無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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六話 決戦直前

さて、氏真が睦月と抱き合ったまた暫く後の話をしよう。

時刻としては七時半頃だろうか。

浜風手製の御御御付を夕食にみんなで平らげた後、氏真は何をしているかと言ったら…

 

「だぁ!畜生、また負けたよ!向こうは飛車落ちだってのに!」

「ふふん、中々面白いもんだな、今の将棋とやらは」

 

…加古の部屋で、加古と二人で将棋を指していた。

 

 

実は氏真が食事中、何かしら暇潰しに成りそうなおもちゃを見つけたんだがルールがわからない、と整理する過程で執務室でたまたま見つけた前提督の私物だろう将棋盤と駒の話を何気無く口にした。

 

加古はその話を受けて、ついこう言ってしまったのだ。

戦国武将なのに将棋も知らなかったとは予想外だけれど、なんならアタシが教えようか、と。

そんな成り行きで、二人で将棋盤を囲んでるという訳で有った。

 

尚、余談としてではあるが。

 

氏真自身は将棋に関する文献はないが、氏真自身は芸事の達人であり遊戯好きということで「将棋」もそれなりにルールを知っていた可能性は高い。

とは言うものの、実は今の将棋の「9×9の盤面で駒が20枚、敵の駒を取ったら自軍として使える」というスタイルが完成されたのは実は江戸時代中期頃と言われている。

それまでの将棋盤というと、下手したら囲碁盤並に目が細かくてもっと盤面がでかく駒の種類も多彩、取った駒はその場に置きその闘いでは使えない…と、どちらかと言えば、チェスに近いルールでプレイしていたのである。

 

そんなわけで、実際の所は将棋初心者というか将棋復帰勢のような氏真。

現代のルールを把握したら、そりゃ素人レベルの加古では勝てなくなってしまうのは、まあしょうがない話でも有った。

 

 

「…しっかし、良いの?」

 

さて、そんな成り行きで加古は氏真と将棋を指して、終局を迎えた際の事。

じゃらじゃらと、加古は将棋の駒を盤面に並べ直しながら、ポツリと語り出す。

氏真は取った手駒を加古に返しながら、それに答える。

良いって、僕が呑気に将棋を指している事かい?と。

 

「うん、それそれ…もうすぐ出撃するんでしょ?氏真さん」

 

そんな感じで加古は氏真の返事に対して半ば呆れるが、氏真は少しだけ笑いながらこう答えた。

 

「まあねえ…亥の刻(夜10時ぐらい)には出立するつもりだけれどね、夜襲をかけるにはまだ明るいから」

 

パチン、と将棋の駒を並べ直しつつ、氏真は更にこう付け加えながら。

 

「あの、深海棲艦の補給線、あそこを狙うには…ね!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ここで、話の時間を巻き戻し、睦月と氏真が資料を見つけたタイミングに戻す。

 

そう、あの睦月が偶然見つけた資料。

そこには、深海棲艦が湧くポイントにあたる場所が、いくつか書かれて有った資料である。

地図にいくつか手描きのマークや文字を付けてある、対深海棲艦の資料で有った。

 

それは、前任の提督からしたら「敵が沸いてくるところをしらみ潰しに叩いて全滅させる」為に作った地図なのだが…氏真からしたら、別の見方をできる資料でも有った。

敵の出現位置、或いは守護している方向を見る資料であり、それはつまり…その守護する場所を辿れば、必定補給線の場所なりも把握できる資料、とも取れる。

 

氏真は、単純に言ってしまえばその補給線を叩き、資材を奪い去ろうと画策していたのだ。

 

…戦下手、とよく誤解されがちでもあるが、氏真は家康と互角に刃を交えたり「武田の塩止め」を画策したりと、この手の策略・計略を読むのだって苦手でもないのだ。

 

 

「…何でこれが暗愚呼ばわり無能呼ばわりなのか、睦月本気で理解できないのだぞ…」

「…昔から部下に強く命令するのがどうにも苦手でねぇ、僕は」

 

尚、この作戦を執務室内で資料チラ見した際に速攻で立てた際の睦月とのやりとりはこんな感じだったりしたという。

…天は二物三物与えても、氏真から上司の才だけ根こそぎ持って行ったらしかった。

 

 

さてさて、脱線した話を修正するとしよう。

 

そんな作戦を立てた氏真は食事前に皆に伝える。

…まあ、やることというと、また一人で出撃してモンハンどころか最早深海棲艦さん家狙いで強盗する気でいたのだが。

 

それを止めたのは龍田である。

流石に夜襲を海上で徒歩で仕掛けるのは無茶苦茶だ、と。

とは言うものの、君らが出るには兵站や弾薬が足りんだろう、と氏真は反論するが、

流石に夜中に深海棲艦がうようよしている場所に生身はSENGOKUのBUSHOUでも無茶だから!と龍田は更に涙目で止めに行った際、それを遮ったのが加古だった。

なら、アタシも手伝うよ、と。

そして、こう付け加えたのである。

 

「なら今こそアタシが役に立つ番だよ!戦闘じゃあ足引っ張るかもだけど、それでも盾や足にはなれるハズだから!それに私は燃料とか弾薬も完全に無傷だから、1回2回ぐらいの出撃ならなんとかなるハズだぜ!」

 

…かたじけない、と氏真は頭を下げた、というのがこの加古の台詞に対する返答だったという。

前述の将棋によるコミュニケーションも、二人での連携を少しでも上げようという意図も有ったのは言うまでもなかっただろう。

 

 

なお、浜風だけは氏真のおぞましいBASARA武者っぷりを知らなかったので、何もかも氏真の話に付いていけずぽかんとしていたと、余談として追記しておく。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そんなわけで、長々と二人で将棋盤を囲んでる理由を説明していた訳であるが。

 

「…さて加古ちゃん」

 

将棋で飛車角落ちでも加古を圧倒しながら、氏真はふいに声をかける。

今、どんな気分だい?と。

加古は照れ臭そうに笑いながら、氏真に対してこう答えた。

 

「…正直、初めての出撃は怖いよ。不安だし、氏真さんの足手まといになりそうで、今になって震えてる」

 

そうか、と真面目な顔で氏真は答えるが、加古は更に顔を赤くしながらこう答えたのだ。

 

「でも、不思議だよ。何故か悪いことに成らない気がするんだ、きっと、アンタがアタシに力を貸してくれるなら!」

 

そうか、と…今度は氏真は優しい顔で答えると、パチンと加古の玉を詰ませつつこう宣言したのだ、

 

「なら、そろそろこの鎮守府を救う第一手も指しに行きますか!朝比奈さんみたいな心強い仲間も居るしな!」

 

 

そう、氏真と加古による夜襲作戦、その開始の宣言で有った。

…なお、余談ではあるのだが。

 

 

「…ところで朝比奈さんって、誰?」

「…ウチで一番強かった家臣なんだけど…地味かぁ……」

 

こんな会話で、オチもついたとか、つかなかった…とか。


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