無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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二十三話 睦月の一日

「…明日はお休みをいただいたのだぞ!!」

 

睦月はこんな感じで絶叫しながら、夜の7時だったと言うのにも関わらず、風呂にも入らず飯を食べ終えた瞬間ベッドに飛び込んでいった。

 

 

…実はここ最近、「秘書艦」としての内勤での氏真の事務員としてパソコン等のサポートだけでなく「艦娘」としての仕事も有り、全く休みが取れてなかったにゃしいさん。

流石に体力等は人間以上…と言うか、艤装が破壊されなきゃ艦娘はそうそう死にはしないとは言え。

3週間弱休まず働き、総計すると徹夜した日数は5徹。

 

…ちっちゃいオッサンが見えるのだぞ……

…綺麗な川が見えました…渡る、渡るにゃしい…

…私は菊月だ…ボクは皐月であり如月でありうーちゃんぴょんですげえよミカは表情固くて睦月型は全であり一……

 

こんな感じで、クマを携えたまま壊れかけたうわ言を延々語りだした睦月型のネームシップのこの娘…最後どういうわけだよ。

…とにかく、こんな駄目になりかけた睦月を見るにこりゃアカンとばかりに氏真は、それでも無茶しようとする睦月を無理矢理休ませることにしたと言うことだった。

 

…今まで事務員として使えるのが他に浜風しかおらず、浜風しか飯作れなかったりする上に、浜風に洗濯物等の身の回りの世話をある程度投げていた為に、必然的に睦月が浜風の分まで仕事を出きるだけ引き受けていたのだが。

最近、加賀がわりとその手のことが苦手ではないことが発覚したことや、事務員としてもそこそこ出来る神通の加入から睦月一人に事務員を任せる必要も無くなったことも、睦月の久し振りなお休みを獲ることになる理由の一つだったとか。

 

そんな「睦月の休日」を覗いてみることにしよう…

 

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~AM 6:32~

 

「…うにゃあ、もう朝かぁ……ううん」

 

寝ぼけ眼で伸びをしながら起きたにゃしい、手近に有る腕時計を見る。

その時間帯はすでに6時を回っている、反射的に総員起こしに間に合わなかった!?と焦るが…よく考えたら、今日は休日だ。

…ワーカーホリックかなぁ、と自分が嫌になりながら、半日ぶっ通しで寝た上に疲労が貯まりすぎた重すぎる自分の体をゆっくり10分以上かけて動けるようにストレッチしつつ。

のっそりのっそりと、自室から出ることにした。

 

 

 

~AM 6:48~

 

「憲兵さん…おはようございます…ふぁ」

「ああ、睦月さんですね。おはようございます!」

 

睦月がのんびりと廊下を歩いていると、洗面所で睦月は杉村とばったり出くわす。

 

朝早いですね~と、何気なく睦月が声をかけると、艦娘さん達の為にも早起きは必要ですからと返される。

真面目な人ですね、と睦月は笑顔で杉村に返す。

そして、おばあちゃんは朝早いな、と一瞬頭に浮かんだが…それは睦月はぎりぎりで口に出なかった。

 

「…何か失礼なこと考えてませんか、貴女?」

 

…顔に出てたらしい、いぶかしがられた。

それはそうと、挨拶もそこそこに睦月は食堂に向かう睦月だったが、杉村はガシッと睦月の肩を掴み逃そうとしない。

なんぞ、と睦月は振り返って文句をつけようとすると、杉村は洗面所の方を指差した。

そしてこう言う、何か忘れてませんか、と。

 

何がなんだかさっぱりわからない睦月は首を傾げるが、杉村は更に怒った口調でこう続けた。

 

「朝起きて!洗面所についたら!まずはしっかりバッチリ歯磨きしなきゃ駄目でしょ!夜は口の細菌が繁殖しやすいんですから!!」

 

…オカンかあんたは、と睦月は呆れながら、杉村にとりあえず付き従うことにした。

 

まあ、杉村…永倉新八の死因が「虫歯(と言うより、虫歯から骨膜炎を併発し引き起こした敗血症によるもの)」だったりする為、二度目の浮き世で神経質になるのは仕方ないことだったし、そもそも杉村の言うこと自体は正論だったし。

 

 

 

~AM 7:27~

 

「…睦月さん、おはようございます。今日も可愛い胸ですね」

「…早朝から喧嘩売ってんのか、セクハラ巨乳!!」

 

食堂に向かうなり、台所に立つ浜風に喧嘩を売られるこの鎮守府唯一の貧乳…もとい、睦月。

一方の銀色の方はと言うと、喧嘩を売るつもりは有りません、貧乳は貧乳で良いものです揉ませろ等と朝からぶっこんでくる為、睦月がドロップキックで蹴飛ばして。

そうして気絶させた浜風を尻目に、セルフではあるが浜風謹製のコンソメスープを自分でよそい、コッペパンとポテトサラダにレタスとハムエッグと、簡素ながらしっかり美味しい朝ごはんを取ることにする。

 

何でこの変態が料理上手いんだろう、と釈然としない睦月ではあるが。

黙々とその朝ごはんを食べるので有った。

 

 

 

~AM 9:12~

 

「イヤァァァ!!」 

「だりゃあ!!」

 

そんな、朝ごはんを食べた後のんびりしていた睦月が、しばらくの暇潰しにたまたま道場の近くを散歩していると、非常に高い声の絶叫が聞こえる。

 

…天龍さんと憲兵さんのものだろう、二人ともそうだが、物好きだなぁ…

どうにもインドア系の睦月ではある為、遠巻きに天龍の剣道特訓を見ていたりしていた。

とにかくまあ、元気そうで何より、と睦月はその場をはなれようとしたとか。

 

「開眼したぜ…ガトチュ、ゼロstyle!!」

「…筋が良いですね天龍さん!斎藤も草場の影で喜んでますよ!」

 

るろ剣だコレ、と横から聞こえるトンチキな会話にずっこけたりしたが。

 

 

 

~AM 10:31~

 

さて、何か剣術馬鹿二人のやり取りに疲れた睦月。

何かやる気が失せた彼女が自室に戻り二度寝を開始しようとすると、上の階から何か喧嘩をするような声が聞こえる。

何が有ったのか、と目が冴えた睦月はあわてて飛び起きて、その場所に向かうことにした。

 

 

~AM 10:34~

 

「な、何が……」

 

……人間、理解を越える事態を直面したら、気の利いたことは語れない。

たたただ、睦月は上記のような言葉を吐きながら、目の前の異常事態に硬直するしかなかった。

 

何故かスマホでその現場を押さえようとする加賀。

なんだか必死でその加賀を押さえようとする金剛。

そして…

 

「見ないで…やぁ、止めてください!?」

…何故かメイド服を着て、部屋で踞る神通の姿で有った。

 

「…いや、本当に何が起こったし…」

 

睦月はイミフすぎて、首を傾げるしかなかったと言う。

 

 

 

~AM 11:01~

 

「…つまり、起こった状況を纏めるのだぞ」

 

睦月の仕切りで、神通の私室で起こったちょっとした事件について纏めることにする。

要するに、こんな話だった。

 

たまたま神通に仕事の所用が有った、睦月代わりに秘書艦の仕事をする加賀、神通の私室に向かう。

その際に、神通の部屋から変な声が聞こえる。

加賀が聞き耳を立てると、「艦隊のアイドル、神通ちゃんだよ~キャハ☆」とかはっちゃけた神通の声が聞こえる。

加賀硬直、とりあえず金剛を援軍に召喚。

わりと真面目に状況がイミフながらも、呼ばれた金剛が加賀に促されるまま神通の私室のドアオープン。

なんと言うことでしょうか、そこには…午前中暇だったらしく、メイド服を着て一人はしゃぐ神通の姿が!

加賀、無言の写メ。神通赤面、金剛真っ青と言う具合である。

 

 

「…何してんの、神通さん…」

 

メイド服を着たまま小さくなる神通を、何か冷たい目で睨む睦月。

そんな睦月を遮るように、加賀がこんなフォローを神通にかけた。

 

「…いえ、私には神通さんの取っていた行動の意味はわかりませんが。しかし、睦月さん、きっと神通さんの行動には訳があるに違いありません!ええ、『危険な元暗殺者の監視』と言う名目の元に、護衛任務が終了した後もわざわざパラオに残ってくれて、しかも『私達未熟な艦隊の教導』をやってくれる…神通さんは偉大な艦娘の方なのです。だから…」

 

そう言ってふうと息を整えた後、加賀は良い笑顔でこう続けた。

 

「…こう、誰も見ていないのに『恋の2-4-11 』を完璧な振り付けで一人で熱唱してたり、メイド服だのアイドル衣装だのの私物を、一人で一生懸命誰にも見せることも無い癖に選んだりすることにもきっと何か訳があるんでしょう、ええ」

 

そう加賀に言われた神通は、全部見てたの!?と泣きながら突っ込む。

金剛と睦月はやめたげてよお!と加賀を止めるしかなかったとか。

なお…

 

「…あ、神通さんの勇姿を皆に写メで送ったら天龍さんと加古さんからメール返ってきました。加古さん『wwwwwwww』しかメール打ってないですね、大草原と言うヤツですか。天龍さんは待ち受けにするそうです、良かったですね」

 

…加賀が身内に拡散して、メールの返信を笑顔で一同に報告し、えらいことになったとかなかったとか。

 

 

 

 

~PM 12:30~

 

「…何か、お休みのハズなのに妙に疲れたのだぞ…」

 

あれから、金剛と行動を共にしつつ軽い昼食を食べた睦月はと言うと。

神通の惨状をなでなでしながら落ち着かせたり、加賀にお説教したりしつつ。

ぐでんぐでんになっていた。

 

そんな睦月を見かね、金剛が声をかけた。

曰く、こんな感じである。

 

「…何か、私達常識人寄りの艦娘って気苦労が多い気がシマース…睦月も大変でシタネー」

 

そう前置きしながら、なら陰鬱な気分を吹き飛ばしますか、と金剛は付け加えつつこう告げる。

一杯やりましようネ!と。

 

「睦月、お酒は弱いから駄目にゃし…てか、真っ昼間から呑むのは…」

 

流石に、なんか昼間から酒を呑むのは気がとがめる睦月であるが、金剛はノンノンと返すと指パッチンする。

何事かと睦月がびっくりするのも気に留めず、金剛は固有結界を展開する。

 

無限に続く白いお菓子の棚とティーポット、そして、室内だったハズなのにまるでイギリスの丁寧な庭師の仕事が如く整然と広がる美しい庭園。

小鳥が囀ずる声も聞こえ、何故か周囲には美しい芝生とチューリップや竜胆やマリーゴールドやラベンダーの花壇も足元に突然生えてるように見える。

金剛の背後には、いつしか薔薇の蔦で出来たゲートも見え、椅子に優雅に座りながら紅茶を啜る金剛の姿がまるで一枚の絵のようである。

…これこそ幾度の茶会を乗り越えて無敗の、金剛にのみ許された特殊技能アンリミデット・ティータイム・ワークスで有った。

 

「…って、なんじゃこりゃぁぁぁぁ!?」

 

睦月はキャラも忘れて、金剛の固有結界に絶叫すると、金剛は涼しい顔でこう返した。

 

「落ち着いてくださいネ睦月、コレは、私の秘蔵のハーブティーに含まれるアロマが見せるファントムなのデース」

 

…それ違法なハーブだろ!何か体に入れちゃ駄目な成分が入ってるでしょ、そのハーブ!!

金剛の概説に思わず突っ込む睦月だが、金剛は落ち着き払ってこう告げた。

 

「ダイジョーブ博士の手術と一緒デース!直ちに健康に影響するものじゃ有りまセン!」

 

不安になるだろそんなもん!と睦月は逃げ出した、とか。

 

 

 

 

~PM 1:36~

 

金剛の茶会の幻覚に逃げ出した睦月は、ある場所に向かっていた。

それは…

 

「……睦月かぁ、一緒に昼寝するかい?」

「うん、加古さんのこの安心感……昼寝してる場所の不安感!!」

 

…加古のお昼寝七つスポットのひとつ、鎮守府の屋根瓦である。

 

そう、氏真が来てからと言うもの、加古は気を張る必要も無くなって。

のんびりマイペースに、一人でお昼寝することが多くなっていた。

日向ぼっこのつもりか、最近は屋上で寝ることも多くなっていたと言う。

 

…なお…

 

「ところで加古さん、あの、今日のお仕事は…?」

「…睡魔には勝てなかったよ…」

 

いや、負けてんなこのサボり魔!と睦月は切れ、加古を巴投げの要領で屋上から放り投げたとか放り投げなかった、とか。

 

 

 

 

~PM 4:27~

 

「……あの~睦月ちゃん?」

 

無駄に疲れた一日だったせいか、あれからまた3時間屋上でぐっすりだった睦月は、こんな声で目が覚める。

誰かな、と思って起きてみたら、生まれたての小鹿の如く、足をぷるぷるさせて屋上の屋根瓦に登っている龍田だった。

 

危ないですよ~、と何気なく睦月が龍田の声に答えると、龍田はその声に対し本気で死にそうな声でこう返した。

 

「…あの~ホントにホントに高いところとか苦手だし、足元が自分でもびっくりするぐらい覚束ないし、薙刀を杖にしないともうホントに腰が抜けそうだけど、睦月ちゃんが危ないところで寝てるのは見逃せないから~あの、そろそろ降りてくれないかなぁ…なんて…」

「わかったからまずあんたがおちつくにゃあ!危ないのそっちなのだぞ、どう見ても!!」

 

睦月は、高所恐怖症の癖に自分の近くに来た龍田にビビりながら、あわてて飛び起きて駆け寄った、とか。

ちなみに…

 

「…と、ところで、加古さんが犬神家みたいに地面に刺さってるんだけど~」

「知らんですよ、龍田さん」

 

…同時刻、加古は下でこんな感じだったとか。

 

 

 

 

~PM 5:20~

 

睦月は色々さっぱりさせるため、風呂に入ることにする。

 

脱衣所に足を運んだ睦月は、学生服のような白と緑を基調としたセーラー服を、ボタンをはずしながらがばりと脱ぐ。

そして、スカートに手をかけてそれを外すと、足を綺麗に見せていた黒いタイツをゆっくりと破かぬように脱ぎ…

 

「おっと、こっから先は描写禁止なのだぞ!!」

 

…残念。

 

尚、30分近くかけて、ゆっくりストレッチやマッサージもしながら睦月はお風呂を楽しんだそうな。

コーヒー牛乳うめー!と、風呂上がりに腰に手を当て一気してる睦月を妖精さんに目撃されたとかそうじゃない、とか。

 

 

 

 

~PM 6:36~

 

今日は土曜日、晩御飯はカレー…うどん。

金曜日のカレーは実はけっこう量が余り、二日続いたりするのがザラだ。

 

こくがました二日目濃いカレー、浜風は色々リメイクをしたりする。

カレーパンにしたり、オーブンに入れて焼きカレーにしたり、豚カツをのせようとしたり、とあの手この手でリメイクするのだが、睦月はシンプルに出汁で割ったカレーうどんが、大好きで…大嫌いだった。

 

味は旨いのだ、文句なしに。

野菜の旨味が溶け込んだカレーに、鰹とあご(飛び魚)の旨味が凝縮された出汁が加わって。

味のアクセントに厚揚げを細かく刻んだのが、単調なうどんの食感を美味しく食べさせてくれる。

あえてコシが無い、いわゆる大阪風なうどん麺もつるつる食べやすくて良い、疲れた胃には優しい味だ。

それでいて、カレーのスパイスが、香りが、暴力的に味覚と視覚と嗅覚を刺激する。

箸が、止まらない。

 

…だが、それはつまり…

 

「…にゃしい!またはねた!?」

 

カレーうどんのスープが跳ねるのだ。

制服が白い睦月には、クリーニングが大変で憂鬱になる、悩ましい食べ物でも有った…

 

 

 

~PM 7:47~

 

「…それで、何で執務室に来たんだい、睦月ちゃん?」

 

夕げをとり終わった睦月は、その足のまま氏真の居る執務室に向かう。

今日はお休みだったろう、と諌めると、睦月は苦笑いで返した。

なんやかんや、一番気苦労が無い場所はここなのだぞ、と。

 

なんだそりゃ、と苦笑しかえす氏真を尻目に、睦月はくるくる回りながら、こう言ったとか。

 

「睦月をもっと頼るが良いぞ!!睦月は誉めて伸びるタイプにゃしい!」

 

 

そうして、睦月が眠くなって自室に帰って三時間後に寝るまで、睦月は氏真をおちょくりつつも、資料作成をちょっとだけ手伝った、とか。


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