無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~ 作:たんぺい
今回は、総集編をかねつつのギアの入れ直し回です
では、どうぞ
さて、こんな感じの妙な異変が終わった後の話…
要するに、赤城が艦隊に加入してからの話をしよう。
赤城いわく、旧友を頼ってと言うことと特殊な提督が管理する鎮守府の監視、そして、パラオ周辺の深海棲艦の活発化に対するカウンターと言う名目の下で、そちらの鎮守府に正式な編入の手続きを済ませていたと言う。
本来は赤城と神通の編入理由に別な動機はあるのだが…そちらは、おいおい語って行くとしよう。
とまあ、そうして、赤城は正式な書状を渡すと共にパラオの中間へと編入されたのである。
さて…
当初の動けない金剛も入れて6人しかいなかった艦隊の数の三倍近い数となる19人(駆逐艦:睦月・浜風・夕立・朧・霞・吹雪 軽巡:天龍・龍田・神通・球磨・阿賀野 雷巡:木曾 重巡:加古 戦艦:扶桑・金剛 軽空母:飛鷹・隼鷹 正規空母:赤城・加賀)となり、とても賑やかになっていた。
氏真が懸念していた超過労働気味の内勤も担当していた浜風と睦月の負担、及び艦隊の資材運用の話だが…
まだまだ、やはり赤字気味とは言えある程度は自前で回せる目処が、漸くついてきたのである。
要するに、駆逐・軽巡のコマがかなり分厚くなったことにより、当初語っていた複数艦による遠征部隊による『ローテーション』を組みながら、第二艦隊の編成を組める様になっていたからである。
これで…特に内勤のメインの担当だった二人の駆逐艦はおろか、天龍・龍田の姉妹の負担も大幅に軽減できる。
氏真は、基本的にブラックな運営は好まない上に優しい人間ではあるが…実質、理由が理由で仕方ないとは言え、勤務時間的な意味ではそこに片足を突っ込みかけていた所は、実質解消されたと言えるだろう。
…特に、浜風の負担は飛鷹・隼鷹の姉妹と木曾、ついでに通康がパラオに加入したことでガクンと減った。
流石に、セミプロ級の浜風の腕前程じゃないが、コイツら結構な料理上手なのである。
浜風が忙しい時や遠征任務がある時は、この辺が普通に鍋を振っていたりした。
…もしかして、浜風の存在意義がセクハラ以外無くなったんじゃね?とは、加古の談。ひどい。
とまあ、その辺りは兎も角として。
こうして、後方部隊・遠征部隊の充実の他にガッツリした戦闘要員でもある戦艦や空母級の幅もかなり出揃い、特に空戦に関しては単純に当初の数倍となっていたために、戦力の配分もあまり気にする必要性はなくなっていたことも嬉しいことだった。
潜水艦が居ない以外は大抵のコマは揃っている、パラオの戦力は安定したと言えるだろう。
また、少しだけ話のタイミングが前後してしまったが書かねばならぬこともある。
あの日…そう、『生存者』の加入は、メンタル面でも艦娘達の安定をもたらすのには充分な出来事だった。
パラオがボロボロになってしまったかつての戦い、その傷痕は…実は、メンタル面でも大きかった。
仲間が死ぬ喪失感、痛み、苦しみ…残されたものの、絶望。
残された側にとっては物理的な部分も大変であり、一時は責任者がいなかったせいで予算すらろくに回せず、家庭菜園の真似事までせねばならなかったと言うことも有るが…
そんなこと以上に、やはり、味方の死別は辛いものが多かった。
特に、その事に大なり小なり痛みを感じていた旧パラオのメンバーでも、それは金剛が強く引き摺っており…その戦いの事を出来るだけ思い出さない様にしたり、元々の所属が近い神通を意識的に避けると言う形で、言い方は悪いが『逃げている』所はあったのだ。
…あの時、加賀に諭されて『立ち上がった』が、『そこから前に進む』には、金剛にとっては少々ならず抱える重さが尋常ではなかったのである。
表面的には明るく振る舞っていたが…それを忘れて心から笑える程、彼女は軽い女の子でもなかった。
だが、生き残りを果たしたもの二人の対面は、金剛の、ひいては旧パラオのメンバー皆の痛みを癒すのには充実…と言う訳ではなかったが、それでもきっかけになるものだった。
旧パラオの面子は特に、あの日、優しい涙を皆が皆流し……あれだけの無駄に濃厚な面子が横殴りして来る形で新規加入しておきながら、パラオの艦隊は、妙な纏まりをいっそう強くするきっかけの一つになった気がしたのである。
そして、また…人前で酔うのが、と言うよりも正確に言えば弱味を見せることが嫌いな金剛が、飛鷹と隼鷹が帰ってきた日を境に、(主にヒャッハーズの酒癖が最悪な妹の方のせいで)吐くまで呑んだ姿が見られたり、ぎこちないながらも神通を酒に誘う姿が見られたりする等と言った辺り…
少しずつではあるが『他人に弱音と本音吐き出す』と言うことができるようになったと言うことは、追記しておこう。
そう言う部分を、今でこそ平時では『紅茶作って飲んで訓練して酒煽るウーマン』的な何かになっているが、元々は優しく(紅茶が絡まなければ)良識的でしっかりものの旗艦としてのかつてのまとめ役だった為に…
人望とカリスマだけは妙に有った彼女の変化として艦隊はとらえており、良い変化として艦隊全体にも良い空気が流れている一因となってもいたのである。
さて、そんな感じで、赤城や無人島組の加入の際の話で今までワチャクチャしてしまった部分を説明しながら一旦整理したのであるのだが。
ここで一つ、話の整理ついでに少し語りたい話がある。
それは…別に、誰かが死んだり傷付いたりと言う事件ではない。
そもそもが、戦いの話ですらない。深海棲艦や他の鎮守府はまるで関係がない話なのだから。
少なくとも、記録には残らない話だろう、例えて言えば…今日の定食屋の日替わり定食がたまたま自分の好物ばかりだった、程度の本当に小さな出来事の一つではあるのだから。
しかし、ある意味では大騒ぎした事件であり…ちょうど、パラオに赤城が来た二日後の話でも有ったが故に、語るタイミングとしては悪くはないだろう。
では…そろそろ、その話を語るとしよう。
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「……私って、『穀潰し』なんでしょうか……」
パラオの憲兵…と言うか、正確には登記だけされて食客として保護されてるだけなので、実質ケンペイカッコカリ的な何かな剣道指南役の若作り(物理)な杉村よしえ。
彼女は今、こんな感じの一人言を呟きながら、道場の外の掃き掃除をしながらため息を吐いていた。
…そして、はっきり言おう、現状のこんな自己分析は実に正確なものである。
基本的に言えば…氏真も通康も艦娘に対しての態度のベクトルは違う二人だが凄く優しい。
やり方は異なるが、『艦娘に親身になって寄り添う』事に関しては共通しているのだ。
特に艦娘との衝突やトラブルと言う問題はなかったと言う。
精々、パワーアップして艦隊屈指の戦闘力を得たのに阿賀野辺りをお供にサボりに全力を注ぐ加古を連れ戻したり、どこぞの銀髪巨乳が暴走した時に鎮圧しに出掛けたり、後は夜間哨戒や総員起こしを手伝ったり睦月の他執務をこなしている面子に頼まれて力仕事を手伝ったりするぐらいである。
良く考えたら最後に至っては憲兵の仕事ですらない気はするものの、兎に角、パラオにおいての杉村の仕事など、浜風が暴走した時とかを除けば、実質的には天龍を中心に興味が有りそうな球磨や木曾や霞あたりに、たまに剣道教えてるぐらいしかないと言う有り様だったのである。
…本人が、まあ本当に『剣術以外がパー』としか言えない領域に片足突っ込んでる癖に、水上戦の技術がないせいで、個人の戦闘技量だけで言えば氏真以上の屈指の持ち主でも有りながら、現状だと剣の話以外ならちょっとかわいい置物以下の何かにしかなってなかったのであった。
そんな、あらゆる意味でコロ助みたいな状態で、それでいて氏真に対してかつて誤解からこじれて暗殺未遂までしておきながらも、あっさり水に流して氏真は彼女に対しても紳士的に接してくれている上に、保護してもらいつつご飯も寝床も出て給料も色をつけて毎月くれてる…と何重の意味でもいたたまれないこの状況下。
まあ…こんな愚痴、と言うか自嘲も出るだろうな、と言う有り様だった。
そんなダメダメ街道一直線な掃除中の杉村は、あるものを植え込みの木陰に見つける。
当初は、何かの大きなゴミかと思ってその植え込みを掻き分けて良く見た杉村は…息を飲む。
そして、慌てて『ソレ』を抱えると、執務室に杉村は一目散にかけていくのであった。
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「…と言う訳で、どうしたら良いでしょうか、コレ…」
『ソレ』を抱き上げつつ、執務室のドアを蹴破り侵入して、開口一番氏真達に聞く杉村。
一方の、杉村が抱き抱えていたソレを見た執務室に居た皆の反応はと言うと、それぞれだ。
目を丸くする睦月。
特に動じていない赤城と木曾。
椅子からずり落ちて、素に立ち返る神通。
目を細めて、緩い表情になる加賀と通康。
そして…微妙に杉村に呆れつつも、なんとも優しい口調でこう告げる氏真である。
…どこで拾って来たんだい、その『二匹の子猫』、と。
そうなのだ、杉村が持ち込んできたのは二匹の子猫。
明らかに雑種なのだろうが、それでも、とても小さく愛らしく…ソレ以上に、痩せ細ってしまって震えて目もしょぼしょぼしていた、黒猫と鯖虎の二匹の赤ん坊の猫だったのだ。
恐らくは、何らかの理由で鎮守府内に迷い混んだ挙げ句、育児放棄されてしまったか親とはぐれてしまった、野良猫の赤ん坊なのだろう。
母親らしき猫も周囲にいなかったし、少なくとも育てられていた形跡もなく、そもそも先日はなかったのに今日突然顕れた小さな猫なのだ。
そう言う…可哀想な、丸一日でもほっとけば消えてしまうような小さな命だったのだ。
そして、この子猫二匹を抱えたダメ人間に足を突っ込んでた元壬生の狼はそんな命を見逃せない、お人好しでも有ったのだが…
とは言え、この命を背負うには一人には荷が重すぎたことも事実だった。
そこで、頭が良さそうな奴等が居て、責任者も常駐していることがわかっている執務室に突入した、と言う訳であった。
そんな子猫の突然の登場に…本気で、全く動じていないのは赤城ぐらいのものである。
てんやわんやと、やれタオルだお湯だ段ボールだと、手近にあったもので使えそうなものをかき集め。
一旦、業務を中断してまで、獣医に連絡しようとしたり猫用の粉ミルクやカリカリを発注しようと電話番役もしっちゃかめっちゃか。
木曾に至っては、氏真に許可もとらずパラオ泊地を飛び出して獣医かペット屋あたりにに突入しようとする、と言うレベルでの強硬策を取ろうとして神通と通康に流石に止められたり、と酷いことになっていた。
なお、赤城ですら『動じていない』だけで、即刻子猫が現れた瞬間にPCの業務を投げ捨てて、『子猫 飼い方』等のワードでググり出していた辺り、一航戦の赤いのも相当である。
…とまあ、杉村のせいで一瞬で阿鼻叫喚になってしまった執務室の前を、たまたま天龍と龍田の姉妹が通りかかる。
そして、あまりにイミフだった二人は…執務室の中を見て、絶句した。
さて、ちょっと話が飛んで悪いのだが。
読者の皆様は…艦娘のプロフィールを覚えていらっしゃるだろうか。
そんな方は、是非思い出してほしい。
読んでいらっしゃらない方は、是非、キャラクター紹介の一番最初の分の龍田の項目を見て欲しい。
…龍田の嫌いなことの項目に、『猫』の文字が有ったハズだ。
そう…今回のお話、『大した事件ではないが語りたい事件』と言うのは…
「いやぁぁぁああああ!!天龍ぢゃぁぁぁあん!!?」
「た…龍田ァ!!こんな子猫見ただけで気絶したぁ!?」
…龍田と、この鎮守府で出会った新しい命との、ちょっとしたお話なのである。