無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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二十一話 『日ノ本最強の剣士』の来訪

さて、あの神通が深夜に天龍が特訓をしてたのを目撃した時から、更に二日経った頃の話に移そう。

 

神通が就任してすぐ翌日から、天龍が語った様に『艦隊』として鎮守府がようやっと始動し始めていた。

とは言え、現状はと言うと、艤装の補給と補修を済ましてすぐな以上、まだまだ慣らし運転の期間中である。

 

艦隊としての『慣れ』を兼ね、浜風・睦月・天龍・龍田の4人は、天龍の指揮と氏真の編成の元、3~4人の小隊を組み遠征に出始めていた。

補給を受けたとは言え、燃料・弾薬が心許ない現状…まだまだそのローテーション回数は少ないものの、少しずつではあるが、鋼材とボーキサイトに関しては氏真が周辺海域の敵艦隊を一掃したことも手伝い、安全な物資強奪ルートを見つけた現状、今のところは『クロ』になる手筈が見え始めていた。

 

残る、加賀・金剛・加古・神通の4人はと言うと、遠征に向かない加賀の習熟とまだ戦いに慣れてない加古の戦闘度胸をつけるため、そしてつい最近復帰して以降まるで海に出てない金剛のリハビリを兼ねた軽い模擬戦を、神通が課したりしていた。

当初は3対1の神通が四面楚歌のハンデ戦ではありながらも、場慣れの数の違いから圧倒され、幾度も神通に敗北していたのだが…最後の方になると、勘を取り戻しだした金剛の奮戦により、なんとか一本取れた。と何故か終始足を引っ張っていた艦娘戦闘初心者2名が自慢気に氏真に報告していた、と言う。

 

 

そんな彼女達ではあるが、艦隊の始動二日目にしていきなりながら、『異常』に供え、午前中の訓練と艦隊としての仕事を全員休業している。

と言うのも、『来訪者』がやってくる日だからである。ソレも正々堂々と。

 

書類上は『憲兵』の来訪、ソレ自体はまるで構わないハズである。

むしろ提督他海軍関係者に対する抑止力なのだから、むしろそんな憲兵の来訪自体は歓待すべきことだ。

とは言え、現在は『陸軍から刺客が来る』と言う噂で持ちきりの為、それはそれは焦らざるを得なかった。

何せ、絶海の島の軍事施設と言う一般人お断りの機密施設に、正々堂々何者かが侵入するチャンスなのだから。

 

そんな厳戒体制のパラオ泊地の湊に、陸軍のマークを付けた1隻の小さな船が来訪したのはその日の午前5時をちょうど回った頃のことである。

その船のハッチが開いた際、そこから現れたのは一人の軍服に浅黄色と白いマフラーをつけ外套を羽織った二十代程の女性である。

 

そして、ハッチを降りて上陸した際の開口一番、そんな女性は苦笑しながらこう言った。

 

「はろうやあやあ、『ぱらお泊地』の皆さん。えー…私はですね、陸軍から正式な所用が有って『憲兵』として登録された一介のか弱い女の子でして…そんな恐ろしいものをいきなり突きつけられたら困るんですよ」

 

いきなり砲門を突き付けて威嚇する、神通と龍田に向けてである。

 

 

「…ご無礼をお許しください、憲兵殿。この泊地に提督の命を狙う凶賊が紛れ込んでいると言う噂が流れていまして、非礼とは知りつつも威嚇をせざるを得ませんから」

 

両手をあげ、無抵抗をアピールする憲兵に向かい、抑揚の無い声で神通は砲を付だしたままその『憲兵』たる女性に答える。

龍田もそれに答える様に続ける、だから『後ろぐらいことが無い』なら水に流してください、埋め合わせは後で何でもしますからぁ、と。

 

そんな憲兵は、ふぅ…と、肩をすくめると、こう漏らした。

…しゃべり方から見るに、『金剛』と言う娘は無し…『外れ』の2名に出くわした上にいきなり厳戒体制とはついてないですね、と。

 

お前どう言うことだ!?と神通と龍田が同時に誰何し威嚇射撃をしようとした瞬間、いきなりその『憲兵』は動く。

暑苦しく羽織っていた外套を脱ぎ捨て、近くに固まっていた二人に投げつけ目眩ましにする。

何事か!とその外套を二人が振り払った瞬間…既に、視界からその憲兵は煙のように消え失せる。

あわてて後ろを振り返った先には、既に小さく見えている例の憲兵…

 

否、もうここまで書けばもう良いだろう。

中将が向けた『刺客』、『杉村よしえ』が鎮守府内に向けて走り去っていくのが確認された。

 

すぐさま龍田は提督に、神通は艦隊全員に向けて緊急通信を発令する。

…大本営の危惧した通り、提督の命が刺客に狙われている!それだけではなく金剛の命も危ない!と。

 

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…耳障りな警告音がガンガン流れてますね。

 

『杉村よしえ』、と言われていた少女は、パラオ泊地内にカンカンと五月蝿く響き渡るサイレンの音に思わず顔をしかめる。

まるで列車の踏み切りの警笛みたいだ、と呑気に構えていると、いきなりガシャンガシャンとサイレンの音とは別な金属音が聞こえてきた。 

 

何事か、と良く杉村が観察すると、パラオ泊地の鎮守府施設の窓や扉の内側にシャッターのような金属版が降りているのが分かる。

恐らくは、賊に対する防御壁なのだろう、と杉村は予想がついた。

 

そんな鎮守府のセキュリティに唖然とした杉村ではあるが、そう一瞬立ち止まって居ると、後ろから銃声混じりの二種類の怒号…龍田と神通のものだろう声もする。

このままだと蜂の巣にされるのは明らかながら、しかし施設がこのぶんなら既に門等の出入口だって封鎖されている、とも杉村は直感で思い知った。

 

 

…本当、こんな『暗殺』なんて皇帝さんや保安官さんに顔向け出来ない気がしますし、自分でも本当は間違ってる気はしますが

 

杉村はなんともやるせない表情になりながらも、しかし…と思い直して、切り替える。

前金を受け取りマスターへの義理立てもある以上、せめて事情も聞かないで死ねるか、と。

そう呟いた杉村は、逆袈裟斬りに、いきなり自分がサーベル代わりに帯刀していた日本刀を一気に数度切る。

 

その瞬間、まるで熱した刃物でバターを斬るかの如く、厚さ5センチはあるだろうシャッター代わりの内側の鉄板もろともに防弾ガラス製の鎮守府の扉を両断する。

修繕費は依頼料から払うから…と、内心で杉村は詫びながら、有り得ない切れ味で切り裂かれたその扉を飛び越えつつ、鎮守府内に侵入していった。

 

龍田と神通は、マジか…と、そんな凶賊の鮮やかな剣技を目の当たりにし、一瞬ならず呆然とするしかなかった…

 

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「……こんな紙みたいな防壁で私を閉じ込めることも止めることも出来ませんよ、全く…」

 

せめて、『関羽以上の槍兵』でも持ってくるなら話は別ですが、と内心呆れながら杉村は防火用も兼ねているであろう対凶賊用のコンクリートや金属製のシャッターに出くわす度に、ズバズバと両断しながらそれらを真っ直ぐに突破していく。

 

そんな杉村は階段をかけ上がり、通路の奥へ奥へと駆け抜けていった。

何故ならば、杉村の見た目に反する永い人生経験から知っていたから。

戦士として青春をかけたあの頃の体験が有るからこそわかっていたから。 

『ボス』…鎮守府の提督に成り代わっただろう男が居る場所は、恐らくはソコにしかないから。

そう言う人間が何処に居るかと言うことは…杉村の記憶がずんずんと教えてくれることだった。

 

 

そんな杉村の予想通り、最上階についた時、ソレは見えた。

『執務室』と看板が書かれた部屋が一番奥まった場所に見えている。

だが、執務室のそんな前で、二人の艦娘が門番のように艤装を纏い仁王立ちしていた。

白亜の衣装で戦艦を模した一回り他の連中より巨大な艤装を持った艦娘と、箱のような艤装を纏う銀髪の艦娘…

そう、金剛と浜風である。

 

いくら「高速戦艦」と言えど、金剛は足回りは他の連中に比べ一回り遅い。

戦艦の重武装を普段から取り回して居るのだ、「高速戦艦」の愛称も「戦艦にしたら速い」と言うだけに過ぎない。

『やや速い長距離戦用の移動式砲台』、金剛ら高速戦艦の本来の役目はそれである。足の速い者の追跡などと言う場面では役立たずでしかない。

だが、『迎撃』として、しかも『狭い直線通路の防衛』としては金剛以上にうってつけの装備を持った者は居なかった。

万一のために至近距離のフォローに駆逐艦を侍らせている、氏真の防衛に万事抜かりはない布陣…に見えた。

 

だが、当の杉村はと言うと…まるでそんな砲台二人に恐れることも無く、ゆっくりと接近する。

そして、二人に会釈しながら、一言だけ質問する。

二人のどちらかの艦娘は「金剛」と言う名前ではないか、と。

 

だったらどうするデース!と金剛が思わず答えた瞬間、こんなみょうちきりんなしゃべり方は…と、ニヤリと杉村は笑みを浮かべると…

幽鬼のように一瞬ぐらりと動いたと思った刹那、遠間にいたハズの杉村はまるで影から顕れた如く金剛の背後に立ち、首筋に日本刀を当てて腕を逆にひしぎ人質にする。

 

慌ててどうにかしようとする浜風を、動くな!と杉村は一喝して黙らせつつ。

そのまま、金剛を無理矢理人質にしているとは思えない優しい口調で、杉村はこう質問した。

 

 

「……金剛さん、私は依頼人の方から、私欲の為に『金剛』と言う艦娘と新しい提督がこの泊地の元々の提督殿を殺した、と伺っています。でも、私自身最初から悪意ある粛清依頼に騙されてる気がしてなりません……私は正直、貴女が悪い人とは思えないんです。成り代わったと言う新しい提督さんも、非はない様な気はします…だから、この杉村よしえは士道に背かない為にも、はいかいいえで構わないから質問に答えてください。『貴女と提督さん、どちらか、あるいは両方が悪意を持って前の提督殿を殺害したのですか』?」

 

 

そう、杉村が聞こうとしたことは至極単純明快な話である。

 

この依頼そのものに理と義は有るのか、そもそも殺さないといけない相手なのか、と言うことだった。

当初こそマスターの義理と聞かされていた話の内容から義憤に刈られていた杉村だが、あの陸軍中将に『試験』として深海棲艦と無理矢理戦わせられたことと、直に依頼人としての性格を見てその判断基準がぶれてしまった。

…早い話が自分は騙されてないか、少なくとも、騙すつもりはなくとも勘違いからの逆恨みじゃないか、と言う疑惑が杉村の頭から離れなかったのだ。

 

ソレを確かめようと、金剛と提督にとりあえず話を聞いて、判断を擦り合わせようとしたのだが…

艦娘達がやや問答無用気味だった上に、確かに龍田の言を借りれば「後ろぐらいこと」が有るからこそ、杉村はなんだか強盗まがいな真似をしてまで鎮守府内に逃げ込むしかなかったのだ。

いっそ下手に蜂の巣にされるより、ターゲットと直接接触して、直に姿を晒して話を聞いた方が安全だろうと言う計算でも有った。   

 

 

だが、当の金剛は苦しそうな表情を見せたまま、杉村の言葉に対して何も答えない。

浜風も何かフォローしようとするが、どう切り出したらいいかわからなかった。

 

 

…しかし、部外者の為に仕方ないとは言え、これは杉村の質問の聞き方が悪かっただろう。

 

そもそも悪意は微塵もないどころか、犠牲を最小限にしたかったことが理由とは言え、金剛の行動がパラオ泊地そのものの壊滅の発端である。

ソレは、前の提督の死因の遠因であり…少なからず前の提督を好いていた金剛の深いトラウマの根の部分でもある話であった。

そして、金剛がとった行動を詳しく言って、「でも、何もかも悪気はなかった」と金剛の立場で言っても言い訳になってしまう事象でも有ったのだ。

 

氏真の行動だってそうだ。

動機はなんであれ、前の提督が既に死亡した後にすべて艦娘の為にとった行動とは言え、だ。

「権力を横取りしようと死人を利用した」としか端から見たら思えない。

だからこそ、海軍もわざわざ氏真の死亡を一旦擬装したわけだが…それが故に、「悪意が有るか」と聞かれても中々ノーとは返答しにくい話で有った。

 

とは言え、重ねて言うが、パラオ泊地の詳しい話を杉村はまるで知らないことも事実である。 

無言のままの金剛に対して、まさかとは思いますが答えることが出来ないなら…!と、怒りを見せて金剛を始末しにかかる杉村だったが…

その首筋に日本刀を突き立てて止めに入る者がいた。 

 

 

「…僕が代わりに答えよう、結論から言えば『否』だ。納得してくれるかは別の話だけどね」

 

そう言って、いつの間にかいきなり執務室を飛び出した氏真は、杉村に向けて金剛の代わりに質問に答える。

そんな「答え」を聞いた杉村は、ゴメンね痛かったですよね、と小声で謝りながら金剛を優しく開放しつつ、ため息を吐きながらこう言った。

 

「…あぁ、貴方が提督の成り代わりの…確かに、正直まだまだ良くわからないことだらけです…とは言え!」

 

そう言った杉村は、氏真の刀から逃れるようにぐるりと身体を翻すと、日本刀を構え直しながら、こう告げた。

貴方、何か『秘密』を抱えてますね?狼の嗅覚からは逃れられませんよ、と。

然り、と氏真が答え、なら剣で語ってみるかい?と冗談めかして言う。   

 

そう言われた杉村は…先ほど以上の猛々しい殺気を放ち、妖しい笑みを浮かべながらこう返した。

この『龍飛剣』を相手に、中々舐めた口を聞きますね貴方、と。 

 

何事か、と焦る氏真と金剛で有ったが…横から浜風が物凄い真っ青な顔をしながら、この人に謝って、と氏真にすがり付く。 

そして、こう続けるのである。

  

 

「…『女』とは知らなかったですし、氏真さん以外に『過去から顕れた人』が居るとは思えないですが、あの人万一…うん、億が一『本物』だったら本気で不味いです!!ヤバすぎます!!!『杉村よしえ』と言う名前、『白と浅黄色』、『狼』を名乗る度胸、『龍飛剣』………この人、『新撰組最強』の剣士、『永倉新八』です!!!下手したら日本最強クラスの剣士ですよ、氏真さんでも叶わない程の!!」

 

え…と、時代的に新撰組を知らない氏真はポカンとし、金剛はマジデースか…と、別な意味でポカンとするが。

当の杉村…否、『永倉新八』はと言うと、沖田にも勝ち越してるのに何故か地味な私をよく知ってますね、と嬉しそうな表情を隠さないまま、カンラカンラと豪快に笑っているので有った…




と言う訳で、一年弱前の作品から、「例えば、こんな、あぽくりふぁ~なんだかしょっぱい冬木の戦争のようです~」より、主人公のセイバー役として出演しました受肉英霊の永倉新八さんがゲストに登場しました。
何故この人が受肉したのか、何故この人が女なのか、他に色んな仕込んだ小ネタはこちらを読んでいただきますとより楽しめる内容になってます。

「杉村よしえ」と言う名前は、史実では永倉新八がそのままの読みで「杉村義衛」と言う漢字で、北海道に移住した時の名乗っていた名前を流用させていただきました。
「よしえ」と言う読みが女でも普通に使えるが故のちょっとしたトリックです、気付いた方はいらっしゃったでしょうか。

では、永倉と氏真の剣術対決の行く末も含め、これからも「無能転生」を引き続きお楽しみください。

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