無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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五十三話 決戦、開幕

さて、話が色々な意味で間が空いてしまったが…

兎に角、話を釣竿齋がパラオに宣戦布告したその更に暫く後に、話を進めてみよう。

 

 

~某海域、洋上~

 

「…ふぅ、なんだかねぇ…妙ちきりんな事になっちゃったな~」

 

北上は、己の置かれた状況下と『友軍』の異常さに、改めて溜め息を吐く。

その北上の眼前に居る、キョンシーか何かの様に額に札を貼り付けられたトラック泊地の『艦娘』達…と言うには色々と躊躇いたくなる、『人形』と… 

そして、己の共犯者にて同輩たる大本営側のメンバー全員を見比べて、である。

 

 

…少しだけ本筋を無視して、北上の内心について描写をさせて頂こう。 

 

正直なところ、北上個人としては釣竿齋の『計画』自体は大賛成である。

他に道はなかった以上、友軍同士で弓を引き合う事に、この球磨型の雷巡にはまるで葛藤はない。

そもそも、どう戦局が転ぼうともこの戦いの最中に死にさえしなければ北上達には根本的に『負け』は無い、釣竿齋の計画と言うのはそう言うものである。

 

少なくとも、この戦いの相手にあたるのがよりによってお人好し揃いなパラオ泊地のメンバーだと言うのならば、尚の事計画に支障は無い事は彼女達の共通認識である。

まず、ほぼ釣竿齋の…ひいては、自分達共犯者全員の当初の思惑通りに話は進むだろうと、北上は考えてはいた。 

しかし、万が一…とは言わないぐらい低くはない格率の『懸念』が北上にあることも、また事実だったのだ。

 

正直な話をしたら…理屈を頭に叩き込む様な真似をしたところで、本心で納得出来なかったり踏み切れないぐらいのことは誰でもある。 

 

そう、文字通りの『共食い』に近いこの戦いにおいて。

少なくとも、北上の見立てでは…榛名・川内・古鷹・瑞鳳・夕張の五人の士気が最悪に近いと見ている。

実際、海上では百戦錬磨の大本営の国家最強格の遊撃・防衛部隊出身の彼女らとは思えない程、『戦闘』が目の前に近づくにつれ、青い顔を隠すことが出来なくなっていた以上、北上の見立ては大きく外れてはいなかった。

 

…瑞鳳が特にそうなのだが、彼女らは、あまりにも性根が優しい。

少なくとも、急所に艦娘同士で実弾を撃ち込む様な真似をすることは…口でどう言おうと、戦場でどう取り繕おうと、きっと不可能だろう。 

下手したら北上達を、釣竿齋を、土壇場で裏切ってくる可能性すらある。

 

否、正直なところを言えば…北上にしてみたら、それ自体は二重の意味でどうでもよい。

計画に支障がないだろうと言う楽観性と、単純な話で情の話で、と言う意味でだ。

 

むしろ、別に姉妹艦が相手になろうが決めたことがまるでぶれない自分らより、遥かに真っ当な感性を持っているだろう、彼女らの動きが『そうなる』ことすら北上としては望んでるフシもある。

しかしその場合…どうであれ、本当の意味での『味方同士で撃ち合い』になるだろう。

その未来がわりと思い浮かぶ北上としては、嫌な感情が沸き立つことを止めること等出来なかった。

 

「…殺される気もないけど、艦娘同士で殺しちゃうのは目覚めが悪いよね~」

 

夕張に目を合わせながら、北上はついポツリと呟く。

当の問われた夕張は、そんな北上に対してキョトンとせざるを得ないが…北上は慌てて取り繕おうと言葉を付け足す。

ホントは、パラオ泊地と事を構えることが無ければ…奴さんが脅しに屈して引っ込んでくれたら良いのにね~と。

 

 

そうなのだ。

 

この『計画』の最上の結果と言うのは、『宣戦布告した自分達の行動に警戒して、パラオ泊地の艦娘が領海外に出ず周辺防衛にのみ徹してくれる』事。

要するに、『出会わない・ニアミスして殴り合う事が無い』事である。

それならそれで、『計画』その物は滞りなく完遂可能なのだから。   

そう…トラック泊地に集う者達からしたら、『パラオへの攻撃は、計画その物の足掛かりでしかない』のである。

 

その為か、夕張も苦笑いで北上の言に肯定的な相槌を返すが…

そこに割り込んできたのは、ヴェールヌイと時雨である。

事は、そう平穏無事に済まされないみたいだよ、と時雨が叫び、ヴェールヌイが無言のままに指を向けた。

その先には…

 

 

「何故か、びっくりするぐらいチグハグな戦意と戦術のせいで気持ち悪いが…今のパラオの管理者は、僕だ。舐められたままでは流石に示しがつかんからね、わるいが真っ向叩き伏せさせて貰いに来た」

 

そう言いながら、ドラム缶の上で仁王立ちで構える氏真と…

 

「ワシの前でワシ以上海で好き勝手されたら村上の面子が潰れるけんの、女子供しかおらんのが萎えるが…ワシァ容赦はせんけん、覚悟しいや!」

 

同じようにドラム缶の上で猛々しく吠えながら、トラック泊地の艦娘達に対して…そして、未だ見ぬ釣竿齋に対して、逆に威嚇するかの様な口調で戦意を示す通康。

 

そして、更に…ドラム缶で先頭に立ち、まるで主人公は我であることを主張するかの様に、ガイナ立ちで彼らを引っ張ってきた吹雪を先頭に、放射状に三角形を描く様に並びながら数多の艦娘が横に広がっている。

そう…パラオの艦娘全員による、緊急出動である。

 

最近妙に修羅場や鉄火場慣れしている加古や加賀達や元々荒事が得意な連中だけでなく、あまり戦闘が得意でもないだろう睦月や浜風や朧達でさえも、一様に戦意を衰えさせることが無い様な表情で、トラック泊地の『敵』に対して臨戦態勢に入っていた。

 

特に、飛鷹・隼鷹・金剛の戦意は尋常ではない。

怒りを全面に押し出したかの様な般若も逃げ出すだろう表情で、トラック泊地の艦隊に対して怒りを向けていたのである。

それは、何故か…金剛の言葉が、その答えだった。

 

「…ソウリィ…もしかしたら、貴女達全員は操られていて、誰にも私のワードなんて届かないのかも知れまセン。それでも、それでも一言だけ、シャウトさせて下さい!!よりによって、私の元アドミラルや皆が眠るここの海域に陣取るとは、どういう了見ですカ!!今すぐ立ち去りなさい、出ないと、私は自分を押さえられませン…!!」

 

 

そう、そのトラック泊地の艦隊が陣取っている場所。

それは、かつてパラオ泊地の艦隊が大被害を与え…そして、本来の提督ごと数多の艦娘が沈んでしまった、丁度その海域で有ったのだ。

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少し、話が前後してしまい申し訳は立たないのだが。

パラオ視点での話を、ここで挟ませて頂こう。

 

 

あの、雷を介した釣竿齋による宣戦布告の更に約一時間半後。 

元々泊地内に居たメンバーは戦闘準備をあたふたしつつも整えて、雷は外傷がなかった為に医務室に休ませて、遠征中だったりしたメンバーも無理矢理ながら泊地内に帰投した頃合いから話をする。

 

さて…

パラオからしたら、わざわざこの状況下で『釣竿齋達の手駒をパラオの艦娘達だけで討って出る』必要性は、実は限り無く薄い。

敵の位置の把握、それさえ出きるならば、後はそれを上に…この場合ならば、本土の大本営そのものに報告して、後はパラオそのものの戦線を維持さえ出来たら充分なのだ。

要するに、あんな形で喧嘩を売られた所で此方が乗る必要性が無いだろう、確実に仕留められる『数』を揃えて叩き潰すのみだ、と言う話で有った。

 

そう…氏真は当初は穴熊を、要はパラオの警戒と防衛と出来る限りでの索敵にだけ力を割き、直接的にぶつかる真似はするつもりはなかった。

だがしかし、それは、ある一報の通信により話の事態が急変することになったのである。

 

 

作戦室に動けるだろうメンバーが全員集合した段になり、それから作戦や初動の詰めにてんやわんやしたタイミングにおいて…ピリリ、と一通の緊急の連絡が入って来る。

それは、神通に向けられた、川内の特殊コードによる緊急通信で有った。

 

「…姉さん!?」

 

思わず、今の今までパラオからしたらMIAに近い扱いだった姉からの連絡。

神通は、姉の肉声を聞いて頭が一瞬だけ真っ白になり…そして、様々な想いが胸中に溢れ出す。

 

連絡がつかず今まで心配させていたことに対しての怒り。

久しぶりに元気そうな声を聞けたことに対する安堵。

そして…何よりも、この異常事態において、川内の緊急通信が繋がったと言うことの喜びや焦りである。

 

神通は、その言いたい言葉を全て呑み込んで、川内に対して質問する。

このタイミングでの通信だの、一体何が起きたのか、と。

その神通の言葉に対して、川内はこう返してきたのであった。

 

「…私たちは、すまないけど釣竿齋さんに協力しているんだ、神通」

 

淡々と、そうとだけ告げる川内に神通は絶句するが…

知ってか知らずかはさておいて、姉は更にこう続けるのである。

 

「釣竿齋さんの指示でね、私たちだけでなく、トラック泊地の艦隊ごと動かして…今、とある海域で隊列を整えながら戦力を纏めてそちらを狙っている最中なの。降伏するならば今のうち、いつでも貴女達全員ぐらいなら戦力差で叩き潰せるからね。じゃあね、神通」

 

そう言ってだけ、川内は一方的に通信を切る。

アワアワと、神通が状況を受け止めきれず見てて可哀想なことになり、川内の一方的な宣告に混乱の極みになる一同の中…唯一冷静だった赤城が横から声を張る。

逆探知です、今すぐに!と。

 

そう、川内の使用した通信は特殊なコードだった。

海外の軍はおろか、日本の軍隊ですら容易に逆探知等出来やしないが…赤城達、元々所属が特殊な艦隊等は、例外的にそれが出来る。

と言うより、大本営出身の者達からしたら、本来的には普段使いの連絡手段でしかないのだから、それを解き居場所を探ることも簡単なことであったのである。

 

そして…それを5分もせず解いた先にあった場所こそが、件の場所だったと言うことだったと言う。

 

 

さて…最初に言った通り、氏真は本来的には、釣竿齋達の手駒に対して直接的に殴りにいく理由は無い。

しかし、敵に完全に『嘗められている真似をされた』と言うだけでなく、身内にあたる艦娘達の姉妹からの直接の連絡が入って来たこと。

更に言えば、よりによって、特に金剛と飛鷹型姉妹にとってはだが、元々のパラオ出身の艦娘達が最も荒らして欲しくない場所を土足で踏み込まれると言う真似をされたこと。

 

そこまでされて、パラオの艦娘達も人間も、誰も黙っている訳にはいかなかった。

 

仮に罠だったとしても、少なくとも『十中八九その場所に何かしらある』としても、その敵艦隊に対してぶつからない理由はなかったのである。

 

 

その為、本当に最低限の防衛役と雷の面倒を見る為に杉村だけ残すと言う、わりと極まった采配をしつつ。 

残りのメンバーは片っ端から、トラック泊地とぶつかることになったのであった…

 

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…あの生臭坊主の指示に従ったら、本当にややこしい事になりやがったな

 

北上は内心そうぼやいてしまったが、それはそうと。

彼女はふぅ、と息を吐きながら切り換えると、ニヤリと笑いこう告げるのである。

 

頭に札張られてる連中は兎も角も、あたしらは正気でね~…こうなったら是非もなし、ってやつかな~と。

 

 

そんなユルい北上の言葉を皮切りに…パラオvsトラックの決戦が始まったのであった…

 

 

 

 

 

 

 


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