無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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十七話 鎮守府不始末始末

君を『提督』に任命する。

 

 

氏真は、取った電話から聞こえた男の声に少しだけ驚くが。

すぐに氏真は落ち着きを取り戻すと、その声の主に対してゆっくりと返答した。

…いくらなんでも、正体不明の男に対して信長公並の即決ぷりですね、『海軍の長』殿、と。

 

その声の主…そう、海軍元帥はと言うと、信長に例えられるとは光栄だ、と笑いながら、語り始めたのであった。

 

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「……あの、パラオ泊地で提督などやらせてた小倅とは、あやつの叔父の関係でそもそもがある程度私も顔見知りでの、ガキの頃から可愛がっておったのだが…まあ、そもそもがあの甘過ぎるガキは軍人としては無能なのは知っておったことじゃ、人の上に立つ器ではない」

 

耳が痛いな、と氏真も性格的にも経歴にも心当たりのある話のだけに、元帥の言葉に渋い顔をするが。

そんな氏真の事を知ってか知らずかは定かではないが、元帥は更に話を進める。

 

「…そして、それはあの小倅自身すら判っておったことだ。あやつは元々事務系の内勤志望で慎ましくやれたらそれで良かったのだろうが、あやつの家がそれを許さなかったのだな…あやつの叔父がかなりの強硬派でかつ経歴主義者での。陸軍の情報提供や憲兵隊の格安な貸し出しを餌に、自分の派閥の圧力フル活用してきて、無理矢理本人の了承も無く『提督』をやらせろなんて言い出して……結果、このざまだ、全く…」 

 

そう言って、元帥は少しだけ無言になり…

そして、憤りと諦めと、少しならずの憐憫の意を込めた口調で聞く。

…あやつは、逝ったのか、と。

金剛から聞きましたが…然り、とだけ氏真は答えると、そうか…と、何とも言えない口調で元帥は返す。

 

そして、元帥はと言うと、本題がまだだったと切り替える様に言うと、こう続けるのである。

 

 

「…そんな訳での、まあ…あやつに向かぬことを我々も判っておきながら無理矢理やらせて、結果これではあやつにもあやつの艦隊にも申し訳が立たんと言う情の話でもあり……逆に、影武者でも何でもいいからスケープ・ゴートが一人はおらんと金剛含め我々大本営にも責任が生じるからの、それが嫌だ、と言う汚い計算も折り込み済みな打算でもある。お主の話は私からしても正直願ったり叶ったりなのだ…その辺りを会議室におる輩にも話したら、全会一致で貴殿を影武者にする策に異論は出なかったわ」

 

そうですか、と氏真は答えたが、もう一つ話を聞く。

そう判断した理由は理解したが、いくらなんでも決断が早すぎないか、と。

そもそも、話が伝わるのが迅速過ぎだろう、とも付け加えながら。

 

元帥はそんな氏真の質問に笑いながら答える。

実は、通信室から会議室に直通の内線がかかった際、たまたま自分がそれを取った際の事だ、と前置きしながらこう話し出した。

あわあわした口調で「パラオの通信が回復した」とだけ話そうとしたミクロネシア・グアム担当だったオペレーターを、給与査定と昇進を盾に強引に落ち着かせ、詳しくパラオの現状を聞き出した、と言う事を。  

 

パワハラそのものだったから後で埋め合わせしなきゃな、とも言いつつも、元帥は更に更に…電話越しで氏真からは見えないながらも、頭を下げながらこう締めた。

 

 

「……本来なら、泊地を乗っ取り提督に成り代わる凶賊など言語道断だ、全霊を持って殺しに向かうがの。『艦娘の為』だけにそれをして、『艦娘の為』だけに責任と慈悲を果たそうとした貴殿にそれはできん。我々人間の代わりに『兵器』としての義務を全うしてくれる彼女らの求めていた救いの声を、我々も出来ぬ理由があったとは言え無下にしていたものが、貴殿のおかげで拾われたからの…礼は言って尽きるものではない、だからこそ、私も独断ではあるが、貴殿の『策』に乗ってやろうと思っただけだ」

 

…かたじけない、と氏真も返す。

他に強引に『手』を打つ方法が思い付かなかったとは言え、艦娘にも迷惑がかかるだろうし、何より本当に失礼な真似だった、と付け加えつつ。

元帥も、ならあやつの菩提を一度だけでも弔っておけ、と返すが…ふと、思い付いたように氏真に質問した。

 

 

「…そう言えばふと気がついたのだが」

「何でしょうかね?」

「資材提供って、貴殿はどこぞの名士か社長かの?艦娘用の鋼材だの弾薬だの、普通の市民が手に入るものではないのだがどんなコネクションしとるんだ」

「いや、普通に『深海棲艦』とやらをスパスパ斬ったら死骸やら何やらからも資材は取れると聞いたので、大小二本だけ刺して海を多少ひとっぱしりして…ああ、でも、『戦艦棲姫』とやらはちょっと手こずりました…おかげで加賀と言う娘もできて、怪我の功名と言うか、骨を折った甲斐は有りましたが。まあそれはそうと、僕が近くの深海棲艦は大体狩り尽くしたハズなんで、ここら一帯の海域はしばらくは平穏無事でしょうね」

 

なにそれこわい、と、元帥は真顔で突っ込んだ、とか 

 

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そんなこんなで、元帥からの通信が切れた訳である。

 

そこで最後にぶちまけた、どこぞの戦国陸上部員のやらかした顛末はともかくも。

氏真は、電話を切った後、一言だけため息をつくとこう漏らした。 

何だか罠みたいに予想外にうまくいってしまったが、おかげでみんなに変な覚悟をさせちゃったな、と。

そしてそのまま氏真は、肩透かしさせてごめんと艦娘達に謝るが、皆はべつに良いよとだけ返す。

 

それでも申し訳なさそうな氏真に対して、加古は苦笑いしながら、こうフォローした。

 

「氏真さん…いや、今は『氏真提督』かな、ちょっとしっくりこないけど…ぶっちゃけアレだろ?こう言う策が規格外の連中に通じなくて、むしろ規格外の武将達に助けてもらって…そんでなんやかんや、うまくいってるようでいって無くてちょっといってる感じの食べるラー油的な戦国武将だからこそ、今川氏真ってアタシ達の武将なんだろ!!」

 

 

それ、全然誉めてないよね!?と、氏真は珍しく、ギャフンと言う表情で椅子からずり落ちて。

他の皆も、そんな彼を指差しながら笑いつつ…

そうして、パラオ泊地の新しい『提督』が、漸く就任が決まったのだった…

 


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