無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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三十一話 無人島ゼロ円生活な人達~あるいは、新たなる武将の登場~

「しかし、無人島生活ってのも本当に自由なものよね」

 

上半身ほぼ全裸にサラシで、上着代わりの大きな漂着物だろう布切れをマントの様に纏い、下もボロボロな袴と、ワイルド過ぎで最早お嬢様の面影が何一つ無くなっている漁師のような姿をした飛鷹…だった何かの少女が、火で串刺しにした魚を炙りながら口を開く。

 

そんな姉の台詞を聞いて、隼鷹は思わずこう言った。

本当にもうワイルド過ぎでしょ、ねーちゃん…と。

 

その隼鷹はと言うと、流石に洗濯が上手くできてないせいで、所々ボロボロにほつれが生じたり泥や汗からなる異臭を放ってはいるものの、姉よりははるかに身綺麗な衣装で身を包んでいた。

 

そう…実は、隼鷹がボロボロで無人島に漂着して、その姿に気が付いた飛鷹はと言うと…

隼鷹がボロボロのまま血だらけで、服もボロを着せる訳にはいかないと言うことで、飛鷹は思いきったことをしていた。

一旦砂浜から木陰に隼鷹を運んだ後に隼鷹の服を全部脱がし、ボロボロな隼鷹の服の方をビリビリに引き裂いて包帯と添え木を吊る吊り布代わりにするようにして、応急措置を済ませることにしたと言う。

その一方で裸で怪我で血塗れな妹を放置する訳にはいかない為、サイズがほぼ同じな自分の綺麗な服を妹に与えた結果、今度は飛鷹が結果的に全裸寸前になった為、漁師飛鷹が誕生することになったきっかけであったとか。

 

…とまあ、話は若干逸れてしまったが。

 

 

そんな飛鷹と隼鷹の姉妹が話していると、今度は右目に眼帯をした少女が話に割り込んでくる。

うやうやしく頭を下げながら、まるで任侠映画に出てくる子分のヤクザやチンピラの様に、その少女はこう言った。

 

「…本当は、飛鷹さんも隼鷹さんも、本当は早く家に帰りたいだろうし、自由でもこんな不便な生活は嫌でしょうに…俺は、本当に姐さん達や旦那の役に立たない…」

 

そう言って、右手をグッと力を込めて握り拳を作りながら、こう続けた。

…俺が、あの時「水上機なんか、いや…もう何もかも余計なものが要らねえ」とか余計なことを願ったばかりに、と。

 

そう申し訳なさそうに言う眼帯をした少女に向かい、飛鷹は案外楽しいから大丈夫だわと言って宥め、隼鷹があんたは何も悪くない、とフォローしたところ…それに便乗するかのような口調で、ゲジマユの濃い顔の男が眼帯をした少女に向かってこう言った。

 

「ほうじゃい、木曾ぉ!お主は何も悪うないけん、なんなら主らの不満は全部ワシのせいにしとっちゃらええんじゃ!!女がめそめそする方がワシの気が滅入るわい!」

 

                      

そう言って、豪快に笑う度量の深い男に、眼帯の少女…球磨型軽巡洋艦の5番艦の木曾は、旦那ァ…と感極まり、飛鷹も何故か男の妙な暑苦しいノリに流されてゲラゲラ笑っている。

 

その任侠映画なノリに、一人かぶいた風情の割りに根がお上品なお嬢様タイプのせいか付いていけない隼鷹は、茶番にゃ付き合えねえ…と呆れつつも、こう付け加えた。

流石に、ある意味で私らの大先輩だけに、木曾さんもねーちゃんも皆が頭あがんねーんだな、と。

そう、あの濃い顔の男を見ながらの話である。

 

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隼鷹や飛鷹と、その男の付き合いは…もう二ヶ月程になる話だ。

先ずは、その男との出合い…二ヶ月前に遡り、話を進めよう。

 

 

ちょうど、氏真がパラオの面子にであった頃…飛鷹と隼鷹はその人物に出逢ったと言う。

たまたま、水を汲みにでも行こうと飛鷹が無人島の内地に出掛けた先で、その男は居たのだ。

…服を脱いで、全裸で。

 

飛鷹、流石に全裸の男が居るとは思わずに絶叫して逃走。

その男は全裸について弁明しようとして、服も着ずに飛鷹を追走。

そのカオスな様を見て、太○に吠えろのジー○ン刑事みたいに、なんじゃこりゃああ!?とほぼ上が裸の女を全裸の男がおいかけっこすると言うツッコミを入れざるをえないカオスな光景が広がると言う、実に締まらない邂逅がきっかけだった。

 

「…あっつい無人島に誰も居ないと思ったら、妙な高揚感で思わず水浴びしたくなって、下まで脱いでしもうてのぅ…反省しとりますけん、はい…」

 

…なおその男は、伊予弁を交えてこんな感じで猛省していたとか。

 

 

まあ、それはそれとして、と言う話ではあるが。

何故、明らかに日本語で…それも、地方の方言丸だしの男がこんな場所に居るのか、と隼鷹が質問する。

その男の返答はと言うと、こんな感じだったと言う。

 

「ワシも、ようわからんけん!」

 

…流石に、初っぱながあまりにも雑な一蹴だったので、股間に飛鷹の蹴りが飛んだとか飛んでないとかは、余談として書いておくが。

それはそれとして、男の話を纏めたら、こう言う話だった。

 

大体、要約したら氏真の「閻魔の裁き」と同じようなものだ。 

死して閻魔にその御霊を裁かれた際、次の輪廻に行くために「現世で徳を積め」と言われた、と言うことである。

そうして地獄の門をくぐり…出てきた先が何故か無人島だった、と言うことらしかった。 

そして、こう言ったのである。

 

 

「…まあ、ワシら一族はそうとう『やらかした』けん、正直釜茹でや針山は覚悟しよったんじゃが…どうも、閻魔様の言を借りりゃ『ただの罰で裁けぬ、なぜなら君ら一族のその魂と願いが限りなく正義だ』とか言うちょったわぁ。けど、ワシらはただ…」

 

そう言って一拍置き、男は感慨深げにこと締めたと言う。

 

「ワシらは…ワシはただ、『謀(はかりごと)と政(まつりごと)の無い、故郷の瀬戸内の内海みたいな静かな海で、ゆっくり海と共に暮らしたい』…そんな、漁師崩れとかの阿呆なこと考えとった悪たれどもの頭の一人じゃっただけよな。その為に沢山血を流してた辺り本末転倒で救えんだろうが…その先に、悪たれどもの願いがあったと信じてたんじゃ、それだけじゃけん」

 

そう言って、フッと笑う男に対して、飛鷹はその男に対して一つ聞く。

その話の真偽はともかくも、そんなに海が好きなら海を愛する同士として、船の英霊たる私らにも協力してもらえないか、と。

お互い先立つものも先払いできるものも無い文字通りの裸一貫同士ではあるが、と言って頭を下げながら、である。

 

隼鷹は姉の信用性ゼロの全裸の不審者相手にノーガード戦法に思わず姉を諌めるが、飛鷹は意に介さない。

 

お互いこの場で揉めるメリットも喧嘩売るメリットも無いし、深海棲艦等の共通の敵の驚異がある上に無人島の生活と言う極限状態で更に内部に敵を作る方がデメリットが大きい、と。

そしてここで変にこの男に喧嘩を売って怒らせたら…慰みものにされかねず一番ヤバイのは、怪我人で十全に動けない隼鷹、お前だ…と小声で付け加えつつ、逆に隼鷹を諌めていたと言う。

 

そんな飛鷹の姿を見て、ゲラゲラ笑いだした男は、こう飛鷹と隼鷹に向かって宣言した。

 

「プッ…ハハハハ!!ワシみたいな悪たれにいきなり頭を垂れたとは、最初は変な男好きな娼婦崩れかただの頭の足りない阿呆かと思うてたけん、大丈夫かと思うたが……良いわ良いわ!こうも一瞬で賢い判断下せるガキに力を貸すのはワシも大歓迎じゃけんの。海が好き同士なら尚更じゃ!」 

 

そう言って、男は拳を付き出しながら、こう締めたのである。

 

「この河野の懐刀にて来島の『村上水軍』の頭目が一人、『村上通康』に任せんかい!海の暮らしも、海の戦い方も!」 

 

 

そう、この氏真に並ぶもう一人の漂着者。

それは、かの瀬戸内最強の水先案内人でありながら海賊である『村上水軍』の中で、今の愛媛県の河野一族に仕えた、後に豊臣氏にも仕え『来島氏』として、更に後には『久留島氏』として、今の大分県にあたる森藩の領主の一派として幕末まで存続させた、その礎を造り上げた張本人である頭目が一人で来島城の城主だった男…

 

後世では、次代が名乗っていた『来島』を名字として書かれることもある豪傑、『村上通康(来島通康)』の姿であったという。

 

 

「…後、ワシもそろそろ服着て良いかの?」

 

…って、はよ着ろや変態がァ!と、そう言えば着替えるタイミングが無くて全裸のままだった通康相手に隼鷹はツッコミを入れたりしたのは、まあ余談として書いておこう。

飛鷹はそんなやり取りに横で腹抱えて笑っていたとか、本当に雑な姉である。

 

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さて、そんな訳で、通康と飛鷹・隼鷹の姉妹がこうして出逢ったのであるが。

確かに、通康は何処までも、こう言う生活においては頼りになる男であったという。

 

 

何せ、日本でも有数な無人島の名産地であり、『何処までも優しい穏やかな海で有りながら、操船難易度が異常に高い海』としても名高い潮の速さと岩礁の多さで有名な瀬戸内でブイブイ言わせてたのが、村上水軍であり通康という男である。

 

当然ながら通康は、無人島での開拓なり漁のやり方や生活用具の作り方と言う生活の知恵の他に、海辺の怪我人の治療法等の陣中での医療の知識も非常に豊富であり、元々器用ではない方な飛鷹が無人島ではしゃぎながら色々とDIYしまくっていたのも通康の力が大きかったと言う。

まるで、リアルDAS○島で本職の大工さんや農家さんや漁師さんみたく、知識と技術を本職の業者の方から教わるTO○IOみたいだった…と、後に隼鷹は姉と通康の姿を評していたとか。

 

 

また、通康の戦闘力も凄まじいものがあったと言う。

 

流石に氏真みたいに素で海を走ったりは出来ない為、サーフボード代わりの木の板一枚は必要ではあったものの。

器用にソレの上に立ち波に乗り、櫂一本を武器を兼ねた舵として、縦横無尽に海を駆けていたと言う。

そして、時々襲いかかってくる、大小様々な深海棲艦を含む海洋生物相手に戦いを挑んでは勝利していた、とか。

静かな海を乱すものが許せない、そんな一心で、である。

 

「…てな訳でのう、なんじゃか知らんが海にマブい白髪の女が居ったんでコマそうとしたんじゃが…いきなり空から鳥だか牙だか玉だか知らんが、やたら弾幕の厚い銃撃で襲いかかってくるけん、生まれつき怪我にゃ強かったワシじゃなきゃ色々あぶなかったけんの。説教兼ねて殴ったら、打ち所が悪かったみたいでの~なんか、妙なことになっちょたわ」

「あ、どうも、元『フラグシップのヲ級』こと、ドロップ艦の球磨型軽巡洋艦の木曾だ!よろしくな!」

 

 

そんな「いつもの戦いのついで」みたいな感じで、ドロップ艦の木曾を連れてきたのも、ちょうど通康に飛鷹達姉妹らが出逢った一ヶ月ぐらい後だった、と言う話だったとか。

 

ノリでフラグシップ倒してんじゃねぇよ、とか、ラムネの瓶浜辺で拾ったみたいなノリでドロップ艦連れてくんな!と隼鷹がツッコミを入れるなか、飛鷹はと言うと…

 

「…リンガ…木曾…うう、頭が…」 

 

…妙な虚憶に苛まれていたとかそうじゃない、とか。

 

「相変わらず上品なようでどっか雑だな、飛鷹…って、あれ?俺この人知ってるのか?」

 

当の木曾も、飛鷹とは初対面のハズなのに、そんな虚憶に混乱しつつ。

 

 

それはそれとして、そうして仲間に加わる木曾であるが…なんだか妙な馴染みかたをしていたと言うことだった。

通康を『旦那』、飛鷹達姉妹を『姐さん』と呼び慕い、まるで任侠映画のしたっぱのような感じで彼らの日常生活のサポートに奔走していた、と言うことだった。

木曾なりの『罪滅ぼし』も兼ねて、と言うことである。

 

まあ、元深海棲艦として、通康に殴りかかってしまった他、無辜の民だって攻撃していたこともある負い目だってあると言う話でもあるが…

本来なら水上機なり電子機器なり装備していたなら、SOSを海軍に向かってあげたり、あるいは現地の警察機関経由で助けを呼べただろうに、それが出来なかったのだ。

前述の深海棲艦としての死の際の願いのせいか、木曾が積んでいた装備は、徹底して主砲や魚雷のような武装ばかりだったと言う。

 

せっかく(偶然とは言え)浄化してまで拾ってくれた皆の役に立たないことを悔いて、せめてそれなら、身の回りのことをと言うことでもあったと言う。

 

そうして、拾われた仔犬のように、忠犬属性の付いた木曾が飛鷹や隼鷹にくっついて回っていたと言うことだった。

 

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…そうしてなんやかんやと、二人だった漂着者が三人になり、そして四人になった訳なのだが。

さて、そして話を現在に戻そう。

 

 

隼鷹の視線を感じた通康は、当の隼鷹を見ながら申し訳なさげに言う。

本来なら街に皆を帰して今すぐにでも病院にでも駆け込むべきなのじゃが、ワシの力不足からソレが出来なくてすまん、と。

しかし、隼鷹はそんなつもりで見てた訳じゃない、と返し、そしてこう締めたのだ。

 

「そりゃ、酒も煙草もねえのは嫌だし、早く艤装も怪我も入渠して治してえし、正直いなせなのはかっこだけで姉ちゃん程バイタリティ無いのは身に染みてる訳だけど…たださ、海が好きな奴らがこうして集まって、焚き火を囲んで…何か、良いなって思ってさ。なんか、ずっと私らみんな離れたくねえな、ってガラにも無く思っただけだよ」

 

 

そう、しんみり話す隼鷹に対して通康は、そんな想いが『村上水軍』を纏めたんじゃけん、と隼鷹の言葉を全肯定して感慨深げに返す。

飛鷹と木曾も、顔を見合わせつつも、苦笑しながら同意する。

 

 

だが、そんな生活も…唐突な終わりが近づいていたことは四人とも知らぬことであったのだ…

 

 




と言う訳で、Aさんの正体は村上水軍が一人、村上通康です。
史料次第では来島通康とされることも少なくないのですが、今回はこちらの名義を採用しました。
資料集めはちょいと難儀しましたが、まあ逆に言えば自由度が高いということなので、ある意味結果オーライ…だと信じたいです、はい。

とまあ、こんな感じで村上通康さんに登場していただきましたが…
名前を聞いてピンと来る方は少ないでしょうが、村上水軍の頭目の名は伊達じゃないです。
この方、鎧に穴が空いてもピンピンしてるとか、リアル首おいてけをやらかしたとか、少ない史料の中でもワイルドすぎるエピソードが散見される凄い方だったりします。
そんな魅力を伝えられたら、と思います。

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