っていたからでもある。

そこから、資料を盗み見ていた、と、そう言うことだった。

 

明かされてみれば、実に単純なトリックを自慢気に…それも悪役調にわざとらしく告げる釣竿齋に、耐えかねた2名が釣竿齋に口を出す。

加賀と、瑞鳳の二人だった。 

 

 

「貴女…何故そこまでして、自分で認めるほどの外法まで使って、戦いに挑むのですか!?もう、今更闘う必要が何処にあるのです!」  

  

珍しく、加賀は一切ふざける事もなく、釣竿齋を諌める様に口を出す。

瑞鳳も、同調する様に、こう続けた。

 

「そう…そうだよぅ和尚さま!!皆、きっと皆、事情を話したらわかってくれるハズよぅ!!あんなの、和尚さまが悪い訳じゃないんだもの!」 

 

 

…そう言って、説得にあたる二人に対して、釣竿齋はと言うと。

一瞬、本当に一瞬だけ、素の表情で…それこそ、どう償おうか、と言う表情になりながら…それは、だれにも見せないで。

そして…釣竿齋は、何も言わずに彼女らに向けて、札を張ったクナイを一本ずつ、彼女らへの返答代わりに投げつけた。

 

そして…海水の上だと言うのにそのクナイはそれぞれ、二人の影に、まるで家の壁に画鋲を張るかのように刺さったかと思いきや。

その札から、暗い闇の様な黒き無数の手が影の中から伸びてきて、二人を荒縄の様に縛り付ける。

慌てて振り払おうとする二人だが…それを引き剥がすことが出来ない。

 

慌てて、加賀に伸びてきあ影の手を天龍が、瑞鳳の影の手を北上が引き剥がそうと引っ張ろうとするものの…

純粋な腕力で、それをなんとかすることなど、出来やしなかった。 

手足の他に、口をもその実体化した影に締め付けられて、非常に苦しそうにジタバタもがいている。 

口や鼻を押さえ付けられて息も上手く出来ないようで、酸欠にもなりかけていた。

 

そんな二人を見て、慌てた表情で古鷹が釣竿齋に問いただそうと吠える。 

やりすぎだ、二人を放してやれ、と。

だが、釣竿齋は古鷹に対して全く意に介さずにこう続けるのであった。

 

 

「…まさか、古鷹といい瑞鳳と言い、否…見た所、ヴェールヌイと時雨と北上も、か?まあ良いわ、半ば裏切りじみた真似をするとは…拙僧は、裏切り者も、それに同調して秘密を知った者をも、生かして帰す趣味は無い。このままならば、そうだの…瑞鳳と、そして加賀と言ったか、二人の命は絞め殺されるにそうはかかるまいよ」

  

そう告げる釣竿齋に対して、一瞬だけ古鷹は言葉を詰まらせながら。

しかし、すぐに、和尚様、瑞鳳達は裏切った訳では…!と声をかけようとするものの。

黙れ、と一言でぶったぎられた挙げ句、彼はこう告げたのであった。

 

「拙僧が少々お人好しじみた真似をしたら…ころりと騙されおるわ、拙僧の目的など、お主らに語ったことなど嘘っぱちよ。拙僧の目的など只一つ、艦娘とやら、それを建造し支配できる鎮守府とやらを制圧し一国の王となること以外あろうハズも無かろう!トラック泊地とパラオ泊地の二つを潰し合わせ、疲弊した所を拙僧が全て叩き潰すと言う計画…大本営、だったか、本土の艦娘達をも騙して成した計、これが最終幕よ!!」

 

 

な…と、釣竿齋の言に対して、あまりにもあまりな内容に、聞いた全員が唖然とする。

 

この男は…ここまで卑劣な計画を立てていたのか、と。

ここまで、最低な事を吐けるのか、と。

その場に居た殆どの者達は、敵味方陣営を問わず釣竿齋へと怒りを向ける。

 

否…大本営側の艦娘の数名は、一瞬で釣竿齋の思惑をも看破したものの…しかし、状況が状況の為にそれを伝える時間が無い。

それを伝える前に…恐らくは、瑞鳳と加賀の二の舞と化するだろう。 

口封じに、彼女らの様に、締め上げられるのが先だ。

 

それに、瑞鳳も加賀も、全身をくまなく無数の影の手にしばりつけられて、身体を締め上げられている。

扇情的な光景…などと言っている場合ではない。

早く助けないと、二人の命が物理的に危ない事もあり、優先順位はそちらが先に成っている。

 

要するに…状況を理解出来てないパラオのメンバーはおろか、釣竿齋の人間性を大体把握できているトラック泊地の大本営側の艦娘をも、やることは共通に成ってしまったのである。

最優先事項は…『釣竿齋の無力化』、それ以外に、無いと。 

 

 

そう覚悟を決めた者達の中で、最初に口を開いたのは…氏真だ。

 

貴様…誰に手を出したのか、本当にわかっているのだろうな?と

そして…何を利用したのか、本当にわかっているのだろうな?と

 

釣竿齋は、こう返す。

わかっているのなら、どうだと言うのだ、貴殿は?と、挑発するかのように。

 

「…人の部下の友の魂の安息をも土足で踏み荒らして手駒にし、娘とその友人で、ましてや貴様の部下の命をも貴様の身勝手で殺そうと手をかけようとするとは…貴様だけは生かしては帰さん!!釣竿齋宗渭よ!!」

 

そう言われた釣竿齋は、然り、と口角を上げながらこう返した。

 

「ならば、貴様の娘の命を救うため…瑞鳳の命を救うため…そして、そこの者達の魂を解放するためと言うのならば、是非もなし!貴様ら、この場に居る全員が一斉にかかってこい!拙僧を、殺しにな!!」

 

そう告げる釣竿齋の号令を合図に、元のパラオの提督だった軍人の男が無言で右腕を水平に掲げる。

それに合わせて、鳳翔は弓を、残りの甦った艦隊は砲撃を、一斉に発射する。

 

それが、この戦いの最後を飾るクライマックスの、ゴングとなったのだ…!


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