無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~ 作:たんぺい
前回までのあらすじ。
ぬこ、拾ったってよ、の巻。
さて…龍田が子猫を見て気絶した辺りから話を再開しよう。
弱ってる子猫のせいでてんやわんやした状況が龍田が倒れていっそう阿鼻叫喚になってしまったが……
とりあえず、龍田は別室に投げ込まれて放置されてしまって、先に緊急性の高い子猫二匹の処遇から手をつける形で落ち着いた。
とりあえず、基本的に暇な杉村は、子猫を見て居てもたってもいられなかっただろう木曾と、ついでに『なんかフラグが有りそうだから』とノコノコ横からついてきた吹雪をお供に近くの獣医さんが居る所に移動。
赤城と加賀の一航戦二人は、たまたま暇だった扶桑を『腕力が有るから』と言う理由で泊地内で拉致される形でお供に引き連れて、ペットショップへと外出。
残る面子はと言うと、とりあえず、新聞紙やら段ボールやらタオルやら皿やらなにやらで、簡易な子猫のゲージのようなものを作りつつ、軽く生活環境を整える準備をしていた。
そんなおりに、龍田がのっそりと目を覚ます。
そして、気絶から覚めるなり、執務室の異様な状況…と言うか完全にペットを飼う形の流れに驚きつつ、龍田は自分が気絶した状況を思い出していた。
…そうだ、猫が居たんだった…
そう龍田は把握すると、慌ててその場にいた全員に質問する。
もしかして、あの子猫飼うつもりなの!?と。
そして、全員から返ってきた返答はと言うと…
「「「「「「え、何か飼ったらダメな理由でも有るの?」」」」」
…全力で、子猫を飼う体制に入っていたのであった。
---------------------------------------------------------
「あの、えと…そう、そうよぉ!あんな野良猫を飼うメリットなんてわからないし、汚いし、大体ここは軍隊だから猫なんて飼ったらダメに決まってるじゃない!」
何か、妙に早口になりながら龍田は思い付く限りの言葉で猫を飼うことに反対する。
しかし…それに反論したのは、意外にも生真面目な神通である。
曰く、猫を飼うメリットとしては、野良ネズミのような害獣や油虫のような害虫なんかを狩ってくれるかもしれないし、あの手の動物が一匹居るとわりと妖精さんの士気なんかは上がる。
軍規には『猫を飼うな』等と言う事は一言だって書いてない。
そもそも、汚いなら洗えば良い話だし、病原菌なんかは今診てもらってるだろう獣医さんが落としてくれているハズだ、と。
大体、ペットなら朧が飼っているのに、今更に『魚介類は良くて猫はダメ』と言う理由はおかしいでしょう、と。
実質、完全論破された形になりながらも、涙目でなんとか反対しようとする龍田に対して…氏真が何気なしに聞く、何でそんなに猫がダメなのか、と。
その場に居たほぼ全員が、何でだろう…と疑問符が尽きない中で、龍田はなんとも渋い顔をしながらも、こう続けるのである。
…怖いし、汚いから、と。
どういうこっちゃ、と、その場に居た全員からツッコミを食らったら龍田は、額に左手をのせながらこう続けるのであった。
「…その、昔ね…建造された直後かなぁ~、工匠の裏にたまたま野良猫が居て、興味本意で近付いてみたら…その、捕まえたネズミか小鳥かをバリバリやってる最中で…スプラッタな現場に出くわした際に悲鳴をあげちゃったら、猫がびっくりしたみたくてねぇ。私に、顔面血だらけな状態で飛びかかってきた挙げ句手を引っかかれちゃって…それ以来、私、反射的に猫がダメになっちゃったのよ~…」
う わ あ と、あまりにもあんまりな龍田のトラウマに対して、あの雑な通康ですら、なんかすまんのぅ…と謝罪する中で、何気なしに睦月が声をあげる。
曰く、こう言うことである。
「うーん、まあ、龍田さんみたいに極端なのはもう居ないとしても…確かに、猫嫌いな人が居るかも知れないのに、睦月自身を筆頭に猫好きな連中もちょっとヒートアップし過ぎたかも知れないにゃ。とりあえず、あの子猫のことは泊地全員に報告して、皆の反応を見る方が先決かも知れないのだぞ。あんまり飼うのに反対が多かったら…それこそ、里親探しでもしたら良いわけだし」
そう言って、睦月が若干遠い目をしていると…執務室のガラスの前に、数機の戦闘機が飛んできた。
何事か、とその戦闘機を良く見るとその胴体帯には赤い線と青い線が一本見えた。
恐らくは、赤城と加賀の艦載機なのだろう。
…そして、その戦闘機の下部にある脚には、紐のようなもので粉ミルク缶やら猫砂が入った袋やら猫じゃらしやら、ペットを飼うハウツー本すらがくくりつけられていたのである。
…とりあえず里親探しは諦めるにゃ、その、一航戦どもが飼う方向で暴走しやがったぽいし。
そう言って、睦月は前言撤回しながら、マイペースに猫の為に妙な暴走をしていた一航戦二人に若干白い目をしていたと言う。
と、そんな状況下で主人公さんから電話が入って来た。
吹雪曰く、経過を診るのと体力回復に三日か四日ぐらい入院する必要はあるけれど、あの子猫を飼うのには特に問題ある病気とかはないだろうし予防接種等は済ませたよ、と。
そうして…扶桑が咳き込みながらも、艦載機だったら運べないような、猫ちぐらやらボールやら本格的なゲージやらを両脇に抱えつつ一航戦と共に執務室に大量に運び込んだり、検査入院をしている子猫が心配でたまらず異様におろおろしている木曾と杉村を吹雪と氏真が宥めたり、とやんややんやする姿を見て…天龍は、一言だけ呟いたと言う。
「…龍田、お前が猫嫌いなのは初耳だし、あんな経緯じゃ嫌いになるのはしょうがないのはわかるけど…覚悟決めた方が建設的だと思うぜ?皆…正直に言えば、俺も、猫飼うのにワクワクしてるみたいだし」
そう言って、苦笑する天龍に対して…龍田は半泣きになりながら、まるで一話の再来かのようなことを口にするのであった。
…どうしたら、良いのよぅ、と。
-----------------------------------------------------------------
…さて、そうして、完全に『飼う』形で落ち着いた鎮守府である。
猫を飼うのに反対していたのは…龍田一人だけだった、とか。
せいぜい、朧がこう言ってたぐらいである。
「ん…そうね、蟹さんやヒトデさんを噛まないなら、って条件付きなら大丈夫です。ちょうど、繁殖期だったみたいで、子蟹も200匹ぐらいに増えてるし、ヒトデさんも大体60匹ぐらいには増えてる最中だし…デリケートな時期でもあるんだけどね」
そう言って、ペット自慢する朧に対し…聞いて回っていた睦月は呆れながら、なんかの養殖業者の方?とツッコミを入れるしかなかった、とか。
まあ、コイツはともかくも、龍田以外だと基本的に妙にノリノリな連中に引き取られる形で、拾われた二匹の子猫が四日間の入院の後に艦隊に加わることになった。
病院で点滴や栄養補給を受けたお陰で、やせっぽちで毛もボロボロだった身体は、すっかり毛艶もそれなりになり身体も痩せぎみながらも健康体の類いと呼べる程度には快復している。
しょぼしょぼしていた瞳もパッチリと開き、二匹揃ってエメラルドグリーンの瞳を輝かせていた。
手乗りサイズ…は言い過ぎであるが、抱き上げるとそれに近い感覚すら覚える小さな身体も手伝い、その可愛らしさは元々の猫の愛らしさを狂暴に加速化させていた。
…思わず、霞と赤城と通康の三人が、揃って赤ちゃん言葉になるぐらい、である。
普段ツンケンしている霞や、マイペースに鉄面皮なぐらいに微笑みの仮面を崩さぬ赤城や、挙げ句の果てに豪快を絵に描いたような通康辺りまで、可愛いでちゅね~だのミルクは要りまちゅか~だのいってる光景は実にシュールだったとか。
元々笑いの沸点が低い飛鷹を筆頭に、子猫のせいで妙に全員の沸点が下がってしまったらしく、あの加賀や球磨や扶桑ですら珍しく腹抱えてシュールさに笑ってたと…余談として、書いておこう。
と、そんな感じで艦隊に加わる二匹の子猫…拾った杉村により名付けられた、黒猫のパットと鯖虎のジョシュア、の子猫達ではあるのだが、基本的には気紛れではあるが人懐っこい猫である。
拾った杉村や妙に心配していた木曾辺りを筆頭に、妙に艦娘にも人間にもじゃれていた、とか。
逆に、パットとジョシュアに対する艦隊からの反応も上々であった、とか。
特に、駆逐艦に大人気であり、夕立や浜風が実に丁寧に猫の世話に勤しんでいたと言う。
しかし、やはり龍田だけは、ぎこちないと言うレベルではない。
人畜無害な子猫二匹でしかないと言うのに、相応にビビってしまい、近づきすらしないのだ。
猫の方も、龍田の態度に警戒してるのか威嚇したり逃げたりしたりしてしまい…そのせいで余計に龍田が逃げてしまう、と、悪循環になっていたのである。
そんな龍田と猫の関係が変わるのは…次に語る話で、それを明かすとしよう…