無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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三十五話 艦隊血戦、開始のゴング

木曾が暑苦しいノリで氏真達が居る戦場に引き返した丁度その頃の事。

カメラを再び氏真側に戻して、話を進めよう。

 

 

 

「…こりゃ、凄いですね」

 

加賀がポツリと漏らした先には、その深海棲艦の艦隊の姿が垣間見えた。

戦場に対して要となる、空戦要員たるヲ級とヌ級の数は併せてざっと計8体。

その空戦要員に並ぶ火砲のル級とタ級の総計は5体程湧いている。

そして、その護衛艦たる重巡洋艦級以下のリ・チ・ロ・イ・ホ級は、人型と魔獣型の比が約1対3ぐらいの割合で25体と言う形で、

輪形陣を組みながら氏真から見て約1.7キロメートル程の距離に突如として顕れた。

 

要するに、こちらが通康も数に入れたら7人しか居ないのに対して、向こうはざっと40の兵力が見えている。

あるいは、伏兵等が居る可能性や別動隊が顕れる可能性を加味すると、現状の勢力は見えてるだけで五分の一、選局次第では十分の一以下と言う劣勢であろう。

 

それでも、通康や氏真が艦娘達と共に奮起したら、あるいは埋められなくはない差かも知れない。

だがしかし、その大船団の中央には…

 

 

「…シズメ…スベテノ…テ…キ……!」  

 

こんなことを言いながら、海上に姿を顕した、以前に戦ったこともあるが別な個体の『戦艦棲姫』が居る。

そして、もう一騎…それに並ぶ『脅威』が、水面から顕れた。

 

下半身が異様な黒色の巨大な生物を模した化け物で有りながら、上半身が違う。

藍色の艶やかな長髪を靡かせてシニヨン付きの不思議な髪形をした、ハイライトの無い深い深い闇色の目をした巨乳の蒼白い肌の女がくっついている。

漆黒のドレスアップしたシンプルかつ清楚な姿が、逆に扇情的な容姿にも映る。

しかして、その人ならざる爪と人ならざる肌の色、何より『漆黒』としか表現ができない、悪と殺意の波動を持つ殺気が…気持ち悪いおぞましさと異様で扇情的な美しさを同時に引き立てていた。

 

その異形な深海棲艦…それこそが…

 

「『軽巡棲鬼』…!ついに、一般の海域にも顕れたデースか!?」

 

そう、金剛が口を開いて、そのもう一人の深海の鬼の正体を口に出す。

その通り、軽巡洋艦クラスでありながら、一般的な戦艦級を遥かに凌駕する深海に潜む魔。

それこそが、軽巡棲鬼の姿であったのである。

 

 

「シズメテ…アゲル……!ニドト…フジョウデキナイ、シンカイヘ…!」

 

そう、カタコトに話す深海の鬼は、主砲の一撃を威嚇射撃として艦娘達に向かって発射する。

それが、戦い…否、『戦争開始』のゴングになったのだ…

 

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…こりゃ勝てんな

 

氏真と通康の二人は、同時に直感する。

氏真は艦隊の実力と能力を把握しているから、通康はただ単純に海戦の達人故に…と、それぞれに判断基準は違うものの、とりあえず、現状の戦力差を計算に入れた結果である。

 

明らかに火力…と言うより、もう少し正確に言えば手数が足りなすぎる。

偉い人は『戦いは数だよ』とのたまったが、乱暴すぎるがその通りである。

戦力は究極的には奇策珍策の類いではそうそうはひっくり返らない、武装の火力と兵站が潤沢な方が勝つ、兵力そのものの質と量の合計が高いのが勝つ。

 

あるいは、三次元的に高所を抑えて高台に陣取ることや、掘りや塀の様な防御力に関連するオブジェクトも重要性の高いファクターになるが…

航空戦力の数の差が圧倒的な上に、四方がほぼ岩礁等すらないだだっ広い海の上と言うことで、こちらの要素は無視して構わない事だ。

むしろ、その要素を考慮した場合、余計に不利としか言えない戦況だ。

戦艦棲姫や軽巡棲鬼の能力が異常と言うことを考慮すると、『勝てない』と諦めるのも仕方ないことでもあった。

 

あるいは、やるとしたら急襲による一点突破からの将の首を取れば、戦力差を無視して勝てるだろう。

 

この場合だと戦艦棲姫か軽巡棲鬼のどちらかの首を取り、指揮系統がいかれている間での混戦・乱戦ぐらいしか対抗策がパッと思い付かないが…船団の『層』が分厚すぎてそうそうは突破不可能な上に、その姫だか鬼だかのどちらが旗艦なのかが傍目から判断がつかない。

そこの判断をまちがえてしまえば敵の集中砲火でえらい目にあうだろうことは、予測の範囲内だった。 

 

しかもそれをやるとしたら、今度は火力面での虎の子の加賀が無用の長物に為ってしまうだろう。

特に、飛行機に変化する特殊な矢を操る加賀は超長距離からの牽制と高所を抑える遠距離型の艦娘だ。

突撃気味の接近戦だと盾にすらならない、と言うか、突撃行動に入る最中で矢を発射する無防備なタイミングを狙われかねない。

かといって、流石にこの戦力差で、役に立たぬからと護衛無しで加賀だけぽつねんと置くのはあまりにもリスキーな話でもあった。

 

本来ならば、普通に適当なあしらいかたをしながら、通康か氏真か金剛のうちの頑健な何名かで殿を努めつつ、この場を離脱することが最有力な解だったかもしれないだろう。

 

 

だが、しかし。

艦娘達は、不安ながらも期待も込めた目で氏真と通康の方を見ている。 

あの場を、それでも戦国時代の超人達ならなんとかできるのではないか、と。

特に、加古がそうである。氏真に対して、戦士として絶対の信頼を寄せているのだから。 

それに、艦娘達も戦国武将二人もそうであるのだが、行方不明の木曾と霞の行方が気になる。

彼女らの所在を無視して離脱・撤退と言うことは、したくはなかったのだ。

 

 

そんな折、今まで何故か通話中で連絡ができなかった当の霞から、緊急で無線の通信が入ってくる。

 

慌てて、龍田が説教混じりに『今どこに居るか、何をしていたのか』を聞くと、霞からこんな返答が帰ってくる。

曰く、拉致気味に木曾に連れられた無人島で良くわからないがパラオの元所属だった二人の飛鷹型の艦娘の保護を頼まれてしまった、木曾が照会をかけたその後すぐ、全力で場を離れてそっちに引き返したせいで状況が状況で場を離れて良いか判断ができない、と。

 

 

「飛鷹型…!?ちょっと待って!え、飛鷹さんと隼鷹さんがそっちに居るの!」

 

いきなりの霞からの連絡に、龍田がアワアワしながら口を滑らすと、通康が状況が良くわからないままにこんな質問をする、あのお嬢二人がどないしたんじゃ、と。

龍田はそれに目を白黒させつつもこう告げた。

 

「無人島が飛鷹型で木曾さんが帰って来て、霞さんが拉致で深海棲艦が出てきて…えっとぉ、あ…あわわわわぁ!?」

 

…龍田、落ち着け。

 

とまあ、そんな要領を得ない回答だったが、とりあえず通康は一つ確認を取る。

木曾達が自分と飛鷹と隼鷹が拠点にしていた無人島に集合してたらしくて、そして木曾がこちらに引き返しに来たんだな、と。

そうらしい、と龍田が肯定すると、通康はふむ…と頭を働かせる。

そして、こう宣言したのであった。

 

 

「氏真殿ォ!ちょいとザンバラ切りなあそこの娘かクルクルあほ毛の長髪の娘を貸してくれんかの!ちょっくらその娘と心中してくるけん!」

 

…流石にお前どういう事だ、と、一瞬氏真は頭に浮かんだが…

今にも迫ってくる敵の艦載機や砲弾と言う切羽詰まった状況と、今までの会話の流れから得られる情報を見て、通康がやりたいことを氏真は把握した。

そして、氏真はこう言ったのである。

心中は許さんが…球磨、あのクルクルしたのが頭に付いてる方を貸してやる、球磨ちゃんも通康さんのこと頼んだよ、と。

 

そうして、球磨が全体的に話についていけないながらも、氏真の言なら従うことに否はないクマと言うことで、一時的なものながら通康の指揮下に入る。

 

 

今ここに、なんだか良くわからない流れから、一大血戦が幕を開けたのであった。

 

 


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