無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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二十七話 新人の目~球磨、上奏~

…とりあえず、軽いヤツからいくクマね

 

球磨がいきなりバンと扉を叩くなり、執務室に入っての開口一番でコレである。

氏真は多少驚きつつも、球磨に話の本題に入るように促した。

 

なお、その場に居た神通と睦月はびびって椅子から転げ落ちていた。

 

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時は例の4人が加入して5日程経った頃のお話になる。

 

詳しい話をするならば。

練度習熟の「慣らし」をかねて、球磨・朧・夕立・霞の四人はと言うとパラオ近海の民間船の護衛をかねた鎮守府近海の哨戒任務に就いていた。

本来なら、資源収集の遠征を行う軽巡洋艦や駆逐隊、実戦で「主力」になりうる火砲となる重巡洋艦以上の艦娘の艦種の差異を無視しての、仕事も兼ねたちょっとした「合同演習」としての趣が強い任務を行った後のことであった。

 

勿論、新人だけの習熟期間と言うものは必須であり、基本的には零からの出発と言うことで、当初は新入りの建造組はと言うと、ソレこそ朝から晩まで砲雷の訓練と陣形の習熟の為の座学に別途に勤しんでいた。

最低限それすらもこなせないと、航路の移動すらままならなくなるのだから、遠征専門の要員にすらならなくなるのだから仕方ない話だ。

そんな習熟期間を終えて、漸く「モノ」になる兆しが見えた新入りの建造組四人からしたら、教導指南が出来る神通以外の艦隊は「任務」として接することは初でもあったのだ。

 

さて、哨戒任務自体は特に問題なく成功し、それなりの額ではあるモノの地元の公的機関からの報酬も入手して…と、結果自体は万々歳なのだが。    

それはそうと、道中におきた過程がなにもかも完璧と言う訳ではなく、ある特定の視点からじゃないと問題の指摘が不可能なこともある。

球磨のお話は、要するにそう言ったことだった。

 

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「…と言う訳で、球磨の目から見たらこの艦隊、けっこう艦隊にも司令官にも問題があるクマ」

 

そう真面目な顔で氏真に説明する球磨に対し、とうの氏真は、「問題」とはなんなのか、と促す。

球磨は、氏真の指摘に対し、まず最初に言った通り「軽い」ことからと言及した。

 

 

「…とりあえず、龍田のヘタレ加減と霞の髭フェチと朧の変な体質、どうにかして欲しいクマ」

「…やっぱり髭生やせば良いのかなぁ…龍田ちゃんと朧ちゃんは、よくわからんごめんなさい…」

 

…とりあえず、先輩の度胸の無さと同期の変な性癖と体質について。

氏真も匙を投げてしまったが…コレに関しては誰にもどうしようもない話だ。

睦月も神通も、頭を抱えるしかなかったし、球磨だって氏真に本気でどうこうして欲しい話ではないと苦笑いで返した。

 

「あと、浜風のセクハラ…クマ」

「憲兵さんでも、駄目だったみたいだよ、アレ…」  

 

なお、浜風はむしろ憲兵さんにも最近ぶっこみはじめた。

変態は無敵だから、仕方ないね。

 

 

そして、次に突っ込まれたのが…加古と夕立のことである。

別に彼女らが人間的に嫌いな訳では無い、と球磨は前置きしながら、こう話した。

 

「…あの二人、わりと致命的に『連携が下手』クマ、周囲の空気を『読まない』加賀と違って『読めず』まっすぐ自分の思考と反射で突っ走る感じクマね。加古は根本的にどんくさいだけだから、人の倍修練したらあるいは化けるかも知れないけどクマ…夕立は一緒に海に出てわかった、アイツ誰かが見てないとネズミ花火みたいに暴走する駒のタイプだクマ。神通はどう思うクマ?」

 

そう言って、球磨は神通に話を振る。

加古の練度強化や夕立の基本の教導の担当艦でもあった神通は、ううむ、と唸りながらもこう球磨の話に返した。  

 

「…確かに、加古さんは言い方はアレですが…どうにも、良くも悪くも図太い感じです。命令を受けて単独で動くぶんには能力的にも遜色なくてそこそこなんですが、確かに大人数での連携しての共同任務は加古さんは苦手みたいですね…」

 

そう言って額に手をあてた神通は、顔を天に向けて、こう続けた。

 

「…夕立さんは、何時もはおとなしいのにどうにも普段は表に出ない『魔』を飼ってるタイプですね。確かに哨任務中ソナーに『はぐれ』のロ級の敵影を見かけた瞬間に、話を聞かず隊列外れて突っ走るのは予想外でした…」

 

そう言って、ケガが無くて不幸中の幸いだったのですが、と付け加えながら、夕立について語る神通。

睦月もそれに倣うように、アレは心臓止まるかと思うぐらいびっくりしたのだぞ、と続ける。

そして、こう続けるのであった。

 

「目の色変えて狂気に任せたまま、主砲と魚雷をいきなりフルバーストした時は、本当の本当に焦ったにゃあ…いつもの、最初に会った時からのぽややんした夕立ちゃんと同一人物とは思えなくて、本当怖かった…」

 

そう言って、戦闘体勢に入ってからの夕立の豹変を思い出し戦慄する睦月。

氏真も、改めて夕立の暴走の話を聞くに従い、三河とか肥後や薩摩とかあっちに良く居た名産品のごとき侍どもを彷彿としてしまった。

 

加古に関しては、本人のさぼり癖のあるマイペースな気質も非がある以上、協調性に関しては加古自身が変わらなきゃいけないことだが…そもそもが周囲の方が冷遇していたことも大きな話だ。

それでいて、いきなり加古だけに協調性云々と言うことは、それはそれでおかしい話でもある。

じっくり解決しなきゃいけない、中々に根が深い話が出てきたことだった。  

 

 

そして、本題の夕立に関しては…むしろ、実のところは氏真個人としてはあまり問題視して居なかった。

 

戦国武将の氏真にとっては、戦なんかきっちり行儀よくと言うことはいかない臨機応変なモノだ。

むしろ、生存本能と戦いのカンで、敵との戦いにけりをつけにいくことだ。 

怖い上に足並みが揃わなくて危険な為、艦娘達は頭を悩ましていたが…むしろ、そう言った天性の「魔」を飼っている子は強い、とすら氏真は思っていた。

 

とは言え、飼い慣らし方すら知らないなら、真っ先に自分が「呑まれる」モノでもある。

狂気に呑まれ引き際を誤り死ぬモノ、味方を巻き込むモノ、そう言ったことでもあった。  

…コレは僕や憲兵さんの領域かな、と氏真は小さくごちながら、球磨に対しなんとかしてみよう、と返した。

 

 

そして、と球磨が付け加えながら、ビシりと指差して氏真に言う。 

現状、一番の問題は、実はアンタだクマ!と。

問題…?と聞く氏真に対し、球磨はこう続けた。

 

「…勘働きの話だから間違ってたらごめんなさいクマ。司令官…アンタ、マトモな手段で司令官になって無いクマね、それも前の司令官からの引き継ぎにややこしい問題があると見たクマ!」

 

 

…何故、それを、とその場に居た全員が言う。

近いうちに説明する予定だったが、まだこの泊地の提督の顛末は話していない。

それなのに、いきなり球磨に引き継ぎのややこしい経緯を看破され、睦月や神通はおろか氏真ですら目を丸くした。

 

しかし、とうのクマはと言うと、睦月の方を睨みながらこう告げる。

既存のパラオのメンバー全員の話でもあるクマ、と。

そして、こう続けたのである。  

 

「神通は『提督さん』と司令官を呼ぶのはわかるクマ、当たり前な話クマね。そして加賀は『父さん』と司令官を呼ぶ、コレもわかるクマ。公私混同するから球磨個人から見たらあんまり良くはないけど、一番近くに居る人を『親』として見てることは、それはそれで健全ではあるクマ…でも、他のメンバーは違っているクマ、他人行儀に下の名前で呼んでるクマ」

 

そう言って、一呼吸おきながら、球磨はこう続ける。

 

「…多分、昔から居た皆にとっては『提督』とか『司令官』って別に居るんじゃないクマ?目の前の球磨の司令官より、他の司令官の方が、皆にとっては…」

「球磨さんに何がわかるのにゃ!!」

 

球磨の台詞を、ある艦娘に遮られる。

…当事者の睦月のモノだった。 

 

なんだか泣きそうな、それでいて怒っているような、そんな表情だ。

口をあわあわさせながら、しかし、饒舌な睦月に珍しく二の句が告げないようである。

誰かが誰かの地雷を踏んだらそうなる、と言う典型でもあった。

 

そんな睦月のフォローが思い付かずおろおろする神通を尻目に、氏真はパラオ泊地の概略を球磨に語ることにした…

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「…リアルな戦国武将だの、奇抜な提督の着任方法だの、球磨の想像力が足らなかったクマ…」

 

球磨は氏真の話を聞かされて遠い目をするが。

それはそうと、球磨は睦月に対し、短慮なことを言い出してすまなかったクマ、と謝罪しながらもこう切り出した。  

 

「…まあ、睦月達が『提督』とか『司令官』って言葉を向けたら、件の前の提督のことが被るだろうし、単純に定着している呼び方を変えるのは難しいから…コレ以上の追求はやめるクマ…でもね」

 

そう言って、一拍おきながら、更に氏真に向かいこう締めた。

  

「呼び方は差し引いても、あんまり艦隊が司令官に馴れ馴れしいことを過剰に許容するのは良くないクマ…軍隊は、甘くて優しいだけじゃ回らんクマ。と言うか、呼び方一つとっても、根っ子の部分で『別な人間に今の司令官が比べられてる』ことは変わらない以上…早晩、その『ズレ』が隊員同士で致命傷になるのは古今東西あることクマ。もっともっと軍隊らしく『下』をきつくシメないと、いつか屋台骨が折れるクマ。球磨はこの艦隊の皆が、正直に言うと好きになり始めてるクマ、それを提督の管理不足で空中分解ってオチだけは勘弁クマ…」

 

 

そう言って、球磨はうつむく。

 

一方、ふむ…とだけ言いながら、諌言を言われた氏真は神妙な表情で話を聞いていた。

確かに、そこは球磨の言う通り、氏真が足りてない箇所なのだから。

「部下を取りまとめる才能」…こと、他人の将のことを部下の頭から吹き飛ばす程の恐怖や威圧と言う才に、氏真は欠けていたことは事実だった。

 

もっと正確に言えば、氏真はそう言うことができない訳ではない。

本来ならば、むしろ得意な範疇だ。

 

むしろ外交官として天才の氏真だ、例えば、単純な戦闘力を盾に脅迫することやコネクションを利用して搦め手から周囲の手を借りて反撃をすること、或いは情報収集で弱味を握ること。

そう言うことができる家に産まれたのだ、ならば、そう言う畏怖を他人に与えることの才能だって氏真は確かにある。

 

普通の人には無い化け物じみた「狂気」だって、氏真は内面に飼っている。

涼しい顔で、必要ならば女子の姿をした人型の深海棲艦はおろか、喋る戦艦棲姫だって切り裂ける。

 

 

…だがしかし、氏真は「艦娘に寄り添う」ことを決めた人であり、やはり根本的に甘いと言うか、身内にそれを向けることがどうしてもできないタイプでもあった。 

 

例えば、それこそ、苛烈な氏真と同等な剣を持つ武将であるならば、癇癪をおこして球磨を斬ろうとしかねなかったろう。

しかし、娘や自分と娘の友達として認識している艦娘の諌言、癇癪をおこすどころか、氏真からしたらありがたいと感じることですらあったのだ。

 

とは言え、何度も言っていることだが、自他共に認めるように…氏真は根本的に「そう言う」リーダーシップが欠けた人間なのだ。

 

どうしたモノかな…と氏真は悩みつつ、球磨を下がらせることにしたと言う。

球磨は、生意気言ってすまなかったクマ、後で罰があるなら受けるクマ…とだけ返し、ぺこりと頭を下げて執務室から出ていった。

 

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…そして、残された三人は、黙って球磨が言っていたことを咀嚼する。

そこに、最初に口を開いたのは神通である。

曰く、こう言うことだった。

 

「…確かに、この艦隊に最初に転属した時から妙な違和感があったのですが……そう言うこと、ですか。これは私の失態かも知れません。違和感は感じていても言葉に上手く出来なくて…それでも、裏事情を最初から知っている私こそ、もうちょっと早く提督さんに言うべきことでした」

 

…そう、球磨が言っていた、呼び方による違和感とその辺りの『提督』としての認識のズレ。

 

それらは、本来ならば神通自身の言う通り、外部の人間だったり新人だからこそ感じていたことでもある。

そして、神通が本来ならば、もうちょっと早く言うべきことでもあった。

…まあ、神通はそう言う指摘がいまいち苦手でもある為、酷と言うと酷な話でもあるのだが。

 

そんな神通に対し、氏真は、気にしないで、と返してこう続ける。

これは、根本的には僕の落ち度なのだから、と。

 

 

そこに睦月が割り込んできた。

…やっぱり、私達も氏真さんのことを『司令官』って呼ばないと駄目?と。

 

しかし、当の氏真は、むしろ他人行儀な球磨ちゃん達の方が僕も緊張するだけだし…別に呼び方はどうでもいい、と返す。 

だが、と言いながら、更にこう言った。

 

「……とは言え、球磨ちゃんや神通ちゃんの言うように『司令官』としては微妙に認められてない所もまだまだあることは事実だね。加賀はアレだし加古ちゃんはともかくも…」

 

 

そう言って、氏真の頭によぎったことは、何気なしに口に出した加古のことだった。

 

…そして閃いた、部下に対する威圧や圧倒と言うやり方が極端に苦手な氏真でも、それも兼ねて、氏真の認識に対し新人達と既存のメンバーが心を一つにできる冴えたやり方が。

加古や夕立の協調性…と言うか、自分勝手に動いてでも良いから、周りを見ることの習熟を兼ねた上手い案でもあり、『艦隊』そのモノの練度を上げるやり方と言う一石三鳥のやり方を。

 

「…まあ、コレは僕が危険だから、知らん新人の子達は反対しそうだけど」

 

そう言って遠い目をしながらも、なんだか氏真はみずからの企みに楽しそうに笑っていたと言う。

 


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