無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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三十四話 木曾とそんな霞のお話

氏真が通康と壮絶に戦った後で実質痛み分け気味の戦闘終了になった際、氏真は一瞬の隙を付かれて通康に海中に引き込まれてしまった。

話をそこから始めよう。

 

 

戦国ドラゴンボールの予想外な結末に、残された艦娘達は慌てふためく。

特に加賀が若干ならずパニックに陥ってしまい、氏真を救出するべくどうするかと言う事で、鉄面皮な彼女らしく無い表情で辺りを手当たり次第探そうと隊列から離れようとするのであった。

 

そんな加賀と一緒になって辺りを探そうとする龍田や、逆に落ち着けと言わんばかりに加賀と龍田を抑えに行く球磨と金剛と言う状況の中で…意外にも、一番冷静に対処してたのは加古である。

まるで鬼○郎の妖怪アンテナのごときアホ毛をアンテナの様に動かしつつ、ソナーの反響を冷静沈着に追いながらこう告げた。

 

「…加賀も龍田も落ち着け、とりあえずあのアホ二人は心配しなくても多分もうすぐ上がってくる。それより、全員急いで戦闘配備につかないと、ちょっと不味いぞコレ!」

 

え!?と、加古の言を受けて、一同がキョトンとする中で…そんな加古の言に答えるかのごとき反応で、氏真が通康に抱えられたままに水上にザバァと浮かんで顔を出す。

心配したじゃないですか、と加賀と龍田の二人に氏真と通康が怒られた中、戦闘の阿呆二人はそれを意に介さずに艦隊に向かってこう言ったのである。

 

 

「皆、深海棲艦がえらい近くまで来てる!!通康殿が僕を沈めたのも、それを見せる為だったみたいだ!!全騎散開、六時の方向に向かって戦闘準備に入れ!」

「おお、氏真殿は察しが良くて話が早いのぉ!ほうじゃ、ワシが氏真殿を海に沈めたんもそんな理由よ!そして…ワシの海上に出てた本来の目的じゃけん、その深海なんたらの相手ってのは!」

 

…そう、通康の言った通りの事。

 

実は通康は氏真に水中に叩き落とされた際に、嫌な匂い…彼曰く『腐り水の様な匂い』を直に感じて顔をしかめる。

良くその匂いの元をたどってみたら、かなり遠間ではあったのだが、深海の船団の護衛と周辺哨戒を兼ねていたらしい駆逐級の深海棲艦の姿を確認することが出来たのだ。

そして…氏真との楽しい喧嘩で忘れかけていた通康本来の目的も思い出したのだ、そう言えば自分は深海棲艦を倒しに来たんだな、と。

 

そう考えた通康は思いきったことをする。

氏真に向かって全力で追いつくと、氏真後と海中に沈み海を直に見せて『共通の敵』だろう深海棲艦を確認させるのであった。 

口で言うべきなのだろうが、通康の豪快かつ雑な性格や、ついさっきまでしょうもない理由からではあるが命がけな喧嘩してたことも有り、話し合ってこじれるよりは直に『感じさせる』ことで話を付けようとしたのであった。

 

そして…氏真も、通康に比べたらそう言った嗅覚には疎かった上に、流石に鷹の目の様な通康に比べたら、老眼寸前に最近は事務仕事が多くてドライアイ気味でしかも通康みたく水中じゃ良く見えないと三重苦ながらも、それこそ、何度も斬ってきたが故に解る深海棲艦の殺気を気取るのだ。

その為に氏真も水中に沈んでた100秒程の短い間ではあるが…『通康の世界』に連れていかれたことで魂で理解した、今はアレを真っ先に潰しておくべきだ、と。

 

そして、水上に上がった二人は艦隊全員に向けて告げるのであった。全員、対深海棲艦に向けて戦闘準備を行え、と。

 

 

そう戦国組の男達から言われた艦隊は、先にソナーで冷静に水中を見ていた加古を筆頭に、金剛の指示の元で慌てて隊列を再編成する。

輪形陣気味に氏真と通康を中心にし、加賀がその二人の近くに引っ付く形で寄り添う。

そして、残りの艦娘は、金剛を氏真達から見て正面に据えて、球磨・加古・龍田の四人はそれぞれの四方を警戒しながら深海棲艦に備えていた。

 

と…その段階になり、頭が色々冷えて状況に対して冷静になった際、何かおかしいことに全員が一斉に気付いた。

アレ?何か足りてないぞ、と。

具体的に言えば、人数がおかしいぞ…と。

そして…その違和感の正体に、全員が同じタイミングで把握したのであった。

 

 

「「「「「「「霞と木曾の二人は何処行きやがった!?」」」」」」」

 

そう、いつのまにか行方不明になった、木曾と霞のことであったのだ。

 

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~同時刻、無人島~

 

「…しかしすまないな、旦那とあんたらの頭目の…今川さん、だったか。あの二人の一触即発な状況を見て、冷静にしてたのが霞さんだけだったからね、無理に連れ出してしまって悪かったよ」

 

そう言って、霞に頭を下げる木曾だったが、霞は意には介さずにこう返した。

 

「あんな髭の生えてないクズと赤点回避ギリギリの髭の低次元な喧嘩なんか興味なかったから、むしろ逃げ出すみたいに連れ出してくれたアンタには感謝こそすれ頭を下げられる謂れは無いわよ。顔を上げなさい」

 

そう言って、にししと笑いながら木曾に向けて、である。

 

 

そう、霞と木曾は何をしていたのかと言うと。

 

実はあの馬鹿二人の喧嘩の最中、木曾はこっそりと霞の手を引き、イケメンのみが許されるお姫さまだっこの形で揃って海域から離脱していたのだ。

そして、通康と木曾達の野良の艦娘の四名がアジトにしていた無人島に移動していたと言う。

 

木曾が霞をなかば拉致するかのごとく連れ出してしまった理由は幾つかある。

 

単純に「あの喧嘩に付き合う程、馬鹿じゃない」と言う感情的な部分も無くはないのだが、木曾からしたらもう二つキチンとした理由があったからなのだ。

 

一つは「通康の護衛役がしばらく必要無くなった」と言うこと。

そもそもが、本来は深海棲艦からの通康の護衛が木曾の出撃の理由であり、通康も木曾の力を借りようとした理由でもある。

しかし、あの頭数が有るならば、必然的に通康の護衛…とまでは、あの喧嘩の流れからではいきなりいかないだろうが、少なくともあの頭数が相手なら通康に向かう弾は散るし、深海棲艦相手なら最悪でも中立味方寄りの第三軍として上手く利用しあってくれる筈だ。

一人二人と一時的に人数が減っても、木曾や通康からしたら確かにあまり問題はなかったのである。

 

しかし、それだけの理由では、流石の木曾も霞を慌てて拉致する必要もなかっただろう。

その木曾が連れ出してしまった理由、それこそが…もう一つの理由こそ重要性の高かったことだったからだ。

それは…次の霞の台詞が、その答えだった。

 

 

「まあ、あの喧嘩は置いといて……今とりあえずウチの留守番組に照会かけてるけど、飛鷹型の姉妹のデータってうちにあったかしら?」

 

そう言って、霞は黒髪ロングなマント羽織った半裸の少女と、上品な服を着た紫髪の長髪の少女の二人を見ながら、霞は語り出す。

そう、木曾のはあの艦隊に出会った際に思い至ったことが一つあった。

もしかして、あの艦隊こそが本来の飛鷹と隼鷹の元仲間ではないのか、と。

 

その予測自体は…まあ、半分当たりで半分外れと言うことであり、残念ながら霞は『外れ』だった訳ではあったのだが、それはそうと。

木曾からしたら、本来あるべき所にあるべき人を返す絶好なチャンスが来たと言う話だったのである。

仮に、あの艦隊が飛鷹達と違う所属先だったとしても…まあ怪我人だった隼鷹の本格的な治療を兼ねた保護はしてくれるだろうし、悪いことにはならないだろう、と言う算段でもあった。 

 

そこで、やや強引ではあるが、照会をかけてくれそうな人材を木曾はいてもたっても居られずに連れだしたと言うことだったのである。 

 

果たして、その結果はと言うと…

 

 

「『行方不明』か、または『死亡』に分類されている可能性が高いから…下手したらデータ抹消も有り得るし、直接連れていかないとわからないことも沢山有りそうだけど…ってアレ!どうしたの!?睦月!睦月!?」

 

そう言って、霞が泊地直結のラインに繋がる本来オペレーション用の無線での連絡相手たる、秘書艦として執務室での仕事をしていただろう睦月に向かい絶叫する。

一方、睦月と言う単語に、その場にずっといたものの今まで黙って聞いていた飛鷹と隼鷹の二人が一斉に声を上げる、睦月がそこに要るのか!?と。

 

意味がわからない霞は動揺しつつも飛鷹達に向かいこう返した。

何か良くわからないけど、『生きてて良かったにゃし』って言って、泣きながらろくな返答を返して来ないのよ、と。

 

 

「ハ…ハハハ……!良かった、にゃしいにゃしい言ってたあの子、まだパラオに居たんだ。覚えてくれてたんだ、私ら姉妹のこと…そっか…」

「ああ、ねーちゃん…私、今凄い嬉しいよ…!」

 

そうして、照会をかけた際に、霞の言に泣いてるのか笑ってるのかわからない表情でへたりこむ二人の飛鷹型の姉妹であるが…それを見た木曾はケラケラ笑いながらこう言った。

なるほど、何となく状況が掴めたな、と。

そして…こう続けた。

 

「なるほど、大方、建造なりのタイミングがずれてお互いに面識がなかったみたいだけど…コレでほぼ確定したな、霞さんと姐さん達二人は少なくとも同じ泊地の所属先だったらしいと言うことが。俺のカンも棄てたもんじゃないらしい。なら、本当に身勝手で悪いが霞さん、ちょっとこの二人を見ていてくれないか?」

 

そう霞に対して告げた後、一人で海に出ようとする木曾である。

そんな木曾に対して、霞・飛鷹・隼鷹の三名は慌てて木曾の身勝手な行動にツッコミを入れるが…木曾は意に介さずにこう締めたのであった。

 

「…完全に状況が変わった。霞さんの関係者への連絡役と、戦えない飛鷹さん達の護衛…と言うか護送役が必要になる。そして、確かパラオ…だったか、そちらの状況とこちらの飛鷹さんと隼鷹さんの現状を繋げられる人材が、今の所だと両方可能なのが霞さんしか居ないのさ。本当なら俺がやるべきなのだろうが、コネクションも無いし、そもそも無所属な野良の俺がどうしたら良いかもわからんしな。なら、本当に言い方がアレだが…『死んで良いヤツ』が先に戦場に戻って、霞さんのフォローと飛鷹さんと隼鷹さんの事情説明を兼ねて、俺は征くよ」

 

 

…旦那の拳骨じゃ色々やらかした事の罰はすまされないだろうが、まあ良いさ…俺は、今日は死ぬには良い日だ

 

 

そう、最後に付け加えながら、木曾は全速力で引き返し、氏真やその艦隊と通康が居た場所へと向かったのであった…


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