無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~ 作:たんぺい
「さて、内情は把握した」
氏真はイ級をぶったぎった更に暫く後、天龍から詳しい泊地の説明を受けた。
曰く、この地は「パラオ」なる南国の島にあること。
深海棲艦に怯えながら、滅びを待っている状況下にあること。
補給も救援も絶望的なこと。
動ける生き残りは自分達3人の他、駆逐艦と呼ばれる艦娘の浜風という少女と重巡洋艦という艦娘の加古と呼ばれる少女の二人だけということ。
残る戦艦の生き残り、金剛は…先の闘いで唯一生き残りを果たしたが大怪我をして、今は戦士として半ば再起不能なこと。
そしてまた状況を打開するにも艦娘ではにっちもさっちもいかないことを。
「…本当に、不味いな.これは」
氏真はポツリと、天龍の説明を受けて漏らす。
不味いことは分かってんだ!と半ばキレている天龍に向かって、氏真は更に言葉を続けた。
「つまり、蹴鞠してくれる相手も歌を詠み合う相手もないのか!こりゃ最悪だ!」
「喧嘩売ってンのか!この戦国ファンタジスタが!!」
…なお、氏真はどこかずれていた。
「…何か、怒る気力も無いわ…」
「…凄いんだか凄くないんだかわかんない人です…」
氏真の突っ込みどころしかない着眼点からの絶望に対し、頭を抱える睦月と龍田。
そして半キレで食って掛かる天龍という布陣を尻目に、氏真は一切表情を変えず更に言葉を続けた。
「要するにだ、君ら3人…いや、6人だったかな?君らは自分で兵糧も弾薬も集められぬから困っていると、そう言っている訳だ」
氏真が確認を取ると、怒っているともばつが悪いとも言える表情を見せ、天龍は答える。
「…情けねえけどそうだよ、明日の飯すら魚を釣ってギリギリ凌いでるのが現状だ」
然り、と氏真が頷くと、彼は殺したイ級の死体に指差してこう続けた。…なれば、僕がやる、と。
何をだ、と全員が聞くなかで、氏真は更に続けてこう言った。
「…前田の馬鹿夫婦のとこの旦那の浪人時代だと、戦場の死体を漁って鎧と兜を調達してたと聞く…まあ、要は『戦場のならい』よな、敵の死体なり使い古しの武器なりから使えそうな武器や弾薬を集めたら良いわけだ」
氏真の楽観的な台詞に、それが出来たら苦労はしないよ!と睦月が反論する。
何か深海棲艦の武器は君達は使うと不都合が有るのか?と氏真が聞くと、龍田がそれに答える。
確かに規格が合わないから「妖精さん」に再精錬してもらう必用こそ有るけど使えなくはない、だけれどもそもそも自分達の燃料がないから集めにいこうにも満足に動けない。本末転倒な事を言わないで欲しい、と。
そんな龍田の言葉を受けて、氏真は困った顔でじっと龍田の顔を見る。
そして、一瞬思案した後、ポンと彼は手を叩き「我が意を得たり」という表情を見せ破顔する。
呆れと困惑の表情を艦娘達は氏真を見て隠さない中、氏真はこう続けた。
「ああ、だから…『僕がやる』って言ったんだよ!僕が海に出撃して、僕が深海棲艦…だったか、やっつけて、
僕が資材を集めに行くってだけさ!君達は茶でもすすって待ってると良い、最初からそう言っているんだ」
何を言ってるんだコイツ、と天龍と睦月がずっこけ、筏にでも乗って海に出るのか、と龍田が呆れる中で氏真は笑いながら更にこう答えた。
「話を聞くに筏や小舟なんかじゃどうにも小回り利かなくて危ないから…うん、ちょっくら海の上を走って来るよ!まあ15里か20里(60キロ~80キロ)ぐらいまでならなんとかなるからさ!」
海を走るって何さ…と全員が突っ込みを入れようとした瞬間に、ダカダカダカ!っと言う小刻みな足音が響き渡る。
まるでジャイアントロボの十傑集の様な地走りの足音が…氏真の足元から聞こえた。
そう、まるで漫画の様に見えない程の足運びで、氏真は助走を既に開始していた。
たまらず、龍田がちょっと待って、と突っ込みを入れるが、氏真はかまわないでこう続けて言った。
「塚原先生の教えの一つ…『縮地法』、だったかな?一里の距離を刹那で跨ぐ歩法だとかで馬より速く戦場に駆けつける奥義だよ。その応用でさ、足が沈む前に足を運んで、その蹴り足の力を利用して水上すら渡れるんだ…まあ、百聞は一見にしかず、ってさ!!」
そう言うや否や、氏真は漫画の様な足運びでまるでミサイルの様に水しぶきをあげながら、まごうこと無き変態の起動で海上を駆け出した。
そのまま、氏真は目視が利かないような距離まで水上をアラレちゃんが如く、走り去ったのである。
「…戦国武将ってすげー」
「烈海王すら15メートルが限界だったのだぞ…」
天龍と睦月は同時に呆れを通り越した味わい深い顔で氏真を見送り、龍田は目を丸くするばかりで絶句していたのである。