無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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二十五話 新たなる仲間の建造~動物と髭とおい、デュエルしろよ~

「…まあ、4人。いきなり呼ぶならそれが限界かな」

 

あれから、妖精さんと缶のりんごのジュースを飲み交わしながら、『新人』を何人建造すべきか…と言う論を相談した際のこと。

妖精さんは一言もしゃべらないながらも、表情とジェスチャーだけで何故か成立する会話を元に、適正値の見解を述べていた。

 

根本的には、艦隊が始動したばかりかつ黒字の資材も有る以上、『詰む』にはまだまだ時間がかかる。

しかし、余裕が中途半端にあったからこそ、そのタイミングでいきなり艦隊の面子と同じ数の7人前後以上の大量流入は、氏真の懸念した如くデメリットの方が大きい。

とは言え、余裕がまだあるタイミングで1人2人と言う、ごく少人数の人員加入で来ても回転率に変化が出るか微妙なものだ。

兵糧の消費の収支を考えて4人、最低でも3人以上は駆逐隊の増員が欲しかった。

 

 

そもそもが、『建造』と言うこと自体が実に不安定なことだ。

 

『特定量の資材に特殊な開発用の資材を媒体にして、かつての大戦の船の御霊を妖精さんが神降ろしする』、ドロップ艦じゃない艦娘の降臨の仕方は基本的にこうだ。

何が出るか、どんな性格の子が出るか、それこそ建造されるまでわからない。 

船の御霊は気まぐれなのだ、いかに資材を揃えたところで、どんな艦種になるか…それこそ、空母や戦艦を呼ぼうと大量に資材を媒介に消費したところで駆逐が出た、なんてことも有り得る話だ。

…それで、加古が実際に理不尽な目にあっている。氏真が中々『建造』に手を出さなかった理由は加古のことを慮ってのことでもあった。

 

とは言え、状況的に尻に火がついてる上に、氏真自身がもう立場上自由に暴れたら危険すぎる職種についた以上…もう建造しない、なんて言っている場合ではない。

少なくとも数名の駆逐艦を加入させないと、早晩、浜風と睦月のどちらか…というか、高い確率で双方が倒れかねない事情もあった為…

駆逐艦が欲しい、と最低限で資材を投入した所で軽巡洋艦の艦娘が出る可能性も低くはないことだった以上、『保険』をかける意味でも4回程度のチャレンジは必要なことだった。

 

とは言え、それでも艦隊の半数の4人もの新人を、現場に断りなく加入させてみる度胸は氏真には無い。

それをやると、氏真自身の不信感に繋がる上に、艦隊自体がガタガタになりかねない悪手だ。

 

 

「…と言う訳で、開発資材も有る以上、4人の新任の子を建造したいと考えているのだが…皆はどう思う?忌憚なく言ってくれ」

 

氏真は、とりあえず一度、艦隊全員を自分の執務室に召集して意見を聞くことにした。

 

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…結論から先に言うと。

 

艦娘に話を聞いた際の結果はと言うと、賛成6、保留1、反対…と言うか渋ってるのが1と言う内訳、である。

賛成に票を入れたのは、仕事が減るだろう睦月を筆頭に、金剛・浜風・天龍・龍田・神通の6人。

保留が加古、渋ってるのが加賀と言うことで有る。

さて、学級会等の会議程度なら『多数決』と言う形で賛成派よりの話の流れで無理矢理話を進める場面だろうが、軍隊の会議となると禍根が生まれやすいソレは通らない。

とりあえず、保留・反対派の二人の話を聞くことにした。

 

 

「…うん、アンタを信頼しない訳じゃないよ、むしろす…うん、提督としても人としても嫌いじゃない」

 

最初にそう口を開いたのは加古である。

そして、艦隊の面子の手数を増やすこと自体に否やはない、と。

でも…と、付け加えながら更に続けた、氏真さんも艦隊の皆もこれだけは約束してくれないと、うんとは言え無いと。

そして、こう締めた。

 

「…もし、新入りの子が弱かったり性格が噛み合わなかったり…或いは望んだ艦種の子が来なかったとしても、優しくしてあげてくれないか?その答えを聞くまで、気軽に賛成できないかな」

 

そう言って、ぼんやりした表情のまま氏真や艦隊全員を見比べる。

…何となく加古も既に聞くだけ野暮天で『答え』は彼女自身が内心わかってることだろうが、それでも口から聞きたいことだったから。

口に出す言葉の、その重さを聞きたかったから。

 

その加古の言葉を受けて、氏真が最初に口を開く。

そして、わかってる、と告げるなり加古をまっすぐ見つめるとこう返した。

…約束する、どんな艦娘の子だったって、僕は絶対に大事にしてみせる、と。

その後…艦隊の仲間からも続々と、大丈夫だ、と答えが返ってくる。

 

加古は無言のままではあるが、薄く、しかし優しく…口を釣り上げて軽い笑みを漏らし、賛成派に回ることになった。

 

 

残り一人の加賀はと言うと…鉄面皮かつマイペースな彼女には珍しく、少なからず顔を真っ赤にしている。 

そして、ちょっと頬を膨らませながら聞く、私が父さんの『娘』なら…理屈の上では建造された子らも『娘』になるんじゃないですか、と。

 

まあ、そうなる…のか?と、瑞雲師匠みたいな口ぶりで氏真が小首をかしげると、加賀は執務室の氏真の机を感情的にバンと叩く。

そうなるんです、私の中では!と大声で加賀は言うと、こう続けた。

…でも!私が娘として一番じゃないと…何か嫌です!釈然としないんです!と。  

 

そんな、加賀の『らしくない』ワガママに氏真のみならず執務室にいた全員が倒れかけるが、加賀としては大事なことだ。

…それだけ、「怨み」で歪んだ姿を救ってくれたことや、右も左もわからないまま浮き世に顕れた加賀を一人の「家族」と言ってくれたこと、ソレは彼女にとっての大事な大事なことだったから。

ソレがぶれてしまえば…きっと、とても悲しいことだから。

 

どう娘を宥めようか、と氏真が頭を悩ましていると、横から口を挟んだのは金剛であった。

考え方をチェンジしてくだサーイ、とニコニコしながら加賀に近づくと、優しく加賀を抱き止めながらこう言った。

 

「…私達も貴女のことをファミリーだと思ってますガ、氏真サンが貴女にとって特別なのハ…ソレはよくわかりマース。『大事な人に大事に扱われたい』って気持ちハ、バーニングならぬバニシングラブしちゃって、喪ったからこそよくわかってるつもりデス」

 

…でもね、と付け加え、金剛はこうしめた。

 

「でも…そんな大事な人のファミリーが一人だけのものにならず増えたり繋がっていくことハ…ソレも大事なことだと思いますネ。だから、『新しい子達のお姉さんとして』向き合ってみるのはどうデショ?」

 

そう金剛は優しく加賀に諭すように言うと、無言のままぎゅっと抱き締める。

…私は元々艦としてから半ば一人っ子のようなものなので金剛さんの言い分は良くわかりませんが、と加賀は言いつつなんとも言えない表情になりながらも…

しかし、私だけ意地はるのも駄目みたいですね、と、賛成派に納得する運びになった。

 

…流石に、皆に慕われる女だけはあったんだね、金剛ちゃんは

氏真は、娘を優しく説得する金剛の姿を見て、そう小さく呟いた。

 

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…さて、それからと言うと。

 

建造の為に工匠に立ち寄った氏真は、工房の妖精さんに各資材を渡し、4人分の『建造』の計画書を渡すことにした。

最低限の資材からの建造と言うことで、工匠の増設が出来ておらず、一度に2人しか建造できない現状でも2時間もしたら全員建造できているだろうと、妖精さんがやはり謎の肉体言語とテレパシーで伝える。

 

そのまま妖精さんに言われるままに2時間後、暇そうだった加賀と秘書艦の睦月を引き連れて工匠に向かうことにした。 

そこでは、既に確かに妖精さんの言う通り『建造』は終わっており、四人の艦娘達が建造されていた。

 

そこで出会った艦娘はと言うと…

 

 

「…貴女達が、私のてーとくさんと私達のお友だちっぽい?」 

 

真っ白な肌に銀にも見える薄いブロンドの髪をした、外国人のお嬢さんのような上品な女の子と。

 

「妖精さんに聞いた通りの、時間通りきっかりクマね。少なくとも事務的には信用はできる人みたいクマ」

 

語尾がまるで幼児向けアニメのキャラのように特徴的ながらも、意外と武人のような口ぶりでビシッと敬礼するセーラー服の茶髪で長髪女の子と。

 

「…ふん!どんな提督かと思って期待したら…なよなよしてるのはともかく髭じゃないってどういうわけよ!全く、どんな髭の人かと楽しみにしてたのに…カイゼル髭が個人的にベストだけど、どんな髭でも受け入れるつもりだったのに…これじゃ、期待外れだったかしら」

 

小柄でツンツンした雰囲気の、何故かやたら髭に執着している銀髪の制服のサスペンダーが特徴的な女の子と。

 

「…おい、デュエルしろよ。カードは拾った!」

 

何か『蟹の人』違いの匂いがプンプンする、バンソーコーを頬っぺたに張った、青と白のシンプルなセーラー服の栗毛の女の子の、4人の艦娘達の姿であった…

 


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