無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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三十三話 戦の世の者達の、戦いの顛末

「でぃぃやぁ!!」

 

そう叫んだ氏真の、抜刀術気味に放たれた『一の太刀』の斬撃の衝撃波が通康に向かい走る。

それが、馬鹿武将二人の決戦…と言うには開戦のきっかけがみみっちくてアレな喧嘩のゴング代わりだった。

そして、そんな深海棲艦すら直撃したら真っ二つになるだろう衝撃波の一撃を、不意打ち気味にもろに受けた通康はと言うと…

 

「…何か、したかいの?ガキャア!!」

 

そう言って、特に何事もなかったかのように首をゴキッと音を鳴らしながら左右に振りつつ、平然と立っていたのである。

 

そんな通康の姿を見て、思わず、色々ドン引きした龍田が顎が外れかけるぐらい口を開きつつ呟いた。

いきなり生身の人間に一の太刀を撃つ氏真さんも大概だけど、アレで無傷なこの人はなんなの、と。

龍田のそんな言葉に答えるように、通康はこう叫んだ。

 

「…ワシァ生まれつき頑丈で無敵じゃけん、どんな銃弾も矢も槍も剣も、弾き返して身体を通したことは無いけんの!噂に名高い『一の太刀』があんな拍子抜けやったんは、正直に期待はずれでがっかりやったが…まあええわ!じっくり捕まえてワシがぶちのめしたる!」

 

 

…一方、そんな通康の言に対して艦娘達は、生まれつき無敵な人間なんて居るわけ無いだろ!…と突っ込むものの。

氏真は、泰然自若な表情で笑いながら、通康に向かいこう告げた。

 

まあ、不意打ち気味に先制したのは謝罪するが…あんな直撃したところでせいぜい気絶するかしないかの『荒い』精度の手加減した一撃で、僕の剣を、まして塚原先生直伝の剣を語るとは…本当に許さん。本気で行くぞ!と。

 

通康も売り言葉に買い言葉で、かかってこいやとばかりに指をくいくいッと氏真に向け、まるでカンフー映画の敵役のように挑発する。

そうして、本格的に二人の戦いが始まったと言う。

 

一方、流れに取り残されてしまった艦娘達は、一様に唖然として固まっていたと言う。

何故か妙に武将どものノリに特に動じてない、とあるごく一部を除いて、ではあったのだが…そちらの方はとりあえず無視して、彼らの『本気』な戦いを見ていくことにしよう。

 

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だぁ!と猿叫をあげながら、氏真は挑発に乗っかる形になる感じで…縮地法を全力で駆使し、波に浮かぶ通康を追いかけては本気な『一撃』を通康にぶつける。

あの、戦艦棲姫すら首を吹っ飛ばすかのように叩き斬った、居合い斬りなごとき一撃必殺の『一の太刀』。

確かに、先程の精度の荒く威力の緩いもどきとは格の違う一撃を受けて、無傷と言う訳にはいかなかった。

そう、『無傷』では…

 

「…確かに、アンタの言う通り本気な一撃は違うわいのお!薄皮が剥けたんは久しぶりじゃあ!」

 

そう、確かに無傷ではないのだが。

血すら流れず軽い痣と薄皮がやや剥けると言う、まるで包丁で失敗して指を切ったとか髭剃りでカミソリ負けした程度のダメージしか与えられなかった。

 

 

日本刀で思いきり斬りつけて、そんな程度のダメージしか与えられてないことに対して…氏真はと言うと、意外にも冷静沈着である。 

氏真は通康を倒す算段はいくつか付けてある。本来、氏真も流石にあの程度の挑発で相手を殺すつもりまではなかったし…その意味では痛め付けて降参させる程度のことで良かったのだから。

一の太刀を氏真が本気で撃ったのも、通康の頑健さなら耐えきれると踏んだからに過ぎなかったと言う。

 

まあ氏真も、アンタ豪語するだけ有ってやたら頑丈だな、とぼやきはしたが。

 

しかし、そのぼやきを聞き逃さなかった通康は、氏真に向かいゲラゲラ笑いながらこう言う。

『矛盾』って故事は間違うちょったわい、産まれてどころか死んで初めて知ったわ、と。

そして、こう続けたのである。

 

「『万物必壊』と名高い貴様ら塚原一派の『一の太刀』!そして、鎧に穴ァ空くぐらいの槍を受けても無傷じゃった、『絶体無敵』のワシの鯛や鮃を喰うては鍛えに鍛えた『鋼の身体』!最強の一撃と最強の防御やったら、防御が絶体有利やったわ!」

 

そんな勝利者宣言を行う通康に対して、氏真はそれを全肯定する。

確かに、あんたを『斬ること』は今の僕には無理だ、と。

だが…それならそうとと言わんばかりに、通康が大振りに櫂を氏真の頭部に向かってに豪快に振り落としにかかるのを冷静沈着に見ながら、それを半身でかわしつつ氏真はこう言った。

 

「…斬れなきゃ、海に向かってぶっ飛ばすだけだ!!」

 

そう叫んだ氏真は、身体を沈めて攻撃をかわしつつ足払いを仕掛けて、通康を板ごとひっくり返したのだ。

ぐおおお!?と、通康は間抜けな叫びを上げるしかなかったと言う。

 

…そう、氏真が考えていた『算段』の正体。

蹴鞠の達人たる技量と、鮪のように高速で水上を走り回るだけの超人的な脚力をそのまま通康本人が乗ってる木の板にぶつけ、水面に沈めることである。

 

まるで、太砲のような直撃を真下から斜め上に向かい受けて、無傷ながら通康は思わず乗ってる板から叩き落とされるしかなかった。

そのまま、氏真は通康がバランスを崩して落ちた一瞬の隙を付き、氏真は通康が乗っかってた木の板を刀でバラバラにしたのだ。

そうして、復帰不可能にした通康に向かい、氏真はとどめとばかりに通康の後頭部に踵落としを全体重をかけて撃ち込み水面に沈めたのであった。

 

 

「一の太刀が利かないからって…別に、僕としてはやりようはいくらでもあるよ。あんな頑丈さは初めて見たし、二度とやりあうつもりもないけどね」

 

氏真は、通康が水底に沈んだだろう方向に向かって、こう吐き捨てたと言う。

 

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「勝った…!クソ、アイツ、久しぶりに死ぬかと思ったな。流石に高名な村上の水軍だけ有るな…」

 

そう言って、激戦を制して通康を沈めた氏真は、呑気に艦娘達の居る方向に向かい帰還する。

 

 

一方、当の出迎えた艦娘達はと言うと。

水上ドラゴンボールな戦いを見て、氏真にドン引きを通り越した何かの感情で、胸がいっぱいになったとか。

何か、超人的な戦士二人に最早一種の尊敬すら覚えていたと言う。

氏真に対してももちろんではあったが、通康にも…

 

「勝ったと思うにゃあ!まだ早いけんのぉ!このガキァ!否、氏真殿ォォ!!」

 

…そう。

そう言って、氏真の背後から突如水上に飛び上がるように現れて、そのまま氏真に飛び掛かってきた通康についてでもある。

 

 

な!?と、艦娘達のみならず、氏真は通康の突如とした出現に間抜けな言をあげながら背後を振り向く。

まあ、あんな頑丈さなら流石にアレでも死にはしないどころか気絶にも行かないだろうとは氏真も思ってたものの。

後で、せいぜい浮いてきたところを適当に回収してやろうぐらいにたかをくくってはいたのだが、まさかアレを喰らって、自力で自分に追い付くとまでは流石に考えてなかった氏真は心底驚いていたのだ。

 

そして、一方の視線が合った当の通康はと言うと、こう氏真に向けてこう言ったのである。

 

「ワシら『村上水軍』を嘗めたらアカンぞな!!海に産まれて、海に育てられて、海を制したのがワシら村上の一族よ!沈められたぐらいで参ったは言わんけんの!泳いで貴様に追い付いてやったわ!」

 

そう言って、一拍置いた通康はと言うと、こう氏真に向けて続けるのである。

それでも、今は、今だけはワシをやり込めた貴様をワシの『上』に認めてやるけんの!だから…ちょっとワシの世界にも付き合えや!と。

そうして、そう言って通康に引き込まれるように、がっしりと抱き付かれたような形になった氏真は、通康と共に海面の底に沈んでしまったのだ…

 

 

「氏真さん!!氏真さん!?」

「ま、ウソだろ、ちょっ…オイ!氏真さん!!」

「氏真サン…ちょっ、レ、レスキューに行かないと…!」

「し、司令官が沈められたクマ!?」

「と、父さぁぁぁん!!」

 

そして…残された艦娘達は、この状況の変化に対応しきれず、絶叫せざるをえなかったと言うことだった。


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