無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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四十九話 十勇士と集まるもの達(中編)

~トラック泊地、ドック内~

 

 

丁度、大本営の六名の艦娘達が釣竿齋とわちゃくちゃやっているタイミングで、残り三名の艦娘…

飛龍・夕張・瑞鳳の三名は、何しているかと言うと…

 

(多聞丸、多聞丸聞こえてる…私、砂糖吐きそう)

 

…飛龍が、すっごくげんなりしていた。

 

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さて、なんだかジョナサン・○レーンみたいにげっそりする感覚に襲われている飛龍の視線の先。

そこに有るものはと言うと…

 

「夕張さんはなしてー!!今日は私とオールナイトで九九艦爆とか九七艦攻のお話すりゅの!」

「瑞鳳こそその腕離しなさいな!今宵は私とバリバリ開発に付き合って貰うんだから!」

 

そう言って、まるで子供の玩具の取り合いのような状況で、瑞鳳と夕張が一人の男の腕を左右から引っ張り合いながら主張をぶつけ合っている。

お互い無い胸をその男にくっつけながら、自分が自分が…と、瑞鳳と夕張の二人が必死でアピールしている。

更に言えば…お互い、この二人がどっか情緒が子供っぽい上に鈍い性格と言うことも相まって、有る意味自覚がないからたちが悪い気もするが…まあ、一言で言えば、こいつら恋敵の間柄であった。

 

そして、当の一昔前のラブコメ漫画みたいな扱いにされている…七三分けの丸眼鏡な白いスーツを着た細面の青年は、実に困り果てた表情でそんな取り合いの渦中で流されていた。

 

 

…まあ、あの二人の気持ちだってわからなくはないけど

 

飛龍は、基本的にこう言うときは蚊帳の外なので…雌の顔してる友人二人に呆れては居るが、逆に言えば岡目八目と言うか、中立的な感じで周囲を見ているが故に気がつくことも少なくない。

 

 

瑞鳳は、まあ…基本的には、飛龍と同じ空母娘とは思えないちんまいナリも合わさって、若干ならず子供っぽい雰囲気を漂わせる玉子焼き好きな普通の少女である。

…ただし飛行機の話以外、と言う注釈が付くが。

 

艦爆、艦戦、艦攻…そう言った戦闘機が大好きな、戦闘機マニアと言う一面をも持つ。

どれくらいの戦闘機オタクなのかと言うと、戦闘機の話を振れば、何かヤバいなにかしらをキメている感じな表情で色々足らしながら10時間はかたりつづける…傍迷惑なタイプなマニアだった。

しかも、知識が狭く細かい上に同じ話をわりと何度も繰り返す、物凄く話の下手なタイプの。

大本営出身の、瑞鳳と関わることの多い空母艦娘は飛龍の他に赤城辺りも含め数時間無駄にした経験は三度は有り…瑞鳳に飛行機の話題を振るのは禁句と言うのが、共通の見解であった。

 

ところが、この丸眼鏡の男…身内の同僚はおろか自分の整備妖精さんすら嫌な顔をする瑞鳳の話を、最後まで、それも何度だって物凄く楽しそうに聞いてくれるのである。

それどころか、この男の飛行機の知識自体は瑞鳳以上である。

瑞鳳の間違っている知識は訂正し、逆に知らないことは瑞鳳に素直に教わり、時にディスカッションし…まあ、同レベルの知識の有るマニアが同好の士を見つけた感じだった。

 

瑞鳳が彼に惹かれるのは、まあ、情緒の幼い類いの彼女からしたら余計だったのかも知れないだろう。

 

 

そして、一方の夕張に関しては…瑞鳳が知識系のオタクとしたら、コイツは技術系のオタクである。

 

アニメや漫画が広く浅く好きな、夕張は所謂『ライトオタク』寄りな、瑞鳳とは違って一般的な意味でのオタクでも有るのだが、彼女の本領はそこではない。

元が実験用の軽巡洋艦と言うこともあり…対潜と索敵のエキスパートのこの蕎麦好き軽巡、ものっ凄い神経質で手先の細かい少女である。

 

作るプラモはフルスクラッチが基本、特技はハンダ付けとPCの自作。

世が世なら普通に軍を抜けて、そっちの専門紙を書いてもおかしくないぐらいの手先の器用さを持っている。

装備等も、良く大本営の資材を見繕い拝借しては、良く自作していたと言う。

どれくらいの器用さかと言うと、HGザ○ⅡFZを素体にプラ板やパテを駆使してMGサイズのボルジャー○ンを作れるぐらいの変態的な手先の器用さである。

 

そして、肝心の工匠等で夕張が造る装備はと言うと…

夕張の無駄に洗練された無駄の無い無駄な技術で何故か出来上がる、艦娘用パンジャンドラムとか艦娘用ジャイロジェット・ピストル等のクs…キワモノ装備の山。

夕張がアイデアを精査せず無駄に色々とりあえず造ってから考える悪癖も合わさって、資材を無駄使いさせない為に工匠の出入りを制限される羽目にもなってたりした。

 

とまあ、わりとそう言う意味では戦闘員向けな適正をしていないのに、彼女自身が無駄に強かったことも手伝い、戦闘員に回さざるを得なかった夕張だったのだが。

この丸眼鏡の男…むしろ、夕張の自由過ぎる発明や研究を、むしろ推奨してくれた。

 

この丸眼鏡の男…開発や研究者畑の出身の、それも氏真や通康や釣竿齋はおろか、杉村よりもずっと後の時代に生まれ育ったので有るが故に、開発者の気持ちが本当によくわかる。

開発のアイデアが上手く評価されない悔しさ、日進月歩で進化する技術の知識を知る楽しさ、開発に失敗する悔しさ、発明そのものの難しさ。

そう言う部分が夕張に共感できるが故に、夕張とも彼は話が合うのであった。

 

彼が、特に空母からではあるが、艦娘の大半から敬意を抱かれるような経歴を持つこと以上に…夕張の大好きな文字通り『有名アニメの世界の主人公』である彼に、尊敬混じりの好意を抱くのも、当然だったと言う。

 

 

そんなわけで…普段は仲が良い瑞鳳と夕張とは言え、色んな意味で要領が悪いタイプのオタク艦娘二人に重い愛を込みでなつかれるこの丸眼鏡の男…こんな時、彼は決まって、こう言うのである。

好いてくれるのは嬉しいが、落ち着いてくれ、と。

                   

「「やだ!私には落ち着いてられないの!!」」

 

…そして、このオタク艦娘二人がムッとした表情でハモってこう返す。

いや、いい加減にしないと困るでしょ…と飛龍がツッコミを入れ、丸眼鏡の男が苦笑いでどうしようも無くなる、と言う流れも、彼が顕れてからトラック泊地でのいつもなことだった。

 

 

さて、この丸眼鏡の七三分けなこの男。

近年だと、『風立ちぬ』で庵野秀明が演じたことでも有名な、堀越二郎と言う。

 

彼は、群馬県の貴族に連なる上流階級出身かつ嫁と子宝に恵まれた、今の東大にあたる東京帝国大学工学部卒の勝ち組エリート…と、有る意味氏真と似た感じの人生を歩んでいるが、問題はそこではない。

 

あの九六式、雷電、烈風と言う、数々の航戦の華を彩った戦闘機…そして、かつての大戦の代名詞でもある零式艦上戦闘機こと零戦の開発者と言う実績を持っている。

戦後もYS-11を開発したり、ばんだい号墜落事故等の調査にも関わり続けた、日本の航空開発の父と呼べる偉大な男なのである。特に、空母娘は本当に足を向けて寝られないレベルでの。

 

飛龍も多聞丸の次ぐらいに尊敬しているそんな男を、ものみたいに取り合う等と、この玉子焼きと蕎麦の二人がわりと飛龍がたまに心臓止まりそうになるレベルな無茶苦茶やっている訳であるが…

まあ、堀越が基本的におおらかな気性であったことも有り、大した問題はなかった、とか。

 

それに、堀越にも彼女らに恩があることも事実だ。

 

釣竿齋達や大本営所属だった艦娘達がトラック泊地で闊歩することとなった、更に一週間ぐらい後のこと。

ヤセン・スレイヤー=サンがヤセン=ジツの修行をかねて、草木も眠る夜更けに、『漂流者』として海岸でぐったりしている堀越を拾って助けたことが発端となり…

結果的にではあるが、堀越は釣竿齋達の恩返しも兼ねて、彼等に無償で協力する運びになったと言う。

 

彼、堀越が…無礼すぎる艦娘達のアピールにあんまり怒ってないのも、そう言う理由が有ったからでもある。

良くも悪くも、彼は律儀な気性でも有った。

 

 

とまあ、そんな技術屋どものラブコメは見てる分には面白い気もするが、とは言え…飛龍からしたら、正直お腹一杯な訳である。

立場上、と言うか艦種の関係上、堀越の知識や技術は飛龍にとっても必要となる場面も少なくないが、そのせいで工匠に出向く度にあ○ほり先生よろしく、90年代の夕方にやってた感じのラブコメアニメみたいな展開を見せられる側にもなって欲しいと言うのが、最近の飛龍の悩みの種で有った。

 

最近だと、工匠で飲む無糖のコーヒーが最早マックスコーヒーを通り越してハチミツみたいな味がする気がするとは、飛龍の談だとか。

 

 

…と、そんなラブコメに参っている飛龍に向かい、声をかける少女がふらりと顕れる。

身長が120㎝ぐらいの、最早小学校低学年レベルのちっちゃい体躯の『最後の漂流者』たるその少女が、飛龍に向かい同情的な目線を向けていた。

 

と言うのも、その最後の漂流者たる彼女はと言うと、基本的には戦闘員ではない堀越を、と言うよりは、より正確に言えば工匠組周辺の護衛を担当しているメンバーを万一の場合から守護するために、進んで警備員を買って出てくれている生粋の戦士なのだが…

まあ、飛龍と似た理由で毎回ラブコメ現場に出くわす被害者同士でもある訳である。

 

そんなわけで、なんだか妙な理由で仲良くなったこの二人であるが、警備員の女の子の方が、これでも飲んでさっぱりしたら?と、飛龍にむかってビン入りの飲料を渡してくる。

そして、飛龍はその飲料を警戒せず思わず口にして…

 

「まっず!?な、何これ!レモン味の水飴みたいなドロっとしたのがシュワー…って後からあんこの味もする!?喉ごし気持ち悪!ハチミツとか水飴が口のなかでシュワシュワしてるのから冷たいお汁粉がとどめ指してくるの気持ち悪!!つーか、炭酸飲料が砂糖の入れすぎで何か糸引いてるとか始めてみた、どうなってんのコレ!?」

 

…あまりの毒飲料っぷりに、むせた。

そして、ムド○ンカレーを食わされたガッカリ王子みたいに、キレた。

 

 

一方、その毒飲料を渡してしまった方はと言うと。

ビンを間違えた、と謝罪しながらも飛龍からそのビンを奪い取り、その喉ごし最悪のスパークリングレモネードお汁粉水飴らしき何かな飲料を、実に美味しそうに飲み干すのであった…




中編のオチは、史実ネタですがzero-45様リスペクト、です

と言うか、zero-45様にイラストを頂いたことが嬉しくて、プロットを書き換えました
自作の毒飲料を作る人、とアレなキャラに…

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