無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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ガンバスターさんのコメで出していた「自作品クロス回」の導入部、です。


十九話 クロスする物語

「…龍田さん、これで書類の受け渡しは全てですね。お疲れ様でした」

「そちらこそ遠路はるばるお疲れ様でしたぁ。それと、こちらこそ何も手土産らしき手土産も渡せず、無礼な真似をして申し訳ありませんでした」

「いえ、お気持ちだけで充分です。こちらこそ、失礼な真似をしてしまって重ねて謝罪します。何か埋め合わせできることが有れば何時でもおっしゃってください。これから私達は貨物輸送船のスタッフの方に連絡して開発用の資材等の引き渡しを終わらせたら海路で日本に帰る身ですが、今後も何か有れば力になりますので」

「いえいえ…ご丁寧に、どうも」

 

さて、アレから少しだけ経った頃の事。

こんな具合で、龍田が赤城に書類を引き渡しながら、実に上品かつ粛々と会話を続ける。

氏真が見込んだ通り、こうした場面では龍田は群を抜いて場慣れしていた。

そんな上品な外面を崩さない龍田で有ったが…ふと、龍田は少しだけ素に立ち返った表情を見せると、赤城に一つだけ質問した。

…『彼』が『戦国武将の今川氏真』と聞いても驚かないんですね、と。

 

然り、と赤城は頷きながら、何故か神通を膝に乗せて頭を無駄に某奴隷ゲームの主人公並になでなでしている氏真を見ながら呟いた。

…確かに戦国武将とはどうにも珍しい方が来ましたが、まあ前例自体は無くはない話でしたので、と。

 

 

そう、赤城が言う通り。

 

実は、「異世界から来た」だの「過去から来た」と名乗る、戸籍が登録されて無い人間のエトランゼ。

非公式ではあり、中央の大本営と本土の幾つかの大きな鎮守府の提督にしか知らされていないことだが、そう言った氏真のような人間は幾人か確認されている。

不可思議な『妖精さん』のいたずらか、過去の船の記憶をリンクさせる建造マシンのバグなのか、それとも『神が振ったダイス』の結果なのかはわからないが、そう言った『不純物』がこの世界に紛れ込む事態になることはたまに報告されている。

 

そもそもが、『建造』されている『艦娘』ですら、良く良く考えてみたらいきなり鉄と弾薬等と資材から錬金術のように産まれる、ある種の『世界にとっての異物』でしかないのだ。

ならばこそ、逆にこうしたシステムの不備なりから出る『バグ』の存在だって、ある程度考慮されている。

大本営の面子が氏真の話にまるで動じず普通に会話を続けてたのは、そもそもそう言った理由も有った。

 

…流石に、生身で刀一本で周辺の深海棲艦を殲滅させるわ影武者作戦敢行しようとするわ、と言う事態は想定した範囲外だったのだが。

 

 

そんなことを龍田に説明した赤城は、ウチ出身の金剛も氏真さんの出自そのものには驚いてはなかったでしょう、と付け加えつつも、ふと、赤城は氏真に撫でられている神通に目を向ける。

そして、はぁ…と、ため息を吐きつつ神通に向かいこう告げた。

 

「…貴女もそろそろシャキっとなさい。戦闘中は化け物じみた集中力の仕事人じみてる性格になる癖に、平時は相変わらず押しに弱くてMっ気が強いのは私も知ってますが。貴女『護衛』役なんですから、いつまでも抱き枕にされてたら駄目でしょう、全く…」

 

…そんな赤城のダメ出しに、神通は、私はMじゃないです!混乱しちゃうだけです!てか氏真さんに言ってください!と抗議する。

一方の氏真はと言うと、『えむ』と言う意味はわからないが…と、前置きしながら、こう聞いた。

…僕に『護衛』って必要かい?と。

 

しかし、赤城はかぶりを振ると、氏真の質問に対してこう答えた。

非常に、今の貴方は危険な立場なんですから、と。

そして、こう続けるのである。

 

「…ウチの諜報部から流れた噂ですが、例の遺族の陸軍中将さんは、逆恨みからか『追手』を差し向けたと言う話があがっています。それも、『今の日本で最強の剣士にて最強の暗殺技術を持つ者』を、と……だからこそ、長距離射撃や少人数での戦闘に慣れていて、書類上は『遠征要員他戦力増強』と言う形で異動してもおかしくない艦種の神通を『移籍』と言う形で貸し出すのです。大事にしてあげてください」

 

 

氏真は、有り難う、わかった…と言いながらより強く神通の頭を撫で撫でしていた。

龍田も、異動する事情もわかったしこれから私達もよろしくね~と、氏真と一緒に撫で撫でに参加していた。

赤城は、もう頭は満員ですね仕方ありません、と言いながら、神通の脇や二の腕を撫でていた。

 

誰か全力でヘルプ!と言う神通の絶叫が、パラオに響いたと言う。

 

 

 

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同時刻、日本、陸軍秘密施設。

 

 

「おお、良く来てくれたね!」

 

髭面の強面な傷だらけの壮年の、数多の勲章を付けた軍服を着た大男が、とある少女を招き入れる。

 

その少女は、憲兵用の軍服を身に付けて白と浅黄色のマフラーを付けたポニーテールの美少女であり、二十代ぐらいの見た目もあいまり小柄で大人しそうな雰囲気を醸し出しているが…

サーベル代わりに帯刀する日本刀と長脇差しの二振りの刀の異常さと、浅黄色の鉢金付の鉢巻きから放たれる鋭い殺気が、その少女がただ者ではないことを如実に示している。

 

そんなただ者ではない少女を招き入れた先に待っていたものは、鎖に繋がれて轡を噛まされてはいるが…今にも暴れだして殺そうとせんばかりの深海棲艦が幾匹も存在する特殊な小部屋だった。

そして、その小部屋の主たる壮年の大男は、悪びれもせず言う。

三分後、この部屋は君一人となり、繋がれた深海棲艦達は拘束を解かれるだろう…だが、もし本当に「最強」であるならば、君はこのピンチを切り抜けられるハズだ、期待している頑張ってくれたまえ、と。

 

そうして、その大男は壁にある隠し扉のどんでん返しをぐるりと抜け、一目散に立ち去ってしまった。

 

 

残された方の少女は、あわててそのどんでん返しが有った扉をバンと叩くが、扉はびくともしない。

恐らくは、少女や深海棲艦に逃げ出されないようにロックをかけられているのだろう。

…なんて最低な!と、少女は悪態をつく。

 

そんな少女は、ふと、足元が冷たいことに気がついた。

よく見ると、ジョロロと言う水音と共に、床が水で満たされていくのが見えている。

嫌な予感がした少女はペロリとその水をなめてみて、案の定…と肩を竦める。

…しょっぱい、海水かそれを模した塩水であることは、予想がついた。

 

一瞬水責めで殺されるのか、と少女は焦るが…よく考えたら自分を溺死させる理由は何一つ無い。

ならばこそ、この水が海水である理由が予想がついた。

恐らくは、目の前の深海棲艦が全力で動けるように、だろう。

その内訳は…黒髪の深海棲艦が一匹と変な仮面を付けたのが一匹と変な帽子をかぶった深海棲艦が二匹、フードをかぶった明らかに大物だろう尻尾の大きいのが一匹、と言う具合だ。

 

そんな『敵』の姿を見て、その少女ははぁ、と呟く。

 

「ご主人(マスター)さんも赤字に困った私の相談に乗ってくれて『お金になる仕事』を紹介してくれたことは感謝してますが……中々どうして、雇い主が地味に最低な奴で、採用試験から命がけなんて聞いてませんよ…全く…マスターさんも詳しくは知らなかったから私に紹介したんでしょうし、恨み節ぶつけるつもりは無いんですが……」

 

 

少女がそんな愚痴を吐いた瞬間、その深海棲艦達は一斉に砲を構え、あるものは艦載機を出し、少女を殺さんと襲いかかる。

一方、そんな殺意を向けられた少女は、ごめんね、と涙を浮かべ謝りながらこう続けた。

…君達は悪くない、私を恨んでください…でも、死にたくないんです、と。

 

そうして、その少女は海水で足を取られているとは思えないその剣閃で、少女は一陣の風となり、纏めて一刀に伏せる。

その瞬間…襲いかかってきた深海棲艦は皆一様に、真っ二つにされてしまう。

…否、フードの深海棲艦は傷が浅かったのか、震えながらもまだ立とうとするのだが、そのフードの深海棲艦を無表情で逆袈裟斬りに斬り飛ばし両断してしまった。

 

そして後には、無言で立っている少女と深海棲艦の屍の山が出来ていたと言う。

 

 

その少女の姿を、いずこからか見ていたであろう大男は、『合格だ!』と告げながらこう締めた。

 

「流石だ……流石、盧獲して弱体化しているとは言え、戦艦タ級や雷巡チ級に空母ヲ級…更には戦艦レ級まで一撃で!素晴らしいぞ、この腕ならあの可愛い私の甥を某殺した…金剛とあの影武者野郎を始末できる!報酬は前金の倍、いや…5倍は支払っても構わない!頼んだぞ、『杉村よしえ」殿!」

 

そんな、『杉村よしえ』と呼ばれた少女は、なんとも渋い顔をしながら頭を抱えるしかなかった。

…1500万もの前金受け取ってアレなのだが、受ける仕事完全に間違えちゃったかも、と嬉々として一人だけ安全な場所から暗殺を頼もうとするクライアントのゲスい大男に呆れながら、であった。


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