無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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四十七話 神通の目的とトラック泊地の異変

…さて、話は謎多き艦娘である、雷の到来から更に少し後。

遠征中の霞・吹雪・龍田・阿賀野以外の全員が執務室に到着したタイミングから、話を再開することにしよう…

 

 

トラック泊地と言う言葉に反応した神通の絶叫により、一同は彼女に注視する

 

そして…神通は己が『やらかした』ことを自覚して、赤城がいやに冷たい視線を送っていることにも気付いたことも手伝い顔を一瞬青くするが…

しかし、すぐにかぶりを振って、神通は思考を纏め直しつつ、深呼吸した後から話をはじめる。

そして開口一番に、実は今までスパイしみたことをしていたことを謝罪してから、もう隠し事を抱える段階ではないと前置きして、話をはじめたのであった。

 

神通の話を纏めると、こう言う話である。

 

それは、氏真がパラオ泊地に現れた、その一ヶ月半ぐらい後の話から始めなければならないと言う。 

ミクロネシア周辺の担当していたオペレーター、久し振りな登場のAさんの元に、一通の電話が入ったことがそもそもの発端であった。

それは、泊地の敷地内に、見慣れない袈裟を着た男達が彷徨っているという、不審人物の通報であったのだ。

 

そんなもん憲兵隊とかの仕事だろう、とオペレーターは内心呆れつつ当初は呑気に応対していたが…すぐに彼の認識は改めざるを得なかった。  

簡潔に言ってしまえば…調査に向かわせた一部の艦娘や数名の警備兵や憲兵が、立て続けに揃って行方不明になっていたと言うのだ。

 

あまりにも状況がおかしいことに気付かざるを得なかったそのトラック泊地の提督は…万一の時の為の後事のことや、行方不明者の探索とトラック泊地の調査を頼むために、大本営の判断や応援の手続きを求めて通報した、と言うことが顛末であった。

 

そこで…実力派と名高い、本来は元々の神通の所属部隊でもあった遊撃部隊から、フリーハンドでかつ隠密任務にも長けた腕の立つ艦娘を数名大本営から派遣して調査に向かった。

だが…そこで、状況が更にややこしいことになった、と言う。

 

結論から先に言えば、その『行方不明者』達は、彼女らが到着した前後に見つかったと言う。

トラック泊地周辺の近海の港で、全員が無傷で発見され、そのトラック泊地の提督からの通報により解決された。  

ならば、万々歳であり任務も終わりではないか、と言いたいが…大本営からしたらそう言うことにはならなかったのだ。 

 

まず、『何故、全員が一斉に神隠しにあったのか?』と言う疑問点が全く解決されていない。

次に、『何故、彼らが無傷で発見されたのか?』と言う疑問も同じように浮かぶ。

更に言ってしまえば、『主犯格だろう、その坊主の正体が不明なままだ』と言うこともある。

 

そして…何よりも、『それらに対する疑問や心配を、その報告した提督からまるで声がかからなかった』と言うことが、一番のおかしなポイントであろう。

オペレーターもそこを思わず突っ込んだが、最初に通報した時とはうってかわり、まるで抑揚無い機械みたいな反応で、わからないとか知らないとしか答えなかったと言うのだ。

 

丁度そのトラック泊地が本格的な異常事態と言うタイミングで、派遣した艦娘達からの連絡も取れなくなってしまった事も、大本営が慌てさせるに十分なこととして、拍車をかけていた。

とは言え…また、考え無しに応援をトラック泊地に寄越したところで、木乃伊とりが木乃伊になるのは目に見えている。

 

そこで、実質フリーハンドでもありトラック泊地にもっとも近い位置にいる神通に、トラック泊地の調査の役をさせようと、白羽の矢を立てたのだ。

そして、本来は元帥の親衛隊でもあった赤城を、元帥の養子の護衛を兼ねつつの極秘に任務を伝えるメッセンジャーとして送り込み…まずは、秘密裏であるが神通に対して詳しいパラオの調査を命じた、と言うことであったと言う。

赤城は、その神通の目付け役を兼ねた、もう一人のパラオの覆面調査員と言うのがその本来の役目でもあったのだ。

 

何せ、いくらでも彼女ら『上』の出身の人材が、パラオ泊地内での監査を兼ねつつの加入する理由など清濁問わず思い付く。

訳のわからない戸籍すらない人間が、提督の椅子に座り海軍の中にも出入りしているのだ。

むしろ、監査の人間が居ない方が話にならぬのだから、当然の話でもあった。

 

そして…下手すると、氏真や通康達が『神隠し』に加担していないとも限らない。

表面的には海軍に協力的であり、艦娘の為ならば滅私の精神で動いてくれる人と言うこと自体は公私共に記録に残っている以上疑いようがないとは言え…逆に言えば、『艦娘の為ならば何するかわからない』危険牌、と言う認識をされていたところも無くはなかったから尚の事であった。

…まあ、実際は、やっぱりシロであったのだが。

 

そんな訳で、パラオからの調査では足掛かりが掴めないだろう、と神通が悟ったタイミングで、トラック泊地出身の亡命者の雷…神通からしたら、渡りに船と言うがごときそんな当事者が現れたのだ。

食いつくのは、当然の話であった。

 

 

「…今まで、私達の本当の目的を皆さんに黙っていたことも、スパイじみたことをしていたことも、そして…話してしまって、赤城さんに迷惑がかかることも含めて、本当に悪かったと思います、申し訳ありませんでした!!」

 

そう言って、神通が深々と、本当に申し訳無いような表情を以て艦隊に頭を下げる。

赤城も、神通に対して何とも言えない表情を向けながらも…同じように、艦隊に向かってぺこりと謝罪した。

 

 

一方、謝意を向けられたパラオの側はと言うと。

 

正直なところ、痛くもないとは言え腹を探られたこと自体には怒りを感じなくはないのだが…この二人に対してどうしたら良いのだ、と言う感想になる連中が大半であった。

 

彼女らは任務に対して忠実に実行し続けただけで、極端な話をしたら、何一つ謝るべき箇所はない。

怒るとしたらスパイ行為じみたことを命じた大本営の側であるが、状況が状況な上に、そもそもこの鎮守府の状況下が特殊過ぎる以上…それで疑うなと言う方がおかしな話になる。

要するに、実質、誰も悪くない話でしかなかった。

 

更に言えば、平時は若干ならずポンコツ気味な神通もそうだが、強引かつところどころ言葉が足りない悪癖を除けば赤城だって悪い人ではないことはパラオ泊地の皆が知っていることである。

誰も彼女らを個人的にも嫌ってない以上、尚の事、この二人に対して怒ることは出来なかった。

 

 

さて、どうしたら良いのかにゃ、と睦月が何気無しに呟くと…横から、扶桑が血糊も吐かずに実に真面目な口調で以て、神通に質問した。

 

「ごほん…神通さん、貴女は普段はアレなのは知っているけど、付き合いが短い私でもわかることがあるわ。貴女は、任務に関わることで致命的なミスをする様な下らない女ではないし…もっと言えば、あんなに取り乱す程の理由も任務をペラペラ話してしまった理由もわからないの。だから、悪いと思うなら一つだけきちっと答えなさい、『貴女個人に、何があったのかしら』?」

 

そう言って、神通に真っ直ぐな視線を向けた扶桑に対して、当の神通は…実に、苦しそうな表情になるのだが、意を決した彼女はその質問にこう答えたのであった。

 

「…『シロ』とこの鎮守府がわかった以上、何がなんでも、それこそ自分が持っている情報全てを正直に話してでも早くこの事態を解決したかったのです。それが、軍人失格なことはわかってはいても…だって、だって!『大本営所属の連絡が取れなくなった艦娘』に…川内、私の姉さんが…それだけじゃないの!!私の、私が友達だと思ってる…金剛さん、貴女達の姉妹艦も居て、私…!!」

 

そう言って、感極まり素の性格を見せてオロオロしだした神通…その胸ぐらを、いきなり掴む者が現れた。

当の、金剛である。

 

「HEY…!!どういうわけネー、神通!!何故黙っていタ!!誰ですカ!!私のシスターの誰がミッシングしたって言うんデス!!答えロ、神通!!」

 

 

珍しく、目を血走らせながら、怒りと焦りが混じった表情で神通に詰め寄る金剛。

そんな彼女を、慌てて皆が仲裁に入ろうと中で…頭を冷しなさい、と一言だけ言いながら、飛鷹が金剛に向かって思いきりグーで横っ面をぶん殴る。

 

ゴスッととても鈍い音を響かせながら吹っ飛ばされる金剛、と言う惨状に、全員が一気に凍り付きながら。

しかし、飛鷹はまるで悪びれないままに、誰に告げると言う訳でも無くこう切り出した。

 

「…あのねぇ、神通さんは金剛さんの為だけに生きてる訳じゃないの。そもそも、任務内容が内容だから、雷って子がここにやって来る何てイレギュラー中のイレギュラーが無ければずっと胸にしまわざるを得ないだろうし…何よりも、友達に心配かけさせたくないから今の今まで神通さんだって黙っていたんでしょう?その重圧を鑑みずに、あんな表情で詰め寄るなんて酷いわよ金剛さん」

 

そう言って、殴ったのはやりすぎだったわね、と謝りつつ金剛を抱き起こす飛鷹。

当の金剛はと言うと、実にばつの悪そうな表情になりながら、それでももう一度だけ神通に質問を向けた。

行方不明になった艦隊のメンバーって、誰なんですカ、と。

 

神通は…目を軽く閉じた後、実にしっかりとした表情で、そして…今まで以上に申し訳無い表情で、こう答えたのであった。

 

「…川内型一番艦の川内、夕張型の夕張、飛龍型空母の飛龍、祥鳳型の二番艦の瑞鳳、そして…パラオ泊地の皆さんや雷さんの姉妹艦も複数いらっしゃいます。暁型の二番艦のヴェールヌイ、球磨型三番艦の重雷装巡洋艦の北上、古鷹型一番艦の古鷹、白露型の二番艦の時雨、金剛型の榛名の、計9人です」

 

そう告げた神通の言に対して当の姉妹艦達はと言うと。

 

榛名ガ…とだけ呟き、顔を曇らせる金剛。

涙目になりながら、時雨お姉ちゃん…と、本当に心配そうな表情になる夕立。

顔も知らねえ姉貴、か…とだけ呟いた加古。

頭を抱えて、どうするべきか悩む球磨。

目を閉じて、表情からは何か掴みにくい木曾、と言う状況だったと言う。

 

 

そんな行方不明とだけ告げられた姉妹艦に対しての様を、氏真含め、多くの人間は黙って見守るしかなかった。

そして…

 

当の渦中の人物たる雷はと言うと、言葉の上では、自分の姉を含めて行方不明者を心配してそうなことを言いながらその瞳は全く動じていなかったことを…この時は誰一人、知る余地はなかったのであったと言う。

 

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~同時刻、トラック泊地、執務室~

 

 

「…来たな」

 

袈裟を着た、当の事件の渦中の人物たるその坊主は…自分が支配している、トラック泊地の執務室内に『行方不明』とまでされていた例の大本営出身の艦隊が纏めて現れたことに…何とも妖しい笑みを以て歓待する。

それは、今まで出てきた川内・時雨・ヴェールヌイの三人の他…

 

 

「うーす、生臭忍者坊主な旦那~げんきかな~ビンビンかな~私はげんきだよ~」

 

そう、ゆる~く告げながら現れた、球磨型の三番艦であるお下げの少女の北上。

 

「夜戦バカさんにいきなり召集をかけられても榛名は大丈夫ですが…夕張さんと瑞鳳さんと飛龍さんの三人は、ちょっと向こうのあの人と一緒に、工匠にこもって色々頑張っていらっしゃいます。調整が大変らしくて、手が離せないらしいんですけどね」

 

次に現れたのは、川内をナチュラルにディスりながらも苦笑いして集まることが出来なかったメンバーのフォローをしながら登場した金剛型の三番艦である、榛名。

 

そして…

 

「手を離せないメンバー以外だったら私が最後…遅くなってすみません!!」

 

そう言って、なんだか守ってあげたくなるオーラを振り撒きながら、ペコペコと頭を下げつつ、左目から妖しい雷光が漏れている茶髪な重巡洋艦…古鷹型の艦娘である、古鷹が一番最後にやって来る。

 

坊主はと言うと、古鷹に向かって、拙僧は別に集まるのが一番最後になって遅くなったぐらいで咎めはしない、と笑いながら声をかけるが…

そんな坊主のことはまるで意に介さないかのような状態のまま、古鷹はと言うと、謝罪の体勢を崩さないままに、実に申し訳なさそうにこう続けるのであった。

 

 

「折角、私達のことを見込んでくれて、貸し出してくれたトラック泊地の皆さんでしたのに…私は本当に未熟です!全員を重巡洋艦にすることが出来ませんでした!!」

 

 

…そりゃ無理だろ!!と言う、坊主のツッコミがトラック泊地に響き渡ったとか…


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