無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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コラボ番外編その4 二つの世界と赤城の真意

前回までのラブラ…あらすじ。

飯に舞い降りた赤城の、巻。

 

 

吊るされておきながら、なに食わぬ顔で飯をたかりに来る赤城。 

全員から、大ブーイングである。

帰れひっこめの大合唱、勝手知ったる赤城の旧友の神通に至っては、尖った石を探して投げにいく有り様であった。

 

「だから、殺す気かってんだこのポンコツが!!」

 

…そして、赤城に一本背負いを食らい頭から叩き落とされる神通。流石に石はアカン。

 

とまあ、赤城の登場により、一気に場が険悪になるが…赤城は一切気にせず続ける。

私、今回は良いことしかしていないのに、囚人みたいに吊るされた挙げ句にご飯抜きで、大ブーイングな理由がまるでわかりません、と。

そして、両鎮守府の全員に大迷惑だっただろ!と、鷹揚な氏真ですらキレるが…赤いのは臆面もなくこう言った。

 

 

「…もしかして、皆さんは本当に『私がブルネイの鎮守府の皆様を召喚出来た』、などと迷惑を承知でふざけたことを本気で信じているのですか…それも、何かのデリバリーサービス代わりの為に?そもそも、暇では決してないこの私が、わざわざパラオにメッセンジャーとしてだけ来るとお思いですか?そして、私が縄脱け可能なあんな雑な拘束とぬるい尋問で…全て本当のことを吐いたと、思ってるのですか?」

 

 

そう言って、至極真面目な口調を崩さずに語る赤城に向かい、金城提督は一つ質問する。

『本当のこと』って…なんだ、と。

そんな赤城はと言うと、冷徹な口調でこう続けるのであった。

 

…件の転送装置のスイッチは、私が持っている訳ではないのです。実は、とある女性が握っているのですよ、と。

 

そして…赤城は、誰にも予想がつかなかった事を…

特に、金城提督にとっては本当に信じられない『真実』を、語りだすのであった。

 

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「…まずは、そもそも、『超次元転移システム』についての事を語らねばなりませんね」

 

 

そう言うと、赤城は解説をはじめた。

 

実に簡潔に言ってしまったら、『異世界と異世界を繋ぐトンネル』と、このシステムについて考えてもらうと良い。

より単純に例えると、断崖と断崖の川を挟んだ二つの岸を繋ぐ吊り橋、と言う方がよりイメージしやすいかも知れない。

 

しかし吊り橋と言うものは、それ単体だけだと使いにくいロープにしかならない。

吊り橋をしっかりと繋ぎ止める…言うなれば『楔』となるもので両端を繋いで、はじめて吊り橋として機能する。

 

そう、『楔』…この場合だと、物理的な意味だけではないのである。

 

この『超次元転移システム』にとっての世界同士を繋ぐ楔になりうるものは、それこそ、映画のフィルムや漫画だったとしてもまるで構わない。

そんな、ささいかつ下らないものですら、本来は構わないのだ。

ソレが有れば、繋ぎ止める何かさえ有れば、限り無く遠い平行世界の…『まるで、漫画やアニメの世界の住人』すら、呼び込むことだって出来るだろう。 

 

 

「…逆に言えば、『こちら側に何のとっかかりの無いもの』は呼び出すことも追い出すことも出来ません。こんな便利な装置が有りながら、『正体不明かつ目的も行動原理も住み処すらまだわからない』深海棲艦を、例えば一ヶ所に纏めて集中砲火して殲滅したり、あるいは、いっそ別世界に纏めて追放することができない理由はソレです…単純に、数回の起動で国歌予算の数パーは飛ぶって宇宙開発みたいな金食い虫ってこともありましたが…って、皆は話について行けてます?」

 

赤城の唐突なSF解説に、頭良い連中以外は全員チンプンカンプンになるのだが…金城提督は、真面目な表情になりながら赤城を問い詰める。

もしかして、『俺達を知っているヤツが、そのスイッチを握っているのか』と。

 

赤城は、然り、と答えるや否や…一人言の様にこう言うのであった。

 

 

「…ある女の子が、この世界にやって来たのは…もう、何年も前のことでした。私達『艦娘がこの世界で生まれる』もう少しだけ前、時間的には、約七年前のことです。人間が深海棲艦に追い込まれていた時期に、そこの戦国武将の方々のごとき『漂流者』のように、身体中血だらけで、東京湾の港に浮かんでいたそうです」

 

そう言うと、赤城は遠い目になりながら、一拍置きつつこう続ける。

 

「当時の海軍大将…こちらの世界で言うところの今の元帥様が、そんな死にかけの彼女を拾ったのは本当に偶然だったそうです。曰く、ほっとける訳がなかったんじゃ!と…見た目の年齢が、元帥のお孫さんに近かったから余計に、だったみたいですね。そして…彼は、自分の知る限りの最高の医者をかき集めて、結果…『元軍人』だった彼女は、軍人としては再起不能になってしまいましたが、なんとか一命をとりとめました。そして…彼女は現在は、元帥様の養子として迎え入れられて、内勤の秘書として働いています。コレは本来は、大本営所属のものでも、元帥様の家族や直参の部下しか知らないトップ・シークレットの話なんですがね」

 

こんな具合に、淡々と語る赤城に対して…金城提督は戦慄する。

 

まさか…ありえないだろう、と。

たちの悪い…冗談だろう、と。

そんなことが、有ったら…俺は……と。

 

しかし、赤城はそんな金城提督の異変に気がつきながらも…あえてスルーしてこう締めたのであった。

 

 

「彼女から私達は、沢山の知識を獲ました。『艦娘の建造法』のヒント、『鎮守府と言うシステム』の在り方の形、『提督と艦娘の関係』と言うことを…ソレは、私達『艦娘』はおろか、死者と生者がクロスするかのようなこの世界に全てに対しての、一つの大きな叡知を与えてくれたことでもありました。ならば、私達は、あの青い空の様に美しく、突き抜ける風すら切り裂く鳥の様に気高い彼女に対して…何か返さねばなりません、だから…後は、任せます。サプライズのつもりで連絡船の小舟の中に、じっと待機してもらってたのが完全に裏目に出てしまった…彼女に、ですね」

 

 

そう言って、現れた女性は…赤城の言うとおり。

 

深く蒼い空を彷彿とさせる藍色の上着と、下は汚れの無い白いロングスカートを履いた、亜麻色の長い髪をサイドテールのように片結びにした上品な姿をしている。

純金で出来たネックレスを首に巻き、片耳には真珠のイヤリングをつけて、その上品な姿を彩るアクセサリーも実に似合っていた。

 

そうして…走りにくいだろうに、ハイヒールにも関わらず金城提督に向かって駆け寄るその女性は彼に抱きつくと、涙声でこう話を切り出した。

 

 

「…見栄っ張りで不器用で子供っぽい馬鹿な癖に…相変わらず、馬鹿正直で優しくて、大きな人ですね。毎年、『あの日』…『私が貴方から消えたあの日』だけ、私の頭の中に、貴方の、そして貴方の艦隊の声が聞こえるんです。私の為に、泣いて、苦しんで、そして…ブルネイの『Bar Admiral』に込めた決意と、私が大好きな貴方達の人の声が。それはとても嬉しくて……それ以上に、苦しくて寂しくて、でも自分じゃどうしようもなくて…耐えられなくて、この世界の義父様に相談したら、ワシに任せてくれって…お前さんなら、絶対に『楔』になれるからって…それで、それで……!」

 

そう言って、言葉を詰まらせてぽろぽろと泣き出した彼女を、金城提督は強く強く、その両腕で抱き締める。

そして、金城提督は…誰に向けた言葉なのかわからないが、一言だけ、人目もはばからず泣きながら呟いた。

 

 

…ありがとう、と。 

 

 

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~3時間後~

 

 

あれから、金城提督はその女性をブルネイに招き入れて、色々と…昔から金城提督を知る者達と共に、それはそれは長く語り続けたのだそうだ。

その内容は、その場に居たもの達以外には誰にもわからなかったが…ただひとつだけ、金城提督は残念そうにしていたことは語っておこう。

 

…その理由は、実にシンプルな事だった。

 

彼女の左手には、薬指に白金のリングが輝いていたのである。

そして、まだと言うか、もうと言うべきかはわからないが…3ヶ月、なのだそうだ。

残念ながら…彼女は、『向こう』に行くには…と言うよりは、戻るには。

この世界に残したものが大きくなりすぎてしまったのであった。

 

そして、金城提督にも守るべき妻が居るだけに…

引き裂かれるぐらいの思いではあったのだが、『彼女』に対して、こっちに来い、と無理強いすることは…できなかったのであった。

 

 

そんな訳で、金城提督率いる『限り無く近く、そして遠い世界』のブルネイ鎮守府が帰る刻限が、迫っていた。

もう、ブルネイの鎮守府を拘束する理由が、誰にも無くなってしまったからだ。

 

そして、そのスイッチは…その女性が、握っていた。

 

 

「提督…息災で」

「そっちもな…まるで、良い夢を見た気分だったよ!じゃあな、へんてこりんなパラオの鎮守府の皆も!楽しかったぜ、疲れたけどな!!」

 

金城提督と彼女の二人は、そうとだけ言葉を交わして…そして、テレビのリモコンのような機械のスイッチを女性が押した瞬間、ブルネイ鎮守府は虚空へと消える。

 

彼女はこの世界をあちらの世界と繋ぐ『楔』でもあるように…逆だって、然りだ。

無事に、それも何事もなかったかのように…あちらの世界ではあちらの世界にキチンと帰還して、何時も通りの『Bar Admiral』が続いていくことだろう。

  

 

そして、何時も通りのパラオ泊地になった時、そのまま彼女は苦笑いして頭を下げた。

                          

私のわがままに巻き込んで…振り回してごめんなさい、と。

特に、赤城は私のサプライズ計画に巻き込んでしまった挙げ句にす巻きの憂き目とか、もう何て謝ったらいいかわからないですが、と。

 

しかし、赤城は全く怒らないまま、こう返答した。

…あの後、金城提督殿が私に詫びに同じ料理を作ってくれましたし…皆さんの誤解が解けた以上は怒ってませんよ、と。

そもそも、『力になる』と約束した友達のお祝いにって、パラオに対して何かしらしたかった私の目的にも合致して共犯した以上、誰も責めるつもりもありませんので、と。

 

「私が今回全面的に悪かったのは認めますからぁぁ!!下ろしてくださいぃ!亀甲縛りはやだぁぁぁあ!!」

「…後、今回私はあんまりにもあんまりだったのに石投げるとかありえないことしたアホな旧友に、吊るしてフラストレーション全部ぶつけたんで大丈夫です、ええ」

 

 

…大丈夫なの?と、ぎっちぎちに亀甲縛りで赤城に吊るされた神通を、その女性が眺めていると…タイミングよく、数名の艦娘がパラオの港に現れた。

それを見たその女性は…時間ですね、と一言だけ呟き、その要人用の小型の移動船に乗り込む。

そして、パラオにむけて一礼すると、その船は艦娘と共に、日本へと帰って行ったのであった。

 

…赤城一人、残して、である。

 

 

「あの…赤城さん……帰らな…ゴホ」

 

そんな取り残された赤城に向けて、扶桑が何気無く血糊を吐きながら質問する。

赤城は、いつ帰るのか、と。

 

しかし…そんな赤城はと言うと、能面のように笑顔を崩さないままに、扶桑に向けて…

そして、パラオの艦娘全員に向けて、こう宣言したのであった。

 

 

「あの、『元帥様の義理の娘さんのパラオへの護送任務』…これが、本来の私の大本営の所属としての最後の任務だったのです。そして、私と、そこで亀甲縛りに縛られてるぽんこ通…もとい神通は、正式にパラオに編入する事に決まりました」

 

そう言うと、赤城は二通の蝋で閉じた書状を氏真に渡す。

それは、元帥直々による、指令書である。

 

ソレを笑顔で差し出しながら…改めて、コレから私達をよろしくお願いいたしますと言う赤城に対して、皆は絶句するしかなかったのであった…




はい、と言う訳で…コラボ回は今回で終了です
ごません様、ありがとうございました
そして…ファンとして、今回はとても楽しい企画でした

ごません様に喜んでいただけたら、幸いです
今回のストーリーは、ファンの妄想か、パラレルワールドの奇跡かは…それも、ご想像にお任せします



あ、そうそうもう一つメタな事をひとつ
Aルートの???最速フラグとは、「赤城加入&神通正式加入による本格参戦」が最速の展開、と言うフラグでした
赤城さん、これから振り回してくれそうです(白目)

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