無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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某料理上手な作者様リスペクト(リスペクトできてるとは言ってない)な番外編のお話です


番外編 加賀と時々加古と、あと、皆の話

「労働力を借りに来ました」

 

6月の、とある日曜日。

南の島のピーカン照りの空の下、風が通る工匠裏の木陰で昼寝している加古を発見した青いのは、加古を叩き起こすなり開口一番でこう告げる。

むう…と、唸るように欠伸をしながら体を起こす加古は、それに答えるように、こう告げた。

 

「…誰かと思ってたが、ああ、加賀かぁ……せっかく、サボ…英気養いポイントで次なる戦いに備えて勤務時間中にやる気をチャージしてたってのに…起こすなよぉ、いきなり…」

 

…なお、加古の釈明ですらない寝起きの一言はこんな感じである。

サボりで昼寝して悪びれない寝坊助古鷹型二番艦だった。

 

「貴女、暇そうにしてたので声をかけたのですが性根が予想外にクズですねこの野郎、暇なら付き合えバカ野郎」

 

加賀も無表情に呆れつつ、顎にアッパーぶちこんで加古を叩き起こしながら、『ある目的』の為に動き出したので有った…

 

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「グーでいかなかっただけ有難いと思いなさい、寝坊助」

「だからって、掌底でがつーん行くのはねえだろ…痛いよぅ」

 

少しならずぷりぷり怒る加賀と、顎にえらい良いのをもらって涙目で完全に目が覚めた加古ではあるが。

それはそうと、加賀が語った『ある目的』、それについて聞かされた加古は…口ではなんやかんや面倒臭がりつつも、楽しそうな表情で協力することに同意した。

 

天龍と龍田の姉妹や浜風と睦月、そして金剛の残りの5人はどうする?と、そんな目的を聞かされた加古が青いのに質問すると、変なところで寝てたり一匹狼気質の加古が中々捕まらなくて、今日になって漸く最後に声をかけた艦娘だった、と加賀は無表情なまま返す。 

…なんかごめん、と加古は頭を下げるしかなかった、とか。

 

 

それはそうと本題ですが、と加賀は前置きしながら、そんな反省中の加古に向けてこう言った。

 

「浜風さんの為にパンツか何かあげて下さい、できれば脱ぎたてホカホカの」

「アイツ、もう大概自重しなくなってきたな、オイ!?」

「いや、だって誰かの下着を生け贄に捧げないと言い出しっぺな私のブラジャーが狙われますので、まあとりあえず加古さんでも良いかな、と判断しました」

 

お前にだけは人間性云々って説教されるの理不尽過ぎるわぁ!!と加古の突っ込みが飛ぶ。

それが嫌ならば、と加賀がお札を加古に渡すと、次のように伝えた。

 

「あの、貴女が見つけたと言う例の金庫に有ったお札の束から、睦月さんの立ち会いの元で数枚現地のお金に両替させていただきました。いちおう、無理矢理『経費』と言う形でおろしたので、使用には問題はないはずです。と言う訳で本題ですが、加古さん、メモしてるもの4時間以内に全部買ってきてください。駄目なら加古さんは今日からノーブラノーパン痴女重巡洋艦です、良かったですね…では」

 

良くねえよ畜生おおおおお!!と言う、加古の絶叫が泊地に響き渡った、と言う。 

そして、疾風のように、加古は外出許可も無いと言うのに駆け出して言った…とか。

 

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「あ、加古さんが帰って来ました…3時間52分、残念ですがノーパンノーブラにはならなかったようですね浜風さん」

「ふむ、個人的には加古さんのパンツが駄目だったので、代わりにこの迸るリビドーを沈める方法がわかんないんですが、しょうがないので後で自力でパンツ盗むしかないです」

「変態が増えてるぅぅぅぅ!?浜風、お前ェ!それは犯罪だこの野郎!?」 

 

加古が帰って来たらそこは、浜風が加賀と一緒に混ざって、淡々とカオスな顔ぶれになりつつ出迎えた、と言う。

そんな二人に突っ込みを入れる加古ではあるが…

とりあえず言われたものは用意してきた、と言うと、そんな二人が頼んだ代物をもって来た。

その品物とは…

 

 

「…『シロップ』、砂糖水のプレーンなのと、イチゴとメロンとレモンは何とか見繕ってきたよ…後、親日家な酒場のマスターから梅酒もご厚意でちょっと分けてもらって来た…」

 

そう、いくつかの種類のシロップである。

 

加賀はそんな加古の報告に無表情かつ無言ながら嬉しそうにガッツポーズして、そのまま浜風と加古をある場所に連れていくも

それは、調理場としても利用されている、食堂であった。

 

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「綺麗に、出来てますね」

「うん、何だか外国のガラスみたいだな」

 

そして、加古と加賀の二人が調理場で見つけたもの。

それは、型に入れられて綺麗に凍った、透き通る様な氷の塊である。

二人の反応を見て、珍しくドヤ顔で出っ張った胸を更に張りつつ、浜風は語りだした。

 

 

「ええ、タネは単純でして、煮沸したりして不純物と水の空気を追い出しては何度も何度も純化させて、そうして普通の家庭の製氷器で出来る様な白い筋が入った様な溶けやすい氷ではなく、氷屋で販売している様な固い氷になりまして…それから、水にもきちんとこだわりをもって吟味して、普通の水道水ではなく…」

 

…こんな感じで、氷一つで長々とトリビアを語る浜風だが。

そんなムッツリトリビアおっぱいを青いのがチョップして軽く諌めると、こう聞いた。

これで、最高の『かき氷』が出来るんですね、浜風…と。

 

浜風も、はい…としか答える事が出来なかった、と言う。

 

 

そう、加古をパシらせて浜風を氷屋の真似事までさせてやたらと純度が高い氷を作らせた理由。

それは、真夏日が近く慣れない南国で、漸く最近「提督」となった氏真の為。

そして、もう一つ、ある理由から…かき氷でも振る舞ってあげようと、加賀は気を利かせたと言う訳で有った。

 

そうして、ちょうどその時、天龍が工匠からもって来た、大きな鉄製のかき氷器を手に食堂に現れる。

そして、ガリガリと、みんなでかき氷を作る運びになった。

 

 

「しっかし、なんでだってかき氷なんだよ、アタシもそりゃ好きだけど」

「だよなぁ…どういう風の吹き回しだ?」

 

そして妖精さん謹製のかき氷器の試運転を兼ね、かき氷がガリガリと器に削られていくのを見て、加古と天龍の二人の頭に疑問符が浮かぶ。

それに対して答えたのは、いつの間にかひょっこり食堂に参加していた睦月である。

そしてそんな神出鬼没なにゃしいは、ちょっとした解説を挟むので有った。

 

 

氏真が生きていた頃、と言うか文献ならもっともっと昔の平安時代から、「かき氷」は存在していた。

わりと歴史の長い食べ物であり、そして、氷室と言う限られた天然の冷蔵庫でしか長期間氷を保存が出来なかった為、それこそ明治以降になるまで「かき氷」と言う菓子は一般的に普及はしなかった。

だが、戦国時代でも高家の一人であり、名門中の名門出身の氏真なら口にしたことのある品物の一つだろう…とは予想がつく。

そんな彼にとっては、初夏の暑さを乗り切る涼味と言うだけでない、ある意味で現代と昔を繋ぐお菓子になるだろう、と。

そしてそれは、加賀にとっては氏真に向けたとても大事な記念日に相応しいプレゼントでもあるだろう、と。

 

 

「…実質、頑張ったのアタシと浜風と妖精さんだけどな、コレ」

 

加古は青いのに向けてつい悪態をつくが、加賀は悪びれずこう答える。

経費で落とせるような計画立案書の文章作成と、0から工匠に持っていくためのかき氷器作製の材料の収集して、妖精さんの為に図面引いたのは、間違いなく私です、と。

 

加賀の唐突に出てきた隠れた才能にざわつく一同ではあるが、そんな折のこと。

金剛と龍田に連れられて、氏真は訳もわからぬまま食堂に到着する。

そんな氏真は、目についたかき氷器を凝視しながら、一体ナニゴトなのかを質問した。

 

だが、艦娘達はニヤニヤした表情のまま氏真と加賀を見比べるばかり、であった。

 

そんな艦隊の反応と、氏真の困惑した視線を浴びて、加賀は顔をいつもと違い真っ赤にするが…

それでも、いつものマイペースな口調のまま、ぷいと顔を背けつつこう言った。

…父の日、おめでとうございます、父さん、と。

 

 

そう、加賀が珍しくアグレッシブに動いてた『理由』。

それこそが『父の日』だったと言うことである。

 

普通はネクタイなりカフスボタンなりスーツに合うものや、万年筆やハンカチ等使いでが多い日用品等が、父の日のプレゼントの定番なのだが…

加賀のセンスがアレだったことに加え、氏真が戦国時代の人間の為に現代的なセンスになれてないこと。

そして何より、『みんなでお祝いしたかった』と言うある意味加賀らしくない理由もあいまり、氏真も良く知るお菓子としてかき氷なんかを振る舞おう、と考えていた…と言うのが真相だった。

 

 

…そんな詳しい事情を加賀から聞かされた氏真はと言うと。

みぞれのかき氷を一皿手に取ると、無言で一匙掬って、口にする。 

そして、一言だけ呟いた。

 

「…甘葛(『あまづら』と読む葛根等で作る甘口の汁、砂糖が普及する迄は貴重な当時の甘味だった)より甘いのに何だかしょっぱいや、畜生…僕ももう歳だからなぁ……」

 

そんな、『娘』の心使いに、実年齢77歳の若じじいは涙ぐむ。

何だか、『父』を通り越して『おじいちゃん』みたいな、氏真の姿であったとか。


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