無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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四十四話 猫と龍田とカオスな日常回

「…さて、どうしたもんかなぁ…」

 

天龍はと言うと、龍田が今日も今日とて子猫から逃げる有り様を見て頭を抱えていた。

 

龍田が悪い…とは、誰も思ってはいない。あんなトラウマをすぐに昇華しろとは強要できまい。

とは言え、いくらなんでも拾われただけだろう子猫が悪いと言う話にもならないだろう。

要するに、星の巡り合わせが悪かった、としか言えないことだ。

 

だがしかし、鎮守府で『飼う』と…少なくとも一定期間は保護すると決めた以上、姉貴としては是非妹に猫と仲良くして欲しいところなのである。

天龍自身が動物好きと言うことも有るが、それ以上に、あんな害の無い子猫にまで怯えて泣いている妹の姿を見たくはなかったから。

 

 

とは言え、だ。

天龍は、お察しの通り頭を使う作業はとんと苦手である。

こう言うことに上手い手を思い付くような娘でもなかったので有る。

 

しかし、誰に相談しようか…と、天龍が思案していると、たまたまある二人の艦娘を見かけたのである。

それは…

 

「…おや、天龍さん。私に何か用ですかね?」

「天龍!深刻そーな顔して…アタシに相談に乗れそうなことでもあるかい?」

「赤城さん…加古と二人とは珍しいな…」 

 

わりと組み合わせとしては珍しい、二人であった。

 

 

さて、赤城と加古が二人で廊下を歩いていたのは、本当に偶然であった。

訓練上がりがたまたま同じ時間だったため偶然靴箱の場所で鉢合わせになってしまい、そのまま意気投合した二人は休憩がてら加古の大好きなスポットの一つでもある仮眠室へと一緒に向かう最中だったのだ、と言う。

 

まあ、そんなわけで二人とも暇だったと言うこともあり、天龍の些事とも言える悩み事を聞く。

その反応はと言うと… 

 

「…結局、なるようになるんじゃねーの?アタシらに聞いてもしょうがないでしょ…ふぁ、ねむ…」

「無責任ですが…私も加古さんと同意見ですね。そもそも、天龍さんがどうにもできないことが私や加古さんがどうにか出来るとも思えないですし、私らにとっては睡眠時間の確保の方が大事ですし」

 

…元々完全に仮眠する体制だったためか眠気もあって、けんもほろろだった、と言う。

 

お前ら、どんだけ眠いんだよ!こっちは真剣なんだぞ!!と天龍が怒り混じりにツッコミを入れるなかで、横から口を挟む声が聞こえた。

それは…

 

「加賀です!」

「吹雪です!」

「飛鷹です!」

「「「三人合わせてチャーリーズ・○ンジェル!」」」

 

…出たな、余分三兄だ…ウチの鎮守府で話をややこしくする馬鹿どもめ!!と、天龍が思わずツッコミを入れる全力勢の内の三人だった。

 

何の様だい?と、こんなチャーリーズ・エン○ェルは嫌だ的な三人に対して、動じずにマイペースに加古が聞くなかで、吹雪が良いアイディアを主人公さんが持ってきました、と口を開く。

全員が全く期待していなかったが、とりあえず主人公らしき何かからアイディアを加古が聞く。

そして…

 

「…ダメな気しかしないけど、被害者が増える気しかしないけど、まあとりあえずやるだけやってみるか……」

 

と言う天龍の号令の下、全員が吹雪の計画に乗ることにしたので有る。

 

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~そして、一時間後、龍田私室~

 

 

「…どうしろと、私にどうしろと」

 

龍田の目の前には。吹雪の計画の通りの『ソレ』が鎮座している。

そして、ソレを見た龍田が思わず真顔になるその物体。その正体は…

 

「…御気に召しましたかにゃ、龍田さん?」

 

…猫耳メイド姿で尻尾も生やして正座している、睦月だったと言う。

 

 

そう、睦月曰くの話ではあるが。

吹雪のアイディアと言うのは実に単純なものだった。

 

猫が苦手な人間に、いきなり生きた猫を好きになれ、と言うのは無体に過ぎる。

ならば、猫っぽいものから徐々に慣らしてハードルを下げれば良い、と言う単純なやり口である。

そして、この泊地に身近に有り、龍田も見慣れていた猫っぽいもの… 

そう、にゃしぃと言う方の駆逐艦、睦月である。

睦月を猫っぽい感じに仕立て上げて龍田のハードルを下げよう、と言う、あらゆる意味で斜め下の作戦だったのであった。

 

なお、結果は龍田がドン引きするだけであったとか、残当。

ちなみにであるが… 

 

「この猫耳と尻尾のセットとメイド服は神通さんの私物をお借りしたものですぞ」

「ああ、それでちょっとサイズが合わないのね…って、前から思ってたけどあの人どこに向かってるの!?」

 

…衣装の出所は、なんだかカリスマが何故か欠けてる川内型二番艦のコイツから、であった。

 

 

とまあ、その辺りは置いといて。

 

そんなこんなで、とりあえず行動は斜め下ながら…とりあえず、自分の為に変な格好をさせた睦月に対して形だけであるが謝罪する龍田だったので有るが、当の睦月はと言うと。

 

「…ん~、わりと、睦月的には悪くないのだぞ。猫耳メイド、可愛くて良いぞ良いぞ!」

「良いの!?え、ちょ…予想外だわ~」

 

…案外、気に入ってたようだ、このにゃしい。

 

と、案外ノリノリだったらしき猫耳メイドにゃしいは一旦置いといて。

睦月は、じゃあレベル2なのだぞ、と睦月はドアの方を見ながら言う。

そこから現れたのは…

 

「犬耳メイドっぽい~!!」

 

ショートスカート仕立ての萌えメイド服の睦月と対になるように、ロングスカート仕立てのクラシカルなメイド服を着た、犬耳の夕立であった。 

 

「あら可愛いわね~…って、待って!?何でメイドの方に寄せてきたのぉ!?」

 

…そして、飛ぶ龍田のツッコミ。

じゃあ、レベル3っぽい~、と夕立が声をかけるとそこから現れのは…

 

「…熊本県の球磨さんだクマー…」

 

今までのメイドさんシリーズとはうって代わり、確かに今度は動物に寄せては来ていた。

球磨の顔は出ているものの、身体を覆う着ぐるみは、真っ黒なずんぐりした身体でほっぺは真っ赤で真ん丸な、目がパッチリしてキュートな熊本県のゆるキャラなどっかで見たことのある…

 

「どこで借りてきたのその着ぐるみィィィ!!商標権って大問題なのよ!?」

 

…某キャラの着ぐるみであった。

なお、これも神通の私物の一つである。

 

「だからぁ!!あの人はどこに向かってるのよぉ!ってかこの作者は神通さんをどこに向かわせたいのよ!!」

「あ、レベル4だクマー…」

「死んだ目で球磨さんも話を進めなくても良いのよ!いやマジで!ってか球磨さんも球磨さんで流されずにちゃんと断る勇気を持とうよぉ!」

 

…と、わちゃくちゃした流れで出てきた『レベル4』は…

 

ヒャッハァァァァ!!と叫びながら現れた、明らかに中身が酔っぱらった隼鷹なのであろう、キテレツなキレッキレの動きと共に現れた、黄色い身体に青い服の目がいっている梨の…

 

「アウトォォォォ!!!」

「ナッシィィィィ!!」

 

…これ以上はアウトだったので、龍田の薙刀でホームランされて一発退場されました。

 

 

「Dの付く会社じゃなきゃ、多方向に喧嘩売って良いって訳じゃないわよ!!ってか何で最後は動物ですら無くなったのよ!最終的にゆるキャラに収束する意味がわからないわよ!!ってか、本当っになんなのよぉ!!」

 

と、至極全うな龍田のツッコミを兼ねた絶叫が部屋に響き渡るなか…とりを飾る吹雪が、じゃあレベル5です、と無造作にあるものを龍田に手渡す。

無意識に龍田は『ソレ』を手に取り…龍田は、硬直する。

渡されたそれは…黒猫、パットの方だった。

 

わちゃくちゃしているタイミングに無意識に苦手な猫に触ってしまったせいで、さっきまでの勢いはどこへやらとばかりに、はわわと狼狽える龍田であったのだが。

吹雪はそんな龍田を見ながら、笑みを崩さずにこう龍田に聞いた、はじめて猫に触って見た感想はどうですか?と。

 

 

「え、え……えと、その、ぬくくて、柔らかくて、ふわふわしてて、気持ちよくて……」

 

龍田は混乱が解けないままに、思い付くままに感想を述べる。

そして、言って龍田ははじめて自分で気がついた…好意的な感想しか出てこないことに。

 

そんな、今までのわちゃくちゃとは違う別な混乱に頭を悩ましている龍田に対して、吹雪は、やっぱりですね、と口を挟む。

そして、別室でスタンバっていた仕掛人たる暇人どもを吹雪は呼び出し…

 

「「「三人合わせて…」」」」

 

…それはもう良いから!とフフ怖ちゃんキャンセルが入ると言う小ネタも挟みつつではあるのだが、それは置いといて。

そこら辺は無視しつつ加古が龍田に対して質問する、もしかしなくても『食わず嫌い』だったんだな、と。

 

食わず嫌い?と龍田は聞き返すと、横から赤城が然り、と頷きながらこう続けるので有った。

 

「要するに…龍田さんは、猫そのものに何かアレルギーがあるとかではなくて、初めて見た猫が怖くてソレが頭から離れなかったから触れなかった…と、そう言うわけでした。正直、私や加古さんからしたら本当に時間をかけてゆっくり龍田さん自身が折り合いつけてくれたら良いと考えてたのですが…まあ、天龍さんやそこの森○中どもは違うみたいでして、ならば…何もかもが頭から吹っ飛ぶようなカオスな光景の渦中にぶちこんで頭をリセットさせた状態で、もう一度子猫に向き合わせたらどうかな?と言うことでして」

 

なんだそりゃ、と普通にぬいぐるみか何かで慣らさせるんじゃないのかよ、と龍田はパットを抱きながら目が点になる中で、横から加賀が親指を立てながら何故かドヤ顔で口を挟む。

これぞパラオ式今川流奥義、セクシー・コ○ンドーです!と。

 

そんな奥義無いでしょ!と龍田は加賀にツッコミを入れる中…今まで黙っていた、メイドと着ぐるみの集団の内の一人の夕立が、にこにこしながら龍田に改めて質問する。

ところで…龍田さん、さっきからずっとパットくん抱っこしているけど、怖いっぽい?それとも怖くないっぽい?と。

 

 

そう言えば…と、龍田は改めて、さっきからずっと胸に抱いていた子猫の顔を改めて覗きこむ。

 

ついさっき自身が言った通り、抱き心地は凄く気持ちいい。まるで、出来の良いぬいぐるみのようである。

だが、そこから感じられる鼓動の音と暖かい体温が、作り物でしかないぬいぐるみとは違い優しい気持ちにさせてくれるので有る。

龍田は抱くのが下手だろうに、それでも嫌がらずに逃げ出さない子猫の優しさも感じられるから、余計であった。

そんなパットは、ふと、視線を感じてか龍田の方を真っ直ぐに覗きこむ。

吸い込まれそうなエメラルド色の瞳と艶やかな毛に覆われたあどけない顔、それは…

 

「…か、可愛い…かも…」

 

…と、龍田の認識を改めるのに、充分だったようである。

 

 

やったね、と全員が喜び、恥をかいたかいが有ったクマー…と一人だけ妙にくたびれている球磨、と言う実にカオスな状態の中で、ふと、飛鷹が思い付いたように言う。

猫は、喉をくすぐってやると面白い声で鳴くんだよ、と。

 

なるほど、と龍田が嬉しそうに、ソレを早速実行に移す。

人差し指で喉をかいてもらったパットは目を細め…

 

 

「ファー…ブルスコ…ファー……ブルスコ…ファー…モルスァ」

 

 

…本来、ゴロゴロ…と言うここぞと言うタイミングで、加賀が腹話術のようにこんなコピペなアテレコをやらかした。

 

完全に不意打ちだった全員がクリーンヒットだったらしく、加賀以外のその場にいたメンバー全員が、しばらく行動不能に陥るほどに、腹抱えて痙攣していたとか。

 

一方、パットは艦娘どもに呆れたかのように、龍田の腕からするりと抜け出すと…

にゃおん、と一鳴きするなり、艦娘どもが腹抱えて死屍累々の龍田の部屋から出ていった、とか。

 

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~十分後、執務室~

 

「…と言う訳で、龍田さんも猫が大丈夫になりました、父さん」

 

 

加賀は執務室で、無表情なハズなのに、どこか嬉しそうに氏真に報告する。

そんな顛末を聞かされた、当の氏真はと言うと…

 

「なるほど、正直意味がわからない」

 

真顔でのこの反応である。

父さん!?と加賀が言う中で、氏真は無表情なまま、更に続ける。

 

「と言うか、この鎮守府はわりと基本的に毎日が意味不明だから、その、結果だけ報告されても困るし、過程を報告されたら更に意味がわからないって言うか…」

 

ええ……と、加賀がちょっと涙目になるなかで…一方の氏真は、はぁ、と溜め息一つ吐きながらこう、加賀の頭を撫でつつ締めたのであった。

 

 

「……まあ、とりあえず、皆幸せそうだし、なんだか良し!!」

 

やりました、と、加賀が無表情でガッツポーズを決めていた、とさ。





【挿絵表示】


挿し絵を追加してみるテストを予て、ネコミミメイドむちゅきとSD犬耳メイドぽいぬです

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