無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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浜風のキャラ崩壊注意
僕は誤解なく言うと、陽炎型で浜風が一番好きです

後、事前に言っておきますが金剛も嫌いではないです


四話 金剛と浜風といふ者ありけり

さてさて、場面をまた移して、話を進めよう。

 

氏真と加古が出逢ったちょうどその頃に、天龍達や加古や氏真とも別行動していたドック兼医務室に居た最後の艦娘のお話である。

そこにはベッドに繋がれた少女と、甲斐甲斐しくその彼女の看病や着替えを手伝っているもう一人の少女という、二人の艦娘達がいた。

 

 

一人は片目が隠れるぐらい前髪が長く、銀髪をボブカットにした大人しそうな少女である。

背はかなり高く、その見た目は大人びている。

きっちりとしたセーラー服を着こなし、こざっぱりした印象を与える、清楚な少女であった。

…あえて、彼女の一際目を引く出っ張った部分は、あえて触れまい。

 

彼女の名前は浜風、陽炎型の駆逐艦である。

 

 

加古が「最後の建造艦」なら、浜風は「最後のドロップ艦」というべきか。

  

前任者の例の無能提督、海域攻略その物はまともに上手く行った試しはないモノの…実のところで言えば、小規模な局地戦においては勝利を納めてない訳ではなかったのだ。

浜風は、その数少ない勝利の「戦果」そのものであったのだ。

 

まあ、イ級とホ級の村に戦艦と重巡の群れが!?となれば、むしろ戦略的に負ける方が難しいし、

むしろ消費する艦娘達本人や艤装のその物のダメージと資材・弾薬の消費、兵站の確保なんかを考慮したら、「戦に勝って勝負に負けてる」以外の何物でもなかった訳だが…

 

…とまあ、話がだいぶ逸れてしまったが。

兎に角も、稀に艦娘が深海棲艦を滅ぼした際に深海棲艦の亡骸から発生するという、通称「ドロップ艦」。

浜風は数少ない、否、パラオでの唯一のそれは、前任の提督からしたらある種の象徴のようなものであった。

勝利と栄光の象徴、そう言ってかまわないだろう。

 

そんな訳で、一言で言ってしまえば前任の提督に贔屓とも隔離ともつかない扱いを受けていて、その縁から死地に行かずに済んだ浜風ではあるが。

その彼女はというと、当の浜風の方もこの自分を大事にしてくれた提督…ひいては艦隊全てが大好きで有った。

…その辺り、加古とは正反対でもある。   

 

提督の戦死と艦隊の壊滅に、どこか諦めと侮蔑を含んでいた4人とは違って純粋にその結果に悲しみから涙を流し、そして、金剛の生還…とは言い切れないが妖精さんという不思議な使い魔のような生き物からの生存報告に人一倍喜んでいたのも浜風だったという。

 

 

さてさて、一方の貴重な点滴に繋がれ、いまだに意識も戻らない金剛はというと。

 

前任の提督の秘書艦、それが本来の彼女の仕事だった。

実は金剛はこのパラオにおいて生まれた戦艦ではなく、大本営から移籍した外様である。

前任の提督の…言ってしまえば教導役をも兼ねた艦娘でも有ったのだ。

 

この話の冒頭で述べた様に、パラオの前任の提督は、言ってしまえばコネで着任した…

しかも本来は陸軍筋であるのに経歴に箔を付けるが為に、海軍にまで掛け合い提督になってしまったという、ダメなフラグ全開で着任した男であった。

 

海軍もそれはヤバいということで、ストッパー役兼当座の切り札役として、金剛を彼に付けたのだ。

が、その努力も空しく…結果から言えば、パラオは一年持たず壊滅する羽目になってしまった。

 

具体的に言ってしまえば、金剛はその提督に甘すぎた。

 

というよりも、彼女は別け隔てなく優しい性格でもあり、人心掌握と個人戦・小規模戦闘においてに関してはそれなりに優秀だった為に大本営からも信頼されてこんな役目を請けたのだが…

金剛の根本的な弱点として、優しさが甘さに繋がるタイプの為に「叱る・諌める」ということが苦手な上に、難しい書類を読めず大規模な戦略・軍略を読むことが極端に下手だったのだ。

おかげでその欠点が猪武者気質の前任の提督と悪い方向に噛み合ってしまった、というのが正しいのだろう。

 

しかし誤解なき様に言えば、パラオが壊滅したのは勿論のこと、金剛だけのせいではなかっただろう。

 

金剛だって彼女なりにできることを必死でやっていたし、少なからず浜風のような「戦果」を挙げられたのは間違いなく金剛の尽力のおかげであった。

少なくとも、壊滅寸前に行くまで艦隊から脱走者が一人も出ず、金剛や提督と共に死地に大勢の艦隊が付き合い天龍達二軍扱いを受けていた者からも慕われていたのは、間違いなく金剛の人徳・優しさの賜物で有ったのだろう。

 

パラオ最後の闘いでも、弾薬が尽きるまで奮戦し、弾がなくなっても最前線で最後まで盾として囮として立ち向かい、まるで弁慶のように執念で立ち続けたのも金剛その人で有ったという。  

一人、また一人と仲間が沈んでいく中で、金剛だけは最後まで深海棲艦に歯向かい続けて、最終的に深海を相討ちに持って行ったという。

妖精さんが見つけた際に、金剛が轟沈・絶命しなかったのは、間違いなく奇跡的だったとか。

 

そんな訳で、秘書艦としてはともかくも、金剛は無能でもなかったのだ、とは書いておこう。

 

…「なかなかに 世をも人をも 恨むまじ 時に合わぬを 身の咎にして (意訳すると、『世間も人も恨まない、時流に乗れない自分が悪かった』)」

時流に翻弄された氏真の辞世の句とも、北条を追い出されて以降辺りの苦境の頃の氏真の句にて人生観の句とも言われたモノなのだが…

金剛も氏真に負けず劣らずなかなかどうして、彼女の長所がパラオ全体にとって上手く回らず彼女の短所がそのまま彼女の敵だった、という話であった。

 

 

さてさて、いままで出番がなかった分の紹介を含め浜風や金剛の説明がえらく長くなってしまったが。

 

 

兎に角、浜風からしたら金剛は直接の拾ってくれた恩人であり、大切な『姐さん』みたいな存在であった。

否、金剛だけではなく…天龍型姉妹や睦月や加古だって大事な家族の様に浜風は考えているが、それでも金剛は浜風にとって別格である。

ある意味、提督不在の現状なら尚更、「刷り込みの終わった雛」の様に、この世界にドロップしてくれた存在なのだからかくやという話であった。

 

その為に、(この泊地の生き残りで唯一料理がまともにこなせるということもあり)台所に立つ時だけは例外ではあるのだが、それ以外の時は浜風は金剛にべったりであった。

甲斐甲斐しく金剛の体をタオルで拭いたり、備蓄庫の薬なり点滴なりを探しては取り替えたり、金剛の着替えを手伝ったり。

 

「…ふぅ、では、着替えも取り替えましたし…いつものように…クンカクンカタイムですね!金剛さんの残り香をクンカクンカするのは…やくど…仕方ないですよね!義務ですね!」

 

…看病にかこつけて、浜風がムッツリ行為に走ってしまったり。

 

「…あの、加古ちゃん達に紹介されて金剛って人や浜風って子に挨拶に来たんだけど…何これ、お取り込み中?」

 

…たまたま、偶然こんなタイミングで現れた氏真に見つかったり。

 

「ピギャァァァァァァァァァァァアアアァァァァァァアアアア!?」

 

見ず知らずの男に変態行為を見られた浜風の形容しがたい絶叫が響き渡ったりしたという。

 

 

尚、誤解なく言うと、実は金剛だけでなく全員の着替えをクンカクンカしたりペロペロしたりしたことがあるのは、浜風がこの泊地の艦娘に「愛」を向けているからである。

愛なら、仕方ないね。

 

 

「……浜風ちゃん、その、仕方ないのかい?」

「……仕方ないんです!貴方だって早川殿の着物にクンカクンカしたくなったりするでしょう!?」

「…!確かにそれは仕方がない!僕が間違ってた!ゴメン!」

 

尚、何故か証拠隠滅を兼ねて浜風に丸め込まれ…もとい、氏真は浜風と一番早くに打ち解けた、とか。

 

 

お前らええ加減にせえよデース…という、金剛のツッコミとも呆れとも取れるうわ言が、その病室内でか細く響いたとか。


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