無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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三十二話 戦国武将達の、邂逅

「…む、これは、またかい」

 

そう言って、その日、皆で火を囲んでの食事中に通康が顔をしかめたのが、そもそものきっかけだったのかも知れない。

曰く『嫌な潮風』なる匂いらしい、通康が言うには、どぶ川の腐り水のような刺激臭がごとき嫌な匂いが鼻腔につくのだそうだ。

ソレが、通康の言う、深海棲艦の出る気配なのだと言う。

そんな、海賊ならではとすら思えぬ超人的な猟犬のような鼻で以て、彼は今まで深海棲艦を察知しては沈めてきたと言う。

 

「…相変わらずの妙な身体ね」

 

飛鷹が呆れ混じりに通康のことに突っ込むと、通康はこう返す。

むしろ、何故みんなあんなにくそうてかなわん物が解らんかようわからんわい、と。

そう言って、更に続ける、しかも今回は何時もより大漁みたいじゃのう、と。

『大漁』…要するに、何時もより沢山深海棲艦が湧いていると言った通康に対して、木曾はこう訪ねる。

マトモに動けるのは俺だけだが…俺の力は要るかい?と。

 

 

何時もなら、ワシ一人で充分じゃけん、等と一蹴するものの…何故か、その日に限っては、通康はこう返したと言う。

燃料だかなんだかが無いから力を補給させられんが、それでも良いならワシに力を貸しいや、木曾、と。

 

そう言われた木曾は、やっと借りを返せるぜ!と楽しそうな中…不安げに隼鷹が聞く、何時もの旦那じゃないみてえだ、と。

そして、隼鷹に聞かれた当の通康はと言うと、こう続けたと言う。

あの腐り水がする方とは違う場所からまた妙な気配もするし、妙な胸騒ぎがするんじゃ、と。

 

頭数が足りんのはアカンけん、何や木曾の力も借りたくなっての、と続ける通康に向かって飛鷹はこう一言だけ言ったと言う。

まあ死なないで帰って来てよ、皆がここに居ないのは目覚めが悪いから、と。

 

 

苦笑しながらも、任せろ、と返す通康と木曾だが…その飛鷹の期待は裏切られることになる。

飛鷹達の四人の生活は、その日、終わりを告げることになったのだから……

 

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さてさて、そうして海域に木曾と共に出撃した通康と木曾ではあるのだが。

その海域に出撃した所に、木曾は妙な『船団』を発見した。

否、船団と言うと微妙に語弊もある気がするのだが。

明らかに複数の人影が、水に浮かぶように固まって立っている…まるで、深海棲艦のように。

 

最初は、通康の言う気配の話も有り、上級の深海棲艦の船団かと思い二人は身構えていたのだが…明らかに様子がおかしい。

嫌な気配が一切しない…むしろ、木曾からしたら、懐かしい匂いすらするものだ。

 

何だろうと思い、通康と木曾が近付いて様子を探ると、こんな会話が聞こえてきた。

 

 

「…本当に、あのクズ司令官の言う通りこんな場所に海賊なんか出るのかしら?」

 

まず、こんな感じの事を言いつつも憮然とした表情で怒りながら、周囲をキョロキョロと見渡す銀髪の少女が一人。

 

「確かに、人らしい人も無ければ交通の便も無いしぃ~噂は所詮、噂だったのかしらぁ?」

 

そう、銀髪の少女に同意する、薙刀を携えた真ん中分けの清楚な少女が一人。

 

「まあまあ…元々のきっかけは近くを通りかかったタンカーのスタッフさん達からの通報デスネ。ミスディレクションで深海棲艦のタ級辺りを見間違えたかもデース、警戒は怠っちゃノー何だからネー」

 

そう言って彼女らを勇める、茶髪で長髪の、丈の短い巫女服を着たカタコトの少女が一人。

 

「ん~、まあ…その辺りも考えて、とりあえず怪しい連中はサーチ・アンド・デストロイの方向で徹底する感じクマ。そろそろお前さんもお仕事頼むクマ」

 

今までの会話をざっくりと物騒なことを言いつつも纏めつつ、隊列の最後尾にいる少女に振り向きながら語りかける、木曾とそっくりな服を着たアホ毛の少女が一人。

 

「はい、了解しました…では艦載機の皆さん、索敵の準備を頼みます」

 

そう返答しながら、携えていた弓から矢を放つ、青と白の弓道着を着たサイドテールの黒髪の少女が一人。

 

「…ん、じゃあ氏真さんも動きやすく出来るように、こっちもソナーとかも準備しとくかね。第一村人も見付けたし…」

 

そんな軽口を叩きながら、ドラム缶に男を一人乗っけて運びつつ、のびをして身体をほぐしながら戦闘準備を開始しようとするザンバラ切りな頭なセーラー服の少女が一人と言う少女達と、無言でドラム缶に乗っかりつつ辺りを見ている男と言う組み合わせな七人の固まりだったと言う。

 

 

さて、その内のザンバラ切りな娘の発言に対してのこと。

 

「…って…第一村人って何よぉ!?」

 

セーラー服の少女の雑な言に、思わず薙刀の少女がツッコミを入れる。

 

「いや、ほらアレ…」

 

そうツッコミに回答するように言って、セーラー服の少女が指差した先には…

 

「おやぁ、見つかったみたいやのう!こっちも戦闘準備しとくけん、行くぞ木曾ぉ!」

「ふん…流石に、訳もわからずデストロイされちゃかなわねえからな!超任せろ通康の旦那ァ!!」

 

やたら好戦的な態度の、通康と木曾の姿があったと言う。 

 

 

「……って、今『木曾』って…妹が海賊だったクマァァァァ!?」

 

そうして、木曾の姉艦にあたる少女が絶叫したのは、余談として書いておこう。

当の木曾も、そんな絶叫している少女に対して、驚きつつも困惑するしかなかったと言うが。

 

「…流石に、僕ァ何がなんだかさっぱりわからんな、こりゃ」

 

一方、今まで黙りを決め込んでいた最後の人物たる男はそう言って、

艦隊の少女達…否、もう名前を明かして良いだろう。龍田・霞・金剛・加賀・球磨・加古の六人を、ドラム缶に乗っかりつつも引き連れていた提督たる男、彼女ら6名の上司にあたる司令たる氏真は、こんなカオスな状況下で呆れるしかなかったと言う。

 

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とりあえず、多種多様な人物が入り交じるカオス過ぎた状況を一旦整理する為に、とりあえず氏真の視点からの話を挟むことにしよう。

話は、丁度今から一日前ぐらいから始めるとする。

 

 

そう、氏真達がこんな場所にぞろばらと出掛けていた理由と言うのは、どういうことかと言うと件の「海賊退治」の為であった。

氏真の戦闘力を見せる為と言うデモンストレーションの意味も有るが…それを含めて、艦隊の纏まりを強化する必要性が有るために、何名かでの合同作戦を執り行う理由もあったからだ。

 

その為に選ばれたメンバーこそが、龍田・霞・金剛・加古・加賀・球磨と言う六名のメンバーだったと言う。

 

 

龍田と霞が選ばれた理由と言うのはごく単純な理由である。

氏真に対して、やや壁を作っていると言うか妙な理由からではあるが喧嘩腰な霞と、逆に氏真に対して萎縮しがちな部分が強い龍田へのハンマー・セッション(強い衝撃を与えて、認識を改めさせると言う意の『教育』と言う意味の、本来はギャング等が使う用語)を目的とした人選だ。

 

球磨が選ばれた理由と言うのもこれまた単純な話であり、そもそもの話の言い出しっぺが彼女なので、今回の作戦に同行してもらい意見を忌憚無く言って貰う必要があったからと言う理由である。

 

加賀に関しては、とりあえず空母…と言うか、艦載機をマトモに扱える人材がほぼ彼女一人だった為、以前の資材強襲作戦で空を押さえられる『視点の広さ』と言う強さを身に染みて知っている氏真は、少々ならず燃費が悪かろうが『外す』と言う選択肢はなかったと言う。

 

金剛の役回りはと言うと、この辺りのアクの強い面子を苦にせず纏められる人材が必要だから、と言う理由からも有り採用されたと言う。

普段の金剛はと言うと、平時のデスクワークと作戦立案の場だと真面目に能力的に紅茶作るぐらいしか役に立たないと、ほぼ添え物の花状態でアレだったりするが…

局地戦での戦闘の小隊長として、そして個人の武勇の技量と火砲の威力は本来なら大本営からも太鼓判を押される程に優秀な、パラオ屈指の勇猛果敢な戦闘員であり、隊員からの人気とカリスマ性も高い少女なのだ。

なんだか、ジョアシャン・ミュラ=ジョルデイ(ナポレオンの義兄弟であり、剣から離れ馬から下ろしたら掛け値無く何も役に立たない駄目な無能だが、一度馬に乗るか剣を取れば『名誉と貴婦人の為に』と書かれた剣に見合った伊達男の美男の騎士だった男)みたいな適正な金剛だからこそ、こう言った場面では必要だったと言う。

 

最後に、加古はと言うと…

 

「ああ、ドラム缶輸送また頼むよ、加古ちゃん!」

「アタシのこと、タクシーか何かに勘違いして無いかな、氏真さん!?」 

 

…まあ、前回のこともあって、ある種のタクシー要員として、と言う感じだったとか。

 

 

とまあ、それはそうと…そうして、今回の艦娘の小隊編成の基準となる6名の人選はこう決まったと言う。 

 

金剛に並ぶ、練度で言えば最強兵力たる神通を連れていくかどうかは最後まで氏真も悩んだそうだが、彼女は留守番を任せることにしたと言う。

まとめ役にするにも、わりと頭に血が上りやすい天龍だけでは若干ならず、平時ならともかくも不安感が残る。

金剛を哨戒のために出撃させた以上、守りの要に神通を置くのはある意味当然は当然と言う判断ではあった。

 

 

そうして、決定した選抜メンバーは、「海賊」なる妙な人物の出ると言う海域に出発することにする。

凡そ、片道6時間半かけての大移動の末にその海域について…「海賊」の正体たる通康と、ついでに通康以上に海賊っぽい格好の球磨の妹艦である木曾に出会った、と言うことだった。

 

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さて、そんな訳で、簡易では有るが氏真サイドの話の流れを整理した所から話を再開することにしよう。

 

 

「…で、貴殿はどこの誰かね?」

 

とりあえず氏真は、『海賊』の正体にあたる人物を見て荒ぶる球磨を一旦押さえ込みつつ話を尋ねる。

君達は何者なのか、と。 

そうして通康から返ってきた応えはと言うと…

 

「ワシはまあ、今はここがどんなとこかはわからんけんアレじゃけど…生まれと育ちも瀬戸内の国な海の王にて来島の城主、村上の一派の一人、村上通康や!河野様の懐刀と覚えときぃ!」

 

そう言って、びしっと器用にサーフィンしながら指を付き出して豪快に氏真に宣言する。

一方、そんな通康に対し当の氏真はと言うと…

 

「河野…来島…おう、信長公に喧嘩売ってた村上の水軍にそんなん居たっけか!?確か、あの瀬戸内の海の端っこの!何でそんな辺鄙な所から来た人が、日ノ本離れてこんな場所に…!?」

 

やや氏真とは世代がずれているとは言え、同じ国の出身の戦国仲間に出会ったせいか、氏真らしくない妙なテンションから超無礼な絶叫を上げていた、とか。

 

誰が辺鄙な田舎侍じゃあ!貴様こそどこの誰じゃ!!と無礼な返答をした氏真に通康がマジ切れすると、氏真はこう、毅然と返す。

今川氏真…今川家の10代目、上総介の氏真よ、と。

 

それを聞いた通康はと言うと、半ば馬鹿にした口調でこうやり返す。

ワシの晩年にいきなり落ち目になりおった駿河だかどこかに似たような名前の今川のガキが居たっけなぁ、そうか貴様か、と。

 

 

「…上等だ、斬り捨ててやる!!」

「ハ…やって見ろや、こんガキャァ!」

 

そうして…売り言葉に買い言葉な感じで、戦国時代出身の馬鹿二人の、斬り合いが始まったのである。

 

 

「…父さん下手したら死なないかな、大丈夫でしょうか、コレ…」

「…旦那もアホなことで喧嘩しやがって…止めにいくのもめんどくさいなぁ、お腹空いたら喧嘩も終わるかな?」

 

なお、ドロップ艦'sはアホな主人公と通康を見て、呆れるしかなかったと言う。

他の連中はと言うと、戦国特有の蛮族的な展開についていけず、止めに行くと言う発想すら出ず、口をあんぐり開けて唖然とするしかなかったとか。

 

「…あの、村上さん…だったかしら、そうね…36点。素養は良いけど生やしっぱなしで手入れもせずあまり綺麗に洗えてない髭なら赤点ギリギリが関の山よ。私の眼鏡には叶わないわねぇ…全く、もぅ」

 

…髭の人、以外ではあったのではあるが、まあこいつは例外中の例外だから仕方ない話ではあったとか。


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