無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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五話 一月娘は補佐になる

さてさて。

 

まあ、浜風でとんでもないオチが付いてしまったことはさておき、とりあえずこの泊地に居る艦娘全員に邂逅した氏真ではあるが。

とりあえず、金剛以外の動ける艦娘全員を一度、金剛の病室と化しているドック室の外の渡り廊下に集める。

そして、天龍・龍田・睦月・加古・浜風が出揃うなり、氏真は最初にこう言った。

 

「とりあえず深海棲艦相手したりするのにこの辺りの地図とこの泊地の情報を集めたいんだけど、話を聞くに、英語…というのかな?南蛮語は流石に僕は門外漢でね、それに僕の未来の軍事資料なんて専門的な話はわからないだろう。という訳で、とりあえず資料が読める子が居たら手を挙げてくれないか?」

 

 

そう、氏真の最初にやりたいことは細かい情報収集と認識の擦り合わせ、そしてこの地の情況確認で有った。

 

それこそ、艦娘のファーストコンタクトでは艦娘の窮状に同情して衝動的に飛び出して、無双というかモンハンかまして艦娘達をドン引きさせたモノの。

氏真の本質はというと、戦国武将としては脳筋気味の猛将ではなく理詰めの文官系の男である。

剣術の腕と蹴鞠の腕が天限突発している上に本人があっけらかんとして軽い性格の為解りにくいのだが、

本質的には資料整理なり情報収集の仕事の方を氏真も好んで居るし、なにより本の虫でもある氏真の得意中の得意な分野で有った。

 

とは言うものの、流石にその情報そのモノの認識は、戦国時代出身の氏真からしたら大幅にズレている事も彼自身が把握している。

そう言う所のサポーターをまずもって付けてくれ、と氏真は頭を下げていた、という寸法だった。

 

そこで手を挙げた艦娘は二人である。

浜風と、睦月の二人で有った。

 

 

「…スミマセンが、私は食事の用意の仕事も有りますし、何よりも金剛さんにprpr…もとい、看病で目が離せませんから、私は辞退させていただきます」

 

最初に、氏真の言葉を受けて浜風が頭を下げて謝りながら辞退する。

…不穏な単語がちらつくのは、この際無視しよう。

そうして、ならば、ともう一人の候補者たる睦月がこんな軽口を叩きながら、胸を張って口を開いたので有った。

 

「じゃあこの睦月型駆逐艦ネームシップの睦月に任せるが良いぞ良いぞ!」

 

氏真も睦月に苦笑しつつも、これは頼もしいなと喜んでいた。

 

 

なお、いままで睦月だけ死地に行かなかった理由を話してなかったが。

ぶっちゃけて言えば、睦月は前任の提督に煙たがられていた、というのがその理由で有った。

 

このにゃしい系あーぱー駆逐艦、実はけっこう頭が良い理数系である。

そのため、資料整理…こと、経理には無類な強さを発揮するサポーター特化の特技を持っている。

しかし、なんというか、見た目も言動も「軽い」上に実戦というかケンカがてんで弱い、所謂あたまでっかちな娘でも有った。

 

それだけならまだしも、なまじ資料が読めるために資材運用が下手な前任の提督達に苦言を呈することも多く、そのために加古以上に冷や飯食いというか浮いてしまったりすることが多かった。

睦月本人が余り強くなく、実戦では余り役に立たなかった事も災いしたのだろう。

 

そのため、前任の提督も最後の闘いには睦月は入れなかったのだが…

いままで自分に反発していた駆逐艦に対する最後の意趣返しか、それとも憎まれ役になってでも諫言を呈してくれたのに無視して破滅した自分の部下への後悔と慈悲かは、今となっては知る術は、ない。

 

さてさて、そんな睦月の過去はともかくも。

こんな具合で、いままで睦月は能力は有るのにまるで評価されてなかったのだが、それこそ氏真からしたら…というか、本来ならどこの鎮守府からも喉から手が出る程ほしい人材な訳で。

 

睦月は生まれて始めて正当に評価されて頼られて、実に嬉しそうにドヤ顔をしていた。

 

 

「…てっきり、龍田ちゃんが挙手するかと思ってたけども、僕は」

「あの人、この手の作業は意外とアレだぞ!」

「ゴメンね、英語読めなくてゴメンねぇ…簿記も出来なくてゴメンねぇ…」

 

…こんな一幕が有ったりなかったりしたのは、余談として書いておこう。

 

――――――――――――――――

 

さてさて、それから更に3時間程、話を進めよう。

 

…すごい人にゃし、氏真さん。

 

こんな感じで睦月は内心舌を巻きながら、執務室にある資料と格闘している氏真の資料整理の手伝いをしていた。

 

それこそ、英語・ドイツ語という新しい…というか、カタカナや平仮名で書かれた外来語ですら氏真からしたら未知中の未知である為に、知らなかった単語が出たらその度に睦月に質問する為に、

実際の所はいまだに作業効率としてはあまり良くはないのだが。

それでも、幼少の頃から基本的な算術なり読み書きを修めており、くどいようだが文官としての実力こそ氏真は超一流な人間である。

戦国武将でなかったなら、確実に天下に名を馳せるだけの才の有った天才と言って過言ではない氏真は、未知の言語に格闘している提督初心者とは思えない程のスピーディーさで、資料整理を兼ねた情報収集の編纂にせいを出していた。

 

 

「…ッ、なんて資材運用してんだコイツ…」

「こんな進撃、無茶苦茶じゃあないか、こりゃ…」

「…兵站軽視しすぎだろ…これ…」

 

そうして、氏真が資料の内容を理解して、前任の提督の所業にポツリと悪態をつく度に、睦月は提督の暴挙を止められず情けないような、氏真に押し付ける形になっていることに申し訳ないような気分になりつつも。

それでも、睦月も氏真と一緒に、資料とにらめっこし続けて居た。

 

しかし、何時間も、それこそ飯も食わず何も飲まず資料と格闘していると流石に集中力が落ちる。

細かい字もボヤけて見えてきた、という事で、睦月は少し休憩を挟もうと提案して氏真も承諾する。

飲み物か何か持ってくるけど氏真は何が良いか、という睦月の質問に答えるように、氏真はこう答えた。

 

「武田信玄じゃあなきゃなんでも良い」              

「そりゃあんたにゃそうなんだろうけども!?」

 

今川流ジョーク…というか、関東・中部の武田家被害者の会の戦国武将ジョークに思わずずっこける睦月ではあるが。

そうして、睦月が足をもつれさせて転んだ視線の先に、一枚の紙が睦月の前に飛び込んで来た。

 

…ああ、こりゃ整理する際に気が付かず自分か氏真のどっちがが落とした資料かなと睦月は思い、何気無く、一枚落ちてたよ、と言って睦月が氏真に紙を渡す。

氏真は氏真で呑気にそれを受け取って何気無くそれを目を通すと…氏真の表情が一気に変わる。

そして、睦月の肩をガシッと掴むと、氏真はこう言った。

 

「でかした…!こりゃ最高だぞ、睦月ちゃん!」

 

 

訳がわからないまま睦月はにゃしい!?と氏真の豹変に混乱するが、氏真の次の言葉を聞き、彼女は喜び破顔したのであった…

 

 

 


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