無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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三十八話 戦国武将と『安全策』

「シネヤァァァァ!!」

 

そんな、絶叫と共に敵艦隊の最後尾から矢の様に突っ込んでくる黒い影が顕れる。

その影の数は2つ、一つは敵旗艦の護衛にて『右腕』たる戦艦棲姫のものである。

そして、もう一つは敵総大将たる軽巡棲鬼、その姿。

それらは、最上級な深海棲艦たる二人の鬼と姫、意思無き外道とはまるで違うそれら自らが『驚異』たる通康と氏真を排除しに向かう為である。

 

 

しかし、通康と氏真は…否、艦隊全てがそれらに動じない。

むしろ、相手の方が向かってくることをありがたいかと言うかと如く、泰然自若と構えている。

そして、深海棲艦の亡骸に乗りながら、通康はこう笑いながら告げる。

ようやっと、ワシらに釣り合う敵が来たけん、気合い入れにゃな、と。

 

氏真もそれに同意しつつ、こう言った。

 

「ウチにはまだまだ杉村さんに艦隊の留守を任せてる6人も帰りを待ってる子らが居るし、霞ちゃんの所にも用があるし、そもそも最初の任務は何一つ解決してないんだ!こんなことで僕らが足止めを食らうわけにはいかんのよな!」

 

そう言って一拍おいて、こう続けるのである。

 

「…だから、彼奴らを片っ端から始末する。球磨・木曽の二人は通康殿の補助へと戦艦棲姫の方へ向かってくれ、そして加賀は僕ら全員の支援に徹してくれ。残りは僕の指揮下であのお団子頭の周辺を狩りに行く!」

 

 

そう言って、艦隊を散開させて迎撃に向かう。

そうして、『最終局面』の幕開けが始まったので有った。

 

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しかして、その『最終局面』の先制の幕を切ったのは…敵の方からである。

その攻撃を放ったのは、軽巡棲鬼の護衛ながらも、自らも『ボス』となるにふさわしい大物、戦艦棲姫であった。

 

 

「シズメ……ケイジュンセイキサマノ…テキガ!!」

 

戦艦棲姫が、牽制を兼ねて両脇に召喚した異形の艤装から主砲を放つ。

それらは、まるで哭いているかの様に、轟と唸りをあげて真っ直ぐに艦隊のでがかりを潰しにかかる。

その狙いは、まず装甲が薄そうな…要は軽巡クラスの艦娘を狙い飛んでいく。

そして、戦艦棲姫の攻撃に狙われた艦娘…それは、球磨である。

 

しっかりものであり、冷静沈着とは言え…艦娘としては初陣の球磨。

目立つミスは一切行っておらず新兵としては100点をあげても良い動きをしているが、しかしそれでも浮き足立っている部分もあることは事実だ。

しかも、木曾程はっちゃけてる訳でもない上に、初対面の通康達に合わせなければならないことも有りぎこちない動きしかしていなかった為、戦艦棲姫からしたら良い的だった。

 

その球磨自身が敵深海棲艦の『大物』に狙われていると悟り、思わず数秒後の自身の姿を想像して球磨はビクりと竦み上がり目を瞑る。

だが…

 

「…木曾の姉貴をやらせてたまるかいな、ワシの目ェ黒いウチにのぉ!!」

 

通康が、球磨の目の前に盾の様に立ち塞がり、右手で真正面から打ち砕くかのようにその砲弾を殴り返す。

そうして、まるで野球のバットに打たれたボールの様に砲弾が弾き返されて、戦艦棲姫の艤装の1つに跳弾が直撃した。

 

跳弾で自分で自分を殴るかのような攻撃により黒煙をあげて中破する戦艦棲姫の異形の艤装と、それに心底驚く戦艦棲姫と球磨であるが、通康は意に介さず、ロ級だかイ級だかの亡骸に器用に乗りながら球磨に声をかける。

アンタ、さっきので怪我ぁ無いんかの?と。

 

球磨が慌ててはいクマ!と答えると、通康はなら良かった、と言う表情で球磨の頭を軽く撫でつつ、こう締めた。

 

「…なら、上等かましてくれたあのアマを、一緒に潰しに行こうかのぉ!!木曾も気合い入れェや!」

 

そう言って、通康は球磨に艤装に乗っけてもらいつつ、こう宣言して突撃する。

球磨は、ナデナデするなクマ!と文句を言いながらも、通康の『足』として、彼を肩車しながら戦艦棲姫に向かい最大戦速で主砲を構えつつ突撃に向かう。

さっきから黙って射程圏まで高速で移動中だった木曾も、おう!とだけ告げて、魚雷による反撃を仕掛けつつ、主砲のアームを戦艦棲姫に向けている。

 

こうして、本格的に通康隊は戦艦棲姫との決戦に向かうので有った…

 

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一方、残りのメンバーはと言うと。

 

氏真隊となるメンバーに対抗するかの様に、軽巡棲鬼は生き残りの戦力をかき集める。

生き残りの空母ヲ級2匹は自らの更に真後ろに配備して、逆に自らの真正面には戦艦クラスのル級やタ級を出来るだけ密集する形に配置する。

中破状態以上ではあるが、残りの数匹のチ級とリ級はその戦艦クラスや空母クラスの外側を、時計回りになるかのようにぐるぐると大回りに旋回させながら『護衛の護衛』にさせている。

 

そうして、輪形陣気味に再編成して、完全に『固めて』きたのである。

 

 

氏真は、少しだけそれを見て渋い顔をする。嫌な手を使う、と。

 

変にこじんまりと密集させて固まった隊列と言うのは、中世以降の矢の完成と銃器の発展が進むにつれて消滅していったものである。  

 

勿論、籠城戦・防衛戦としては良くある形ではあるし、近代的な戦闘でも密集隊形の小隊が有効な場面などごまんと存在するが…視界良好かつ段差やトーチカや堀等が無く、開けた場所でそれをやったら蜂の巣になるだけだ。

囲まれやすい上に、射程の長い飛び道具の良い的になってしまう。

 

だがしかし、その目的が『ある一定の距離の移動』となるならば、その評価は裏返る。 

要するに、多少の犠牲が出ても良いから、目標の場所に突っ込んで行くか退却するか、と言う目的ならば…真ん中と後方の兵を敵側が一撃で狙いにくい以上、有効な戦術になりうるのである。

 

そう、軽巡棲鬼は明らかに戦術を決め打ちしに来ている。

それは、単純なごり押し。

自らが出来るだけ安全に敵陣を潰す為に、多少の味方の生け贄が出ても『主力』を無傷で運ぼう、と言う作戦である。 

 

そうして、多少の弱者の犠牲が出るのも気にせずに自分が安全に敵陣に飛び込んで、氏真の首を狙う。

まるで、氏真達の戦術をより悪辣にしたかの様な、『安全策』である。

 

 

「僕が謗るつもりはないが」

 

まあ、『戦国武将』がこの手の手筋を罵るのは筋が通らないことを承知で、軽巡棲鬼のとった作戦の真意を看破した氏真は呆れつつもこう続ける。 

ちったあ躊躇えよ、と。

 

小を犠牲にして大を生かすのは、作戦として理解しているし理に叶っている以上、あの時代お人好しな氏真ですらやっていたことである為に、それ自体についてはどうと思っている訳でもない。

むしろ、咄嗟に有利な戦術を思い付いた軽巡棲鬼を尊敬すらしている。   

 

しかし、自らの為に味方に犠牲と危険を強いる戦術を顔色一つ変えず行うことは…流石の氏真も、多少ならずして怒りを覚える。

味方に痛みを強いることに悲しさや怒りや申し訳無さを感じておらず、『それ』を自分の目的の為ならば当然と見ている…言い換えると、味方を手駒や道具以下の『オモチャ』としてしか見ていないことの証左でもある。

 

あんな『指揮官』にだけは負けてたまるか。

氏真は内心でそう思いながら、軽巡棲鬼が固まって艦隊に突撃してくるのを冷静沈着な表情で見つつ、まるで矛盾するかの様なことを告げたのである。

 

 

「……とりあえず、『負ける』よ、準備は良いかい?」

 

艦娘達は、氏真の言葉に対して一様に頭に疑問符が山のように飛んでいる。

氏真は、ニヤリと口をつり上げて笑みを漏らしながら、そんな艦隊達全てに向かい答えるので有った…

 


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