無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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二十八話 阿呆か、いかれか

球磨が氏真に上奏して翌日のこと。

早朝の艦隊点呼の際に、大事な話があるとして一同を終結させた時から話をはじめよう。

 

 

氏真は、まず新入りの艦娘におのれの正体を明かすことにした。

自分は過去から来た戦国大名であり、本来は軍人ですらないこと。

それにより就任にやたら事情がややこしいことがあったと言うこと。

そして、パラオが一時期前任の提督の失策が重なりどうしようもなかったことも合わせて話した。

その尻拭いと義理でこんな所に居る、氏真は一介の人間であると言うことを、伝える為である。

 

尚、聞いた新入りの反応はと言うと…

 

「…何度聞いても不思議な話クマ…」

「ふーん、お侍さんっぽい?」

「武将だったら髭ぐらい生やしなさいよ、このクズ!」

「チーム・サティスファクションのリーダー…!」

 

…クマ以外平常運行の辺り、平和なモノである。

と言うか、もう一人の朧、ちがうそうじゃない。

 

 

それはそうと、と自身の境遇を語った後、氏真はこう続ける。

…まあ、受け入れてくれて話は早いから助かるが、それはそうと前から居た子らの方が問題らしい、と。

そう言って、球磨の方を見てこう続けた。

 

「球磨ちゃんが言うにはね、僕は『提督として舐められてる』らしいね。と言うか引き継ぎがアレのせいで『頭』として認めてもらってない、と言うか…ね」   

 

そう言って、既存のメンバー…睦月・天龍・龍田・金剛・浜風・加古の6人を、氏真は一人ずつ見渡す。

加古はわりとキョトンとしてたと言うか腑に落ちない感じではあったが…他の5人は、氏真の視線から逃れるように、目が泳いでいたり顔を背けていた。

それなりに自覚があったのか、無意識の部分の図星を付かれたかは知らないが、5人とも内心で『提督』として認めにくい箇所は確かにあったのだろう。

 

しかし氏真は、別にみんなを責める気はない、と続ける。

あんなやり方が通用するのは、信長公ぐらいの傑物じゃないと普通に無理だ、と。

そして、むしろよく背中から刺したり寝込みを撃ったりしなかったな、と苦笑いしながらも、氏真は更に続ける。 

 

「…本当なら、君らを脅したり殴ったりしてでも認めさせるべきなんだが…正直、それは凄い嫌なんだよね。ただでさえ、優し過ぎるぐらいの性格の女の子相手なのに…1度は泣いてるところは見てるから余計に良心が痛んで尚更ね。だから、まあ…『代わりにどうしようか』って考えて、それで考えついたんだ」

 

そう言って、ビシっと指を突き付けつつ、氏真はこう締めた。

 

「…まあ、僕も男だし、『君ら艦娘達にかっこいいところを見せたら良いかな』と思ってね、打算半分だからアレっちゃアレだけども。だから、次の海域に…僕も出撃する!」

 

 

何考えてるんだ座ってろバカ!!と、加古と加賀の加の付くコンビ以外からの艦隊からツッコミが飛んできた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「…確かに、私達の代わりに提督をリリースしてくず鉄のかかしとして『断ち切らせはしない!』はできるかも知れないが…」

「サテライトの屑野郎の方の朧がいきなり畜生なこと言い出したぞオイ!?」

 

氏真の言葉に、最初に呆れたように言う裏の朧と朧の畜生過ぎる発言に更にツッコミを入れる天龍。 

…○ルトスの卑劣様の「卑遁・囮寄せの術」のクソコラじゃないんだから。

 

 

とまあ、もう一人の朧の外道発言はともかくも。

 

氏真がマトモに戦ってる姿を知ってるのは「戦艦棲姫」として直に戦ってる加賀と、その戦いも含めて一緒に冒険した加古だけだ。

龍田・金剛・神通・浜風は、キレた杉村と一緒に陸軍の歩兵隊を蹴散らしている姿を目撃しており、天龍・龍田・睦月はイ級を叩ききった姿や『戦果』こそ見ているものの、『対深海棲艦』相手に直接的に戦ってる姿はほぼ知らない。

新入り組に至っては、氏真本人の戦闘能力すら把握できてない。

まあ、それは全員止めるだろう、と言う話である。

 

そもそも、万が一ならず、指揮官が居なくなってしまえば今度こそこの泊地は『詰む』。

前の提督の死亡による指揮官消滅の件のせいで、パラオの事情がやたらにややこしいことになった以上、止めるのは当然である。

特に、どうせまた生身で出撃するだろう、と言うことをわかっている当初からパラオに居るメンバーは、なおのこと反対せざるをえなかった。

 

しかし、当の氏真はと言うと、そんな艦隊の言は気にせずこう言った。

 

 

「…まあ、球磨ちゃんや神通ちゃんに指摘されてわかったことなのが、自分の無能さを認めるようで歯痒いが…何処かで僕がタマァ張らないと『下』がまとまらずついてこないと言うことは本当のことだ、軍隊とはそう言ったことだ。そして、それは問題が発覚した段階の今だろう。『頭』となるか死ぬか、賭けとしては悪くはない話さ。最悪の場合、杉村さんも居る以上、後事の詰めをきちんとしたら悪くはない手のハズだ」 

 

そう言って、涼しげに己の命を軽く語る氏真に対して、艦隊は…なんとも言えない不快さと言うか憤りを感じる。

思わず龍田がその言い方は無いと怒るが、当の氏真は構わないで更にこう続ける。

 

「…根本的に『艦娘』って綺麗過ぎるんだ、兵卒として。身の危険を感じても略奪行為にも走らない、本当に純粋で優秀な…だからこそ、本音で言えば全部僕らこそ戦いの矢面に立つべきで、君らに手を汚してもらうことだって嫌だが、それは駄目だろう。『戦い』そのものだったとて君らの存在意義の一つだろうし、何より現実的に僕や憲兵さんみたいな人間なんてそうは居ない以上、深海棲艦と戦える必ず君達の力は必要とする人は居る。なら…」

 

そう言って、艦隊をまっすぐ見据え、氏真はこう締めた。

 

「なら…僕は、せめて一緒に責任を背負って前線で戦いたいだけだ、本当に君達を纏める必要があるなら尚更ね。指揮官が前線に出るか、後ろで完全に引っ込んでるか、危険度だって段違いだが士気や纏まりに段違いな差が出るのも僕はよく知ってる。だから重ねて言う、『僕の命をかけるぐらい、なんともない』ことだ。」

 

 

そう事も無げに言った氏真に対して、古参・新人問わず艦娘は思ったことは様々だったが。

それでも二つだけ、共通することがあった。

 

この男は、『どこまでも自分の死が隣り合わせな戦国時代の価値観で己の命を図っている』と言うこと。

そして、『どこまでも艦娘のことが基準の度を越えたお人好し』と言うことでもある。

 

それは氏真本人からしたら当然の話なのだが、艦娘からしたらショックも大きなことでもある。

球磨だって、『もっと厳しく行け』と言うニュアンスで処罰を覚悟して説教混じりの上奏をしたと言うのに、その結果が『じゃあ僕の身体張ります』と言う結論に走るのは予想外過ぎる話だ。

そして、旧メンバーは…まるで、自分達のせいで前の提督と同じ行動を取ろうとする氏真が、責めるべきなような責められてるような不思議な感覚に陥り、パニックになりかける…特に、金剛が。

 

その為、金剛が特に強く反対する。

私達の態度が悪かったことは認めますカラ、それだけはノーなんだからね、と。

机をバンと叩き、凄い剣幕で詰め寄るが…それを止めたのは、加古だった。

氏真さんは、前のあの人とは違う、と前置きしてこう続けた。

 

「金剛さんは知らないだろうけど、氏真さんは最初に会った時から…戦いが絡むと、ヤケクソでも無いのに、とんでもない阿呆かそれかいかれた類いの人になるからね。だから、アタシ達がそれを止めても無駄無駄。むしろ、無茶してくれたら無茶するだけ、きっと私達に良いことが起きるってアタシは信じてる」

 

そう言って、歯を見せながら笑う加古。

金剛はそんな加古に向かい、思わず平手打ちしようとするが、加古はスウェーでそれをかわしつつこう告げる。

大丈夫、氏真さんは私達のヒーローなんだから、金剛さんが思うようなことにはならないし絶対に私が死なせない、と。

そして、加賀の方と氏真の方を見比べながら、こう締めた。

 

「…つーか、姫級ぶった斬るんだぞこの人!死なんわ、そうそう死なんわ!あんたら全員知らないだろうけど、むしろ援護に入ろうとしたアタシが氏真さんの剣にちょいちょい巻き込まれそうだったんだぞ!姫級の砲撃と氏真さんの斬撃の十字攻撃に下手したらアタシの首が何度もスパーンいくかも知れなくて怖かったわこの野郎!しかも、死ぬかと思った直後にホラー体験のおまけ付きとか何の罰ゲームだよ!」

 

 

そう絶叫する加古に、おう…としか返せない金剛。

そして、そう言えば漏らし…と言おうとした加賀と天龍を加古は回し蹴りで黙らせつつ、一方の氏真はと言うと。

加古ちゃん助け船ありがとう、と言いながら、ふと今まで会話に全く参加して来なかった夕立を見つつ氏真はこう告げた。

 

「…とは言え、確かに、今まで加古ちゃんしか僕が『まとも』に戦ってる姿を見てないなら仕方ないだろう、それはわかる話だ。僕としても夕立ちゃんに別な用があるし、とりあえず、『演習』…だっけ、夕立ちゃんと1度やってみようか!」

 

そう告げる氏真に対して、夕立は、ぽい…?とキョトンとするしかなかったとか。


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