無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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読者参加企画にご参加いただいたお二人に、改めて感謝をいたします
では、本編をどうぞ


三十話 ある姉妹の顛末の話

~約三ヶ月前、パラオ『最期の闘い』にて~

 

ここで、話をすこしならず過去に戻し、とある闘いの顛末について…

具体的には金剛が死にかけてしまったあの闘いの顛末について、別な視点から話を進めよう。

 

 

…うぐぅ…痛い、痛ぇよぉ…

 

そう呻く人影が一つ、海上にある。

 

深海棲艦と無謀な戦いを仕掛け、そして相討ちになり『金剛だけが生き残った』件の闘いでの、とある一角。

実は、金剛が気を失ったタイミングの更に30分後ぐらいに…まだ、一時的に意識を取り戻した『生き残り』は居たのだ。

否、生き残りと言うのはおかしいか。『生き残ってしまった死に損ない』、とでも言うべきだろう。

そのボロボロの服を着た巫女服の少女は、後方支援要員の空母だったが故に、敵の攻撃の直撃が相対的に少なくて済み…結果的に、気を失って航行不可能になってしまう大破状態にはなったが、まだ轟沈せずにはすんでいた。

 

とは言え…あくまでも、『轟沈しなかった』だけだ。

要するに、ただぎりぎり浮いているだけ、海に浮かぶ風船のようなものである。

元々、闘いその物は苦手な上に大破状態ではもう発艦ができず、艤装の燃料も尽きかけで装甲も分厚くない彼女では…早晩、持たなくなるのは、火を見るよりも明らかだった。

 

 

その、自分自身でも、もう駄目だと諦めた巫女服を着た少女は…せめて死ぬ前にと、改めて状況を確認する。

せめて、自分の遺言ぐらい遺せないかと、生き残りを確認したかったからだ。

だが…そこは、やはり地獄絵図だった。

 

流血で海は真っ赤な艦娘達のものと真っ青な深海棲艦のもので混ざりあい、海の色はメチャクチャになっている。

あるいは、尿等の体液だって混じっているだろう、見境なき屠殺の跡と言うべき汚ないものである。

血の色と硝煙の多重の薫りが、辺り一面に漂い、なんとも言えない異臭を漂わせている。

そして、深海棲艦はともかく…自分の知り合いだった艦達が、肉塊と化している姿が次々に目に浮かぶ。

…加古や浜風程ではないが闘い慣れしていない少女は、思わずボロボロな身体もあいまり、その惨状に耐えられず顔を背けて吐いてしまった。

 

そして、胃液や唾液が空っぽになったと自覚するぐらい吐いた彼女がふと、視線を変えた先に…『ソレ』はあった。

あまりにも、『死体』としては綺麗すぎる、岩礁に横たわる自分と同じような衣装を着た黒髪の少女の姿を、だ。

 

目は白目を向いており、その少女は全くな無傷ではなく確かに右腕から血を流してはいたものの。

全身にソレ以外に目立つ外傷はなく、身体も骨折や火傷の跡も妙に少ない様に見えた。

艤装に至っては全くと言えるほど傷はなく、ほぼ完全体の状態であった。

 

 

「…姉ちゃん…?お姉ちゃん、なのか…生きてる…のか…?」

 

その巫女服の少女は、ほぼ推力の無い艤装に無理矢理ムチを打ち、全身に悲鳴をあげながら亀の歩みの様にのっそりのっそりとその『姉』と呼んでいた少女に近づく。

そうして、近づくことで姉が無傷だった理由をその少女は把握した。

彼女の近くには深海のものの魚雷の残骸の一部が水面に浮いており、近くの岩礁地帯には、その魚雷が命中して炸裂したであろう吹き飛ばされた岩の一部が少女の近くに飛ばされていたからだ。

 

恐らくではあるが。

姉の方の少女の戦闘中、それを狙ってかどうかはわからないがその近くでとある岩に敵の魚雷が偶然炸裂する。

その魚雷の爆発と、あるいは岩の破片に吹き飛ばされた姉は、別な岩礁に身体ごと叩きつけられて頭を打ってしまい、戦線からやや離れた箇所で気絶してしまったのだろう、と言うことだ。

おかげで、普通の人間ならそれでも衝撃からミンチになりそうな場面とは言え、艤装さえ無事ならある程度は無茶が聞く艦娘ならではであるが、実質的にほぼ無傷で済んだのだろう。

 

 

「お姉ちゃん、寝るなよ…起きて、起きてよ…」

 

ボロボロの妹は、その姉に向かい語りかけるが…とは言え、脳震盪状態で気絶している姉、か細い妹の声だけではまるで覚醒に届かない。

その妹の少女は…何を思ったか気絶した姉を肩に担ぎ上げ、別な場所に移動しようとする。

 

助けを呼ぼうとしたか、最期の気力だけで元の泊地に帰ろうとしたか、それは定かではないが…

その妹は、50メートル程航行した後、担いだ姉ごと倒れこみ意識がブラックアウトして、そのまま潮に流されてしまった…

 

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~現在、パラオ泊地にて~

 

 

「…しかし海賊退治とは、また変わった依頼を受けましたね、父さん」

 

加賀は氏真に向かい、こう切り出した。

氏真も苦笑して返す、まあ、不埒な輩の排除と言うのも僕らの役目ではあるし、と。

そう、氏真が言っていた「出撃」の内容。

それは、パラオの領海の近くで暴れている「海賊退治」と言うことだった。

 

 

そう、情けない話ではあるのだが。

 

シーレーンが深海棲艦のせいでボロボロになっているが…否、深海棲艦にボロボロにされたからこそ、周辺の人間のモラルだって低下する。

明日が見えない、いつ深海棲艦のせいで死ぬかわからない、なら今日の為に深海棲艦に襲われて死ぬリスクを承知で誰かを傷付け奪う不埒な輩と言うのが出ることは、実は珍しくはない。

護衛船すらない小さな漁船なりフェリーなり、あるいは水上生活者じみた海岸沿いに暮らす者達を『餌』にしようとするハイエナだって、当然出るだろうと言う話だ。

深海棲艦以上に、無法者の人間の驚異の方が大きかった地域すら存在した。

 

まあ、海賊じみた輩に身を落とす大半の連中こそ…本来はただの漁船なり客船業を営むカタギの船舶業者が、深海棲艦のせいで食うに困ってより弱い者を狙うしか道が無くなったから海賊に堕ちた、と言う辺り救いがない話ではあるのだが…

なればこそ、要するに尻拭いと言う形でしかないが、深海棲艦の掃討や調査も兼ねたそう言った無法者の排除も、海上保安を担う鎮守府の役目であった。

 

 

「…後、杉村さんのたっての願いでね、『海賊は許さん、根斬りです!』とか言っていたし…」

「…憲兵さん、海賊嫌いなんですかねぇ、父さん」

 

……後、杉村の猛烈な圧力があった、と氏真は付け加えた。

まあ、杉村には「海賊」にミンチのように海賊船に理不尽に轢き殺されかけた恨みが有ったりするから、仕方ない話ではあるのだが…そちらは、あまり本題には関係無い話なので割愛する。

 

 

それはそうと、話を戻して、氏真はこう締めた。

正直、相手はただの『海賊』じゃないらしい、その意味でも艦娘だけに任せるわけにいかず僕が出るしかない様だ、と。

 

どう言うことか、と加賀が聞くと、ソレに答えたのは秘書艦の睦月であった。

曰く、こう言うことである。

  

「…実は、その…その海賊の頭目らしき男が、海に褌一丁で氏真さんみたいに浮かんでは、近くに居る深海棲艦とかを素手とオール一本でしばき倒していたりするって噂が流れていてね…眉唾物だけど、深海棲艦を越える第三の生命体、なんて呼ばれてるんだぞ…その、普通は冗談で笑い飛ばせる話とは言え、うちには例外が二人も居るし、三人目が出てもおかしくないから無視できる話じゃないにゃ…」

 

 

…人間の定義がみだれる…!と、加賀はげんなりしている睦月を見ながら、無表情にぼやいたと言う。

 

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~同時刻、「海賊」のアジト、元無人島にて~

 

 

「採ったどぉぉぉぉぉ!!!」

 

うほぼ全裸にサラシと言う扇情的な格好で、例の「姉」が素潜りから帰還する。

その右手のモリの先には、大きなカサゴのような魚が突き刺さっていた。

その様を、未だに腰と足に後遺症は残って手作りの松葉杖はついて居るものの、ギリギリ生きていた「妹」は唖然として眺めていた。

 

 

そう、あれから漂流した艦娘姉妹の顛末ではあるが。

 

あれから数時間…否、一週間近い数日間と言う時間は流されてしまい、その姉妹が奇跡的に漂流した先にあったもの。

それは、とある島の浜辺だった。

 

そこで、最初に意識を取り戻したのは傷の浅かった「姉」の方である。 

彼女は当初、元々所属していた鎮守府に帰ろうとしたが…電子兵装が海水に長く漬かりすぎた影響か、それとも戦闘中の衝撃かは定かではないが、とにかくSOSが送れないことに気がつく。

見たことがない島である為に地理もわからない、帰り道が全くわからないのだ。

更に言えば艦載機もアウトだった。紙製のデリケートなものであった為に巻物と式紙が完全に塩水でやられてしまい、開けなくなっていたのだ。

 

近くにいたボロボロの妹の姿もあって、その姉はどうしようかと混乱していたが…最終的に決断したことがこうである。

どうせ泊地に帰れないなら、ここに骨を埋めよう、と。

…平たく言えば、その姉はわりとお嬢様じみたツンケンした雰囲気と経歴の割に、根っこの雑な性格のせいで振り切ってしまったら、最早ただのバイタリティー溢れる野生化した女の子だった。

 

DIYとばかりに、棄てられてあったり漂流した流木なりドラム缶なり岩なりの物資を拾っては、椰子やバナナみたいな木の葉っぱと器用に組み上げて簡易なテントを作ったり、五右衛門風呂や雨水を貯めるタンクを作ったり、と無人島生活に適応しきっていた。

むしろ、ワイルドと言うか野生化した自由過ぎる狩猟生活を完全に満喫していたと言う。

 

一方、その簡易テントにて病人扱いで手厚く保護されていた妹はと言うと。

金剛よりはダメージ自体が少なかった影響か、その妹は姉に遅れて八日後に覚醒したなり、姉の野生化に完全にドン引き。

毎日やたら楽しそうな姉に、頭を痛め続ける羽目になったと言う。ねーちゃん、アレで良いのかよ、と。

…とは言え、確かに姉の言う通り、泊地への救難用の連絡手段すらなかったこともまた事実であり、渋々ではあるのだが、無人島で少しづつであるが、リハビリをかねて体力回復に専念するしかなかったと言う。

 

 

その二人に声をかけた、別な二人の声が聞こえる。

 

「飛鷹さん、隼鷹さん!火ぃ起こせたぜ!」

 

そう、姉と妹…否、『飛鷹』と『隼鷹』に向かい声をかける、右目に眼帯をした、白と黄緑色のツートンカラーの球磨と同じような服装のセーラー服の中性的な少女と…

 

「だぁ~はっはは!ワシも釣りに出掛けたがボウズじゃったけん、やっぱ黒い方のお嬢は頼りにしとるぞ!!」

 

そう言って伊予弁で豪快に笑う、丸に「上」の字の紋のついた黒に近い藍色の着物を纏う、日焼けして浅黒い傷だらけの肌でザンバラ頭の眉毛の濃い彫りの深い顔をした、野太刀と櫂(船のオールの事)をバッテンの様に背負った、一昔前の特撮ヒーローの主人公のような…やたらと濃い男の、二人の姿であった。

 




と言う訳で、Aさんの登場に決まりました。
わかる人はもうわかったかも知れないですが、その正体はまた後ほど、と言うことで。


ちなみに、候補Bさんは戦術指南や大砲の専門家「佐久間象山」です。
根っこはすごく好い人で、その頭脳は「小を捨ててでも大を救う」と言うことに生かそうとする、正しく賢人なのですが…その「大」のうち最大の所に自分自身を持ってきてるのが最大級の問題だったりします。
とにかく、何を食べたらそうなるのかと言うぐらいにプライドが高く、謝罪しない人。
反省しない訳ではないのですが、悪びれないどころか、改善点をみつけたよやったぜ!とむしろ失敗を気にしないと言う、無駄に大器な気がしないでもない人だったり。

自称「日本の至宝」、あの動乱のチートの山がしのぎを削るあの時代に、この男でっかく出過ぎである。
なお、嫁は尻が基準であり、曰く「僕の優秀な種を残すには、尻の大きな女が理想だ」と言う理由だったりします…その新撰組にも所属してた息子は超素行悪かったけどね!?

暗殺者に暗殺されて「ざまぁ」する人が未だに居る辺り、能力に対する人格のアレさはお察しください。


候補Cは「荒木道薫」です、武将としては村重ですね。 
小学生の悪口の定番な「ウンコマン」をリアルに自分で名乗ったのは、古今東西彼だけではないでしょうか?

エピソードとしては、信長が付き出した小太刀の先の餅を迷いなく喰い、その縁で気に入られて地方有数な大名になったとか嫁さんの「だし」さんが絶世の美女で戦国屈指の茶器マニアと、信長のお膝元で栄華を極めたお話があったものの。
何故か、本当に何故か、信長を裏切ると言う暴挙を行います。
尚、毛利が裏で手を回したらしいのですが、実際はちょっとわかりませんでした…本当になんで牙を向いたのか…
なお、その際に荒木の説得に向かう黒田勘兵衛が荒木に捕縛されて、黒田の息子共々えらい目にあってたりするのは有名な話。

そして、順当に敗北した…のはそれはそれで仕方ないのですが、茶器だけ抱えて、籠城していた城から妻子を見捨てて逃げ出したと言う、超暴挙をやらかします。
理由としては、他所に頭を下げ援軍をたのみに行ったのか、ただ死にたくなかったかは…これはちょっと理由がどちらにも取れるので、わからないのですが。
とにかくも、そのおかげで、荒木に見捨てられた妻のだし以外の女人衆が「死にたくない」「助けて」と見苦しく命乞いをしていた、等と史記に書かれていたらしいのですが…そりゃそうだ。

そうして、武将として再起不能になった荒木ですが…確か豊臣の世に、突然の茶会デビュー。
茶人、つまり文化人として復活しました。
千利休とも交流があった、と伝わっています。

が、ここでもまた荒木やらかす、反省しない荒木である。
小西行長と言う大名がキリシタンだったばかりに、キリシタン嫌いな荒木が悪口を言ってるのがバレて大ひんしゅくを買います。
それどころか、当時の栄華を極めた豊臣秀吉の悪口もねね経由でバレて、荒木ガチ逃亡。
その反省の意味を込めてか、「道の糞」と言う意味そのままに、荒木道糞、と名乗ってたそうな。

秀吉も、流石に悪口言ってるだけで糞とまで卑下してるのを見るのは、伊達のまーくんみたいなもっとタチ悪いのとプライベートでは良くつるんでるだけに可哀想に思ったのか、許してあげることにします。
それで、最終的に、「糞」と字面と読みがそっくりな「薫」の字を充てて、荒木道薫と名乗ることになりましたとさ、と言う人でした。


佐久間が選ばれた場合は、多分、最早ただのFateのワカメか北斗のアミバだったと思います。
荒木は…わりと、望みがシリアスなぶん、goのすまないさん的な感じの性格になる予定でした
そしてAさんは…ただのダイナミックプロ主人公な「俺達が地獄だ」な性格の人である、なんだかなぁ…

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