無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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注意、今回の『漂流者』さんはTS枠です
苦手な方はご注意ください


五十話 十勇士と集まるもの達(後編)

かつて…幕末において、日本を震撼させた毒おやつが存在した。

水・砂糖・小豆・団子状に練った白玉粉・ごく少量の塩で作る、所謂、普通の汁粉である。

 

何が「毒」なのか、と思われるかも知れない。

ごくごく普通のレシピのお汁粉じゃないか、と。

実際、材料自体は大した問題の無い、普通の汁粉である。

…問題は、その配分にあった。

 

水や小豆の割合が仮に1:1の割合、とする。

そこに入れるお砂糖の量は、少な目に見積もって100以上と言う、むしろ「ちょっと小豆の味がする気がする砂糖の塊』が完成していたと言う事案が起きていたのだ。

砂糖が熱で溶かされて液体は液体になっていたのだが、それはただの、溶かした飴でしかなかった。

 

…その、名状しがたきお汁粉的な何かを食べさせられたSさん(仮称)は、後にこう語る。

 

「…バカでしょ?アイツ、その…バカでしょう?副長もサンナンさんも『汁粉を作れ』って言ってるのに、出来上がるのが糸引いてる水飴って…しかも、アツアツのうちに食えって、水飴がアツアツのうちに食べたら大惨事じゃないですか。てか、基本的に麦芽とかで作ってない単なる砂糖の塊でしか無いから、冷えたらカッチカチになって飴と化して箸も通さない訳じゃないですか、誰も食べられない訳じゃないですか…バ カ で し ょ ア イ ツ !?」

 

…甘党の夢も、極めすぎたら大惨事と言う話でしかなかった。

 

 

そして、更に時が下り、明治に入って。

その毒お汁粉の製作者は、レモネード屋を開業した。

 

レモネード、基本的には水にレモン汁を加えた、今ではレモン味の炭酸飲料を指すことが多い実にシンプルな飲料である。

ス○ーピーの原作漫画にあたるピー○ッツでは子供たちが数セントで自作レモネードを売っているシーンが有るぐらい、アメリカ等では老若男女に馴染みの有る飲料であり、製作方法が簡単が故に明治維新以降の日本にもその飲料は認知された。

その為に、その毒飲料の作者も売れると踏んで開業したのだが…そこでもダメだった。

 

水とレモン汁が1:1の割合、とする。

そこに入れるお砂糖の量は、500を下らない分量であった。

基本的に、レモンの味はしなくはない、しなくはないが…基本的に最早、溶けきれていない砂糖の塊が逆に水を毛細管現象がごとく吸っている何か、と言う訳のわからない物質が完成していたのである。

 

…売れるわけがなく借金を沢山こさえる羽目になっていた。

後に、その友人Sは、そのレモネードの事をこう語る。

 

「…何度も言いますが、アイツ本当にバカでしょ…明治維新になってほとぼり冷めた頃かな、顔を合わせたことが何度か有って、私にもその時に振る舞ってくれたんですが…その、飲み物出せって出てきたのが砂糖の塊だったんですよね…変わってないなぁと、当時はホッコリしなくはなかったですが、まあ眉間に竹刀ぶちこんだ私は悪くないと思います、はい」

 

…旧友をブチキレさせる、飲料ですらない逸品だった。

 

 

そして、現代…蘇った彼女は、禁断の融合を思い付いた。

件の毒レモネードと毒お汁粉を炭酸水で割った何かを完成させたのである。

 

それを飲んだ飛龍はと言うと…

 

「…多聞丸……私、先に逝くね……」

 

…ただでさえクソ不味い甘さが喉に引っ掛かりボディブローのように長時間苦しませ、頑丈な身体のハズの艦娘を白目を向いて気絶させてダウンさせると言う、大惨事だった。

 

 

「飛龍さああああん!!?」

「あっははは…ひっどい死因だし、お墓はアイスの棒か割りばしでいいかな?」

 

それを横で見ていた瑞鳳は本気で心配し、夕張は逆にゲラゲラ笑いつつ金魚か虫が死んだときのお墓を作る感じでの事後処理を考え出すと言う、別な大惨事も発生中だった…

 

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「…許さんからな、瑞鳳以外全員許さんからな!!じわじわとなぶり殺してくれる!!」

 

飛龍はそれから5分後、わりとリアルに悶え苦しんだ後で落ち着きを取り戻し、何とか立ち上がるなり…なんか、ジャンプか何かのラスボスみたいなことを言いながらのっそりと起き上がる。

 

「え、私何も悪いことしてないけど、私もなぶり殺されるの?」

 

…堀越さん、とばっちり。

 

一方、当のそんな惨状を引き起こした張本人の毒飲料の製作者はと言うと…

 

「自分には中々美味しいもんだったけど…やっぱり、未来に生きすぎたのかなぁ。誰も自分が作る料理の良さをわかってくれないな」

 

全く反省の色を見せず、どこからか取り出した棒つきのぐるぐる巻いてるレトロな飴を取り出して、バキィ!と良い音をたてながら歯で噛み砕いていたと言う。

 

…ざけんな、と飛龍がマジギレしながら後頭部に回しげりをぶちこんだのが顛末だったと言う。

 

 

そこに、油の臭いがかききえるぐらいに甘い臭いがぷんぷんするね~…と、由緒正しき雷巡のポーズを微動だにせず崩さないまま、魚雷に対する限りない信仰を元に、物理法則を無視して足や膝を一切動かさずにスライドしながら工匠にむかって突っ込んでくるお下げの黒髪の少女が現れた。

そう…

 

 

「僕だね」

「時雨かよ!!このフリで出てくるのが時雨かよ!フリーダム過ぎるわ、北上じゃないの!?」

 

 

思わず飛龍がツッコミを入れざるを得なかった…大本営調べでは、こんな記録を持つ駆逐艦。

 

『石○彰の物真似が上手いヤツランキング1位』

『もこ○ち並に料理に無駄にオリーブオイルをかけちゃうランキング1位』

『唐揚げに無断でレモン汁をかけちゃうヤツランキング1位』

『カラオケで無駄にタンバリンを叩いちゃう駆逐艦1位』

『クソZ級映画のDVDを所持してるヤツランキング1位』等、数知れずな記録を持っている幸運艦、時雨の登場であった。

 

「って、関係ないアレなランキングの数が酷いな時雨!?」

 

…飛龍、怒りのツッコミ乱舞。

 

そこに、新たに雷巡のポーズのまま現れる艦娘が工匠に現れる。

そう…

 

「可愛い北上さんだと思いました?大丈夫、もっと可愛い榛名です!!」

「お前かよ!お前魚雷積めないんだから出来ちゃダメだろ!」

 

榛名である。

そして次に雷巡のポーズで現れるのは…

 

「同士諸君、ニーハオ」

「何もかも間違ってるよヴェールヌイはぁぁぁぁあ!?ロシア語じゃなくて中国語だよそれ!」

 

ロシア語があんまり出来ないため、とりあえず中国語で誤魔化してみたと言う、メッキが剥がれたヴェールヌイであった。

そして、ゴウランガ!

見よ、ヤセンニンジャ=クランのこの構えを!

これこそが、ゼンとチャドーを組み合わせて、マッポーめいた混沌を鎮めると言うキタカミ=サンがあやつるライジュンニンジャ=クランの構えを…

 

「おいこら、夜戦馬鹿!うるせえええ!?」

「…私、一言もしゃべって無いんだけど…」

「地の文がバグるの、お前が出ると!頼むからシリアスな時以外しゃしゃり出るな!てかボケるな!」

 

…ナムサン。

 

 

そんなカオスな状況下。

普通に、のっそりとドアを開けて入って来たのが…

 

「みんな、だいぶ揃ってるね~」

「いや、この流れでお前は普通に入って来たらダメだろ北上ィィイ!!」

 

由緒正しき雷巡その人であった。

 

「いや、スーパー北上様的には雷巡の良さをみんなにわかって欲しい訳ですよ~だから、こう、逆転の発想で、雷巡のポーズをあえてみんなにして貰う感じで~」

 

なお、雷巡のポーズ祭りだったことの真相はこんな理由。

見ててすっごく気持ち悪かった、とは瑞鳳の談であった。

 

 

「…なんだろう、お主ら、飛龍がおらんかったら色んな意味で詰んでる気がする…」

 

そして、最後に現れたのが、纏め役兼飛龍と並ぶ数少ないトラック泊地のツッコミ担当の釣竿齋である。

 

そんなげんなりした口調で現れた釣竿齋に、堀越は、顔を見せない古鷹のことについて質問する。

その真相はと言うと…釣竿齋曰く、こんなことだった。

 

「…『ちょっとムラっとしたので、利根さんからジュウジュニウムを補給して来ます!』とか言い出して、左目から俗な欲望の光を漏らしながら、詰め所の方に飛び出して行ったわ、あやつ。わりと、あの状態のあやつに関わりたくないからほっといたのだが…何やっとるんだ。と言うか、ジュウジュニウムって何だ…」

 

そう言って、遠い目をする釣竿齋である。

 

なお、ジュウジュニウムとは、古鷹が勝手に提唱している『重巡洋艦から発せられるエネルギー』のことである。

ジュウジュニウムを鼻や口から補給すると、主に精神が非常に安定すると言う。

利根型の場合は、主にチャイナ服風な衣装のスリットから発生する、らしい。

 

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~同時刻、トラック泊地詰め所~ 

 

「この、古鷹…全世界の重巡洋艦の姉としては、様々な重巡洋艦の良いところを知らなければなりません。つまり、私は嫌らしいことはしてません。愛です、愛。しかし、ここは良いですね、素晴らしく落ち着く…愛宕さんの谷間に並ぶ、素晴らしいジュウジュニウム発生スポットです」

 

頭に札を張られて意識の無い利根のスリットの中に顔を突っ込んで、真顔でスーハーしてる大天使フルタカエルの堕天の瞬間の図。

これはひどい。

 

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~同時刻、トラック泊地工匠~

 

((((((((クソみたいな絵が出来てる気がする)))))))))

 

工匠のメンバーが、古鷹のやってることを想像して、内心一致団結するものの…そこは、一旦置いといて。

 

 

逆に、釣竿齋の方が堀越に話を切り出した。

例のものは、本当に出来てるのか?と。

聞かれた堀越は、夕張の背中を軽くパンと叩きながら、肩を引き寄せつつこう返した。

なお、夕張は憧れの人と肩を抱き合ってる形になり、ちょっと顔が赤くなっていた…が、そちらは無視して、堀越の話を進めることにしよう。

 

 

「短期間で作ったことで不安は有るでしょうが…夕張さんの技術力や私の技術を以てすれば、まだまだ試作品段階ですが試運転も何度もしているし、安全性は問題無いです。この三日間は…まあ、微調整や洗浄等を除けば、目的の為の作業に費やす形で良いですね」

 

そう言って、堀越は工匠のシャッターの方にある大きなジェット機に視線を送る。

 

『YS-0 Thunder Storm』と、瑞鳳のセンスで機体に描かれたペイントが眩しい、その飛行機を眺めながら釣竿齋が感慨深げに呟く。

拙僧の生きていた代には、人を乗せて飛ぶ方舟などなかったが故に…未だに、こんな銕の塊が飛ぶなど信じられん、と。

 

気持ちはわかりますが、と、視線を艦娘の方に向けた堀越は、なんとも言えない表情でこう続けた。

 

「私からしても、死んで数十年経ったばかりのその技術に信じられないことばかりですから、私より四百年は昔に生まれた貴方からしたら、余計に驚くことばかりなのでしょう。私も、特に艦娘たちの『生体兵器』としての部分…誤解なきように付け加えるなら、『艤装と言う武器を艦娘の精神の核として、生体レベルで艦娘にリンクさせる超技術』に関して言えば、本当に驚きました…」 

 

そう言って遠い目をする堀越は、すぐに視線を真っ直ぐに戻しつつ、今度は件の毒飲料の製作者に目を向けて、こう話を切り出して締めた。

 

「しかし、夕張さん達の協力のおかげで、その技術や生体の一部ですが解析に成功して…カイさん、貴女の鎧も、遥かに高性能にパワーアップできました!様々な夕張さんのアイデアのおかげで、内蔵兵器の追加や稼働率の精度の大幅アップに成功して…ホバーにより、海上戦闘や短期間での空中戦に耐えうる、言わば『鎧スーツ』な超兵器が完成しました。この、ベルトを腰に巻いて、スイッチを押せば…いつでも、それと合身が可能です」

 

 

そう、堀越に言われてベルトを渡された『カイ』と呼ばれたその小学生並の体型の少女は…にやりと笑いながら、こう返事した。

…へぇ?これで、自分も艦娘さん達と共に戦える訳か…と。

 

そうです、と夕張は答え、こう言うときはポーズを付けて『変身!』とかって叫ぶんです、と余計な知識を吹き込んでいく。

なるほど、と鵜呑みにしたカイと言う少女は…右腕を横に平行に、左腕を胸の前に曲げて付きだし中腰に構えた後で、背筋を一気にピンと伸ばし右腕を90度直角に移動させて腕ごと天高く人差し指を付きあげる形に構えを切り直し、左手を腰のベルトのスイッチに移動させて、そのスイッチを押しながらこう叫んだ。

 

「『さきがけの鎧』…武身合身!!」

 

 

そう叫んだ、カイ…

 

否、新撰組では杉村…永倉新八とは終世親友であり続けた二番組伍長。

その鎧姿は8尺(180㎝)を越える大巨人。

その防御力は新撰組でも随一のその姿。

高下駄を履いている状態での、その鉄の巨大な塊を苦もなく操作する怪力。

二刀流や居合いを組み込んだ、剣士の心の形をそのままガン○ラの改造にしそうな流派な、心形刀流を自在にあやつるその剣の腕。

 

とんでもない甘党でもあり、そこら辺をこじらせて、色々同僚にキレられたりしたそのこじんまりとした体躯の少女の名前こそ…

後世では鎧姿の方が有名となってしまったが故に「大男」として、下の名前も『さきがけ』と言う鎧の名前とごっちゃになって伝わってしまった、島田魁(しまだ・かい)であった、と言う。

 

 

さて、そうして巨大な鎧武者姿になり、最早『アクターさんが岡○次郎さんになって腹回りが太くなった』とかそんなレベルじゃないビフォーアフターになって、開発チーム以外のメンバーがそんなとんでもない展開に口をあんぐりあけて放心するなかで…

魁は、実に嬉しそうな声で、こう呟いたのであった。

 

これで、ダチが世話になっている奴等に…挨拶できるな、楽しみだ、と。

 

 

その魁の言う『挨拶』…トラック泊地のメンバーによる、パラオへの作戦の事。

そのことについて…今度は三日後、つまり作戦決行の日の当日まで時計を進めて、話を始めるとしよう…


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