無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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四十八話 十勇士と集まるもの達(前編)

さて、突然ではあるのだが、ここで…トラック泊地内で始まっていく話の本筋を進める前に、件の大本営出身の古鷹型の一番艦の古鷹について、軽く触れていこうと思う。

 

 

古鷹と言う女は…基本的には優しくて礼儀正しい性格をしているが、只一つだけ、まともではない一面を持っている。

 

古鷹は、重巡が好きだ。  

古鷹は、重巡が好きだ。

古鷹は、重巡洋艦が大好きだ。

 

古鷹型が好きだ。

青葉型が好きだ。

高雄型が好きだ。

妙高型が好きだ。

利根型が好きだ。

最上型が好きだ。

ザラ級が好きだ。

アドミラル・ヒッパー級が好きだ。

 

ゲームで、アニメで、小説で、現実で、漫画で、戦場映画で、妄想で。

この地上で描かれる、ありとあらゆる重巡洋艦が大好きだ。

…と、これ以上やると多方面から怒られそうなので控えるが。

 

兎に角、古鷹はとんでもない『重巡洋艦フェチ』なのだ。

重巡洋艦の愛が深すぎて、ただ重巡洋艦の愛の為に改二にまで到達した剛の艦娘だ。

あらゆる重巡洋艦の指針として恥じぬため、あらゆる重巡洋艦を愛でるため、そして世界を重巡洋艦の光の海に沈めるために、彼女は際限無く強くなったと言う。

 

要するに、若干ナルシストが入っている感じはあるが…基本的には、霞の同類の斜め上に全力でブレーキが付いてない変態である。

 

「…と言う訳でですね、和尚様の法力や忍術で、トラック泊地の艦娘を全て重巡洋艦に改装することはやはり叶わないのでしょうか…」

「…だから、拙僧でも無理だわこのアマァ!何度目だこのやり取りは!?」

 

そして…その、艦娘として古鷹が生まれ出でてからひそかにしたためていた『日本重巡化計画』をも、件の坊主の計画にぶちこもうとするのも、トラック泊地の日常だったのであった…

 

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~それからそれから、トラック泊地内での話~

 

 

「痛いです…」

 

古鷹が、例の坊主にチョップを食らってたん瘤を作ったタイミングから、話を再開するとしよう。

 

 

そんな感じで、とりあえず6人の艦隊が召集したタイミングで…壮絶なるイクサの開始点と化す!

おお、見よ…!ヤセン・スレイヤー=サンのアンブッシュじみたアイサツを!

仲間内でのアイサツは大事、古事記にもそう書かれている!

ゴウランガ!ヤセン・スレイヤーはメンポの代わりになるマフラーを口から剥がし、まるでシャカリキを決めたヨタモノをも目を覚まさせるかのような美貌が以て…

 

「…地の文を乗っとるの止めてよ、お主…」

「 無 理 」

 

ヤセン・スレイヤー=サンは、状況が極度なシリアス案件になるかイクサが始まらない限り、彼女が登場する度に地の文=サンがニンジャスレイヤー=フウのジツに巻き込まれる呪いにかかっている。

ナムサン。

 

「いや、拙僧達これから真面目な話するところぉ!!」

 

アッ、ハイ。

 

 

と、まあ…こんな感じで、微妙にギャグな空気が抜けない状況下で、まあなんでもいいけどさ~、と緩い口調で口を挟みに来た艦娘が現れた。

 

それは、本人曰く『ヨガと整体術を組み合わせ、艦娘にとっては最も身体に負担がかからず集中力増大と体力回復に適している』と言う、どうみても肘と腰と膝に悪そうな由緒正しい雷巡のポーズを微動だにせず崩さないままに、唇すらも動かさずに腹話術のような感じで語りだした北上であった。

 

そんな北上曰く、話と言うのは簡潔に言えばこう言うことだ。

『決行』は、予定通り明明後日なのか、と。

 

然り、と坊主が答える中で、さらにフォローするかのような感じで話をしだしたのは榛名である。

彼女は懐から手帳のようなものを取り出すと、こう切り出した。

 

「…『榛名大丈夫手帳』に書かれた『榛名大丈夫算』を駆使した計算によりますと…この泊地が本来の意味で大丈夫じゃ無くなるのは凡そ二ヶ月後、最速の場合だったら1ヶ月弱と出ています。色々な後事の処理も含めると、決行は後二日以内に済ませなければ最悪のケースが発生した場合の対応が大丈夫じゃなくなるのです。『彼』の開発も、既に本格的な試験運転は済ませている以上、安全性等も大丈夫と榛名は確信しています。なので…この二日以内に、最後の艤装の微調整や補給等の確認を済ませれば、問題なく大丈夫になりますね」

 

 

…とまあ、大丈夫を連呼し過ぎて、その場に居る全員が逆に大丈夫じゃ無くなってくる不安にかられる中で、古鷹が、ポツリと漏らす。

パラオにもトラック泊地にも迷惑極まりないこの作戦…誰も、結局は降りないんですね、と。

今…逃げ出したらギリギリ責任を問われないだろうこのタイミングで仮に逃げ出したとしても、恐らく、誰も咎めたりはしないですよ…と。

 

しかし…そんな古鷹の不安に対して、その場に居た艦娘全員が、溜め息をついて呆れるだけだ。

そして、逆に北上が古鷹に対して聞き出していく、あんたこそ逃げれば良いじゃない、と。

それは…と、北上の言に古鷹が詰まったタイミングで、北上は少しだけ優しい口調になりながら、こう続けたのであった。

 

「…あんたは、こう言う時に逃げ出したりしない、優しくて責任感の有る良い女だよ。そして、あたしもそうだけど、この場に居る連中はこの状況下で逃げ出せる程、薄情じゃないのよね~だから、責任取って死ぬときは、皆一緒だ」

 

 

そう北上が言って、横で聞いていたヴェールヌイや時雨辺りは茶番だな、と苦笑はするものの…

全員が、無言で北上の言に頷いて、それを肯定する。

そんな艦娘達の姿を見た坊主は、獰猛ながらも優しい不思議な笑みを湛えると、口角を上げながらこう続けたのであった。

 

「拙僧…十勇士たる『釣竿齋宗渭』の計にしくじりはないわ!!我が術、我が策、何としてでも為し遂げてみせる!!者共、拙僧に着いてこい!!」

 

 

そう…坊主こと、彼の名前は釣竿齋宗渭(ちょうかんさい・そうい)と言う。

聞きなれないであろうが、彼もまた戦国時代を駆け抜けた坊主であり武将の一人である。

 

否、出家後の名前を出したとしても、わかるものは少ないだろう。

彼は、出家する前の名前は『三好政康』、日本史だったら織田や細川やどこぞの平蜘蛛ボンバーマンが関わる史実を調べたら必ず名前を見るであろう、かの『三好三人衆』が一人である。

 

あの三河周辺の猛者が殴り合うあの時代において…細川家の宿将としてはじまり、裏切ったり裏切られたり、勝ったり負けたりを繰り返しながら時代の波に永録12年(1569年)を境にぱったりと消息を断ってしまった…

あの時代に良く居た、チート・オブ・チートの領域に届かず歴史の波に消えてしまった一人の名有りな将に過ぎなかっただろうが、彼は、そこで終わらなかった。

 

彼は…まさしく、ニンジャ!

あの動乱のから更に後、彼は、老齢になりながらも忍術と法力と怪力を身に付けて真田の宿将として復活する!

 

そう…彼が、彼こそが、今でもヒーロー小説やヒーロー漫画の題材としても人気が高い『真田十勇士』の一人である男。

真田幸村や猿飛佐助や霧隠才蔵にこそ今1歩知名度が劣るものの、弟と共に幸村の為に暴れまわった破戒僧…

忍者戦隊カクレンジャーではセイカイのモデルにもなった『三好清海入道』こそが、彼の真の正体であったのだ!

 

 

体術・智力・胆力だけでなく、摩訶不思議な忍術や法力をも使いこなせる彼、釣竿齋主導により始まっていく『策』。

 

はたして、それを氏真達パラオ泊地のもの達は乗り越えることはできるのであろうか…と言うことを、次の瑞鳳・飛龍・夕張の三人が『もう一人』…実は『もう二人』と共に居る、工匠の場面にカメラを向けて最後に語ってから、その策の顛末について話を進めることにしよう…

 


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