無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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注意
対時雨への攻撃は、良い子の皆は絶対に真似をしないように
下手すると、死傷者が出ますので、くれぐれも


五十五話 VSトラック泊地の艦娘

激しさを増すトラック泊地の傀儡達からの攻撃を「見切った」と豪語する、天龍の言。

それがどう言うことか…話は、まずそこから始めるとしよう。

 

 

やっぱり、な。

天龍は、内心で確信しながら、攻撃してきた敵の攻撃パターンを頭に入れていた。

 

まるで、機械のように正確に『隊から見て一番近い艦を最優先に攻撃してきている』。

まるで、機械のように正確に『一定の艦のグループによる波状攻撃が、信長の三段撃ち伝説がごときオートマチックさで飛んで来ている』。

そして…まるで、機械のように『攻撃から次の攻撃隊のターンに回る隙に全ての攻撃が一瞬止んでしまう、インターバルが存在する』事を、だ。

 

恐らくだが…と、天龍は無い頭を振り絞りつつ、傀儡達の行動がどう言うことかと言う事を考える。

そして、得た結論はと言うことは至極単純だった。

『敵の動きは冷静に見たら本当に単純』、そして『決まってたターンが来たら、隙ができる動きが必ず発生する理由が有る』と言うことだ。 

 

 

そう、そうなのだ。

…確かに、ただでさえトラック泊地の艦隊の数はパラオの艦隊の総計の三倍以上有る。

或いは錬度の差を考慮したら、五倍は有るかも知れない…そして、戦力を分断してる現状、現状の戦力差だけを語るならば20倍以上を見なければいけない、絶望的な数値だったろう。

 

しかし、良く考えるならば、『それを釣竿齋一人がその数を常に最適解としてマニュアルで操縦する』なんて真似…いくらなんでも出来るわけがない。

雷一人の時ですら釣竿齋はセミオートな操縦が精一杯だったのだから、もうこんな60人近い艦隊を動かすとなると『固定パターンを組んで動かす』と言う手を取るしかなかった、と言う理由が有る。

それこそ、初見の時ならば、数が段違いな以上そんな動きですらとてつもない威力に成るのだろうが…しかし、天龍でなくても、ある程度相対したら種が割れることでも有ったと言う。

 

そして…極端に対策しやすく見切りやすいだろうトラック泊地の動きと言うそれも、有る意味で『計画』の一貫では有ったのだが、それは置いておく。

 

しかし、天龍はそこまで難しいことには思い至らない。

戦闘中でもあるし、地頭だったとて良くない。

ただ、それでも…そんな機械のような敵をどうしたら返り討ちにできるか、と言うことは、天龍は良くわかっていることだった。    

 

 

「師匠、技をお借りします!でりゃあああ!!」

 

天龍はそう告げるなり、己の艤装たる刀を海面に突き刺して…そのまま、エンジンをフルスロットルで吹き、敵陣へと最大戦速で突進して突っ込んでいく。 

 

敵陣から飛んでくる機銃や砲、魚雷、そして艦載機からの空襲。

いくらなんでも旧式艦の天龍一人で、いくら極端に読みやすいだろう敵のそれをかわしきること等出来やしない。

横から見ていた浜風や龍田が涙目でその様を見て絶叫し、扶桑や隼鷹は天龍に戻れと大声をあげる。

 

だが…当の天龍は、まるで意に介さない。

敵の攻撃そのものに、妙な既視感や違和感をも感じるが…それでも、ダメージが無い訳でもない。

それでも、こんな『歯車の様な連中の、それも無理矢理戦わせられている艦娘の』攻撃なんて…痛くないと思えば、天龍にとってはまるで何ともなかった事である。

 

そして…『借りる』と称した、師の技で。 

師から授かった『天龍』と言う己の名前にも相応しいだろう、二人を繋ぐ龍の息吹が…斬るべきそれを斬り、焼くべきそれを焼く。

剣と空の摩擦が刃を灼熱の爪と化し、斬った軌跡はあまねく敵をも塵と化す牙となる、文字通りの必殺剣。

 

「『龍飛剣』だ、行けええええ!!!」

 

  

そう叫びながら天龍から放たれし、永倉新八から受け継いだ逆袈裟斬りの秘剣の乱舞。

その一撃が、幾度もトラック泊地の艦隊へと次々に襲いかかり…まるで、時代劇の雑魚の敵浪人の様に、バタバタと伏せてしまう。

 

そうなると、もはや天龍一人での独壇場だ。

何せ、敵は何度も言う通り機械のようににしか動くことしか出来ない。

言い換えれば、歯車がごっそり抜けるようなトラブルが発生したとしたら…今回の場合だと、内側から潜り込まれて、そこから斬攪されたとしたら、もうガタガタだ。

慌てて天龍を敵が狙おうとしたら…そこを狙い撃ちにされて、逆に天龍の剣の餌食になる。

 

或いは、敵同士が半端に密着しているせいで同士討ちすら発生したりした。

なにせ、『トラック泊地の傀儡部隊』から見て一番近くに居る敵は、龍田達が居る所や大本営のエース隊が居る場所でも氏真や通康の居る場所もなく、内側のど真ん中に居る天龍そのものなのだから…ただただ単純な思考パターンのせいで、自分に向けて攻撃しあい自滅する羽目にもなっていた。

 

そうして…それから、三分程経った頃だろうか。

 

天龍は、ただ一人に向かってくる激しい攻撃を受け、かわし、そして斬り伏せ続けた。

そして、それは…龍田達、残りの部隊が腰を抜かしかけていた浜風や足の遅い飛鷹・隼鷹姉妹や扶桑と足並みを合わせて慌てて戦闘領域に立ち入った瞬間に、終わりを告げていた、と言う。

 

 

「あー…龍田、てか、みんな。もしかして、心配させた?」

 

そう言って、ふらふらとよろめきながら立ち上がる天龍の前には…気絶したであろう、トラック泊地の敵部隊全員が死屍累々と言う、とてつもない光景が広がりを見せている。

明らかに格上だろう、戦艦クラスの長門型や伊勢型をも斬り伏せたその異様さと…何よりも、ボロボロになっていたとは言え生き延びていた天龍の姿を見て。

マイペースな扶桑ですら安堵し、あるいはぺたりと腰を別な意味で抜かしたり、あるいは…

 

「無事で良かったですよぉぉぉおお!!」

「うわ、浜風、引っ付くなぁ!?」

 

感極まり天龍に抱きつく者も、居た。

 

「うわぁぁあん!一人であんなむちゃくちゃするなんてぇ!!し、心配させないでくだ…あ、柔らけぇ、あったけぇ……」 

 

…そして、今回ばかりは無意識とは言え、浜風が安堵したタイミングでたゆんとした天龍のものが頭部に触れた瞬間にHENTAIの波動が蘇り、龍田に拳骨を喰らってたとかなんとかと言う一幕もあったが、それは置いといて。

 

そんな、柔らかいたゆんとしたものにわざと顔を埋め出した馬鹿を尻目に…飛鷹は、在ることに気がついた。

それは…

 

「まぁた…器用に仕留めたわね、天龍」

「おう、雷の事がヒントだったぜ。何せ、敵さんは『弱点』が丸出しだったからな」

 

そう自慢げに天龍が歯を見せて笑い、浜風をいい加減蹴飛ばすとヒラヒラと靡くものを左手から差し出す。

そこには、天龍が切り裂いただろう、札の残骸が握られていたのであった。

 

 

そう、天龍が『龍飛剣』を以て斬り伏せたのは、艦娘ではない。

あんな『被害者』を…あんな、雷と同じような目にあった同胞を斬るなんて真似、天龍に出来るわけはなかった。

ならばこそ、彼女が斬るべき物は決まっていた。自由を奪う、あの札だ。

 

何故あんな分かりやすく弱点をこれ見よがしに張ったのか、それは天龍にはわからない。

天龍にわかることとは、あのくそったれた札が斬りやすい位置に張ってあると言う事実だけだ。

ならば、やることは決まっていた。師から継いだ龍の剣で、自由を取り戻すために突っ走るだけだから。

 

そして…天龍が予想した通り、あの札を叩き斬る度に、パタリパタリと開放されたかの如く艦娘達は気絶したのであったと言う。

 

「むちゃくちゃだけど…天龍、強くなったんだな」

 

素面で冷静になっていた隼鷹が、思わず口を開き、えへへと天龍が自慢げに返そうとしたその瞬間…

 

 

「天龍さん…おしゃべりが、過ぎます」

 

朧が裏か表かわからないが、兎に角一言だけ口を開き爆雷を天龍の足元へと思いきり投げつける。

 

「ちょ、おま、危ねぇぇぇ!!ざっけんな、いきなり何しやがる!?」

 

慌てて飛び退いた天龍が転びそうになりながらもギリギリでかわし、そして、天龍はそのまま感情にまかせ朧の首根っこを掴み出す。

そして…いきなりの味方への攻撃と言う朧の暴挙のせいで凍りつく途端、爆音が水中から鳴り響き、そして浮かんでくる一つの影が天龍が元々居ただろう場所から浮上してきたのである。

それを見届けるなり、朧はポツリとこう告げたのであった。

 

「…伊号の、多分見たところあれは168でしょうかね。潜水艦の警戒、天龍さんしてなかっただろうからソナー使って黙ってサーチしてたんですが、案の定でした。あの大艦隊の影に隠れて一体だけ離れた場所に潜水艦が居たんで、爆雷の有効射程距離まで寄ってきたのを見て迎撃した次第ですよ。下手したら背を向けた瞬間に全滅しかねなかったので、攻撃を優先しました」

 

 

そう言って、爽やかに笑う朧に二の句が告げなかった天龍は、ただただばつの悪そうにしまらねえなぁ…と、だけ告げる。

朧は、TCGも艦隊戦もサーチは最重要ですよ、とだけ付け加えながら、周囲の『強敵』を抑えてるだろう仲間たちを心配しつつ、168…と見立てられてたが実は58だったりした、トラックの潜水艦から朧は額の札をベリベリと力ずくで引き剥がしつつ戦局を見渡していたのであった…

 

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~一方、別な戦場で~ 

  

そうして、トラックの操られていた者達が開放された中。

その一方で大本営の者達と戦っていた面子も、あっさりと、と言う感じではあるのだが。

殆ど同じタイミングで『決着』を見せることとなっていたので有る。

 

先ずは、加賀と瑞鳳の場面から、話を始めるとしよう。

 

 

 

「…よしましょう、か。いい加減」

 

そう言って、にらめっこ状態から音を上げたのは加賀の方であった。

ぎりりと引き絞られた弓と矢は下ろされて、加賀はわざわざ矢を籠に仕舞うなり。

ふぅ、と肩を竦めると…呆れたような、それでいてどこか憐れむ様な口調のまま、加賀はこう語るので有る。

 

「見た所…貴女達は、本気で戦って無いですよね。それこそ、金剛さんや神通さんや赤城さんは兎も角、私達なんかより貴女達は実力も経験も上です。ギリギリ対抗できるとして、木曾さんとどこぞの漏らしですが…それでも、勝てやしない戦力差でしょうかね。それなのに、私達は誰もまだ沈んでない、大破すらして無い、妙な話なんです」

 

そう言って、加賀は一拍置き、更に続ける。

 

「…そもそも妙ちきりんな話なんです、私を含めて何名かは既に感付いてることで…気付いてるのに考えずに殴りに行ってる漏らしや木曾さんは兎も角もですが。それこそ、真正面からぶつからずとも『侵略』したいならいくらでも手があるのに、わざわざ逆探知の危険まで犯して宣戦布告したり…もしかして、何か別な目的の為に貴女達は利用されてわざわざ殴り込んでいるのではないのでは、と思いましてね。だとしたら…私には貴女は撃てません。甘いと思われるかも知れないですが…ね」

 

 

そうしめるなり、両手を上げて降参のポーズを取る加賀。

まるで、瑞鳳には勝てないとアピールするかの様に。

だとしたら…瑞鳳に、加賀の沙汰を委ねるかの様に。

そして、瑞鳳の良心と意思のどちらが勝つかを見極める様に。

 

無抵抗の意を、瑞鳳との交戦の意思の放棄を示す行動に出たのであった。

 

そんな加賀の姿を見て…瑞鳳は、明らかに驚愕の表情を見せていた。 

恐怖、その感情を隠せないかの様に。

戦場で無抵抗の意を示し敵に白旗を躊躇い無く上げる加賀の行動にか、殆ど看破されてしまったと言う加賀の思考力にか…そして、その加賀に向けて攻撃の意を示してしまった自分自身にかは定かではないが。

 

そんな瑞鳳は、一筋の涙を流して矢を同じ様に下ろすと…加賀に向けて、こう続けるのであった。

 

「…射てない、私はこんな賢くて優しい人は撃てないよぅ……どうしたら良いのよ、どうするべきだったのよぅ…傷付けたくないよ、仲間同士で。でも、私、覚悟決めなきゃ行けないのに、一体どうしたら良かったの…!!」

 

そう言って、さめざめと泣き出してしまった瑞鳳。

 

実は…彼女には有る意味でこんな無意味としか思えない、同士討ちの様な『開戦の引き金』を引いてしまったと言う負い目がある。

…実際の所で言うと瑞鳳にまるで非がある話では無いのだが、確かに釣竿齋が行動を始めたきっかけは間違いなく瑞鳳の言動が一戦を越える発端だった為、その事が負い目となり周りを巻き込んでしまったプレッシャーと責任感でそもそもが色々といっぱいいっぱいだったのに、まず攻撃せねばならぬは無抵抗の目の前の優しき者と言う地獄の試練。

仮に計画上『殺す』事は事実上不可能としても…それでも、瑞鳳の攻撃を無抵抗な状態の彼女に向けて放てば、加賀を大怪我させかねないだろう。

 

好きな人の為、友達の為、大義の為…と、頭で納得させようとしても、心の方がもう完全にへし折れてしまったこの状況。

瑞鳳はもう子供の様に、わんわんと泣き出してしまい、戦闘はおろか立っていることすら出来ずぺたりと座り込んでしまった。

 

一方の加賀はと言うと、そちらの詳しい事情が全くわからない為に流石に泣くとは思わなかったため一瞬オロオロするものの。

直ぐに落ち着きを取り戻す加賀はと言うと、ぎゅうと優しく、まるで敵同士とは思えない様に、瑞鳳を落ち着かせようと抱き締め続けていたと言う。

 

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一方、心をへし折りにかかられていたのは…瑞鳳だけではない。

彼女と同じ人を好きになってしまった片割れ、夕張で有る。

その一角では、本当に『異常』としか思えない光景が広がっていた。

 

 

「…コワガラナクテモ、イイノニィ……」

 

阿賀野は、砲も何も構える様子もなく、ただただゆっくりと夕張に語りかけながら近付くだけだ。

淡々と、普段のハイテンションな声とはまるで逆な、冥府の底からの呼び声の様な悪魔の囁きを語りながらである。

 

「く、来るな!来ないで!!」

 

夕張はそんな声を消し去ろうと、涙目で阿賀野を迎撃しようとするが…恐怖と戦慄のせいか、弾はあらぬ方向へと飛んでいく。

しかし…阿賀野は、それを見向きもせずにただただ虚空を見つめるかの様な暗い瞳を持ち、首を九十度に捻りケタケタ笑いながらこう語りかけるのであった。

 

「ワタシノシンノゾウハココ、ココヨォ、ムネナノヨォ…コンナワカリヤスイトコニアテラレナイナンテ……!ソウ、ソウナノネェ…キャハハハハハ!!アナタモ、ワタシモ、オンナジ…クライ、ウミノアクマ…ドウホウデショウ!?ニオイデワカルワヨォ…アナタ、シンカイノニオイガ、スルンダモノ…!ダカラ、ウテナイ、ダカラ、タタカエナイ…ソウイウコト、ネエ…イッショニ、モウイチド、オチマショオ?」

 

そう言って、いつの間にか夕張の至近距離に近づいていた阿賀野は長手袋を外し、ヒヤリといやに冷たい白い阿賀野の指が夕張の首筋をぬるりと舐める。

そんな阿賀野の行動に悪寒と恐怖に震えながら、夕張は数多の『何故』で脳内がいっぱいになってしまった。

 

 

…何故、彼女は自分が『ドロップ艦』と言うことを知っていたのだ、と。 

 

 

そう、夕張は建造された艦ではない。元空母棲姫… 深海の記憶を深く持つ、転生した艦である。

夕張は、かつての暗くて寒い孤独と殺意に溢れた過去を思いだし…泣いた事も有る、夢に出てきて飛び起きたことだったとて0ではない。

だからこそ、夕張は昔を知る者は兎も角も…否、深海棲艦より転生した者でも記憶を引き継いだ部分が多いだろう殆どの艦は、こう考えている。

あの冷たい海の記憶だけは思い出さないようにしよう、と。

 

なのに目の前のこの阿賀野と言う艦は、一瞬でそれを看破するかの様に見極めて、それを抉ってくる。

否、なじることや言われることぐらいなら構わない。大なり小なり、夕張は過去の事をネタにされたこと等数多有る。

だが…コイツは、どうなんだ!と、夕張は頭の中が混乱する要因でいっぱいになってしまう。

まるで、艦娘の器のままなのに…殆ど、あの海の悪魔と同じ匂いを、演技でも何でもなく放ち続け…そして、あの暗くて冷たい海にもう一度引きずり込もうと手招きしている。

 

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

誰か、助け…と、夕張が恥も外聞も無く阿賀野から逃げ出そうとした瞬間に、首筋にきゅうと急に力が加わって、夕張は突然の事にパニックに陥ってしまい抵抗するまでもなく、酸欠で気絶してしまう。

 

…阿賀野のチョークスリーパーが決まった瞬間である。

 

まるで鶏を絞めるかの様に落ちた夕張を優しく抱き抱えながら…阿賀野は、何時もの口調に切り替えつつ、ため息を吐いた後でこう続けるのであった。

 

「…ごめんね、思い出したくなくて、怖かったよね(´-ω-`)阿賀野、すっごく酷いことしたよね(;_q)でも、貴女を無傷で無力化するにはこれしかなかったの(´・ω・`)」

 

…なんて謝ったらいいかわからないけど、私が貴女に勝つには、こうするしかなかったノ…

 

そう内心で謝り、阿賀野は本当に申し訳無い顔を見せながら、である。

 

 

そうなのだ、阿賀野は『ドロップ艦』としても本当に特殊な部類でもある。

 

浜風や吹雪や木曾はおろか加賀や扶桑ですら…そして、夕張でも不可能なレベルで、『正気なままに深海棲艦だった時代』へと感覚や思考が立ち戻ることが出来る、一種の特異体質でもある。

だからこそ、匂いで解る。ドロップ艦、つまり同胞かそうでないか、ぐらい。

そして、どう抉ればかつての忌まわしく寂しく悲しい記憶を呼び覚ますかぐらい、阿賀野にかかれば容易なことでもある。

 

誤解なき様に言えば、阿賀野自身がそれを誇ることはない。

むしろ、それこそ、阿賀野にとってみれば背負い購うべき『業』としか言えないモノだろう。

本当に阿賀野からしたら、それを忌まわしく感じている。

 

…それでも、そんな悲しく役に立たないかも知れない能力で卑劣に勝ったことだったとしても。

艦娘同士で殺し合うよりは、ずっと有効な使い方だったと阿賀野は信じている。

阿賀野は自分が本当に嫌になりながら…しかし、無血で勝利したことに満足しながら、夕張へなんて謝れば良いかを悩みつつ、扶桑達の元へと足を運ぶのであった。

 

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さてそんな中で、逆に阿賀野や加賀とは違って躊躇い無く殴り合う様な連中も居る。

赤城、そして飛龍の二人も…そうである。

 

「噴…!破ァァァァ!!」

 

飛龍は腰を落として、まるで相撲取りのツッパリの様な張り手を赤城に対して見舞う。

…否、張り手と言うには、威力のかかり方がおかしいだろう。

ずうんと内蔵に響く様な、重い一撃が赤城に飛んできたのである。

 

所謂、『徹し』や『勁』と言う概念だ。

肉体を水分が詰まった袋の様なものに見立て、その水分を揺らすかの様に、肉体の奥に向けて放つ拳法の必殺の一撃である。

普通に殴るよりも、その威力は低いが…鈍く、そして永く、内蔵に向けて直に飛んでくる掌底と言う方が相応しかった。

 

だがしかし…赤城も素人ではない。

と言うよりも、本来の親衛隊としての任務上、艤装を展開不可能な状況下でのボディーガード法として、陸地での戦闘技術もいくつも修めている。

赤城の場合はベースは弓道の他の武術としたら日本拳法だが…サバットだのシステマだのシラットだの、マイナーな武術ですら一通りかじって居る彼女、『跳ぶ』身体の動かし方もある程度は叩き込んでいる。

飛龍の技は見慣れぬ動きではあったが、流石に直撃は免れていた。

 

それでも、かすっただけでも身体の奥から響く痛みに顔をしかめながらも…赤城は苦笑いで語りだす。

艦載機はどうしたのですか、と。

それについて飛龍は、こう返した。意味無いもん、と。

そして、こう続けるのである。

 

「私の今の装備はね、教導の特権で借り受けてる岩本隊率いる烈風改フル装備。赤城さんなら、その意味は解るでしょう?赤城さんを自由にさせるわけにはいかないから、対赤城さん用の艦載機の装備でフルに固めたのよ」

 

そう語る飛龍に対して、ただただ赤城は呆れた様な視線で極まりすぎた飛龍の戦術に一瞬放心するものの。

空母の長所の一つである対艦攻撃力を完全にスポイルして、赤城対策の為だけに対空用の艦載機たる艦戦でのみ特化して来た飛龍に対して…なるほど、と納得する。

 

飛龍は己の長所の一つを全て投げうってまで赤城にのみに目を向けて来て、そして、結果的に言えばまんまと策にはまり無力化されてしまった。

流石に、艦載機が全て艦戦と言う異常な相手がこの射程距離に居たとしたら、赤城が召喚する艦載機がもう片っ端から落とされてしまう事態になるだろう。

 

 

そんな赤城からしたら絶望的な相手が目の前に立ちふさがって来た飛龍に対して…赤城は、何故だか妙な高揚感を覚え、むしろ喜んでいた。

言い方がおかしいかも知れないが、飛龍から赤城にのみ向けられたラブレターを渡されたような、赤城は丁度そんな気分でもあったのだ。

 

『装備が完全艦戦』と言う言は飛龍のハッタリではないだろう、赤城は彼女が嘘をつける性格でない事は知っているし、そもそもそれがハッタリだったとしたら弓を手離して殴りかかってくる現状がそもそもおかしい。

もしソレが単なる飛龍のハッタリならば、既に艦載機を幾つも召喚して騙し討ちにでもするハズだから。

 

「…我ながら度しがたいですね、土壇場になって現状を色々飲み込むのに時間がかかった火付きの遅さも、飛龍から殺意を向けられて喜んでしまったバトルマニアじみた自分の性格も」

 

そう、赤城は小さく一人ごちながら、ブルース・リーの様にくいくいっと手を招き飛龍を挑発し改めて戦闘体勢に入るのである。

そして…二人の、本来ならばガチガチの後衛だろう二人による、近接戦闘が始まった。

 

先に仕掛けたのは、飛龍の方だ。

ぐいと突っ込んでくる飛龍は…やはり、教導の一環として様々な格闘技を修めてはいたが、彼女の得意な格闘技の一つは相撲だ。 

見ることも好きだが…やる方も飛龍はまるで負けていない、彼女は優秀な女力士としても素養はあった。

 

しかし飛龍は、それだけの、単なるマニアと言う理由だけで相撲を近接戦闘のベースにしたわけではない。

相撲には、ごくごく単純ながら、他の格闘技ならば反則を確実に取られるであろう先手必勝の型が存在するからこそ、飛龍は相撲と言う選択肢をあえてとったのだ。

それは…

 

バチン!!と赤城と組み合える距離に入る瞬間に炸裂する音と衝撃波。

目の前で起こるそれは…火薬も種もなく、ただただ拝むように手を叩く事から発生する音の爆弾。

不意打ち気味に食らうならば、馴れてない人間ならば、老若男女、深海棲艦ですら人型以上に知識が有ると等しく引っ掛かってしまう不意打ちの一閃。

 

…猫だまし、である。

 

 

はたから見たら卑劣どころかセコいことこの上ない猫だまし。

だが、きちんと決まれば、たった一秒程も無いが確実に相手の動きを麻痺させる一手と化す。

その刹那の怯んだ隙に撃ち込む、飛龍の艤装すら含めた全体重と推力を乗せた張り手の要領でぶちこむ発勁の一撃のコンボ。

受け身をとったカス当たりですら赤城を怯ませるあの発勁を、猫だましで怯ませるタイミングと言う受け身が不可能な無防備な状態でぶちこめば、一撃で戦闘不能に追い込むことが出来ただろう。 

 

…決まれば、の話だが。

 

「…危ないですね、全く。猫だましは予想外でしたが、しかし貴女が打撃系(ストライカー)なのは先の二合で把握しました。投げや絞めが来ないのがわかるならば、後は予想できるだろう突っ込んでくる位置に足を置きに行けば勝手にカウンターが入りますので」 

 

そう吐き捨てながら…赤城は、高く上げた足を正確に回し蹴りで飛龍のこめかみに叩き込んだのを確認する。

そして…ずるりと、全速力で全体重を突っ込んだ威力をそのまま赤城の脚力も加えて自分自身の急所に喰らうと言う失態を犯した飛龍は、白眼を向いてずるりと気絶するのを見届けた後、こう続けるのであった。

 

「任務の経験上、戦闘中にいきなりフラッシュグレネードだの火炎瓶だのが吹っ飛んできたりしたことも有りましたから、そもそも猫だまし程度では怯みませんよ。実践経験の差、です」

 

そうして、うつぶせで倒れ込む飛龍を俵の様に担いだ赤城はと言うと。

まるで戦利品を持ち帰る傭兵の様に、その場を離れるのであった。

 

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一方、その頃。

 

「…ハラショー…」

「こんな、簡単なことだったなんて…私が一番のクズだったのかしら…!」

「いいえ、霞さん…私達は、魂の友だったのです…今こそ一つになる時です!私が、私達が、赤で、髭で、主人公だったのです…!!」

 

…勝手にやってろ、お前らは。

 

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と、アイキャッチじみた場面転換は兎も角、次は金剛と榛名の話へと進める。

そこでは…一方的な、蹂躙が繰り広げられて居た。

金剛が、宣言通り榛名を追い込んでいたので有る。

 

 

「HEY…榛名、さっき言ってたことはウソだったんデースか!!HEY、HEY!」

 

そう絶叫しながら、金剛は執拗に…そして、的確に。

己の主砲をフルに大活用し、榛名を砲撃で追い込んでいく。

 

妹に裏切られたと言う怒り。

仲間を巻き込んだ戦いに対する怒り。

何よりも、愛した友と初恋の人が眠る場所を土足で荒らされたと言う怒り。

それを乗せた一撃が、幾度も幾度も榛名を正確に襲ってくる。

 

榛名も奇跡的に何とかかわし続けるが…防戦一方だ。

と言うか、もう、普通に何発も実弾が榛名の艤装にかすっており、小破しかけていた。

 

金剛が先程宣言した通り。

彼女の方が、榛名よりも戦闘能力に限った話をしたら上であった。

そして…榛名自身が、そもそもそれだけは把握していたことである。

 

如何に、榛名が修練を積もうと、改二にまでなっていたとしても。

自覚はしていたことだ、榛名は、所詮戦闘面では秀才一歩手前の凡才でしかなかったと言うことぐらい。

少なくとも、榛名自身の中では大本営所属の金剛型の姉妹で最弱だったと言う自覚は持っていた。

 

 

しかし…それでも、榛名は諦める訳にはいかなかった。

金剛は火力で言えば戦艦クラス、練度は神通や赤城が更に上としても、純粋に一発の火力だけならば金剛を越える手札は敵味方問わず存在していない。

そんな金剛を…よりによって実弾を積んでるマジギレした金剛を、フリーにさせたら『計画』が完全に破綻してしまう。

 

だからこそ、榛名は金剛を仕留める必要があった。なんとしても。

そして…金剛を一発で仕留める可能性がある切り札を、榛名は切ることにした。

 

「……!!榛名は、大丈夫です…金剛お姉様、覚悟ぉ!!」

 

そう叫んだ榛名は、くるりと体をひねり主砲をフルバーストで金剛に向けながら突進する。

そして…その一斉射が金剛に向かい、高い水飛沫が至近弾として跳ね上がる。

否、数発は金剛への直撃弾と化したそれは…ある、違和感として、金剛へ気持ち悪い感情を覚えさせるに充分である。

そして…その違和感に金剛は気が付き、まるで液体窒素でも被ったかの様に頭が急に冷える。

 

そのまま、金剛は、はる…と、妹の名前を呼ぼうとして隙を見せたその瞬間、ガシイ!と体を拘束されていた。

それは…

 

「AGP…ASSAULT GRAPPLE PROGRAM(近接強襲計画)、榛名は、被験者でも大丈夫でしたから!!」

「艤装の改造計画…でしたネー…!!」

 

榛名の艤装に生えていた、まるで掌の様に蠢く艤装の『手』であった。

 

AGP計画…かつて存在し、そして実験企画のままに終わり露と消えた艤装に対する対接近戦用のプログラム。

特に接近戦が苦手な戦艦に対して施すことが検討されていたが…結局の所で言うと、企画倒れに終わった理由と言うのは至極単純な話である。

艤装とは、艦娘からして『本体』…人格等の基礎に当たるパーツなのだ。

それを弄る危険性に気が付き、比較的初期の段階でそれは凍結されている。

 

しかし…ごくごく少数、しかも志願者だけに限ると言う話であるが。

榛名は、それを受けて艤装に改造を施されていた、被験者の一人だったのである。

榛名の艤装に生えた『手』はごく単純な動きしか出来ず、中途半端な力で掴んだりすることしか出来ないが…それでも、かくし球にするには充分な能力でもあった。

 

そして…あるいは、腕の様に使える榛名の艤装はこうすることも出来たのだ。 

 

 

「でえええい!!」

 

そう言って、榛名は金剛をバレーボールを打ち上げるかの様に真上に放り投げると、空中に高く舞う金剛に目掛けて止めの一撃を加えようとする。

白黒のパゴダマスタ迷彩輝く左半分を艤装に生えた手を握りしめ…金剛に向けながら、交差法気味に落下してきた彼女に対し、アッパーカットをぶちこむかの様に高く拳を突き上げた。

 

ガァン、と言う激しい音が鳴り響き、榛名は『切り札』が直撃したことを確信する。

そして…榛名が勝利を確信したその瞬間、背後から、嫌な気配が忍び寄ってきたことに気が付いたのである。

それは…

 

「AGP計画…私も、本当に雛型のプロトタイプデースが、受けてますネー…シールド展開にしか使えませんが、あのアッパーはコレで受けきりましたネ!」

 

そう言って、金剛はガショガショ言わせつつ、己の艤装の船の外装の様なパーツをシールドの様にガッチリと嵌め込ませていた。

そうなのだ、何も、切り札やかくし球と言う類いのモノは榛名だけの専売特許ではない。

榛名が攻めのAGPとしたら、金剛は守りのAGPとしての技能を手に入れていた。

そう、かつての敗戦で飛鷹・隼鷹姉妹の様な特殊なケースを除き金剛が大怪我しながらも生き延びたその理由の一つ、それこそがこのシールドの能力があったからでもあった。

そんな頑健なシールドで、敵の剛拳を、防ぎきったと言う話なのだ。

 

そして…要するに。

実質的に切り札が不発に終わった榛名はと言うと、詰んだと悟り若干青い顔をしながらも、ひきつった笑いでこう続けるのであった。

 

「…あの、榛名は優しくしてくれないと、大丈夫じゃないんですが…」

 

DA☆MA☆RE!!ずっと私のターン、デース!!と言う実に良い笑顔が、金剛の返答だったと言う。

そして…榛名の悲鳴と共に、ブチキレ金剛の鉄拳のラッシュが飛んだのであった…

 

---------------------------------------------------------------------------------

 

そんな一方的に追い込んで勝っているパラオの艦娘の姉妹同士での戦いも有れば…二人がかりでも中々影すら触れないのも、居る。

時雨と夕立、そして夕立の味方たる睦月の三人だ。

 

「…ぽ、ぽぃぃ…」 

「…はぁ…はぁ…にゃ、しぃ……」

 

思わず、夕立と睦月の二人はぜえはあと息を切らしながら、鳴き声だか口癖だかわからない台詞を吐きながら目の前で翻弄している時雨を睨み付ける。

しかし、とうの時雨はと言うと…

 

「もう、終わりかい?二人がかりだってのに、情けない」

 

全くの無傷のまま、実につまらなさそうに肩を竦めて軽口を叩いていた。

 

そうなのだ、夕立も睦月も、未だに時雨にクリーンヒットを当てていない。

幾ら睦月が狙おうと、幾ら夕立が追いかけようと、まるで逃げ水の様に逃げられてしまう。

何十発と弾をばらまいたとしても、軽傷すら負わすことが出来ていなかった。

 

逆に時雨の攻撃も夕立や睦月に一発も当たっては居ないが…実質、ただただ遊ばれているだけだ。

わざと狭叉弾を撃ち込んで連携を乱したり、或いは、意識的にあらぬ方を撃つことで意識させて睦月の思考パターンを乱したり夕立の行動を遅らせたり…と、圧倒的な実力差が有るからこその、単なる舐めプレイでしかなかった。

 

最初こそ玩具にされていることに気が付いた二人はただ激昂し、文字通りに死に物狂いで倒そうとするが…何十回と、それこそ、色々と連携のパターンをかえてまで狙うが…

しかし、それでもまるで相手にならない所でない時雨の動きに、二人の心境には殺意でもなんでもない、ある心境の変化が訪れて居た。

 

最初に訪れた変化は、敬意と言うものだ。

実力の遥かに違う相手、その差を容赦なく目の当たりにし、その姿を知るにつれてただただ単純な話…艦として、戦士として、敬意を示さざるを得なかった。

ここまで、同じ駆逐艦でも自分をどこまでも玩具にできる差を付けることだったとて出来るのか、と。

 

そして…もう一つ、敬意と共に妙な違和感が、特に睦月に襲いかかっていた。

この時雨と言う娘は…もしかして、戦いに来たのでは無いのでは?と。

 

そうなのだ、実はそもそも、時雨に対して夕立と睦月の即席コンビが立ち向かうきっかけと言うこと自体、そもそもが名指しで時雨がこの二人を挑発したからと言うことに始まって。

そして…その癖、時雨は全くもって、こちらを直接狙おうとしない。

 

時雨の動きだったとして、そうだ。

単純な話…やろうとしたらもう既に、少なくとも疲労困憊の現在ならば、本気で殺しにかかってくるつもりならばもうとっくに殺っているハズなのに、挑発や威嚇こそすれどまるでこちらに向かう殺意ある攻撃をしてこない。

 

それどころか…悪態に乗せた口で、嘲るような動きで、遊ぶかのような砲撃で、的確に自分達のウィークポイントを…言い換えれば改善点を指摘していた。

まるで、厳しくも愛の有る、教導の鞭のように。

もっと強くなれと、こんな悪党たる自分を踏み潰せるだけの実力を見せてみろと、お前達はもっと強いハズだろうと、時雨から訴えかけているように。

 

睦月は頭で、夕立は身体と本能で、そのことに気が付いた二人は…段々と、まるで憑き物が落ちたかのように時雨を真っ直ぐに見つめだした。

そして、だからこそ…こんな尊敬すべき艦が相手だからこそ、絶対に勝ちたいと、睦月も夕立も願っていたのである。

 

 

「…にゃ、にゃぁ……夕立、息は整ったかにゃ?」

 

そんな睦月は、切らした息を整えつつ、夕立に声をかける。

一方の夕立も、ぜえはあ言いたくなる心境をこらえて、ひきつった笑みでサムズアップで返したのを睦月は確認すると…ただ、一言、こう付け加えたのである。

 

「…もう、私は夕立に指示を出さないのだぞ…連携はもう、夕立の身体に叩き込んでいるハズにゃ、ここから先は流れで理解して欲しいのです。そして、私も一緒に、夕立と同じラインで戦うのだぞ!一緒に、あんたの姉貴に、勝つんだにゃ!!」

  

そう言って闘志を燃やす睦月を見て、夕立は嬉しそうに、獰猛な笑みを漏らしている。

そして…夕立と睦月は同時にニヤニヤと笑う時雨に向かうと、二人は一斉に残りの弾をありったけ、円を描くかのように挟み撃ちにするが如く左右に別れながらいきなりばらまき始めていた。

 

「…こう、仕掛けてきたか!!だが…甘い!」

 

時雨は、二人が最後の勝負を仕掛けてきたことを悟り、思わず素のままに叫ぶ。

だが…しかし、頭自体は単純に冷静に回していた時雨はと言うと、次の敵の一手がどういう物なのか瞬時に切り替えつつ、計算に入っていた。

 

ここまでの戦いの流れは、時雨の頭に入っている。

夕立がどういう行動を取るのか、睦月がどういう指示を見せるのか、連携にどういう癖があるのか。

至近弾による水柱が次々上がることすら時雨は意に介さずに冷静にプロファイリングしていく。

そして…悲しいかな、時雨からしたら、誇張なくプロファイリングの結果として、時雨は全ての二人の取りうるパターンに対処ができると結論付けていた。

 

だが…だがしかし、二人の取った行動はと言うと、それは時雨の予想外なことだったのである。

 

 

「…覚悟ぉ、ぽい!!!」

 

水柱が晴れると、その瞬間に夕立が叫ぶ声が響く。

そして…夕立の一斉攻撃の構えが、時雨から見て九十度左から、真っ直ぐに向かっているのが確認できた。

 

…芸が無い、まるで成長していない、と時雨は悪態を付く。

ただただ実力差のある相手だと言うのに、水柱を目眩ましにした不意打ち程度ではその差は埋まらない。

否、夕立が叫んでしまったせいで不意打ちにすらなっていまい。

 

呆れた目をしながら、夕立から逃げようと時雨が動こうとした瞬間に…がしりと、背中から身体を拘束される時雨。

何事かと目を向けて背後を見ると、そこには羽交い絞めにする睦月の姿がそこに有ったのだ。

 

何のつもりか…と時雨は一瞬混乱するが、直ぐに状況下を理解した。

 

水柱のスクリーンと夕立の絶叫で一瞬だけ、睦月の姿を時雨の中から『消す』。

そして、夕立を囮にして、睦月がフリーになった一瞬の隙をつき、羽交い絞めで抑えると言う単純過ぎる拘束を仕掛けていた。

そして…そこに向かって来るだろう、夕立の一斉射撃……

 

「ちょ、ちょ待って!!もしかして、お前ら仲間ごと!?止めろ、止めてくれ!!」

 

そう言って、睦月と夕立がやりかね無い次の行動に予想がついてしまった時雨は頭が真っ白になる。

それは駄目だ!そんな戦いかただけは駄目だ!!と…時雨の中から、言葉がいくつも溢れて…

 

「…そ、流石に心中するつもりは無いのだよ!!」 

 

混乱する時雨へと、綺麗なバックドロップを背後を取った睦月から叩き込み、受け身をとらせず頭から海に引っくり返すように落として時雨の頭部を海中に沈める。

 

ガボガボカボと、原始的ながら容赦ないあんまりにもあんまりな窒息と言う手を喰らい、何とかして浮上しようと時雨はもがくが…流石に、やり口が斜め上過ぎたせいでパニックになってるわ、頭を引っくり返されて血がのぼってる上に酸欠で頭が回らない。

 

ヤバイ…死ぬ……と、時雨が薄れる意識の中で、突如として、今度は腹から斜め上方向に突き上げる一撃が飛んで来る。

時雨は海中に頭を沈められてわからないことだったが…夕立の、全身全霊の、アッパーカットだった。

 

 

ガボッと、夕立から止めを刺されて時雨のお腹から一際大きな酸素が抜ける様を、海中に浮かぶ泡を見て確認した二人は…急いで、彼女の顔を海上へ引き上げる。

やり過ぎたか!?と、起き上がる気配がない時雨の様子を慌てて気道を確認した二人はと言うと…死にかけでか細い声では有るが、時雨の声をポツリと聞く。

 

「…やり方がめちゃめちゃだよ…もう……」

 

そう告げて、色々死にかけでは有るが、瞳孔もはっきりしており意識も有りと、何とか無事なことをアピールする時雨に向かって…二人は、強く時雨を抱き締めながら、ただただ酷いことをした子供のように、あんなやり方でしか時雨に対抗できなかったことに対してすがり付き謝りだす。

そんな二人に向かい、苦笑いで時雨はこんな事を考えていた。

 

…『計画』外の僕のもう一つの目的は、二人にゃなんとなくバレてたんだな、と。

 

そんなことは露知らず…かどうかはさておいて。

そうして敵とは思えないようにすがり付く二人は…同時に、意識を失い身体から、あり得ない程の熱さを感じて苦しみだす。

 

それを見た時雨は、もう一つの目的は成就したことを確認したなり。

安堵の表情を見せながら、二人に抱き抱えられながらしばしの眠りについたのであった…

 

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そして、また一方…木曾と北上の二人の雷巡の戦い。

そちらはそちらで、ある意味で恐ろしい光景が広げられていたと言う。

 

 

北上は、ただただ、目の前の木曾に対して戦慄していた。

 

他の者達の様に、手加減するつもりは一切存在していない。

同族同士だろうが、或いは姉妹艦同士だろうが…躊躇う様な甘さは、無い。

そもそもが、北上はその思考が他の者よりシビアなぶんだけ、厳密なことを言えば『計画』違反であるリミッターを外してまで行動を取っていたのであるから。

 

…何故ならば、『計画』を収束させるには…恐らく、わかりやすい『贄』が必要になるのであるから。 

北上は、大本営の多くの仲間を巻き込まぬ為にも、その業を自分が一人被るつもりでいた。

その為に、北上は木曾を抹殺する勢いで何度も攻撃していたのだ。

 

魚雷の攻撃も機銃の攻撃も、時には素手で殴ってでも、木曾へと容赦なく浴びせ続けていた。

 

 

…しかし、北上の予想であれば、既に粉々になってるハズの木曾は…ピンピンしている。

黒焦げな部分は山ほど有る。

マントはボロボロ、眼帯は吹っ飛んでおり、服も火傷と共に四割は吹き飛んでいる。

 

だが…肝心要な本体の、艤装はと言うと、全くな無傷なままなのだ。

 

それどころではない。

いくら殴る、蹴る、焼く、吹き飛ばす…そんなダメージが肉体に加わっているハズだろうに、木曾は、ダメージを受ければ受ける程に元気と闘志を燃やしており、むしろドンドン撃ってこいと言わんばかりに挑発する。

まるで、傷つけば傷つく程強くなる、何処かの戦闘民族のようではないか。

 

北上はそんな木曾に無意識なうちにおののくなか…木曾本人は、実に淡々と、姉に向けて語りだすのである。

 

「…理屈で考えてるようじゃ駄目だぜ、北上姉さん。艦娘ってのは、いい加減で、頭のネジが外れたヤツじゃないと強くなれないのさ」

 

そう言って、一拍置くなり、さらにこう付け加える。

 

「『艦娘は艦に込められた全ての魂の器の形』だと、ウチの提督が言う通り…艦娘の本質は、きっと生命体よりも英霊と言う方が相応しいだろうな。だからこそ、精霊の様な部分があるからこそ、俺達はテンションが戦闘力に妙に影響されちまう。なれば…『ドMの俺に攻撃を本気で加える』なんて真似してみな!!ダメージを与えるどころか、ドンドン回復するに決まってんだろ?」

 

ニヤリと歯を見せつつ、そう締めた木曾に対して…北上はそんな木曾に、んな訳有るか!!とツッコミを入れるが…

 

「…あ、今の話は嘘だ、距離を詰めるための隙を稼ぐ為のな!」

 

…そう言って、サーベルの峰を抜き打ち気味に北上の額に謝罪と共にぶちこみ、一撃で昏倒させたので有った。

 

 

そう、木曾が語ったことなど、要するに出任せの口八丁でしかない。

本来ならば、いかに木曾も改二だろうと、北上との実力差ならば食い下がるのが精一杯で…北上自身の予想した通り、既に艤装はバラバラにされてもおかしくはなかっただろう。

 

だが、木曾が無傷なまま艤装を維持できていた。

その理由はと言うと…

 

「『秘密兵器』…こっそり自作して仕込んでたのが役に立ったな」

 

…木曾が一人ごちた視線の先にある、マントの裏側に隠された液体入りのアンプルである。 

 

中身は、高速修復材の液体が込められている代物のソレ。

己の艤装にダメージが致命傷気味に入る度にマントごとアンプルを叩き付けて、文字通りの応急修復としての回復材として使用していたのである。

本来の使い方ではない以上絶妙に利きが悪い上に、ダメージを受けた先から消費していた関係で木曾の予想以上のアンプルの消費が必要になった為にあまり使いやすい回復手段でもなかったが…短期決戦のハッタリに使うには、充分過ぎるものでも有ったと言う。

 

 

尚、そもそもが…実は、この『秘密兵器』、提督達にも内緒で勝手に作ったと言う懲罰モノの何重の意味でも内緒にしなきゃいけないアウトな代物だったりするのだが。

 

木曾がある日偶然発見した、捨てるにはもったいないのに、サラじゃない為に純粋な治療目的としたなら量的に足りなくなる危険が有って使うには躊躇う様な量と言う、使い差しで廃棄するでもなく倉庫内に放置されていた高速修復材入りのバケツを…実は木曾が知る話ではないが、元を正すと杉村が壊したシャッターや窓ガラスの修理に使った修復材の残りカスだったりするが…そんな、何時までも使わないのに棄てられない様なお菓子の空き箱状態だったモノを有効活用したものだ。

まあ、誰も損せず傷付かない結果になった以上、目くじらを立てる話でもなかっただろう。

 

そんな秘密兵器を一本、木曾は焼け残ったマントから取り出すと。

自身の命を救ってくれた救世主たるそれに軽いキスをしたなり、額に峰打ちを喰らい昏倒した姉をお姫様だっこで抱き上げつつ。

今度はそんな秘密兵器の中身たる修復材をこっそりと、小破すらしてないとは言えダメージを受けている北上の艤装にかけて回復させつつ、その場を離れ皆と合流することに専念するので有った。

 

------------------------------------------------------------------------------------------

 

そんな最中、既に決着を見せている様相を見せる二人の姉妹だって居る。

川内と神通、その二人である。

 

 

神通は…真面目な性格で優しい性格ではあるが、普段は本気でポンコツな彼女。

どっか抜けている上に弄られやすい可愛いもの好きの年不相応な少女趣味、と性格が本気でアレだったりするのだが、戦闘中はまるで別人だ。

情け容赦なく、ただただ急所に向けて、敵の逃げるだろう場所を予測して、正確無比な射撃を叩き込む。

 

ただただ、撃ち込む。

ただただ、逃がさない。

ただただ、相手を執拗かつ一方的なまでに、捩じ伏せていく。

ただただ…艦娘の基本中の基本、『敵の狙いをかわして敵を狙って撃つ』と言うワンパターンなルーティンを、淡々と、しかし正確無比にこなしていく。

 

名の付いた技やド派手な戦術等は、神通は放たない。

何度もこなした訓練通りの射撃を、単純に撃ち込むだけだ。

敵の狙いを予測してそこから逃げて、そしてまた敵を狙った射撃を放つ。

 

まるで、流れ作業をこなす機械の様にも思える様なそんな戦いぶりは、ある種の美しさすら感じさせる戦いで…川内を、既に大破させていた。

 

 

誤解なく言えば、川内だったとして超一流な戦闘員でもある。

 

川内の反撃で、神通も幾つもの箇所も火傷や流血を負っており、神通の弾だったとて何発もかわして魚雷の迎撃にも成功している。

大体にして、神通の癖を熟知している川内でなければ、そもそもこの場に居る艦娘全員がタイマンで神通に五分も食い下がる事すら不可能だったろう。

 

だがしかし…根本的に川内は、奇襲と夜襲が専門のヒット・アンド・アウェーに特化した戦闘と、偵察と破壊工作がメインな暗殺屋に近い戦士である。

そんな分野で競うなら、川内相手に神通は手も足もではしない。

少なくとも、夜襲のゲリラ戦じみた泥試合と言う川内の土俵に引きずりこめたとしたら、既に結果は真逆なものになっていたハズだ。

 

とは言え、今回は…この姉妹の戦いは神通の土俵だ。

何故か、何一つ策ももたず真っ正面から川内は神通に挑み…神通の、そして或いは川内自身の予想通り、粉微塵に粉砕されてしまったので有った。

 

 

「姉様…私の、勝ちです」

 

神通は、戦いの課程と同じように、ただただ淡々と勝ち名乗りを告げる。 

その表情に…何一つ、高揚も見せていない。

その声色には、何一つ、興奮の色もついていない。

 

そして、言われた川内もまた、神通のその言葉に対して…大した感傷も見せていないまま、仰向けに倒れた身体から首だけ見上げるように神通に向けて、それを覗いている。

 

しかし、そんな川内の様子を無視するかのように、神通は淡々とこう続ける。

…約束、守って下さい、姉様、と。

約束?と、力なく川内が返すと…神通は少しだけ語気を強めて、こう続けるので有った。

 

「私に…何故裏切ったのか、お姉様、それを答えなさい!!」

 

 

ああ、と言う表情を見せて、川内は神通の言う『約束』の事を思い出す。

『勝てば教える』、なるほど、確かに言い出したのは自分だったな、と。

しかし…川内は、『計画』が事を成すまでは、それを言うつもりもなかった。

 

川内自身が言い出したこの約束の話は、卑劣な出任せの話ではない。

事を成したならば、それからは川内自身が神通に伝えたいことだったから、きちんと全て吐くつもりでは有った。

何より大事で、何より信頼している…川内の二人の妹の一人だったからだ。

 

とは言え、今はまだ駄目だ、と川内は考えている。

今、正直に自分達の本当の事を伝えてしまうと…繊細かつ生真面目な神通が潰れかねない、と川内は考えているからだ。

 

だって…計画が成す前に『アレ』を説明してしまったら、恐らく神通の性格上、何重もの板挟みに苦しみどうしようも無くなるのが目に見えているから。

…それで、川内は瑞鳳がそうなるのを一度目撃している、二度は流石に御免だし、妹相手だったら尚更イヤだ。

とは言え、流石に約定破りは川内の主義に反する事でもある。

故に…かいつまんでだけ、語ることにした。

 

「…私が、仕事もほっぽりだしてこの戦いに参加した理由は…単純にね、釣竿齋さんの計画に魅力を感じたから、軍の仕事よりも大事に思えたから、それ以上の理由は無いよ。さあ、殺るなら殺りな、神通」

 

 

そう…『何一つ、確かに嘘はつかずに』語る川内。

そして…或いは約束を本当の意味で破るように神通に轟沈させられたとしても、それならそれでも良いかとも思い直す。

 

本当の事ならば、きっと瑞鳳なり古鷹なりが説明してくれるだろう。

流石に、あの辺は殺されはしまい。自分と違って、優しい奴等だから、あの甘いパラオの人達ならばきっと保護してくれるだろう。

ならば、自分は別に居なくても、きっと変わらない。 

むしろ、悪役を買ってでも自分の終わりを妹に委ねられるなら…それはそれで、幸せだ。

川内は、そう考えて…そして来るだろう、とどめの一撃を、目を閉じて、歯を食い縛って待つ。

 

痛いのは嫌だな、でも、痛いのは仕方ないか…と覚悟していたら、川内に、いきなり、ふんわりとした優しい感触が飛び込んできた。

 

何事か、と神通がどうしたかを目を開けて確認すると…いきなり泣き出して、川内の身体を抱き締めると言う神通の行動が目に飛び込んで来る。

 

顔近いな、と川内は思いつつ…神通は、喚くように、川内を抱き締めながらこう続けた。

 

「姉さ…お姉ちゃんの…嘘つき!!嘘つきです!!私と真正面からぶつかったらこうなるなんて、貴女が一番わかってる癖に、ぶきっちょなやり方しか出来ないで…!!それで、そんな最低な理由だけで、皆を裏切った挙げ句に私に立ち向かうもんですか!私が、お姉ちゃんの事を一番知ってるの、貴女が一番知ってる事じゃないですか!!だって、私…お姉ちゃんの事、大好きだもの!!私に、お姉ちゃんを撃たせないで下さいよ嫌いにさせないでよ、これ以上!!」

 

そう言って、わんわん言い出した神通に対して…なんだかな、と言う表情で、されるがままにされていた川内。 

 

 

…私も、大好きなんだよ、世界一好きな二人の妹の一人なんだよ、神通。

 

川内はボロボロの身体のままに、内心でこう返して居たと言う…

 

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そして…最後に、裏切り者の裏切り者と言う、有る意味で恥知らずとも取れる艦娘の話をしよう。

…古鷹の話である。

 

 

「フン…アタシはね、馬鹿だから、姉貴達が何考えているかなんかは知らねえよ」

 

そう、古鷹の実の妹…加古は語る。

 

「…きっと、真っ正面からぶつかりゃ、アタシなんか姉貴にぶちのめされるだろうし…金剛さんらや氏真さんは兎も角、物量差と実力差でもうとっくの昔にぶっ殺されてても、おかしくないハズさ」

 

ただ、語る。

 

「…なのに、みんなピンピンしてら。それどころか、拮抗しているどころか、逆転してる…負けに来たとしても、喧嘩売りに来た意味が良くわかんねえが…要するに、アレだよな?」

 

…兎に角も『こう』されると、一番困るみたいだな。

そう語りながら、加古は己の艤装の砲を己の側頭部に当てるように構え、目の前に敵が居ると言うのにまるで無視するかの如く、拳銃自殺するかの様なポーズのまま、古鷹に敵意を見せないで接近して居た。

 

…そして、そんな加古の直感は、正しく正解で有った。

 

 

何も、古鷹の重巡好きの性癖の話だけ、と言うことではない。

もちろん、古鷹から見たら文字通りの最上級にいとおしい艦娘と言うことには違いない。

そう言う意味で言うならば、それこそ既に戦闘なんて放棄してクンカクンカしに突っ込んでくるに決まっていたが、本当にそう言う理由ではない。

 

…『パラオ側の人間から、死者が出たら非常に計画上困る』と言う、そう言う理由が有ったからだ。

 

計画的には結果オーライ気味とは言え、責任取ろうと泥を被るためだけにあえて無視していた北上なんかも居ないことはなかったので有るが。

死者を出すとなると、それこそ、責任の所在の関係で処理が本当にややこしい話になりかねない。

だからこそ、パラオの艦隊がトラックの戦力差に対抗しうる状況が生まれているのだが…しかし、そんな特殊な計画に対して一番のカウンターとなるだろう一手を、加古は直感的に取っていたので有る。

 

古鷹は口八丁手八丁で、加古に対して気を逸らそうとすべく、挑発的な言動をとったり威嚇射撃気味の砲撃を撃ったりしてみるが…古鷹が慌てれば慌てるだけ、加古は自分の直感が間違って居ないことを覚る。

 

そして…ニヤリと加古は妖しい笑みを浮かべるなり、まるで疾風の如きスピードで古鷹との間合いを詰めて、側頭部へと当てていた艤装の砲を解除しつつ、いつの間にか零距離にまで接近した古鷹に対し右手でくいっと古鷹の顎を上げさせながら、こう語りだした。

 

 

「アタシは…『氏真さんの為なら引けねえ』って言った。嘘じゃねぇ、氏真さんとアタシの仲間の邪魔をするんだったら、例え姉貴でもブッ飛ばす、自分自身すらブッ飛ばす!そう決めたんだ。アタシは、多分、パラオの中じゃ一番ドライなんだよ」

 

そう言うと、一拍置きつつ、更にこう続けるので有る。

 

「…だがなぁ、アタシの命を取る勇気の無いヤツに、ブッ飛ばす価値はねえ。自分の命をベット出来ないヤツだったとしたら、尚更さ。アタシの好きな英雄は、皆、戦いの中でオール・インの戦いに全力全開だったから、アタシもそう有りたいと願ってる。だから今の姉貴と戦う義理もねえ。勝手に、失せろ」

 

そう言うなり、今度は蒲団を投げつけるが如き動きで古鷹をドンと乱暴に突き飛ばしつつ、こう付け加える。

なんだか、アタシの仲間達も何とか勝ってるみたいだし、アタシが姉貴の仲間達に死に損ないが居たなら順繰りにトドメ刺す手伝いでもしようかね、と。

 

 

「だ…駄目、加古、それだけは駄目!!」

 

そう言って、古鷹は妹を制止しようとするが…加古は意に介さず、背を向けたままこう続ける。

駄目だと思うなら、とっとと殺ればいいだろうが、と。

特に怒りも呆れも見せないで、淡々と吐き捨てるのである。

 

そんな捨て台詞に対して…どうしたらいいか解らず本当にオロオロしだす姉の気配に対して、背を向けた加古はと言うと。

はぁ、とだけ溜め息をつき、ぐるりと反転しつつ、再び古鷹のそばに急接近する。

そして…目の前まで再び接近した二人はと言うと…今までの、狂気すら感じる怒り溢れた言とはまるで異なる口調で、古鷹に対し加古はこう告げる。

 

 

姉貴は、本当はどうしたいんだよ、と。

 

 

そう、凛と通る声で告げられた古鷹は…何故だろうか。

嘘を吐きたくは、無くなった。

川内達とは古鷹は違った、この妹に向けて…ずっと抱えていた本音が、ポロポロと、溢れてしまった。

 

「私…私は、本当は嫌だよ、こんなこと…色んな人に迷惑がかかってるもの、まして私の妹にまで刃を向けて…きっと、もっと素敵なやり方が有ったハズなのに、私が頭悪いから皆を止められなくて、荷担までしてしまって……どう償えばいいかも、どう止めたらいいかも、今になって考えて後悔して、あんな馬鹿な真似をした妹の姿を見たらもう頭が真っ白になって手が震えて…わからないの、加古…」

 

 

そう言うなり、伏してしまう古鷹へと加古は優しく駆け寄るなり、ならばと、にししと笑いつつこう返すので有った。

 

「ならさ、アタシも姉貴以上に馬鹿だから…一緒に、その『ちょーかん某』って奴の計画を止める方法を一緒に手伝ってくれよ!大丈夫だって、アタシも一緒に謝ってやるからさ、皆もわかってくれるハズさ」

 

そう、古鷹の頭を撫でながら、何時もの軽い口調になる加古に対して…当の古鷹は、キョトンとする。

怒ってないの、と。 

 

一方、加古は古鷹へのそんな疑問に対して…こう返すので有った。

 

「…とりあえず、話が見えてこなくても姉貴達が皆ワケ有りっぽいのは良くわかるし、結局、姉貴もアタシも一発も殴り合わずに済んだならアタシが怒ることは無いしな。むしろ、さっきまでひでえ事言ったアタシが悪いが…ここは水に流してくれよ。だから…仲直りできたなら、お互いになんやかんや無傷なままなら、結局の話すると姉貴相手にどうするつもりもねえよ、その権限もねえし、さ」

 

 

そんな、事を告げる加古に…どこかホッとする古鷹はと言うと。

加古にくっつきながら、加古から発せられる上質のジュウジュニウムを古鷹は補給しつつ、扶桑達の小隊へと合流に向かうので有った…

 

---------------------------------------------------------------------------------

 

そんな感じで艦娘達が決着を見せるなか…武神達の戦いは、と言うと。

 

 

「通康さん!球磨ちゃん!援護を頼む!!」

「任せんかい!ワシの一撃で、風穴空けたるけんの!!」

「しゃぁぁああ!フォローは任せろクマァァァ!!」

 

そう叫ぶ、戦国武将二人と、彼等が溺れないようにフォローしながら射撃で援護に回る球磨。

その三人かかりでの波状攻撃に対して…

 

「…くっそ、流石に三人はキツい…だけど、自分はまだ負けるワケには、いかないんだ!!」

 

それに対して闘志全開で、島田が食らい付いていたので有った…!

 

 


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